注目のスタートアップ

エニシア株式会社 小東茂夫|カルテの要約作成を支援し、医療の質と生産性向上に貢献するソフトウェア開発事業が注目の企業

言語処理技術を用いてカルテの要約作成を支援し、医療の質と生産性向上に貢献するソフトウェアの開発事業で注目なのが、小東茂夫さんが2017年に創業したエニシア株式会社です。

病院勤務医師の長時間労働の現状は、1週間あたりの平均で約50-60時間であり、労働基準法に定められた週40 時間を大幅に上回っています。特に大学病院のような大きな施設に勤務する医師の場合は、週に60‐90時間以上勤務しているという割合が多くなる傾向にあります。(令和元年 厚生労働省調べ)
ちなみに、健康障害リスクが高まると言われる時間外労働時間の「過労死ライン」が1カ月あたり80時間なので、一般の勤務医の業務時間は過労死ラインぎりぎりか、それをはるかに上回っているということになります。

過重労働による負の影響は医師自身の健康問題にとどまらず、医療ミスや家族との不調和などにも及び、結果、患者さんへの影響が非常に大きい問題です。
事実、「抑うつ中等度以上(6.5%)」「自殺や死を毎週または毎日考える(3.6%)」という声以外にも「ヒヤリ・ハットを体験している(76.9%)」といった声も非常に多く上がってきています。(令和元年 厚生労働省調べ)

過重労働の背景には、患者数増加や学会や会議への出席などがありますが、多忙な医師の業務を最も逼迫する要因は、診断書や紹介状といった患者の状態を説明するための「文書作成業務」です。
最近では電子カルテを導入することで、文書作成業務の負担を軽減しようとする動きもみられるようになりましたが、そもそも導入するのに莫大な費用がかかったり、記載したいことが自由な表現で書き込みにくかったり、患者さんの診察回数が増えるのと比例して増えるカルテの内容を一覧したりまとめたりすることが難しい等といった課題もあり、なかなか普及が進みづらい状況にあります。

これらの課題に真っ向から向き合い、医療現場の負荷を極力抑えつつ、膨大な情報を医療発展に活かしていけるコンテンツ開発に、今注目が集まっています。
エニシア株式会社の開発する「SATOMIⓇ」です。

「SATOMIⓇ」の特長は、AIの言語処理技術を用いて重要な情報だけを抜粋した「カルテの要約」の作成を支援するソフトウェアであるという点です。
そして「カルテの要約」を作成する過程でデータを正規化・構造化し、医学研究や医療事務手続きに利活用可能なデータを生み出せます。
これにより、医師が膨大なカルテを見返す時間が大幅に減少するだけでなく、カルテから集積されたビッグデータを次世代の医療開発に繋げていくこともより容易になります。

エニシア株式会社の小東茂夫さんに、事業の特徴や今後の課題についてお話をお聞きしました。

・このプロダクトの特徴は何ですか?

エニシアが開発するSATOMI®(Summarization and Translation of Medical Information)は、言語処理技術を用いた電子カルテ要約支援ソフトウェアです。
医師が電子カルテ端末にカルテ記事を入力すると、SATOMIはそのデータから独自のアルゴリズムに基づいて重要な情報を取り出し、データを整理するとともに要約を提案します。医師はその要約案を確認し、必要であれば修正を加えるだけで、短時間で高精度なカルテの要約をつくることができます。電子カルテを見返す時間を大幅に減らすことで、紹介状や退院サマリーなどの作成にかかる時間を従来比約1/3に短縮し、医師が本来の医療行為に専念できる環境づくりに貢献します。

また、SATOMIはカルテの要約を作成する過程でデータを整理(正規化・構造化)しており、これまでカルテの利活用が難しいとされていた医療研究や診断支援など幅広い分野での活用を可能にします。

・どういう方にこのサービスを使ってほしいですか?

400床以上の大病院(特に高度な医療を担う特定機能病院)、医療テキストの活用を検討する企業・団体、次世代医療ICT市場に関わる方々にご活用いただきたいです。

・このサービスが解決する社会課題はなんですか?

日本では高齢化による医療需要の増加と慢性的な医師不足から年々医療の需給ギャップが拡大し、病院勤務医の過重労働が問題になっています。
2024年に罰則を伴う医師の残業上限規制が導入されることが決まりましたが、医師業務全体の3割を占めていると言われている事務作業は多忙な医師の業務を逼迫する主たる要因となっており、効率化が急務となっています。

SATOMIの導入により臨床現場に立つ医師と情報技術を協調させることで、医師の事務業務の負担を軽減し、本来の医療行為により専念できる環境づくり、持続可能な医療体制の構築に貢献します。さらに、診療したデータを利活用できる形にして、次の診療や医学の進歩に繋いでいきます。
こうした持続可能な医療体制の構築、医療情報データの利活用を実現することで、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の3番目に掲げられる「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」という目標の達成に寄与します。

・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?

一般的にカルテには患者の基本情報から症状、治療方針、各検査の結果や医師の所見など、様々な情報が記入されています。こうした膨大な情報のどこに注目して要約すべきか、これはSATOMIの根幹となる部分ですが、医師にしか分からない部分であり、エニシア内には知見がありませんでした。
そこでエニシアは医療言語処理を専門とする大学の研究者および総合病院と、医療テキストに関する共同研究を行い、本格的にSATOMIの開発を開始し、要約作成の精度を格段に向上させることに成功しました。

・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?

エニシアは「情報技術で医療を変える」をミッションに掲げ、言語処理技術を用いて医師の働き方改革や日本医療の発展に貢献すべく、製品開発を進めています。
今後は、医療と患者の関係性をよくする情報提供やコミュニケーションについても支えられるようなサービスの展開も視野に入れ、医療の発展に貢献していきたいです。

・今の課題はなんですか?

エニシアでは、2021年7月より大学病院様と、より患者様の診療に集中できる環境づくりに寄与することを目的として、カルテ要約支援システムの導入効果に関する共同研究を行っています。実際に臨床でシステムを使用いただき、両社で導入後の改善効果について分析に着手しています。既にフィードバックいただいた内容は改善を進めています。
今後はソフトウェアの実用レベルへの引き上げを早急に進め、想定顧客である大病院やそれぞれ系列病院群を有し研究グループ単位での効率的な展開が可能な高度医療を担う特定機能病院84病院から順次展開していきたいと考えています。

・読者にメッセージをお願いします。

大病院で働く医師の労働環境は過労死やバーンアウトと隣り合わせで、普通の会社勤めよりもはるかに厳しい状況にあります。
カルテ情報は患者だけでなく医学にとっても大事な情報です。
この扱いを情報技術で支えることが、医師の負担を減らし、患者と医師のコミュニケーションを円滑にするとともに、医学研究等に活用できるデータを生み出すことで、より良い医療の実現に繋がると信じています。ぜひご理解・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

会社名 エニシア株式会社
代表者名 小東茂夫(コヒガシシゲオ)
創業年 2017年
資本金 46,000 千円
社員数 15名
事業内容 京都に拠点を置くエニシア株式会社は、2017年に医療テキスト向けAIソフトウェアの開発を軸に事業をスタートしました。現在は独自の自然言語処理技術を用い、医療情報の活用に最適な「医療テキストAI活用サービス」や医師の負担軽減に貢献する「電子カルテ要約ソフトウェア(SATOMI)」の開発、販売を行っています。
サービス名 言語処理技術を用いてカルテの要約作成を支援し、医療の質と生産性向上に貢献するソフトウェア「SATOMIⓇ」
所在地 〒606-8501 京都市左京区吉田下阿達町46−29 京都大学 医薬系総合研究棟
代表者プロフィール 1999年3月に大阪大学経済学部を卒業後、東海銀行等にて勤務し大企業のグループ経営管理基盤整備プロジェクト等に多数従事。2017年3月に京都大学経営管理大学院(MBA)を修了後、京都大学情報学研究科出身メンバー中心にチームを作り、より高度な医療情報の利活用を目指し、同7月にエニシア株式会社を設立。
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カテゴリ 有望企業
関連タグ PHR エニシア ビッグデータ 医療 小東茂夫 言語処理技術 電子カルテ
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