史上初「純奈良県産ワイン」に挑戦! 元銀行マンがワイナリー作りに目覚めた理由
「ビジコンNARA2019」知事賞受賞!奈良ワイン 木谷一登インタビュー
(2019/03/15更新)
2019年1月に奈良県で開催されたビジネスコンテスト「ビジコンNARA2019」。
本コンテストの地方創生を題材とした「奈良創生部門」にて栄えある「知事賞」を受賞したのは、史上初の純奈良県産ワインの製造に挑戦している木谷 一登氏でした。銀行を退職してワイナリーに修業に入り、新たな挑戦をスタートした木谷氏。ワイン造りに賭ける覚悟と、その舞台裏について、お話を伺いました。
奈良ワイン 代表
平成元年生まれ。京都大学大学院卒。
限りなく奥が深いブドウ栽培・ワイン醸造を一生かけて極めたい、奈良の地の味を表現するワインをつくりたい、という想いから、勤めていた銀行を退職し、地元奈良県初のワイナリー設立を目指している。
カタシモワイナリーにて、2年にわたる研修を経て、2018年に独立。
現在、大阪と奈良でブドウをつくり、研修先だったカタシモワイナリーにてワインを製造。自社サイトにて販売している。
銀行員時代に感じた戸惑いと、ワインとの運命的な出会い
木谷:奈良県にまだ無い「ワインの醸造所(ワイナリー)」を作ろうとしているところです。
最近ワイナリーを建設して起業するケースが増えていますが、奈良県では日照量が少ない、昼夜の寒暖差の少ない西日本である、農地の区分が細かい、といった理由などで未だにワイナリーがありません。
そんな奈良県でワイナリーを建設しよう、という点がユニークな部分です。
木谷:まずはワインが好きだったことですね。好きになったのは、大学院生の頃に友人と沖縄旅行に行ったときでした。空港にワインの試飲会場があったので時間を潰すために試飲したのですが、ドイツの貴腐ワインの濃厚さや香りの芳醇さに魅了されましたね。
次に、農業をベースに据えて生産加工販売を一貫して行う仕事が自分に向いていると感じたことです。例えば、地域に根ざし、原料から一貫して自己責任で生産し、科学的にものを見て、淡々と我慢強く作業をこなすといったことが向いていると思いました。
自分が生まれ育った奈良県にワイナリーがなかったことも、理由の一つです。
木谷:大学卒業後にやりたいことが思いつかなかったので、「今は営業のスキルを身につけよう」と考え、銀行に就職しました。
銀行で働いていた時は、自分の特性や欠点について気づくことが多くありました。
自分が「良い」と思える商品を売ることができなかったですし、明らかに営業に向いている同期がバンバン実績を上げる姿を見て、「あ、僕にはできないな」と感じたのです。
苦手かつ自分が正しいと思えない業務を行うなかで、「とにかく自分が納得してできる仕事をしなければいけない」と強く思うようになりました。
そんな時、働いていた銀行の取引先だった「カタシモワイナリー」を見学し、「日本でワインが作られているのか!」と驚きました。そこから調べてみたら、日本にも個人でワイナリーを立ち上げている人が結構いることがわかりました。情報を集める中で、「自分に合っているし、たぶん一生飽きずに続けられるだろう」と感じ、銀行を退職して起業することにしました。
そして、かつてカタシモワイナリーと新規取引を始めるきっかけを作った上司にお願いしてカタシモワイナリーの社長と繋いでもらい、ワイン造りの研修を受け入れてもらえる事になりました。
ワインは生まれた土地や造り手を表すアートであり、クラフトであり、サイエンスの結果でもあります。それが、なによりも魅力的でした。毎年違う気候の中で、それまで築き上げていたことや知恵を活かして造るという点にも、ワインの面白さがあると思いました。体を動かして仕事するのも良いし、淡々と同じ作業をこなすことも自分が好きでした。
木谷:社会のレールから外れて戻れなくなるのではないかという恐怖感はありました。銀行の人には止められましたが、両親には「今日辞めると言ってきた」と事後報告でした(笑)。両親は私が勝手に勉強して勝手に京大に入ったことで私を信頼してくれていて、今後どうするか計画を話すと納得してくれました。
大好きな地元である奈良県でワイン造りに全力投球してから、もし自分に合ってなかったらまた考えようと。無謀だったのかも知れませんが、自分なりに考え尽くしていたのでそれで良いと思い込んでいました。
「風土」を感じるワインで、奈良県をもっと魅力的に
木谷:ワインは、その土地の気候、土壌、造り手と言ったブドウを取り巻く全ての環境によって風味が異なります。同じブドウ品種でも発現する香りの成分が産地ごとに異なり、隣の畑同士でも味わいが違うと言われるほどです。
気候や土壌によって後天的に遺伝子発現が変化したり、土壌によって生息する微生物が異なることでブドウが吸収する養分が変化することが、その理由だそうです。
ヨーロッパでは、このことを「テロワール」と呼んでいるそうですが、僕はこの言葉をあまり使わずに「風土」と呼んでいます。テロワールという言葉は歴史の積み重ねの意味も含む、ワインの伝統産地にのみ使用が許されるというイメージを僕は持っていて、僕のワイン造りも含めた範囲で使うには畏れ多い言葉だと思っているからです。
奈良県の「風土」を表した、純奈良県産ワインという新しいジャンルのワインを生み出して、奈良県の魅力を向上したいと考えています。
木谷:貯金と、アルバイト代と、新規就農者に対しての補助金です。特に補助金は年間150万円貰えるので、それを資材や苗木代に充てています。
醸造所を建設するときは、自己資金と融資と個人の方からの出資、6次産業化(※1)の補助金を組み合わせて資金を確保したいですね。
※1
6次産業化:生産者(1次産業者)が加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)も行い、経営の多角化を図ること。
木谷:いつもSNSで告知して、集まっていただいています。奈良県初のワインへの期待や、ワインの実際の生産の現場への興味で来てくださっています。
あとは、もともと親しい友人や先輩後輩が来てくれていますね。いつもバタバタして対応しきれない時もあるのですが、「楽しかった!また来たい!」という声を頂く時があり、本当に嬉しいですね。
僕自身も「ワインってどうやって作られているのだろう?」、「造り手はどんな思想を持っているのだろう?」という点にとても興味を持っているので、その点を一緒に作業しながら手伝っていただいている方たちにお伝えしていきたいと思っています。
木谷:ありがとうございます!原案は私で、書き起こしが妻、完成させてくださったのが妻のお姉さんです。花札の絵柄である「鹿に紅葉」をモチーフにして改変した「鹿にブドウ」です(笑)。
ブドウは正倉院裂の「葡萄唐草模様」をモチーフにしていて、とにかく奈良にゆかりのあるデザインです。ちょっと古さを感じさせつつ親しみのあるデザインにしたかったんです。
木谷:直接の知り合いと、SNSで知っていただいた方、酒販店さんのご紹介などです。ですが、酒販店さんもSNSをきっかけに繋がっていることが多いので、直接の知り合い以外はほとんどSNS経由と言って良いかも知れません。
今後は必要になってくると思うのですが、現在はあまり営業らしいことをやりたくありません。SNSでとにかく一生懸命ブドウから作っていることを発信して、必要としてくださる方からお声掛けいただくというやり方が、今の自分に合っていると感じるからです。
木谷:これまで私の活動を知らなかった方に、ビジコンをきっかけに知っていただけたことが一番のプラスだと思います。あと、家族や仲間が喜んでくれたのが嬉しかったです(笑)。
木谷:数年かけて自分の畑での生産量を増やしつつ、奈良県内のブドウ農家さんとも手を取り合って生産を増やしたいと思っています。果実酒の醸造免許の要件となる年間6,000リットルをクリアして、奈良県に醸造所を早く建設したいですね。
そこからはブドウ農家さんに自前のワインを持っていただけるような仕組みをつくったり、新たにワイン用ブドウを栽培したいという方のサポートをしながらより奈良のワイン造りと農業を盛りあげていきたいと思っています!
毎年試行錯誤して、より良いブドウとワインを作っていきます!
木谷:本当に色々な方に支えられて今がありますし、支えなしには今後もないと思います。これまで私に関わってくださった方々に感謝しています。一生懸命、また誠心誠意やりますので今後とも宜しくお願いします。
僕のワインは、味の面でも他にないワインです。この記事をきっかけに興味を持ってくれた方に、是非一度飲んでみてほしいと思います。
(取材協力:奈良ワイン 木谷 一登)
(編集:創業手帳編集部)