2022年10月雇用保険料率引き上げ後の企業側負担はいくら?負担割合や手続き方法

創業手帳

雇用保険の基本知識と企業側の負担額を理解しよう


雇用保険は、2022年10月に引き上げられました。引き上げにより、企業側の負担額も変わっています。
引き上げされた後の負担がどのくらいの割合になっているか、どのような手続きが必要なのかなど、基本的な部分を把握しておくことは、事業を行う上で重要です。

そこで今回は、雇用保険の概要や手続き方法など、基本となる部分について解説していきます。
事業を行う中で、これから従業員を雇いたいと考えている経営者は必見です。

雇用保険とはどのようなもの?


雇用保険は労働保険のひとつで、加入するためには従業員と企業の双方が保険料を負担します。
失業時の生活支援などが目的です。まずは、雇用保険とはどのようなものか理解を深めるため、目的や概要から説明していきます。

雇用保険の目的

雇用保険は、雇用に関連する支援を行うための強制保険制度です。失業や休業した時に給付金を支払い、労働者の生活を安定させることが主な目的です。
さらに、雇用の機会を増やしたり、労働者の能力開発・就職の促進を行ったりする場合にも、雇用保険は役に立ちます。

今は問題なく仕事ができていたとしても、失業してしまうリスクは誰にでもあります。
育児や介護で休業を余儀なくされ、収入が減ってしまうこともないとは言い切れません。
そのような時にも、雇用保険に加入していると支援を受けられるため、労働者が安心して働けます。

万が一の時に収入が途絶えてしまうと、生活苦に陥る可能性が高まります。そうなる前のサポートを行うための保険です。

雇用保険の給付の種類

雇用保険の給付には、いくつかの種類があります。大別すると、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4つです。

続いては、それぞれの給付について解説していきます。

求職者給付

求職者給付は、いわゆる失業手当のことです。失業した時や再就職を目指して活動している人には、基本手当が支払われます。
さらに、ハローワークが指示した公共職業訓練を受講した場合は技能習得手当、怪我や病気で一定期間就職活動ができない場合は傷病手当が支払われます。
倒産や解雇など会社都合で離職した人は、再就職までに時間がかかりやすいです。そのため、ほかの理由と比べて給付日数は長く設定されています。

65歳以上の被保険者が失業した時に支給されるのは、被保険者期間に応じて支給される高年齢求職者給付です。
基本手当とは違い、被保険者の期間が1年以上ある人は基本手当相当額の50日分、1年未満の人には基本手当相当額の30日分が一時金として支払われます。

就職促進給付

就職促進給付は、できるだけ早く安定した職業に就けるようにすることを目的とした制度です。

失業中に受給した基本手当の給付日数が一定以上残った状態で再就職できた時、再就職手当などの給付金が支払われます。
手当を貰えると思えば、再就職活動へのモチベーションも高まるため、魅力的な制度です。

就職促進給付として支払われる給付金はほかにもあります。それが、就業促進定着手当、就業手当、常用就職支度手当です。
6カ月以上雇用されるなどの条件をクリアすると支払われるのが就業促進定着手当、基本手当の受給資格がある人は再主食した時に支払われるのが就業手当です。
再就職は決まったけれど支給残日数の関係で再就職手当を貰えない人に支給されるのが常用就職支度手当になります。

教育訓練給付

教育訓練給付は、労働者が能力の向上やキャリアアップを目指すことを支援するための制度です。
厚生労働大臣が指定した教育訓練を修了した場合、入学金や受講料の一部が教育訓練給付として支給されます。

給付の対象となるのは、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3つです。
支払われる給付額は、受講料の50%(最長4年間で1年間の支払い額は最大40万円、一定の条件をクリアした場合は70%となり1年間最大56万円となる)、40%(最大20万円)、20%(最大10万円)となっています。

この給付金は、在職中でも利用できます。スキルアップを目指したい時は、利用を前向きに考えてみてください。
しかし、雇用保険の支給要件を満たしていない場合は対象になりません。

雇用継続給付

雇用継続給付は、労働者が働き続けられるように援助する制度です。高年齢雇用継続基本給付金・育児休業給付金・介護休業給付金の3つがあります。

高年齢雇用継続基本給付金は、60歳以降も失業保険を受けず、同じ企業で働き続けた人に支給される制度です。高齢者向けの制度には高年齢再就職給付金もあります。

育児休業給付金は、育児休業の生活に困窮しないようにするために支払われるものです。
介護休業給付金は、要介護状態と認定された家族を介護するための休業した場合に支払われます。

60歳を超えても働く人が増えている現在、高年齢雇用継続基本給付金の需要は高まっています。
また、育児や介護による休業も身近な問題なので、利用頻度も高い制度です。

雇用保険の加入条件


雇用保険は、ひとりでも労働者がいる場合は基本的に加入しなければいけません。しかし、中には例外もあるので注意が必要です。

企業側と労働者側の加入条件について解説していきます。

企業側の加入条件

基本的には、ひとりでも労働者がいる企業は雇用保険に加入する必要があります。業種や従業員の規模は問いません。
適用となった事業所の事業主は、雇用保険の加入手続きを忘れないようにしてください。

しかし、中には例外もあります。
一部の農林水産業を営んでいる個人経営事業は、常に雇用している人員が5人未満の場合に「暫定任意適用事業」となり、任意加入となります。

ただし、従業員の2分の1以上が希望する場合は、労働局に雇用保険加入の申請を行わなければいけません。
多くの場合は加入しなければいけない事業に分類されます。そのため、必ず手続きを行ってください。
会社側が義務違反を犯した場合、懲役6カ月以下もしくは30万円以下の罰金が科せられるので注意が必要です。

労働者側の加入条件

雇用保険の適用事業所に雇用されている人は、本人の意思に関わらず、雇用保険に加入することになっています。
しかし、1週間あたりの労働時間数が少ない人、雇用期間が一定に満たない人、会社代表者や取締役など労働者に該当しない人は、対象になりません。

また、高校や大学に通っているアルバイトも適用となりませんが、定時性や夜間学部に通う大学生であれば加入可能です。
加入できる具体的な条件は、31日間以上引き続き雇用の見込みがあること、1週間の所定労働時間が20時間以上であることの2つです。

期間の定めがない場合などは、雇用保険に加入することになります。自分自身の契約内容などを踏まえ、雇用保険にきちんと加入している人もいます。

企業が負担する雇用保険料はいくら?計算方法は


雇用保険は、企業側と労働者側の双方が負担します。企業側は、いったいどのくらい負担するのでしょうか。

次は、雇用保険料率と負担割合や企業負担額の計算方法について解説していきます。

雇用保険料率と負担割合

雇用保険料率と負担割合は、2022年10月に変更となりました。変更前と変更後の違いは以下のとおりです。

2022年4月1日~2022年9月30日

負担者

事業の種類

1,労働者負担

(失業等給付・育児休業給付の保険料率のみ)

2,事業者負担 1+2

雇用保険料率

失業等給付・育児休業給付の保険料率 雇用保険二事業の保険料率
一般の事業 0.3% 0.65% 0.3% 0.65% 0.95%
(3年度) 0.3% 0.6% 0.3% 0.3% 0.9%
農林水産・清酒製造の事業 0.4% 0.75% 0.4% 0.35% 1.15%
(3年度) 0.4% 0.7% 0.4% 0.3% 1.1%
建設の事業 0.4% 0.85% 0.4% 0.45% 1.25%
(3年度) 0.4% 0.8% 0.4% 0.4% 1.2%

2022年4月1日~2022年9月30日の雇用保険料率と負担割合はこのようになっています。

2022年10月1日~2023年3月31日

負担者

事業の種類

1,労働者負担

(失業等給付・育児休業給付の保険料率のみ)

2,事業者負担 1+2

雇用保険料率

失業等給付・育児休業給付の保険料率 雇用保険二事業の保険料率
一般の事業 0.5% 0.85% 0.5% 0.35% 1.35%
農林水産・清酒製造の事業 0.6% 0.95% 0.6% 0.35% 1.55%
建設の事業 0.6% 1.05% 0.6% 0.45% 1.65%

2022年10月1日~2023年3月31日の雇用保険料率と負担割合はこのようになっています。2022年10月からこのように割合が変わっているため、注意が必要です。

通常であれば年度の途中で変わることはほとんどないので、2022年度は例外的な対応となっています。

企業負担額の計算方法

雇用保険の企業負担額は、「従業員に支払う賃金×雇用保険料率」という計算式で算出できます。ここでは、事例を交えて具体的な金額を計算してみます。

・月収が35万円で会社が負担する雇用保険料が0.65%
1カ月あたりの雇用保険料は、35万円×0.65%=2,275円となります。つまり1年間で支払う金額は、2,275円×12カ月=2万7,300円です。

・月収が35万円で会社が負担する雇用保険料が0.85%
1カ月あたりの雇用保険料は、35万円×0.85%=2,975円となります。つまり1年間で支払う金額は、2,975円×12カ月=3万5,700円です。

労働者側が負担する金額に関しても、保険料率を用いることで算出できます。
また企業側は、毎月従業員から徴収した分を合算し、1年に1回雇用保険料の申告と納付をしなければいけません。

雇用保険の手続方法


雇用保険の手続方法も確認しておきたいポイントです。入社時と退職時の手続きについて解説していきます。
電子申請が義務化されている企業があることについてもご紹介します。

労働者の入社時

労働者を雇い入れたら、雇用日または雇用保険の加入条件を満たした日が属している月の10日までに手続きを行う必要があります。
試用期間中や研修期間中も、適用事業所に雇われたら手続きをしなければいけません。
手続きは、事務所があるエリアを管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出するという方法です。

手続きを行うと、ハローワークから「雇用保険被保険者証」・「雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」が交付されます。
これは、雇用保険の加入手続きが終わったことを示す書類です。従業員に渡す書類となっています。
この2つの書類は、退職を考えた時や職業訓練を受けたいと思った時などに必要です。そのため、労働者は大切に保管しておいてください。

事業者が加入手続きを怠ると、様々な支援制度が利用できません。各種手当を受け取れなくなってしまいます。
労働者にとって不利益が生じるため、交付されない場合はハローワークで照会してもらうのがおすすめです。

労働者の退職時

労働者が退職する時、企業側は「雇用保険被保険者資格喪失届」・「雇用保険被保険者離職証明書」をハローワークに提出する必要があります。
そして、労働者は離職後に「雇用保険被保険者離職票」を受け取ります。

離職票は希望時に作成されるのが一般的ですが、59歳以上の労働者が退職する時は希望の有無にかかわらず交付する決まりになっているので注意してください。

「雇用保険被保険者離職票」は、基本手当などの給付を受けるための手続きで必要になります。
再就職先が決まっておらず、基本手当を受けられる失業期間がある場合は、離職票と必要な書類を持ってハローワークで手続きを行います。
給付が開始されるまでにいくつか手続きをしなければいけないため、早めにハローワークを活用してください。

離職票を紛失してしまった時は、ハローワークで再交付申請ができます。退職先に依頼するケースもありますが、本人がハローワークで申請したほうがスムーズです。

電子申請が義務化されている企業も

雇用保険の電子申請が義務化されているのは、資本金もしくは出資金の額が1億円を超える法人・相互会社・投資法人・特定目的会社です。
資本金が1億円以下の中小企業やベンチャー企業は、対象となっていません。
しかし、今後は電子申請化が推進されると考えられるので、導入できる体制を整えておく意義は大いにあります。
電子申請を行うことにより、申請にかかる時間や交通費などのコストを削減したり、書類の紛失リスクを防いだりできます。

また、手数料も電子納付できるという点もメリットです。
しかし、電子申請を導入するためにコストがかかってしまうこと、手続きが終わるまでの期間が長くなってしまうことなどはデメリットとされています。
電子申請に慣れていないと余計に時間がかかってしまう可能性があることもデメリットのひとつです。

将来的に電子申請が主流になる可能性もあります。そうなった場合に備え、メリットとデメリットの両方を理解しておきましょう。

まとめ

雇用保険の引き上げにともない、企業側と労働者側の負担額が変わりました。
負担額が増えたとしても、失業手当などを受ける際に必要な保険なので、解約や新たに入社した人を加入させないなどの対策を取ることはできません。
雇用保険について正しく理解するためには、専門的な知識も必要です。

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(編集:創業手帳編集部)

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