非課税所得とは?具体的な種類と年末調整・確定申告の要否をわかりやすく解説
余計な税負担を回避し、正しい申告でペナルティを防ごう

非課税所得とは、所得税法で「課税しない」と定められた所得のことです。遺族年金や通勤手当、失業給付などが該当し、確定申告や年末調整で課税所得に含める必要はありません。
ただし、非課税となる条件や限度額を正しく理解していないと、意図せず申告漏れや過大納税につながるケースもあります。本記事では、非課税所得の定義や種類、実務でよくある誤解と注意点などを解説します。
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非課税所得とは

年末調整や確定申告の際に混乱しないよう、ここでは非課税所得の基本的な仕組みを解説していきます。
非課税所得の定義
非課税所得とは、所得税法で課税対象外とされる所得のことです。収入には所得税がかかりますが、特定の条件を満たす所得については、法律により最初から課税の対象外となっています。
所得税法第9条には非課税所得が列挙されており、これらは所得金額の計算から除外されます。
- 傷病者や遺族などの受け取る恩給、年金等
- 限度額内の通勤手当、職務の遂行上必要な現物給与
- 心身に加えられた損害または突発的な事故により資産に加えられた損害に基づいて取得する保険金、損害賠償金、慰謝料など
これらは、非課税の適用を受けるための手続きは原則として必要ありません。
非課税所得が設けられている理由
非課税所得は「社会政策的配慮に基づくもの」「担税力の考慮に基づくもの」「必要経費的性格によるもの」「少額免除・貯蓄推奨等の見地に基づくもの」「他の租税との二重課税を避けるためのもの」などに分類されています。
具体的には、遺族年金や障害年金は、遺族や障害者の生活保障という社会政策的配慮から非課税とされています。また、通勤手当は実質的に仕事のために必要な経費を補填するものであり、収入とは性質が異なるため非課税です。
課税免除との違い
非課税所得と混同しやすいのが「課税免除」です。両者は税金がかからないという点では同じですが、その性質は異なります。非課税所得は最初から課税対象外で申告不要となりますが、課税の免除は一定の要件を満たす場合に申告や申請により納税の義務がなくなるものです。
たとえば、NISAで得た配当金や売却益は非課税ですが、これはNISA口座を開設するという手続きを経て初めて適用されます。一方、遺族年金は受給した時点で自動的に非課税となり、特別な手続きは必要ありません。
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非課税所得の種類一覧

非課税所得は多岐にわたりますが、年末調整や確定申告の実務において、特に知っておくべきものを中心に解説します。
給与所得・公的年金関係
給与所得者にとって身近な非課税所得が、通勤手当や出張旅費です。また、公的年金のうち遺族年金や障害年金は非課税となっており、老齢年金と混同しないよう注意が必要となります。
通勤手当の非課税限度額
通勤手当には、非課税となる限度額が定められています。電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合、最も経済的かつ合理的な経路で通勤した場合の通勤定期券などの金額が上限月15万円まで非課税です。
マイカー通勤の場合は、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が段階的に設定されています。片道2km未満の場合は全額が課税対象となりますが、2km以上の場合は、距離に応じた金額まで非課税となります。
なお、令和7年11月19日に所得税法施行令の一部改正が公布され、自動車などの交通用具を使用する給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。
出張旅費・転居費用
出張旅費や転居費用のうち、通常必要と認められる範囲のものは非課税となります。具体的には、交通費・宿泊費・日当などが該当しますが、実費精算が原則です。
ただし、会社の規定で支給される金額が「通常必要と認められる範囲」を超える場合、その超過部分は給与として課税されます。たとえば、日当が社会通念上の相場を大きく上回るケースでは、超過分が課税対象になる可能性があります。
遺族年金・障害年金
遺族年金や障害年金は非課税で、所得税・住民税・相続税・贈与税がかかりません。さらに、所得税法上の扶養親族になるかどうかの判定基準となる所得金額の計算上も、遺族年金や障害年金は含まれません。
年末調整や確定申告の際によくあるミスとして、老齢年金との混同があげられます。老齢基礎年金や老齢厚生年金は雑所得として課税対象となるため、源泉徴収の対象にもなります。
生活用動産の譲渡・フリマアプリの売上
日常生活で使用していた家具、家電、衣類、書籍、おもちゃなどをフリマアプリで売却して得た利益は、原則として所得税はかかりません。税法では、こうした「生活用動産」の譲渡による所得は非課税として扱われます。
ただし、すべてのフリマ売上が非課税になるわけではありません。以下の条件すべてに当てはまる場合に課税されます。
- 1点30万円を超える貴金属・美術品・骨董品の売却
- 営利目的で継続的に仕入れて販売する「せどり」や転売
- ハンドメイド作品を継続的に販売して収益を得ている場合
生活用動産であっても継続的に販売している場合や、ハンドメイドアクセサリーなどの自作商品を販売している場合は、営利目的・事業性があるとみなされます。そのため、状況によっては事業所得や雑所得の申告が必要です。
その他の非課税所得
給与や年金、譲渡所得以外にも、さまざまな非課税所得があります。ここでは実務で間違いが多い所得を取り上げます。
損害賠償金・慰謝料
交通事故や医療過誤などで受け取る損害賠償金や慰謝料は、原則として非課税です。これは、心身に受けた損害を補填するためのお金であり、「もうけ」ではないという考え方に基づいています。
ただし、すべての損害賠償金が非課税になるわけではありません。たとえば、事業の収益減少に対する補償(逸失利益の補填)は、事業所得として課税される場合があります。
失業保険・傷病手当金
雇用保険から支給される失業給付(基本手当)は全額非課税です。健康保険から支給される傷病手当金や出産手当金も、同様に非課税となります。
香典・見舞金
葬儀の際に受け取る香典や、病気・けがの際に受け取る見舞金は、社会通念上相当な金額であれば非課税です。会社から支給される慶弔見舞金も、社内規程に基づく一定額までは非課税となります。
ただし、香典や見舞金の金額があまりにも高額で、社会通念を逸脱していると判断される場合は、贈与税の対象となる可能性があります。一般的な相場を大きく超える金額を受け取った場合は、念のため税理士に相談することをおすすめします。
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非課税所得と確定申告の関係

非課税所得があるからといって、必ずしも確定申告が不要になるわけではありません。非課税所得と課税所得が混在するケースも多く、正しく判断しないと申告漏れにつながる恐れがあります。
確定申告が不要になるケース
非課税所得は所得金額の計算から除かれるため、非課税の適用を受けるための手続きは原則として必要ありません。つまり、非課税所得のみを受け取っている場合は、確定申告をする義務がないということです。
たとえば、遺族年金だけで生活している方や失業給付以外の収入がない方は、その所得に対する確定申告は不要となります。源泉徴収もされないため、年末調整での処理も必要ありません。
また、給与所得者がフリマアプリで不用品(生活用動産)を売却して得た収入も非課税所得に該当します。衣類や家具などの日用品を売った場合は、金額にかかわらず申告の必要はありません。
ただし、確定申告が「不要」であることと「しないほうがよい」ことは別問題です。確定申告の必要がない方でも、源泉徴収された税金や予定納税した税金が納め過ぎになっている場合には、還付を受けるための申告(還付申告)により税金が還付されます。
確定申告が必要になるケース
非課税所得があっても、それ以外に課税所得がある場合は確定申告が必要になることがあります。
非課税所得と課税所得が混在する場合
たとえば、遺族年金(非課税)と老齢年金(課税)の両方を受け取っている場合は、老齢年金部分について確定申告の要否を判断しなければなりません。
公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下であれば申告不要ですが、それ以外は申告が必要です。
課税所得が基準額を超える場合
個人事業主やフリーランスの場合は、原則として確定申告が必要です。ただし、1年間の所得金額が95万円以下(2024年分までは48万円以下)であれば、確定申告をしなくても問題ありません。
医療費控除など還付を受ける場合
医療費控除や寄附金控除を適用して税金の還付を受けたい場合は、たとえ非課税所得しかなくても確定申告が必要です。
還付申告は5年間遡って行うことができるため、過去に申告を忘れていた方も対応できます。ただし、非課税所得しかなく、そもそも所得税が発生していない場合は控除を申告しても還付される税金はありません。
経費算入の注意点
個人事業主の方によくある誤りとして、以下のようなものがあります。
- 非課税所得に対応する経費を計上してしまう
- 非課税所得の損失を他の所得と通算しようとする
- 課税所得と非課税所得を混同する
個人事業主の方が特に注意すべきなのが、非課税所得に対応する経費の取り扱いです。確定申告においては、非課税所得のために発生した費用は経費に算入できません。
たとえば、災害見舞金や一部の給付金など、法律上非課税とされている収入を受け取る場合で考えてみましょう。申請や受給のために発生した書類取得費用や郵送費、交通費などがあったとしても、確定申告上の必要経費には算入できません。
確定申告の際は、自分の所得が課税対象か非課税かを正確に把握することが重要です。課税所得を非課税所得と間違えて認識したまま確定申告を行うと、申告漏れにつながるかもしれません。
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よくある誤解と注意点

年末調整の担当者や個人事業主の方が特に注意すべきポイントを、よくある誤解とともに整理します。正しく理解して、申告漏れや余計な税負担を防ぎましょう。
補助金・助成金は「原則課税」
補助金や助成金についても、「国や自治体からもらうお金だから非課税」と誤解されがちですが、原則として課税対象となります。個人事業主が受け取る補助金や助成金は、事業に関連して支給される収入であるため、事業所得または雑所得として課税されるのが基本です。
たとえば、設備導入や販路開拓を目的とした補助金を受給した場合、その補助金は収入として計上する必要があります。一方で、補助金を使って購入した設備や支払った経費については、通常どおり必要経費として処理します。
なお、補助金の種類や支給目的によっては、圧縮記帳などの特例が適用できる場合もあります。補助金は課税・非課税の区分を自己判断せず、制度内容を確認したうえで適切に申告することが重要です。
遺族年金は非課税だが老齢年金は課税
よくある誤解のひとつが、年金の課税・非課税に関するものです。公的年金等は原則として課税対象ですが、遺族年金や障害年金は課税対象ではありません。
遺族厚生年金を受けている妻が高齢になり、自分の老齢年金とあわせて遺族厚生年金も受けるというケースがあります。そのようなときは、老齢年金は所得税の対象となりますが、遺族厚生年金については非課税です。
通勤手当は上限超過分だけ課税
通勤手当が「非課税」と聞くと、全額が非課税になると思いがちですが、実際には限度額が設定されています。公共交通機関利用の場合は月15万円まで、マイカー通勤の場合は通勤距離に応じた金額までが非課税となり、それを超える部分は給与として課税されます。
たとえば、電車通勤で月18万円の通勤手当を受け取っている場合で考えてみましょう。15万円までは非課税ですが、超過分の3万円は給与所得として課税対象です。
慰謝料は非課税だが売上に偽装した場合は課税
心身の損害に対する損害賠償金や慰謝料は非課税ですが、すべての「お金のやり取り」が非課税になるわけではありません。
実態が売買代金や報酬であるにもかかわらず、「慰謝料」や「損害賠償金」という名目で支払われた場合、税務上は本来の性質に基づいて課税されます。たとえば、商品の売上を「損害賠償金」として処理するような行為は脱税に該当する可能性があります。
また、事業上の逸失利益(本来得られるはずだった利益の補償)は課税対象となるため、損害賠償金の内訳には注意が必要です。
フリマ収益は非課税だが営利目的なら課税
生活用動産の売却は非課税と説明しましたが、すべてのフリマ収益が非課税になるわけではありません。
| 項目 | 課税・非課税 |
| 不用品(衣類・家具など)の売却 | 非課税 |
| 30万円超の貴金属・美術品の売却 | 課税(譲渡所得) |
| せどり・転売による継続的な販売 | 課税(事業所得または雑所得) |
| ハンドメイド作品の継続販売 | 課税(事業所得または雑所得) |
「最初は不用品の処分だった」という場合でも、継続的に仕入れて販売するようになれば営利目的とみなされます。税務署は取引の頻度や金額、仕入れの有無などを総合的に判断するため、あくまでも実態で判断しましょう。
「非課税=申告不要」とは限らない
非課税所得があっても、ほかに課税所得がある場合は確定申告が必要になることがあります。また、医療費控除やふるさと納税の寄附金控除など、還付を受けるためには確定申告が必要です。
さらに、住宅ローン審査や保育園の入園申請など、所得証明が必要な場面では、確定申告をしていないと不利になるケースもあります。「非課税だから何もしなくてよい」と安易に考えず、自分の状況に応じて申告の要否を判断しましょう。
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非課税所得と非課税世帯の違い

「非課税所得」と「非課税世帯(住民税非課税世帯)」は、名前が似ているため混同されやすい概念です。しかし、両者はまったく異なる制度であり、適用される場面や受けられるメリットも異なります。
| 項目 | 非課税所得 | 非課税世帯(住民税非課税世帯) |
| 判定基準 | 所得の種類・性質 | 所得の金額 |
| 対象 | 特定の所得(遺族年金、通勤手当など) | 世帯全員 |
| 根拠法令 | 所得税法第9条など | 地方税法 |
| 適用範囲 | 所得税・住民税 | 住民税のみ |
非課税所得は、所得税法第9条などで定められた「課税の対象にならない所得の種類」を指します。つまり、非課税所得は「所得の性質」によって決まるものです。
一方、非課税世帯(住民税非課税世帯)は、世帯全員の住民税が非課税となっている世帯を指します。つまり、非課税所得は「税金がかからないお金の種類」、非課税世帯(住民税非課税世帯)は「住民税がかからない世帯の状態」を指しており、まったく別の概念なのです。
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まとめ
年末調整担当者の方は、従業員の通勤手当や扶養親族の所得判定において、非課税所得の知識が欠かせません。個人事業主の方は、確定申告で非課税所得を誤って計上しないよう注意が必要です。
2025年は税制改正が行われた関係で、年末調整の対応や確定申告の準備が複雑です。必要以上に納税したり、不適切な会計で税務署から指摘を受けないためにも、正しい情報を集めましょう。
(編集:創業手帳編集部)







