国家プロジェクトの福島イノベーション・コースト構想とは

福島県で新産業の創出を目指そう!

福島イノベーション・コースト構想」をご存じでしょうか。

2011年3月11日に発生した東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故により大きな被害をうけた福島県浜通り地域等では、失われた産業を回復するために様々な取組が行われています。

この記事では、福島県浜通り地域等を中心に取組が進められている国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」、本構想に基づき整備されている実証環境などについて解説します。

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福島イノベーション・コースト構想とは

福島イノベーション・コースト構想(福島イノベ構想)とは、東日本大震災及び原子力災害によって失われた福島県浜通り地域等15市町村(イノベ地域)(※)の産業を回復するために、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。

6つの重点分野が掲げる目標の具体化を進めるとともに、その実現に向けた産業集積人材育成交流人口の拡大情報発信など多岐にわたる取組が進められています。

(※)福島県浜通り地域等15市町村(イノベ地域):いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村

福島イノベ構想の重点分野

福島イノベーション・コースト構想では「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」の6つの分野を位置づけており、新産業の創出を推進しています。

廃炉

廃炉

(JAEA楢葉遠隔技術開発センター(NARREC(ナレック))

浜通り地域等の復興に必要不可欠な廃炉を進めるため、国内外の英知を結集し、研究開発と人材育成を進めるとともに、取組の効果を産業面にも波及させ、当該地域に産業の集積を図ります。

具体的には、原子炉建屋内部に存在する様々な環境を模擬した試験を行う施設「JAEA楢葉遠隔技術開発センター(NARREC(ナレック))」が整備されており、福島第一原子力発電所に存在する設備をフルスケールで再現可能で、実際の作業現場を想定した試験や訓練が実施されています。

ロボット・ドローン

福島ロボットテストフィールド

(福島ロボットテストフィールド)

陸・海・空のフィールドロボットに対応する、世界に類を見ない開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド(RTF)」があります。この施設を中核として、浜通り地域等へのロボット産業の集積を図ります。

さらに、「浜通りロボット実証区域」では、災害対応や物流・インフラ点検等の分野で活用が期待されているロボットやドローンの研究開発・実証試験を積極的に誘致しています。ロボット関連企業については、東日本大震災以降、約80社が新規進出しており、浜通り地域等において、ロボット関連企業の集積が着実に進んでいることが分かります。

エネルギー・環境・リサイクル

(福島水素エネルギーフィールド(FH2R))

(福島水素エネルギーフィールド(FH2R))

再生可能エネルギーを核とした産業の育成・集積を図り、地域経済の復興・再生に取り組んでいます。水素エネルギーの活用や太陽光パネル、石炭灰等の先端的なリサイクル技術開発の取組等を推進しています。

福島県浪江町に立地している「福島水素エネルギーフィールド(FH2R)」では、生み出された水素が、東京オリンピック・パラリンピック大会において、聖火台や聖火リレートーチ等の燃料として利用されたほか、福島県有の施設などに設置された燃料電池や水素ステーション等でも活用されています。

農林水産業

(複合環境制御施設によるイチゴ栽培)

(複合環境制御施設によるイチゴ栽培)

農業を福島県浜通り地域等15市町村における成長産業と位置付け、スマート農業などを活用した新たな農業の展開、新たな雇用創出や他地域からの農業参入をサポートしています。

また、林業・水産業についても、ドローンやAIを活用した広大な森林の調査や、漁業の操業コスト軽減や市況に応じた計画的漁業を実現するための創業支援システムの開発などの取組も進められています。

医療関連

(福島県内で開催された医療機器設計・製造展示会「メディカルクリエーションふくしま」)

高齢化が進み、医療・介護人材が不足する中で、医療関連産業の集積を図るとともに、企業等の新規参入を促進しています。

福島県郡山市にある「ふくしま医療機器開発支援センター」は、医療機器の開発から事業化までを一体的に支援する国内初の施設であり、医療機器の安全性評価だけでなく、医療機器開発にかかる法規制のコンサルティングなど様々なサポートを行っています。

航空宇宙

(「非破壊試験技術者育成(蛍光浸透探傷)」の研修風景画像(令和6年度実施))

航空宇宙産業の育成・集積に向けて、参入する企業の支援や産業を担う人材育成に取り組んでいます。

南相馬市に拠点を置き、2024年8月に超小型ロケットの発射実験に成功した宇宙スタートアップ企業や、空陸両用車「空飛ぶクルマ」の社会実装を目指し研究開発を行っている企業も出てきています。

世界に類を見ない開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド(RTF)」

(福島ロボットテストフィールド全景)

(福島ロボットテストフィールド全景)

RTFは福島県南相馬市(みなみそうまし)を主な拠点としており、約50ha(1㎞×500m)の広大な敷地に、陸・海・空の実証フィールドとして4つのエリアを用意し、ロボットやドローンの開発を強く後押ししています。
また、隣町である浪江町(なみえまち)にも滑走路を整備し、様々な試験ニーズに対応しています。

無人航空機エリア

(南相馬滑走路及び滑走路附属格納庫)

(南相馬滑走路及び滑走路附属格納庫)

無人航空機エリアは、主に無人航空機の性能試験や操縦訓練が行うためのエリアです。
主な設備としては、滑走路や緩衝ネット付飛行場、風洞棟などがあります。

滑走路は南相馬市と浪江町の2か所にあり、無人航空機の飛行性能試験や衝突回避、不時着などの特殊な試験が行えます

また、南相馬~浪江間の長距離飛行実証エリアとしても利用可能でドローン社会実装を支援する体制を整えています。

緩衝ネット付飛行場は周囲がネットで覆われており、屋内環境とみなすことができるため航空法上規制の対象となる試験(夜間飛行や物件投下など)を許可・承認なしで実施できます

3m x 3mの吹出口を持つ風洞試験装置からは最大20m/sの風を出力することができ、無人航空機の性能試験だけではなく、風力発電機器の性能試験にも利用されます。

インフラ点検・災害対応エリア

(インフラ点検・災害対応エリア)

(インフラ点検・災害対応エリア)

インフラ点検・災害対応エリアは、ロボット・ドローンによるインフラ点検、災害対応の実証実験のために整備されたエリアで、試験用トンネル、試験用橋梁、試験用プラント、市街地フィールド、瓦礫・土砂崩落フィールドにより構成されます。各種インフラ点検現場や災害現場を模擬した実験を行うことができます。

また、市街地フィールドには交差点や信号・標識などがあり、自動運転車両の走行試験にも利用されます。

水中・水上ロボットエリア

(水没市街地フィールド)

(水没市街地フィールド)

水中・水上ロボットエリアは、水中のインフラ点検や災害対応の実証実験が行えるエリアです。主な設備としては、水没市街地フィールドや屋内水槽試験棟があります。

水没市街地フィールドは水害で冠水した市街地を再現したエリアで、水上・水中ロボットや無人航空機のみならず有人ヘリによる捜索・救助訓練などを行うことができます。
 
屋内水槽試験棟には大小2つの水槽があります。

大水槽は水深が7mあり、ダムや河川・港湾環境を想定した各種試験が実施できます。 
小水槽は水深が1.7mで周囲がガラス張りになっており、水中におけるロボットの挙動を外から観察することができます。また、小水槽では濁度を調整し、より実環境に近い水質での試験を行うこともできます。

開発基盤エリア

(開発基盤エリア)

(開発基盤エリア)

開発基盤エリアはRTFの本館としての機能を持つエリアです。
試験の準備、加工・計測に加えて、風、雨、防水、防塵、水圧、温湿度、振動、電波に関する各種試験を行うことができるほか、セミナーや展示会等を開催できる大規模会議室も備えております。

また、研究者の短期~長期の活動拠点として研究室の貸出を行っており、入居している企業や大学との交流も図ることができます。

さらに本エリアには、福島県ハイテクプラザ南相馬技術支援センターが併設されており、ロボットのみならず各種技術相談、開発支援を受けることもできます。

2017年の一部開所から2025年1月末現在までで、フィールド内での実証件数は1,146件と、多くの方々がロボット・ドローン等の研究開発をするために福島ロボットテストフィールドを利用しており、その注目の高さがうかがえます。
見学も行えるため(予約制)、ご興味のある方は下記HPよりお問い合わせしてみてください。

福島ロボットテストフィールドHP

地域内で開発実証を進める企業をご紹介

福島県浜通り地域等15市町村内で、開発実証等を行う多くの企業の中から一部をご紹介します。

事例① ダイヤモンド半導体デバイスの研究

(ダイヤモンド半導体デバイス)

(ダイヤモンド半導体デバイス)

大熊ダイヤモンドデバイス株式会社は、廃炉事業用の燃料デブリ取り出しの要となる臨界近接監視モニタの量産技術を起点に、原発や宇宙、防衛・次世代通信向けに、ダイヤモンド半導体を用いた耐放射線電子機器用プリアンプと高周波アンプの開発を目指しています。

ダイヤモンドは高温および放射線耐性に優れ、原発事故のような過酷環境下でも動作することができます。福島第一原子力発電所の事故により、発電所で使用する電子機器に対し、放射線耐性、動作温度への要求が高まりました。

このようなニーズに応え、福島から新たな半導体産業を立ち上げるために、福島県大熊町(おおくままち)を中心に開発を進めています。

事例② 人に寄り添い、ともに成長するパートナーロボットプラットフォーム

(バッテリー駆動の二足歩行ロボット「あるくメカトロウィーゴ」)


株式会社リビングロボットは、福島県を拠点とし、未来を切り開くロボットを創造する先進的な企業です。プログラミング学習用ロボットやコミュニケーションロボットの開発を通じて、多彩な技術革新に挑戦し続けています。

イノベ実用化開発補助を活用し、0歳から100歳まで、あらゆる世代の人々の好みや成長に応じて進化する、次世代型パートナーロボットを実現。その核となるロボットプラットフォーム(Partner Robot Platform)は、必要なサービスをシームレスに提供し、生涯にわたる「真のパートナー」を目指したものです。

「人に寄り添う」という揺るぎないコンセプトのもと、常に新たな価値を創出。他社では実現できない、これまでにない革新的なロボットの提供形態を確立しています。また、福島ロボットテストフィールドを活用し、最先端技術を支える実証実験を展開。地域とともに成長しながら、ロボット開発の未来を築いています。

事例③ 植物ワクチンの開発及びワクチン接種苗の実用化

(ワクチン接種苗)

(ワクチン接種苗)

ベルグ福島株式会社は、農作物のウイルス病を防除する植物ワクチンの開発とその接種苗の実用化に取り組んでいます。
農業分野ではウイルスによる被害が深刻化しています。特に福島県を含めた露地キュウリ産地では大きな被害が出ました。このような被害が出ないように、植物ワクチンやその接種苗を開発して地域活性化に貢献しようと取り組まれています。

まとめ

福島イノベーション・コースト構想は、東日本大震災による被害からの経済復興を目指し、福島県浜通り地域等を中心に新たな産業の創出を図る国家プロジェクトです。

世界に類を見ない開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド(RTF)」をはじめとした開発実証環境が魅力です。

福島県浜通り地域等で新規事業に取り組みたい方は、福島イノベーション・コースト構想推進機構に、お気軽にお問い合わせしてみてください!

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(監修: 経済産業省
(編集: 創業手帳編集部)

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