「女性起業家」の肩書や髪型、服装で記憶に残る仕掛けを。中村流ブランディングと広報の考え方とは【中村氏連載その5】

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2021年05月に行われた取材時点のものです。

売上げ伸ばさず「絞る」! 「100食限定ランチ×ホワイト労働」の繁盛店「佰食屋」オーナー中村朱美氏に学ぶ、女性にこそ向いているコロナ時代の飲食経営

コロナ禍で営業のあり方が見直され、存続をかけて経営者がさまざまな工夫や改善を凝らしている飲食業界。もともと、朝早くから夜遅くまで働く業態が多いことから働き手の確保が難しく、世の中のホワイト化の流れを受けて経営が見直されてきていました。そんななか「1日100食限定」を、しかもランチ営業のみで売り切ってしまうという、これまでにないスタイルで2012年に1号店をオープンさせたのが「佰食屋」です。

住宅地立地であることから、行列を作らせないために朝から整理券を配布する方式を取っていましたが、コロナ禍でもこれが功を奏しています。ちなみに、オンライン予約方式では予約したのに現れない問題もありますが、佰食屋では店頭に来た方に会話しながら整理券を渡すため、直前のキャンセルはほぼないのだとか。

そんな佰食屋の創業者であり、経営者でもある中村朱美氏に、飲食経営の極意を伺っている全6回連載の前回では、起業までにどのような準備をされたのかをうかがいました。今回は中村氏がブランディングや広報をどのように考え、行ってきたかをお聞きします。

中村朱美

中村朱美(なかむら あけみ)
株式会社minitts代表取締役
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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前職の経験をフルに活かし、「お金をかけない広報」を積極展開


『売上を、減らそう』中村朱美 ライツ社

大久保:前回の連載で、起業に必要なのは業界経験や現場の能力より、広報や営業のノウハウだというお話を聞きました。中村さんは、以前は専門学校で広報をされていたのですね。

中村:はい。5年半ほど広報を勤めました。そこで、広報こそ売上げに直結する、重要な経営戦略のひとつだと感じたのです。とはいえ、広報は現場の片手間でできるほど簡単な仕事ではありません。専門性が高く、また、ステークホルダーも多いことから、各所への目配りが必要です。

大久保:実際に中村さんは、著書(『売上を、減らそう。』ライツ社刊)を出されたり、テレビのビジネス系番組で密着取材を受けられたりと、メディアへの露出を積極的にされていますね。これは集客効果を意識してのことなのですか?

中村:そのとおりです。広報宣伝にはさまざまな手法があって、大きくは「お金をかける広告・宣伝」と「お金をかけない広報」があると思います。私たちは後者に全力投球しているわけですね。ですので、SNSは頻繁な更新を心がけていますし、私自身がお店の広告塔となろうと考えて、いろいろな取材を受けたり、講演もお声がけをいただければ積極的に行っています。すべて、広報の一貫としてですね。

特にテレビは、もっとも影響力があります。しかし、打ち合わせや電話でのやり取りも多いので、営業に差しさわりのないような時間帯を活用し、撮影以外にも素材を提供するなど、いわゆる広報業務がいろいろと生じます。そこを、前職まで黒子として行ってきたため、自分で理解をして適切に行動できるのは良かったですね。

ショートボブの髪型と青い服をトレードマークに

大久保ブランディングも、創業当初からかなり意識されていますね。まず「佰食屋」というネーミングが、シンプルながら「100食を売る店」だとすぐに分かるものですし、一度聞いたら忘れないようなインパクトもあります。また、中村さんご自身の髪型や服装も印象的で、キャラクター的な位置づけになっていますよね? 私自身も創業手帳のロゴTシャツを意識して着用していますので、とても良い戦略だなと思いました。

中村:ショートボブの髪型を変えないことと、青色の服を着ること。この2点は意識して行っています。この形と色で覚えてもらえることが実際多く、京都ではこの格好で歩いていると、知らない方にもよく声をかけていただけますね。おかげさまで最近は大阪にも波及していて(笑)、だいぶ定着してきたようなので、逆に最近お休みの日には青い服を着ないようにしているぐらいです。

また、「佰食屋」というネーミング以外にも、「100食限定」や「フードロス対策」「女性活躍」などの分かりやすいキーワードを特徴として打ち出すことで、メディアの方々に取り上げてもらいやすくなります。それらのキーワードを掛け合わせることで希少価値が生まれ、記憶にも残りやすくなるのではないでしょうか。

最近は、SDGsの文脈で取材を申し込まれることも増えています。SDGsとは「持続可能で多様性のある社会実現のために定められた、全世界的な開発目標」のことですが、3番目の「すべての人に健康と福祉を」や、11番目の「住み続けられるまちづくりを」という目標に、私が目指している「私もスタッフも毎日家族と一緒に夕ご飯が食べられるような経営のあり方」がフィットしているなと思います。

SNSによる相互コミュニケーションは、平等を考えて行わないように

大久保:SNSの中にもいろいろありますが、今は何が有効だと思われますか?

中村:SNSは得意なほうではないのですが、今はインスタグラムかなと思いますね。実は社の方針として、ツイッターはやらないと決めてます。

大久保:それはなぜですか? 炎上などでマイナスイメージが付くことを恐れてでしょうか。

中村:そういうことではないんです。ツイッターはもちろん拡散力の大きさは魅力で、リアルタイムで訴求ができますので、「今日はお客さんが少ない」というようなときに活用すれば、来てもらえるのかなとも思います。ですが、相互コミュニケーションを店舗がするべきではない、という考えで、使わないことに決めました。お客様が店舗に人格を求めてしまったり、その中の人と会話できる状態が、私にはどうしても違和感がありまして。ですから、インスタグラムもfacebookも、コメント欄はオフにして使っています。ツイッターはどうしてもコメントで相互関係ができてしまうので、登録は個人としてもしていません。

大久保:なるほど。お客さんと会話しましょうという考え方のお店もありますが、そうではないんですね。

中村:そうですね。一部の方と仲良くしてしまうと、その他の方が「自分はそんなに仲良くないんだ」とがっかりされてしまう可能性がありますよね。お客様によって親しさに差が出るというのは、私としてはあまりいいことだと思いません。ですから、SNSに限らずオフラインでも、特定の方とお話したり、昔からの知り合いと話し込んだりするのも避けていますね。むしろ、親しい人にはあまりお店に会いに来てもらわないよう、お願いしています。全ての方に公平、公正にというのが当社のコンセプトですね。

大久保:誰もに平等な広報手段としては、自社サイトも大きいのでしょうね。

中村:そうですね。佰食屋のホームページの「ニュース」コーナーはしっかりと活用しています。こういうページは、更新していないと見られなくなり、意味がありません。特に昨今はコロナ禍で、営業がどのようになっているのかを気にされるお客様はたくさんおられると思います。もちろん電話をいただいても丁寧に対応しておりますが、今はみなさん、まずホームページをチェックされますので、最新の状況を分かりやすく、そこで伝えることを大事にしています。また、自社サイトでしっかり広報しておけば、ほかの飲食・店舗情報のサイト運営の方々もそれを見て更新してくれるでしょう。

あとは、テレビなどの取材を受けたら、「○○で紹介されました!」などとご案内するようにしています。

サポートを得られるなら「女性起業家」も積極的にアピールすべし

大久保:女性が起業したことでの有利なこと・不利なことは何かあったりしますか? ちなみに、この質問は女性起業家の方によっては嫌がられることもあるのですが…。

中村:私は大丈夫です。女性であることも、うまく使えばいいと考えていますね。おそらく、起業家に「女性」という形容詞がわざわざつくのは、日本でもあと5年くらいのことではないかと思っているんです。

大久保:つまり、5年もすれば女性社長というのも当たり前の存在になると。

中村:はい。それよりも、これからは「学生起業家」などが注目される時代なのではないでしょうか。

そう考えると、今、女性起業家が珍しいと言ってもらえるのであれば、それによってメディアに出られる回数も増えるでしょうし、いろいろな方面からサポートや支援をいただける、力を貸してもらえるという意味では、非常にありがたいことだと思っています。

大久保:そんな風に考えられるのは、なぜですか?

中村:私が起業した2012年頃というのは、新たに飲食業を始めるときに、女性であったり若かったりすることが悪目立ちしてしまうことがありました。食材の仕入れをお願いしたくて電話しても、取り合ってもらえなかったり、掛け取引に応じてもらえず現金払いを余儀なくされることが普通だったんです。東京ではまた違ったかもしれませんが、関西ではそのような状況でした。

そこから1~2年もすると時代の流れで、女性起業家というのがフィーチャーされ始めたのを、肌で感じるようになりました。また、佰食屋の経営が軌道に乗り、メディアなどでも取り上げられるようになると、以前は相手にされなかった方たちが親切に声をかけてくれるようになるんですね(笑)。ですから、どう見られようと、興味や関心を持ってもらえるのであれば、それはありがたく受け止めるべきだと思うようになりました。むしろ興味を持っていただけるなら「女性起業家」ということをどんどんアピールしていこうと思っています。

大久保広報的側面からもプラスであるならば、むしろ、しっかりと打ち出していくということですね。

では次回、この連載の最終回では、優秀な女性スタッフをそろえて、ホワイト労働を大事にされ、ご自身も家族との時間をなによりも大事にされている理由や、実際の様子などを伺っていきます。また、「佰食屋1/2」という形で始められている、フランチャイズ展開など、今後の事業の展望についてもうかがわせてください。よろしくお願いいたします。

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(取材協力: 株式会社minitts代表取締役 中村朱美
(編集: 創業手帳編集部)



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