最強の国際紛争の交渉人が語る!NoをYesにする極意 島田久仁彦インタビュー【後編】

創業手帳

日常でも使える交渉のテクニックについて、交渉のプロに聞きました

(2020/04/16更新)

起業や経営は交渉の連続です。特に創業時は、社長が1人で営業や採用、資金調達まで行うことが多いため、身につけたいスキルの1つに「交渉力」があるのではないでしょうか。
究極的に高い交渉力を持つのが、国同士の紛争を解決する「紛争調停人」。利害と歴史も絡み合った国際紛争を調停するプロである島田久仁彦氏に、起業家に向けて交渉テクニックの極意をうかがった今回の企画。前編に続き後編では、一般の人でも使える交渉術のポイントや起業家への思いを話していただきました。

前編はこちら
最強の国際紛争の交渉人が語る!NoをYesにする極意 島田久仁彦インタビュー【前編】

島田久仁彦(しまだくにひこ)
1975年大阪府生まれ。(株)KS International Strategies CEO、環境省参与。1998年同志社大学法学部卒業。2000年アマースト大学を卒業(政治学・国際関係学)。2002年ジョンズ・ホプキンス大学大学院にて国際学修士号を取得(紛争解決・国際経済学)。
1998年より国連の紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争解決に従事。紛争地での人権保護、女性の権利向上、アフリカ開発などの調停も行う。2005年に日本政府に任用され、環境省国際調整官として日本政府代表団の地球温暖化交渉時にリード交渉官と交渉議題の議長を歴任。
2011年に独立してからは、国内外の政府に対して環境・エネルギーおよび安全保障問題についてのアドバイザーや、丸紅やハネウェルジャパンなどの民間企業のコンサルティングを行うほか、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校、オックスフォード大学など国内外の大学・大学院などで交渉プログラムのインストラクターを務めている。現在、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術』を毎週発行中

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

創業手帳の冊子版(無料)では、様々な業界で活躍する起業のプロフェッショナルへのインタビューを掲載しています。こちらも参考にしてみてください。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください。

交渉とは、相手と同じ方向を向いて、問題解決すること

大久保:島田さんは、大学で交渉術を教えているとうかがいました。

島田:ハーバード大学で、フォーチュン誌のTOP100企業の取締役相手に交渉術やリーダーシップ論を教えています。スタンフォード大学、オックスフォード大学、上智大学でも教えています。

そこで学ぼうとしている人たちのほとんどは「俺は交渉上手」と思っています。しかし、それは往々にして間違えていることが多い。一度、自分は交渉がうまいといった意識を捨てて、素で事実を見るということができないと本当の意味での交渉の達人にはなれません。

大久保:FBIでも交渉術を教えていらっしゃるんですよね?

島田:FBIでも、犯罪者との交渉について指導しています。

例えば、犯罪者が人質をとってたてこもっていて「2億円よこせ」といってきた場合、「1億円にできないですか?」と聞いてはダメ。もちろん、拒否してもダメです。

大久保:難しいですね……どう交渉するのがベストなのでしょうか。

島田:「要求は分かったけど、2億円をどう手に入れればいい?」と犯人に聞いてしまうんです。

ポイントは「相手と同じ方向を向く」ということ。相手は自分が言いだしたことだから、答えないといけない心理になります。そうすると、犯人は勝手に追い詰められて、面倒くさくなってしまう。そして、交渉で有利に立てるのです。

大久保:交渉はつまり「問題解決」ということなんですね。

島田:その通りです。どちらが正しいかというのは交渉の場では意味がないことで、それは後で考えれば良いこと。

まずは、勝った・負けた、正しい・正しくないを置いておいて、相手の言うことや考え方を、そのまま受け入れます。相手の気持ちになりきって相手のコピーになることが大事です。いろいろ調べてきたことや、持ってきた知識も横に置いておきます。

そのために「僕が理解したいからあなた方が一体何をしたいのかを教えてほしい」と、パラフレーズ(オウム返し)で徹底的に話を聞くのです。オウム返しをしていくと、相手は自分のことを理解してくれていると勝手に思い込んでくれる。人は自分を認めてくれる人の話は聞くものです。相手のことをとことん認めて、懐に入りきってから、自分の提案を出すとうまくいきます。

日常で使える交渉術とは

大久保:一般の人からすると国際紛争での交渉はレベルが高いですが、日常で交渉術を応用できることはありますか。

島田:例えば、大家さんと入居者の交渉で、大家さんが高い金額を言ってきたとしましょう。

家賃が相場のこれくらいなのに、どうしてここが高いのか教えてほしいと聞いてみましょう。その説明をうけて「自分が考える正当な価格はこれくらいです」と伝えます。家賃を据え置くか安くしてもらうときは、自分で紙と計算機を用意して、生活費や光熱費を書き出していって、きりがいい金額で交渉をしましょう。

他にも「すぐに退室しない」とか、大家さんにとってのメリットも与えてあげるのも大切なポイント。相手のニーズに沿った提案をすることを心がけましょう。

相手が何を求めていて、一方で自分のポケットになにがあるかということを調べることも大事です。つまり、自分が何をできるのかを整理するということ。交渉の際はお金とか契約とかばかりに目が行きがちですが、それ以外の交渉材料を洗い出してみましょう。自分のポケットには、意外と相手に使えるカードがあるかもしれません。

例えば、給与交渉をするサラリーマンと社長がいたとしましょう。給与を上げてほしいというサラリーマンの要求に対して、例えば「車を使うなら余っている駐車場を使ってもいいよ」とか「場合によっては毎日こなくて週4日出勤でいいよ」とか相手も譲歩できるような条件を出すと、お金以上に喜ばれることもあるんです。

大久保:普通の人が交渉に強くなるために、どういったことを心がけるべきですか?

島田:まずは、自分の考えを整理することですね。自分が何をしたいのか、目的をはっきりさせることです。

交渉は目的を達成するための諸条件の調整でもあります。だからこそ、目的を意識して整理し、何が足りないのかという認識力を磨くと、交渉力の土台になりますね。

次に、相手の話を徹底して聞く。意外にこれが難しい。僕もよくしゃべる人間です。人の話をずっと聞くという実験をしてみたこともあるのですが、ついなにか言いたくなってしまうんですよね。

でも、自分で何か言おうとした前提とは、多くの場合、結論が違う。思っていなかった結論に行くことが多いんです。だからこそ、先入観を捨ててひたすら聞くというのも重要な能力だと思います。「それ、おかしいのでは?」はいったん置いておいて、ひたすら聞くことが大事ですね。

大久保:なるほど、聞くことが大事なんですね。聞く力が活かされた交渉のエピソードもぜひ教えてください。

島田:トルコとシリアの国境地帯で、IS(イスラム国)と交渉にあたったことがあります。

相手はしょっちゅう人を殺しているようなテロリストです。やっぱり要求は受け入れたくない。でも、そういう気持ちはいったん捨てて、まずは相手のことを全て受け入れて話を聞いてしまうんです。

そうすると、日常的に平気で残虐行為をしているようなISメンバーでも心を開いてきます。非道なことをやってる人でも、やはり人間。家族や組織について思うこともあるわけです。実は、テロリストやISのメンバーのなかには社会からのけものにされていて疎外感を感じているという人もいる。話を聞いていくと、悩んでいることがあったりするんですよね。

こういうときは、相手と同じ方向を向いて「ふんふん、そうだよね」とオウム返しで共感しながら聞いていくんです。そうすると、相手は自分のことを理解者だと思ってくれるようになります。完全に心が通じたところで、自分の提案を混ぜていくわけです。「あなたの考えはよくわかったけど、こんな風にも言えないかな」と誘導していくわけです。

大久保:島田さんのような共感力を高めるには、どういった姿勢が必要なのでしょうか。

島田:共感力を高めるには「誰もがアンバランスである」ということを認めるということが大事です。人は得手、不得手もあるということを認めるのです。

そのときに、相手の不得手は見ずにいいところしか見ないのがポイント。そうすると共感力が高まります。

障害で15分しか集中が続かない人がいたとして、それをハンディキャップととらえるのではなく、その15分間の集中力に注目すべき。逆に自分の完璧でない部分は得意な人に任せたほうがよいのです。

人に任せられることを聞くことで、共感の輪が広がっていく。そういう関係を楽しめるといいと思います。

大久保:交渉においてはときに“怒り”を伝えなければならない場面もあると思います。特に海外で怒りを伝えるときのポイントを教えてほしいです。

島田海外で怒りを伝えるには、実は日本語で怒ったほうが伝わるんですよね。僕は地元の河内弁を使うこともあります。

強い力のある実感のこもった言葉は、言葉自体が通じなくても言葉以外の雰囲気で伝わるんですよね。

逆に喜ばせるには、現地ローカルな言葉を一言でもしゃべること。相手は、嬉しくなるものです。僕はよく「これは何?」という質問を現地の言葉で覚えるようにしています。そうするとコミュニケーションをとることができ、またその会話のなかで覚えた言葉を使っていくことができるんです。

起業家に伝えたい「情熱」「コミュニケーション」「信念」

大久保:島田さんは今はどんなことに関心があるのですか。

島田:交渉の仕事もやっていますが、スタートアップや最新の技術に関わるのも好きなんです。テクノロジーは不可能を可能に変える力がありますからね。

例えば、僕が協力しているオーストラリアの会社は、左右の聞こえ方の違いをキレイに合わせて音楽も会話もクリアに聞こえる補聴器を開発しています。僕は爆風の影響で左耳が聞こえづらいのですが、普通の補聴器は肌色でおじいさんみたいになるから嫌。でも、その会社がつくる補聴器は見た目もクールでおしゃれで、性能も良いんです。

でも、特にエンジニアはコミュニケーションは苦手な人が多いから、素敵な商品をつくっていてもうまく広めることができないんです。だから、僕がそういう企業やスタートアップに協力して伝え方をサポートしています。それぞれの長所を活かして、不可能を可能に変えていくのが快感ですね。

大久保:他にはどんなことをやっていきたいと考えているのでしょうか。

島田:日本人は交渉下手だという思い込みも直したいですし、人材教育もしていきたいですね。

名前だけのグローバル人材ではなく、人を育てたい。ニュータイプのプロフェッショナルを創りたいですね。

これから先、AIが進むと、週15時間労働とかになる時代が来ます。そういうときに、本当に必要とされるプロをつくりたい。僕はコミュニケーションと交渉術が得意なので、そこに貢献したいですね。

大久保:起業家に対してメッセージをお願いします!

島田:起業するぐらいだから、情熱はあるはず。その情熱を伝えるのがコミュニケーションですよね。

成功していくためには仲間も必要。自分の情熱やアイデアをいかに平たく周りの人に伝えられるか。それが、仲間をつくるためのポイントです。

そして、仕事を継続してやりきるかどうか。やりきるには信念も欠かせません。信念がないと状況に振り回されてしまいます。

情熱とそれを伝えるコミュニケーション、そして信念が、起業家には求められるのではないでしょうか。

創業手帳の冊子版では、事業を進める上で必要なノウハウを解説しています。ぜひご活用ください。

※島田さんの交渉術はメルマガでも紹介されています。
最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術

前編はこちら
最強の国際紛争の交渉人が語る!NoをYesにする極意 島田久仁彦インタビュー【前編】
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(取材協力: 株式会社KS International Strategies CEO/島田 久仁彦)
(執筆協力:前川哲弥/木舟周作)
(編集:創業手帳)

読んで頂きありがとうございます。より詳しい内容は今月の創業手帳冊子版が無料でもらえますので、合わせて読んでみてください。

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