Aeru.me 浜田 篤|起業家必見!OKRとKPIの違いと具体的な活用方法を優しく解説【浜田氏連載その1】
GoogleやFacebookなどでも使われるマネジメント手法をITコンサルタント浜田篤氏が具体的に解説
起業すると、自分の力だけではなく従業員の力も借りながら事業を進めていくことになります。同じ目的・目標に向かって従業員を動機付け、その能力を最大限に発揮してもらうためにはマネジメントについての知識・技術が必要不可欠です。
本連載では、Aeru.me株式会社代表取締役社長の浜田篤氏から、KPIやOKRを活用したマネジメントについて解説いただきます。マネジメントについての理解を深めるために、ぜひご活用ください。
東京理科大学電気電子情報工学科卒。大手自動車メーカーに就職後、教育ITベンチャーにCTOとして転職を経て個人事業主として独立。スタートアップ企業で培ったシステムのアウトソーシング(外注)ノウハウを活かしてインドの開発パートナーとアライアンスを結び、中小企業のコーポレートページなどの受託開発を中心に行うようになる。さまざまな中小企業経営者の方々と接する過程で、エンジニアのマネジメントや評価、組織設計、ITシステムの事業計画の作り方、といったノウハウに需要があると気づき、現在は経営者向けにITコンサルティングを展開している。
Udemyでは『「新米マネージャーの教科書」KPI管理やOKR、部下マネジメントのコツまで一通り学べる!』他、数多くの人気講義を公開中。https://www.udemy.com/user/atsushi-hamada/
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この記事の目次
マネジメントとは?
「マネジメント」とは、簡単に言えば「メンバーをまとめて、目指すべきゴールに向かって力を合わせるように動いてもらうこと」です。マネジメントする人のことをマネージャーと言いますが、日本では管理職といわれるため、少しイメージが違ってしまうように感じます。
具体的なマネジメント手法とは
マネジメントでは、目指すべきゴール(目標)や納期を設定したり、仕事を割り振ったり、仕事を確認・評価したりと目的の達成のためにさまざまなことを行います。マネジメントの仕方ひとつで、仕事の結果が大きく変わってくることをマネージャーは自覚しなければなりません。
マネジメントの手法については、100年以上も前から科学的に研究されていますので、確立されている方法論をしっかりと身につけることで、メンバーの能力を引き出し、組織を強化し、ビジネス上のゴールを効率よく達成できるようになっていきます。
従業員数が10名を超えてくるあたりから、一人一人の業務を具体的に把握しづらくなってくるものです。従業員数がある程度増えてきたタイミングで「皆で力を合わせる」を効率よく実現するツールとして「KPI」や「OKR」といったフレームワークを利用するとよいでしょう。
KPIとOKRの基本概念
マネジメントを行う上でよく耳にするKPIとOKRですが、その違いを説明できる人は少ないのではないでしょうか。この2つの違いをしっかりと理解して更なる効率化を目指しましょう。
KPIとは?
「KPI」とは”Key Performance Indicator”の略で、日本語では「主要業績評価指標」などと訳されます。KPIは、ゴールの達成のために必要な要素を分解して整理したもので、各項目は具体的な数字で表されます。また、あるプロジェクトにおける主要な目的を「KGI(Key Goal Indicator)」と言います。
営業の場合で考えてみましょう。10回商談すると1社受注できるという営業マンがいたとして、今月の受注目標が5件だとします。この場合、受注目標の5件をKGIとして設定します。単純に考えると、目標達成のためには50回商談を組めばいいことになり、これがKPIです。
また、その50回の商談のために電話や飛び込み営業を何回行うかといったアクションも数値化することができます。こうしたひとつひとつの行動を指標として、目標の達成度を管理したり、評価につなげたりすることができるのがKPIです。
KGIに対し、何をどのような数字で達成したらいいかを整理し、会社組織全体として達成したか達成できていないかを判断できるようにしたものが「KPIツリー」です。
OKRとは?
「OKR」は” Objectives and Key Results”の略で、「目標と重要な結果」というように訳されているものです。あるObjective、つまり目標に対して、その達成に必要なものは何かということを考えるときに使います。KPIと違い、厳密に数字化して管理するのではなく、目標(Objective)を中心に物事を考えます。
たとえば、「アメリカに行きたい」という目標があるとします。「何が必要だろう?」と考えてみると、パスポートは絶対に必要ですし、またアメリカで行くべき場所、お金も必要だと考えるでしょう。その他にも、経路などさまざまなことを考える必要があるはずです。逆に、こうしたKey-Result(重要な結果)を細かく洗い出していくことができれば目標は達成しやすくなります。
OKRではKPIほどの厳密さは必要ないため、「予算は30万円は必要だ」などと数字を仮置きで設定しても構いませんが、実際には格安航空の弾丸ツアーなら10~20万円で行ける場合もありますので、その時の状況に合わせて目標達成に必要なKey-Resultを臨機応変に選んで行けば良いという考え方になります。
このように、OKRでは主要な要素について洗い出していきますが、ひとつひとつの要素は必ず達成されなければならないとは考えません。
具体例からみるKPIとOKRの違い
KPIとOKRの一番大きな違いは、「KPIは厳密に数字で管理し、極論、KPI担当者はKPIの数字だけを追っていれば、その担当者は会社全体の動き(KGI)を見れてなくても力になれる」「OKRは目的ありきで考えるので、Key-Resultは複数ある前提でその時の状況で臨機応変に最善を選ぶ」ということです。
また、KPIの場合は基本的にブレがありませんが、OKRの場合はKey-Resultを代替できる場合もあります。業務改善なら数字目標がはっきりしていてPDCAを回しやすいKPIの方が使いやすく、新規事業や商品開発などで未知の分野の目標達成を重視する場合はOKRの方が使いやすいでしょう。
より具体的なイメージが湧くようにKPIとOKRの使用例を見ていきます。
上場を目指すベンチャー企業のKPIの具体例
「ベンチャー企業が3年以内に上場したい!」というケースを考えてみます。東証一部、二部、マザーズ、JASDAQなど、市場ごとに上場条件は「株主数◯名以上」「純資産◯億円以上」などのように数字で定まっているのでKPIツリーで管理できます。
条件ごとにKPIを設定し、具体的なアクションに落とし込みます。出そろったKPIをチームで着実に達成していくとよいでしょう。「上場条件として表に出ている公開情報以外にも重要なKPIはないか」といった、一次情報を上場経験している経営者らからアドバイスをいただくことも大切です。
目標に対するOKRの具体的な考え方
また、「子供が自転車に乗れるようになる」という目標でOKRを考えてみましょう。このときのKey-Resultは「べダルがこげるようになる(補助輪)」「一定の速度以上のときにバランスを取れるようになる(下り坂)」「ペダルをこぎながらバランスを保てるようになる(自走)」「自転車にジャイロを積んでほぼ転ばない自転車を作ってしまう(発明)」などを考えることができます。これらのKey-Resultを1つまたは複数組み合わせてObjective(自転車に乗れる)を達成します。
企業経営におけるKPIとOKRの活用方法
KPIもOKRも企業経営に利用可能です。
例えば、「全社で利益率を+15%にする!」というKGIの場合、以下のような戦略が考えられます。
- 全社で利益率を+15%にする!
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①経費を15%減らす
②販売価格を15%上げる+経費は現状維持
③販売価格を7.5%上げる+経費を7.5%減らす
(粗利+15%を達成できる範囲で設定)
④販売価格を20%上げる+経費を5%増やす
(粗利+15%を達成できる範囲で設定)
⑤販売価格を5%下げる+経費を20%減らす
(粗利+15%を達成できる範囲で設定)
良くない戦略
このときに、「③経費を7.5%下げる+販売価格を7.5%上げる」は実は良くないパターンで、残念ながらこれをやってしまっている組織が多かったりします。
なぜ良くないのでしょうか?
「②販売価格を15%上げる+経費は現状維持」のように、販売価格を現状の商品のまま単純に値上げする場合、近くに競合他社がいれば、価格が高くなったことで顧客が他社へ流出する恐れがあります。
すると、「値上げ後の販売価格で買ってもらえる顧客を新規開拓する」あるいは「商品力を向上させるための商品開発に投資する」といった戦略が必要になり、その分の経費が増えて経費削減が難しくなります。
そのため、「③経費を7.5%下げる+販売価格を7.5%上げる」を設定してしまうと、経費削減担当者が投資戦略の邪魔を悪気なくしてしまう可能性が出てきてしまいます。このケースでは「④販売価格を20%上げる+経費を5%増やす(粗利+15%を達成できる範囲で設定)」を行うのがベターと言えます。
最適なKPIの設定は、周りの競合他社の状況や、自社の置かれている状況によって変わります。そのため、しっかり検討して定めることはもちろん、定期的なアップデートが必要です。
すでに主力商品がある場合の戦略
既に主力商品がある場合は、他社の追従を防ぐために「⑤販売価格を5%下げる+経費を20%減らす(粗利+15%を達成できる範囲で設定)」という戦略もあります。
具体的には、大量生産による仕入経費削減といった方法になるでしょう。価格を下げるのは基本的に大手企業の戦略です。IT企業の場合、大きく資金調達できている企業であれば大量集客・大量販売により同じ戦略が取れるようになります。万一にも資金調達前、億円単位の予算のない企業が価格を売りにするような戦略をとってはなりません。
KPIが向く職種、OKRが向く職種
基本的には数字で目標や実績が管理しやすい職種や、既にある自社商品や業務フローなどの改善を行う場合はKPIが適しています。営業や品質管理、コストダウン、マーケティングなどの職種などが代表的です。
逆に、数値で管理がしにくい研究職にはOKRの方が適していることが多いです。また、テスターや編集などチェック業務の従業員に「ミスを○個発見」といったKPIを無理矢理設けると、重箱の隅をつつくような過度のチェックが行われ、非効率になってしまうことがありますのでKPIの定め方には注意する必要があります。
KPIやOKRで現状と目標を可視化してマネジメントに役立てる
- まとめ
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- KPIはKGI達成のために必要な要素を分解・整理したもので、具体的な数字で表される
- OKRは目的達成のためにKey-Result(重要な結果)を挙げたもので、目標達成に到達する為に必要な手段は一つだけとは限らない
- KPIは各数値を達成することでKGIを達成し、OKRはKey-Resultを組み合わせて目標達成につなげる
- KPIは数字で管理できる職種や目的に有効で、OKRは数字による管理が合わない目的に有効
今回はマネジメントにおけるKPI、OKRといったフレームワークについて紹介しました。次回は、KPIやOKRを実際のマネジメントに落とし込むために便利な「KPI管理ツール」についてご紹介します。
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(取材協力:
Aeru.me株式会社 代表取締役社長 浜田 篤)
(編集: 創業手帳編集部)