個人事業主は育休手当がない?利用できる支援策や休みを取得する前にすべきこと

創業手帳

個人事業主が利用できる出産・育児の制度を把握しよう


共働きが当たり前になった現代では、多くの企業で出産・育児に関する手当や制度が導入されています。
一方、自ら事業を展開している自営業やフリーランスなどの個人事業主には育休手当がありません。しかし、個人事業主が利用できる支援策は多くあります。

今回は、個人事業主が使える出産・育児の支援策や、産休・育休を取得する際のポイントを紹介します。

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個人事業主には育休手当がない


自営業やフリーランスといった個人事業主には、会社員と異なり育休手当がありません。育休手当がない理由として、まずは育休手当の概要と個人事業主の仕事復帰の実情を紹介します。

育休手当とは

育休手当の正式名称は「育児休業給付金」で、1歳未満の子どもを養育するために休業を取得する際に支給される手当です。
育休は女性のみを対象とした産前・産後休業とは異なり、男女共に取得できます。そのため、男性でも女性でも、育休を取得した際に育休手当の請求が可能です。

育休手当は、雇用保険の被保険者に対して支給されます。個人事業主は雇用保険への加入が認められていないため、育休手当の支給対象にはなりません

個人事業主の仕事復帰の実態

女性の個人事業主の場合、産後直後に仕事復帰をする傾向があります。
フリーランス協会が公表する「フリーランスの課題と実態」によれば、産後1カ月以内に復帰した人が44.8%、産後2カ月以内に復帰した人が59%という結果でした。
体が妊娠前の状態になるのは産後6~8週間といわれ、最低でも3週間は休養することが推奨されています。
しかし、個人事業主には育休手当がないこともあり、体調が万全ではない状態で仕事復帰する女性が多いようです。

育休手当のない個人事業主向けの子育て支援策を検討中

政府は、育児手当がない個人事業主に向けて子育て支援の検討を進めています。
例えば、第9回全世代型社会保障構築会議では、検討するべき課題として個人事業主を対象に育児期間中の新たな給付の創設が挙げられました。

また、厚生労働省は2026年度中の実施を目標に、1歳未満の子どもの育児期間中は両親の国民保険の保険料を免除する方針を示しています。
休業の有無や所得水準を免除の要件として求めないとしているため、育休制度がない個人事業主も免除の対象です。

育休以外で個人事業主が使えない支援策

個人事業主は、育休および育休手当以外に出産手当や出生時育児休業給付金といった支援策も使えないことに注意してください。

出産手当 ・出産による休業中、その間に支払われなかった給与が健康保険から支給される制度
・会社の健康保険や共済組合に加入する本人が対象
出生時育児休業給付金 ・出生時育児休業を取得した場合に支給される給付金制度
・雇用保険に加入している被保険者で支給要件を満たす場合に受け取れる

個人事業主が使える出産・育児の支援策


個人事業主は育休手当や出産手当などを利用できませんが、利用できる支援策は多くあります。主に使える支援策は以下のようなものです。

妊婦健診費用の助成制度

自治体は、定期的に受ける必要がある妊娠健診の費用の一部を助成しています。
助成額は自治体によって異なりますが、通常は1回あたり4,000~5,000円、検査項目が時は1回あたり1万円程が相場です。
この制度では、「妊婦健康診査費用補助券」などの補助券(冊子)を病院に提出することで、自己負担額から助成額分が差し引かれます。
補助券は、母子手帳などを受け取る際に一緒に支給されます。

なお、補助券は指定された地域の医療機関でしか使えません。里帰り出産する際は、すべての費用を支払う必要があります。
領収書などの費用を証明できる証拠を揃えた上で、自治体の窓口で申請すれば精算が可能です。

出産育児一時金

出産育児一時金は、妊娠4カ月以上で出産した際に、加入している公的な医療保険から一時金を受け取れる制度です。
一時金の支給によって、分娩費用や入院費など出産時にかかる費用の負担を軽減できます。
妊娠4カ月以上であれば、早産や流産・死産などで出産できなかった場合も支給対象です。

個人事業主は国民健康保険に加入しているため、国保から一時金が支給されます。
支給額は、健康保険法によって法令で決まった金額を支給されると定められており、どの医療保険に加入していても支給金額は一律です。
なお、出産育児一時金は2023年4月から42万円から50万円に引き上げられました。
産科医療補償制度の対象外となる出産(妊娠週数22週に到達していないなど)の場合、支給額は48.8万円です。

出産育児一時金の受け取り方には、直接支払制度・受取代理制度・事後申請があります。

直接支払制度 ・公的医療保険から医療機関に直接一時金が支払われる
・保険証の提示と医療機関から渡される書類にサインするだけで手続き完了
受取代理制度 ・被保険者の同意のもと、医療機関が本人の代わりに一時金を受け取って出産費用に充てられる
・出産予定日1カ月前に加入する医療保険の事業所に申請書を提出する
事後申請 ・出産後、一度全額自己負担した上で、後日申請を行って一時金を受け取る
・申請書などの必要書類を揃えて市町村役所の窓口に提出する

出産・子育て応援交付金

0歳~2歳の子どもを育てる家庭を対象に、自治体が交付金(出産・子育て応援ギフト)の支給や、伴走型相談支援、継続的な情報発信などで支援する事業です。
自治体によって名称や支援内容に違いがあるので注意してください。

出産・子育て応援ギフトは、出産育児用品の購入にかかる負担を軽減できます。
妊娠届と出生届をそれぞれ提出する段階で、保健師などの面談を受けた後にギフトの申請が可能です。
受理されると、専用サイトのカタログから好きな商品やサービスを選んで購入できます。
支給額は、妊娠時(出産応援ギフト)・出産時(子育て応援ギフト)それぞれ5万円ずつ、合計10万円相当です。
多胎の場合、子育て応援ギフトは子どもの人数分を受け取れます。

児童手当

児童手当は、児童(0歳~18歳に達する日以降の最初の3月31日まで)を養育する方を対象に支給される制度です。
市区町村役場で認定請求書を提出し、認定を得ると支給が開始されます。
手当は、毎月2月・4月・6月・8月・10月・12月ごとに2カ月分が支給されます。1人あたりの支給額は、3歳未満の児童は月額1万5,000円、3歳以上の児童は月額1万円です。

なお、第3子以降は全期間で一律月額3万円が支給されます。第3子以降とは、児童の対象範囲のうち、1番上の子ども(第1子)から数えて3番目以降の子どもを意味します。
従来、第3子の児童手当の支給対象は中学生まででした。しかし、2024年10月からは第1子が22歳になる年度末までに延長されています。

こども医療費助成

こども医療費助成は、子どもにかかる医療費を自治体が一部助成する制度です。
病院や薬局で医療費を支払う際に、子どもの健康保険証と医療証を提示することで、公的医療保険の7~8割負担に加えて、自治体が2~3割を補助してくれます。
医療費・薬代以外に、健康保険が適用される眼帯・補助具なども助成対象です。ただし、健康保険適用外の健康診断や予防接種などは自己負担となることに注意してください。

この制度の対象となる子どもの年齢は、自治体によって異なります。
厚生労働省の調査によると、都道府県別では就学前、市区町村別だと15歳年度末と定めていることが多いようです。

こども医療費助成を受けるためには、自治体に子どもの医療証を発行してもらう必要があります。
子どもの健康保険証や保護者の身分証明書を持参して、市区町村の窓口で手続きを行ってください。

個人事業主向け福利厚生サービス

数は多くありませんが、個人事業主向けの福利厚生サービスに加入することも可能です。
福利厚生の内容はサービスごとに異なりますが、妊娠・出産のお祝いなどの制度を用意しているケースがあります。
ほかにも、スキルアップ支援や税務関連の相談、賠償責任保険、優待制度など様々な福利厚生サービスが用意されています。
仕事のサポートを受けられると同時にプライベートを充実させられるため、利用したいサービスがあれば加入を検討してみてください。

個人事業主が産休・育休を取得するためにすべきこと


個人事業主でも、妊娠中・出産後は休養や育児に専念する期間を設けることが必要です。
個人事業主は仕事の調整が可能なため、あらかじめ十分に準備しておけば産休・育休を確保できます。
ここでは、個人事業主が産休・育休を取得するためにするべきことを紹介します。

収入の減少に備えるために貯蓄をする

個人事業主が産休・育休によって仕事を休むと、収入が減少してしまいます。収入の減少に備えて、生活費や養育費などの貯蓄をしておいてください。
育児中は妊娠前とライフスタイルが大きく変わり、肉体的・精神的なストレスもかかるため、育児の合間に仕事をするのは困難です。
出産後はまったく仕事ができないと想定した上で、十分に貯蓄しておけば安心です。ただし、十分な貯蓄には時間がかかるので、早めに計画を立てて貯金をしてください。

作曲家・画家・作家などクリエイティブ分野で働く人であれば、出産前に作った作品を販売して収益を得るという方法もあります。
たとえわずかな収入でも家計の足しになるかもしれません。

取引先には早めに相談する

取引先には、産休・育休に入ることを早めに伝えておくことも大変です。妊娠直後に急に休めばトラブルにつながる恐れがあります。
一方、事前にいつからいつまで休みたいという希望を伝えておけば、取引先も余裕を持ってスケジュールを調整することが可能です。

正社員の場合、一般的に出産予定6週間前~出産後8週間の期間で育休を取得するケースが多くあります。
個人事業主で休業期間に悩んでいる方は、この期間を参考にしてみてください。

業務を代行してくれる人を探す

業務内容によっては、産休・育休によって仕事やプロジェクトに支障が出てしまうことがあります。
その場合、業務を代行してくれる人を探しておけば、取引先にも迷惑をかけずにできる産休・育休を取得できるかもしれません。
一方、取引先が自ら代行できる人を確保するケースもあります。妊娠・出産について相談するタイミングで、業務を代行してくれる人を決めておくことが大切です。

また、請求書の発行やデータ収集、データ入力など、オンラインで業務を代行してくれるサービスもあります。
産休・育休中も本業以外のことでやらなければならない仕事があれば、代行サービスの活用を検討してみてください。

保活をする

保活は妊娠中から行うことがおすすめです。産後に子どもを預けられる場所を確保できていれば、スムーズに仕事復帰ができます。
そのため、妊娠中から預け先を探しておくことが大切です。

ただし、個人事業主の保活は一般の社会人とは異なります。
個人事業主の場合、自治体によっては会社員よりも基本指数が低く設定されており、保育園の入園が難しい傾向にあります。

また、在宅勤務の場合であれば自宅保育が可能と判断され、保育園への入園が認められないケースもあります。
近年は待機児童を多く抱える自治体も多く、保育園の入園が厳しい状況です。
待機児童が多い場所に住んでいる場合は、認可外保育園への入園を検討することがおすすめです。
一方、入園できない可能性を想定して、ベビーシッターや一時保育の利用、親族や親戚に預けられるかどうか検討することが求められます。

子育てサービスの活用を検討する

子育て中の負担を少しでも軽減できるよう、子育てサービスの活用を検討してみましょう。
自治体や民間事業者が手掛けるヘルパーやベビーシッターを利用すれば、家事や子どもの世話を手伝ってもらえます。
病院に通院したい時や、美容院に行きたい時などに便利です。

ほかにも、家事代行やネットスーパーといったサービスを利用することもおすすめです。
家事代行を利用すれば、掃除や洗濯、料理の作り置きなどを任せられ、子どもの世話に専念できます。
また、ネットスーパーを利用すれば、食材や日用品などをオンラインから注文できるため、買い物に行く手間を省くことが可能です。

まとめ・個人事業主が産休や育休を取得する前には入念な対策が必要

一般の会社員とは異なり、個人事業主には産休・育休制度や育休手当がありません。ただし、妊娠健診費用の女性や出産育児一時金など、利用できる支援策も多くあります。
今後は制度の改正や新設によって個人事業主が使える育児支援制度が増える可能性もあるので、しっかり情報収集することが大切です。
また、個人事業主が産休・育休に入る際には、入念な対策が求められます。
出産に備えて貯蓄をしておいたり、取引先には早めに相談したりするなど、十分な準備をしておいてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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