通勤手当の非課税限度額が引上げ!事業主・給与担当者が知っておくべき実務を解説
自動車通勤をしている従業員・事業主は対応必須

通勤手当には「非課税限度額」という仕組みがあり、一定額までは所得税がかかりません。2025年11月、マイカーや自転車で通勤する方を対象に、この非課税限度額が11年ぶりに引き上げられました。
改正は2025年4月にさかのぼって適用されます。本記事では、通勤手当の税金の基本から2025年改正の内容、通勤方法別の考え方、企業が押さえるべき実務ポイントまでわかりやすく解説します。
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この記事の目次
通勤手当の非課税限度額【2025年改正対応】

通勤手当には「非課税限度額」という仕組みがあり、一定額までは所得税がかかりません。2025年11月、この非課税限度額が11年ぶりに引き上げられました。
なぜ非課税限度額が引き上げられたのか
非課税限度額とは、従業員に支給する通勤手当のうち「税金がかからない上限金額」です。この範囲内であれば所得税の計算対象から除外されるため、従業員の手取りを減らさずに通勤費用を支給できます。
今回の改正は、マイカーや自転車などの交通用具を使って通勤する方が対象となっています。電車やバスなど公共交通機関のみを利用する方の非課税限度額(月額15万円まで)に、変更はありません。
今回の改正が実施された主な理由は、ガソリン価格の高騰と物価上昇への対応です。また、2025年8月に行われた人事院勧告で、国家公務員の通勤手当引き上げが勧告されたことも大きなきっかけとなりました。民間企業の税制も、これに準じて見直す必要があったのです。
どのくらい引き上げられたのか(改正前・後比較)
今回の改正では、片道10km以上の通勤距離区分で非課税限度額が引き上げられました。とくに長距離通勤者ほど恩恵が大きく、片道55km以上では月額7,100円の増額となっています。
| 片道の通勤距離 | 改正後(2025年4月1日〜) | 改正前 | 増額分 |
| 55km以上 | 38,700円 | 31,600円 | +7,100円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 | 28,000円 | +4,300円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 | 24,400円 | +1,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 | 18,700円 | +1,000円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 | 12,900円 | +600円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 | 7,100円 | +200円 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 | 4,200円 | 変更なし |
| 2km未満 | 全額課税 | 全額課税 | 変更なし |
この改正は令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用されます。なお、4月1日以前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものは対象外となるため、給与規程上の「支給対象期間」と「支給日」を踏まえて判定が必要です。
具体的には、改正前の非課税限度額を超えて課税処理していた通勤手当がある場合、本来は非課税だった部分を年末調整で精算することになります。
なお、令和8年税制改正大綱では、通勤距離が片道65Kmの非課税限度枠がさらに拡大される見込みです。片道95Km以上の場合、最大で非課税限度額が66,400円になる予定です。
非課税限度額を超えた場合の税金の扱い

通勤手当が非課税限度額を超えた場合、超過分は「給与所得」として扱われ、所得税の課税対象になります。つまり、限度額を超えて支給された部分には税金がかかるのです。
たとえば、片道20kmをマイカーで通勤する従業員に月額15,000円の通勤手当を支給しているケースを考えてみましょう。この距離区分の非課税限度額は13,500円(改正後)ですから、差額の1,500円が毎月の給与に上乗せされ、所得税・住民税の計算対象となります。
| 対象者 | 内容 |
| 従業員側への影響 | ・所得税・住民税の負担が増える ・年収が増えるため、扶養判定や配偶者控除の適用に影響する可能性がある ・社会保険料の算定基礎に含まれる(通勤手当は非課税・課税にかかわらず報酬に算入) |
| 企業側への影響 | ・源泉徴収の対象となるため、給与計算時に課税・非課税の区分が必要 ・年末調整で正確に処理しないと、過不足が生じる |
ここで注意したいのは、「非課税限度額=会社が支給すべき金額」ではないという点です。非課税限度額はあくまで税務上の基準であり、会社が通勤手当をいくら支給するかは就業規則や賃金規程で自由に定められます。
また、通勤手当は所得税法上では一定額まで非課税となりますが、社会保険料の計算においては全額が「報酬」に含まれる点も押さえておきましょう。
ケース別|通勤手当の税金の考え方

通勤手当の税金の扱いは、通勤方法や勤務形態によって異なります。ここでは、実務でよくあるケースごとに非課税限度額の考え方と注意点を解説していきましょう。
電車・バスで通勤する場合
電車やバスなど公共交通機関で通勤する場合、合理的な経路・方法で算出された運賃相当額が月額15万円まで非課税となります。この上限額は今回の改正でも変更されていません。
非課税の対象となるのは、定期券代や実費相当額です。ただし、「合理的な経路」であることが条件となるため、著しく遠回りのルートや、グリーン車・特急料金などは原則として非課税の対象外となります。
マイカー・自転車通勤の場合
マイカーや自転車で通勤する場合、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。今回の改正で引き上げられたのは、まさにこの区分です。
重要なのは、実際に支払ったガソリン代や駐車場代がそのまま非課税になるわけではないという点です。あくまで「片道の通勤距離」が基準となり、距離区分ごとに決められた金額までが非課税の対象です。
たとえば、片道30kmをマイカー通勤する従業員の場合で考えてみましょう。
- 該当する距離区分:25km以上35km未満
- 非課税限度額(改正後):19,700円/月
- 会社の支給額が月額22,000円の場合 → 差額2,300円が課税対象
片道の通勤距離は、自宅から勤務地までの「最短距離」ではなく「合理的な経路による距離」で判断します。通勤届などで申告された経路をもとに算出するのが一般的です。
なお、自転車通勤についてもマイカーと同じ距離区分表が適用されます。電動アシスト自転車やバイクも同様の扱いとなります。
在宅勤務・テレワークを併用している場合
在宅勤務やテレワークを併用している場合でも、実際に出社する日がありその通勤に対して手当を支給しているのであれば、通常の通勤手当として非課税限度額が適用されます。
判断のポイントは「出社の実態があるかどうか」です。週に数日出社するハイブリッド勤務であっても、出社日の通勤費用として支給する手当は非課税の対象となりえます。一方、注意が必要なのは「在宅勤務手当」との違いです。
| 手当の種類 | 支給目的 | 税務上の扱い |
| 通勤手当 | 出社のための交通費 | 非課税限度額の範囲内で非課税 |
| 在宅勤務手当 | 自宅での業務環境整備(光熱費・通信費など) | 原則として課税対象 |
在宅勤務手当は通勤を前提としない手当であるため、原則として給与所得に含まれ課税対象となります。ただし、業務に使用した部分を合理的に計算し、実費精算する方法であれば非課税として扱える場合もあります。
テレワーク導入企業では、定期代の支給をやめて出社日ごとの実費精算に切り替えるケースも増えています。この場合も、1か月あたりの合計額が非課税限度額の範囲内かどうかで判断してください。
パート・アルバイトの場合
パートやアルバイトであっても、通勤手当の税務上の扱いは正社員と同じです。雇用形態による違いはなく、非課税限度額も同一の基準が適用されます。非課税限度額の範囲内であれば所得税はかかりませんが、限度額を超えると超過分は課税対象となり、年収に算入されます。
配偶者控除や扶養控除の判定に使われる「合計所得金額」には、非課税の通勤手当は含まれません。しかし、限度額を超えた課税分は給与所得としてカウントされるため、年収ラインに影響する可能性があります。
年収の壁を超えないように就業調整している従業員がいる場合、課税対象となる通勤手当を含めて年収を計算する点に注意が必要です。扶養の範囲内で働きたい従業員には、通勤手当の課税・非課税の内訳をあらかじめ説明しておくとよいでしょう。
途中で通勤経路・距離が変わった場合
引越しや勤務地の異動などで通勤経路や距離が変わった場合は、通勤手当の金額と非課税限度額を再確認する必要があります。変更届を出さずに従前の金額を支給し続けると、超過分が課税対象となる可能性があるからです。
過大支給が発覚した場合、本来課税すべきだった金額について源泉徴収漏れとして追徴される可能性があります。
企業としては、定期的に通勤届の内容を確認する仕組みを設けることが重要です。年1回の届出更新を義務付ける、引越し届と連動させるなど、管理体制を整えておくことでリスクを軽減できます。
複数の勤務地・拠点に通勤する場合
複数拠点に定期的に通勤する場合でも、各拠点への通勤に要する合理的な通勤費を月額で合算し、その合計が上限(原則15万円)以内であれば非課税として取り扱える場合があります。通勤日数・経路・支給方法(定期/実費/定額)を整理し、通勤費と旅費(出張等)を区分して処理しましょう。
ただし、実態ベースでの判断が求められる点には注意が必要です。形式上の所属と実際の勤務地が異なる場合は、実態に即して判定しなければなりません。
また、出張や外出先への直行直帰にかかる交通費は、通勤手当ではなく「旅費」として扱うのが原則です。旅費交通費として実費精算する場合は、通勤手当の非課税限度額とは別枠で処理します。
| 交通費の種類 | 税務上の扱い | 処理方法 |
| 通勤手当 | 非課税限度額あり | 給与として支給 |
| 出張旅費・外出交通費 | 実費相当額が非課税 | 経費精算として処理 |
複数拠点への通勤が常態化している場合は、就業規則や賃金規程で支給ルールを明確にしておきましょう。
企業が対応すべき実務ポイント

2025年の非課税限度額改正に対応するため、企業は複数の実務対応が必要となります。とくに今回の改正は4月にさかのぼって適用されるため、年末調整での精算処理が発生する点に注意が必要です。
ここでは、人事・経理担当者が押さえておくべき3つのポイントを解説します。
給与規程の見直し
まず確認すべきは、自社の給与規程(賃金規程)における通勤手当の定め方です。規程の内容によって、改正への対応方法が変わってきます。
パターン①:「非課税限度額を上限とする」と定めている場合
通勤手当の支給上限を「所得税法の非課税限度額」と連動させている企業は少なくありません。この場合、法改正に伴い支給上限額も自動的に引き上がると解釈できるかどうかがポイントとなります。
規程の文言が曖昧な場合は、トラブル防止のために規程を改定し、改正後の限度額を明記しておくことをおすすめします。
パターン②:具体的な金額を定めている場合
「片道15km以上25km未満の場合は12,900円」のように具体的な金額を規程に記載している場合は、改正後の金額に合わせて規程の改定が必要です。
パターン③:実費支給としている場合
ガソリン代の実費や定期代の実額を支給している場合は、規程自体の変更は不要なケースが多いでしょう。ただし、非課税限度額を超える支給がある場合の課税処理については再確認が必要です。
給与計算・年末調整対応
今回の改正で最も実務負担が大きいのが、年末調整での精算処理です。2025年4月以降に支給した通勤手当のうち、旧限度額を超えて課税処理していた部分を再計算しなければなりません。
片道30km(25km以上35km未満の区分)をマイカー通勤する従業員に、月額19,000円の通勤手当を支給していたケースで考えてみましょう。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
| 非課税限度額 | 18,700円 | 19,700円 |
| 支給額 | 19,000円 | 19,000円 |
| 課税対象額 | 300円 | 0円 |
この場合、4月〜11月の8か月間で毎月300円が課税されていたため、合計2,400円が「新たに非課税となる金額」として精算対象となります。
この場合、以下の手順で処理を行います。
- 源泉徴収簿の余白に「非課税となる通勤手当」と表示し、計算根拠と新たに非課税となった金額を記入
- 「年末調整」欄の「給料・手当等①」には、総支給金額から新たに非課税となった金額を差し引いた後の金額を記入
- 差引後の給与総額をもとに年末調整を実施
給与計算システムを利用している場合は、システムの対応状況をベンダーに確認してください。手動での調整が必要となるケースもあるため、早めの確認をおすすめします。
社員への説明
今回の改正は従業員にとってメリットのある内容ですが、適切に説明しておかないと混乱を招く恐れがあります。自動車通勤をしている従業員がいる場合、説明をしておくとよいでしょう。
とくに中途退職者については注意が必要です。すでに源泉徴収票を交付している場合は、改正後の非課税限度額を反映した源泉徴収票を再発行し、「摘要」欄に「再交付」と記載して再度交付しなければなりません。
よくある誤解と注意点
通勤手当の非課税制度については、誤解されやすいポイントがいくつかあります。ここでは、実務でよく聞かれる疑問や勘違いしやすい点を3つ取り上げて解説しましょう。
誤解①:ガソリン代の実費がそのまま非課税になる
マイカー通勤の非課税限度額は、実際に支払ったガソリン代ではなく「片道の通勤距離」によって決まります。たとえば、燃費の悪い車に乗っていてガソリン代が月3万円かかったとしても、片道20kmの通勤であれば非課税限度額は13,500円です。差額の16,500円を会社が支給すれば、その分は課税対象となります。
つまり、非課税限度額は「通勤にかかる費用の目安」として距離に応じて定められた金額であり、実費精算の概念とは異なるのです。
誤解②:非課税だから社会保険料にも影響しない
「通勤手当は非課税だから、社会保険料の計算にも含まれない」と考えている方も少なくありません。しかし、これも誤解です。
所得税法上の非課税と、社会保険料の算定基礎は別の制度として運用されています。健康保険法や厚生年金保険法では、通勤手当は「報酬」に含まれると明確に定められているのです。
| 項目 | 通勤手当の扱い |
| 所得税 | 非課税限度額の範囲内は非課税 |
| 住民税 | 所得税と同様の扱い |
| 健康保険・厚生年金 | 全額が報酬に算入される |
| 雇用保険 | 全額が賃金に算入される |
したがって、通勤手当を増額すると、たとえ非課税の範囲内であっても社会保険料は上がる可能性があります。
誤解③:電車通勤者も今回の改正で非課税枠が増える
「2025年の改正で通勤手当の非課税限度額が上がった」というニュースを見て、電車やバスで通勤している方も非課税枠が増えたと勘違いするケースがあります。
今回の改正で引き上げられたのは、マイカーや自転車などの「交通用具」を使用して通勤する方の非課税限度額のみです。公共交通機関を利用する方の非課税限度額(1か月あたりの合理的な運賃等の額、最高15万円)には変更がありません。
| 通勤方法 | 2025年改正の影響 |
| 電車・バスのみ | 変更なし(月額15万円まで非課税) |
| マイカー・自転車のみ | 片道10km以上の区分で引き上げ |
| 公共交通機関+マイカー併用 | マイカー部分の限度額が引き上げ |
電車とマイカーを併用している場合(たとえば自宅から最寄り駅までマイカー、そこから電車で通勤)は、公共交通機関の運賃とマイカー分の非課税限度額を合算し、最高15万円までが非課税となります。この場合、マイカー部分については改正後の限度額が適用されます。
まとめ
通勤手当の税金を正しく処理するには、非課税限度額の仕組みを理解することが欠かせません。限度額の範囲内であれば所得税はかかりませんが、超過分は給与として課税対象になります。
2025年11月の改正では、マイカー・自転車通勤者の非課税限度額が11年ぶりに引き上げられました。片道10km以上の通勤者が対象で、最大7,100円の増額となっています。この改正は2025年4月にさかのぼって適用されるため、年末調整での精算処理が必要となるケースがある点に注意してください。
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(編集:創業手帳編集部)






