中小企業の賞与の決め方とは?賞与の種類や支給する際の注意点などを解説
中小企業で賞与を出すなら支給額の決め方を把握しておこう
賞与は従業員の給与の安定化につながり、モチベーションを高めてくれるメリットがあります。
そのため、中小企業から大企業まで多くの企業で賞与を出す傾向があります。
自社でも賞与を出したいと考えているのであれば、支給額の決め方を理解しておくことが大切です。
賞与には種類があり、どのタイプを選ぶかによって支給額の計算方法は変わってきます。
そこで今回は、中小企業の賞与の決め方や注意点などを解説します。賞与の決め方を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
賞与には3つの種類がある
賞与には、基本給連動型・決算賞与型・業績連動型の3種類に分けることが可能です。
どのタイプで支給するかは、中小企業が決めることになります。まずは各タイプの特徴をご紹介します。
基本給連動型
各種手当を差し引いた基本給をベースに支給額を計算するシンプルな賞与制度です。
基本給がベースであれば業績の影響を受けないため、従業員にとって収入の見通しがつきやすいことがメリットです。
計算方法も単純であるため、企業にとっても計算業務の負担が軽いというメリットがあります。
また、賞与の支給額について従業員にも納得のいく説明ができます。
ただし、ベテラン社員と比べて若手社員は基本給が少ないケースが多いので、その分賞与にも差が生じ、不公平感を与えてしまうかもしれません。
さらに、業績が悪化していても支給額の減額が難しい点に注意が必要です。
決算賞与型
企業の決算状況によって支給額が決まる賞与制度です。
決算前後に支給が確定し、企業全体の業績に基づいて支給されるのが特徴で、特別賞与や臨時賞与、年度末手当とも呼ばれています。
決算賞与の場合、損金算入が可能なため、法人税を節税できます。法人税は企業の所得に応じて課せられるため、企業の業績が良いほど法人税が高いです。
そこで、利益の一部を決算賞与として支給すれば、その分は法人税の対象から外れるので節税につながります。
また、企業全体の業績と連動しているので、毎年業績が良ければ賞与が支給されます。
次年度も業績を上げようとするモチベーションが高まりやすいので、組織全体で士気が高まることもメリットです。
ただし、会社の資金を減少させてしまうので、経営が傾かないように、しっかり資金計画を立てて支給することが求められます。
業績連動型
個人または部門の業績に基づいて支給額が計算される賞与制度です。業績を上げた分が還元される特徴があります。
業績連動型を導入するメリットは、業績に見合った金額で支給する仕組みから賞与の払い過ぎを防げることです。
また、従業員の不公平感を緩和できる賞与制度となっています。
基本給をベースにする場合、基本給が多い人と少ない人では賞与に差がつくので、従業員は不満を抱きやすいです。
しかし、自分や部門の業績が反映された賞与であれば納得感があり、また収入のために積極的に活躍する従業員が増えると考えられます。
ただし、業績が悪化すれば賞与が減り、賞与を得られない従業員が出ればエンゲージメントやモチベーションが下がってしまうでしょう。
さらに、チーム目標よりも個人目標を優先する従業員が出てきてしまうリスクもあります。
中小企業では業績連動型賞与を出すことが多い
中小企業では、業績連動型で賞与を出しているケースが多いです。
業績連動型が選ばれている理由は、過度な賞与の支給によって財政を圧迫するリスクを回避できるからです。
数十人規模の中小企業の場合、大手企業や大企業と比べて財政基盤が弱い傾向にあります。
基本給や企業全体の業績をベースに賞与を出す場合、かなりの金額を社員に還元しなければならないでしょう。
業績が悪化している状況でも相当な金額を支払わなければならず、経営が立ち行かなくなる恐れがあります。
その点、業績連動型であれば個人や部門で上がった業績の範囲で支給額を計算していくので、無理なく賞与を支払うことが可能です。
数人程度の企業であれば、従業員と面談して金額を決める方法や均等な金額で賞与を支給する固定額方式にしているケースもあります。
そのような支給方法も検討して、無理なく支給できる賞与制度を策定してください。
【種類別】中小企業の賞与支給額の決め方
賞与の種類によって、支給額の決め方は異なります。各種類の賞与支給額の決め方は以下のとおりです。
基本給連動型賞与の場合
基本給連動型の場合、基本的に以下の計算式で支給額を計算します。
個人の賞与支給額=基本給×支給月数
全社員、同じ支給月数で賞与支給額を計算します。個人の評価を加味していないので、評価制度が未整備の中小企業におすすめです。
評価制度が整備されている場合、「基本給×評価係数」という計算式で個人の評価を考慮して支給額を決めることもできます。
評価係数は一般的に以下の評価ランクで設定されることが多いです。
評価ランク | S | A | B | C | D |
---|---|---|---|---|---|
係数 | 1.4 | 1.2 | 1 | 0.8 | 0.6 |
決算賞与型の場合
決算賞与型の場合、利益額・事業資金・従業員数に考慮して企業側で支給するかどうかを判断します。
支給する際は、決算日の翌日から1カ月以内に支払わないと賞与を損金にできないので注意してください。
賞与支給額の決め方に特別な決まりはなく、企業ごとに異なります。
業績連動型と同じ計算方法で決めるケースもあれば、社会保険料や税金などの支払いを考慮して余った利益を一律で分配するケースもあります。
中小企業の経営状況や経営陣の考え方によって、自社に適した支給額を設定しましょう。
業績連動型の場合
業績連動型の場合、賞与原資の総額を決め、そこから個人の基準額が決まり、個人の賞与支給額を求めていきます。
個人の賞与支給額の計算方法は多岐にわたり、よく使われる計算式は以下のとおりです。
個人の賞与支給額=個人の基準額×平均支給月給数×評価係数
実際の計算方法は企業ごとに異なります。
例えば、「固定額+個人の業績賞与(賞与原資×個人の評価ポイント÷総評価ポイント数)」というように、賞与として支払う固定額を決めて、そこに個人の業績を上乗せする形で計算することがあります。
また、固定額を決めず、一定基準の業績を出せない場合は支給しないと定めることも可能です。
中小企業の賞与原資の決め方
中小企業でよく採用される業績連動型で賞与を支給する場合、支給額を求める際に賞与原資を決める必要があります。
賞与原資は賞与を支給するための資金であり、一般的には営業利益(経常利益)か付加価値(粗利益)から決定されることになります。
営業利益(経常利益)から決める
営業利益をベースにした賞与原資の決め方は以下のとおりです。
賞与資源=営業利益×企業が定める一定割合
営業利益をベースにする場合、利益の何割を賞与原資にするか決めなければなりません。
例えば、利益の3割を賞与原資と定めた場合、その分を従業員の賞与にして、残りは税金の支払いや企業の自己資金に割り当てることになります。
営業利益からの決め方は、企業側にすれば経営に影響を与えない範囲で賞与原資を確保できることがメリットです。
しかし、従業員の頑張りが反映されず、支給額に対して納得感を与えない可能性があります。
また、企業体力の低い中小企業は、営業利益から考えると賞与原資が過小になってしまう傾向にあるのもデメリットです。
そのため、基本的には高収益を見込める中小企業の賞与原資の決め方と言えます。
付加価値(粗利益)から決める
付加価値をベースにした賞与原資の決め方は以下のとおりです。
賞与原資=付加価値×労働分配率-(月例賃金×12+法定福利費)
この方法では、付加価値に対して労働分配率を乗じて人件費の総額を求め、そこから毎月の賃金を控除して賞与原資を求めます。
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち、どれくらいの従業員に支払われているのか示す割合のことです。
「人件費÷付加価値×100」で算出できます。中小企業の場合、一般的に33%以内だと優秀だとされていますが、業種業態や企業ごとに差があります。
なお、賞与原資の計算では、労働分配率に役員報酬分を含める必要はありません。
中小企業の賞与の平均額は?
中小企業の賞与支給額を決めるにあたって、他の企業ではどのくらいの金額で支給されているのか相場観を知っておくことも大切です。
厚生労働省による「毎月勤労統計調査(2024年2月分)」によると、2023年の年末賞与(事業所規模5人以上)の平均額は一人あたり395,647円でした。
賞与の平均額は事業所の規模によっても異なります。2023年2月分の勤労統計調査によれば、2022年の年末賞与の平均額は以下のようになっています。
事業規模 | 1人あたりの賞与平均額 |
---|---|
2~29人 | 274,651円 |
30~99人 | 354,645円 |
100~499人 | 452,892円 |
500人以上 | 642,349円 |
これらのデータから、中小企業が1度のボーナスで一人に支給する平均額は27~42万円前後と言えます。
中小企業における賞与の決め方の注意点
従業員のモチベーションにかかわる賞与を決める際に、いくつか注意したいことがあります。その注意点は以下のとおりです。
賞与の要件を就業規則に明記しておく
賞与を支給すると決めたら、その要件を就業規則に記載してください。賞与要件を就業規則に記載することは、労働基準法89条でも定められています。
定期的に賞与を支給する場合、最低でも以下の内容を就業規則に明記してください。
-
- 支給の目的と要件
- 支給対象
- 支給回数・金額
支給の要件では、賞与を支給する旨だけではなく、業績低下などやむを得ない事由が発生した際に支給の延長や不支給にする旨も正確に記載してください。
記載なく減額や不支給を行うと従業員とトラブルに発展してしまいます。
また、支給対象に関しては支給対象期間を設け、その期間中に在籍かつ賞与支給日に在籍している従業員を対象にするのが良いでしょう。
支給対象の範囲を決めておくことで、支給対象期間に働いていない人や賞与支給日に退職している人に賞与を支払う必要がなくなります。
支給される回数・タイミング、支給金額の算定方法も忘れず記入してください。
賞与支払届の提出や賞与明細書の発行を行う
従業員に賞与を支払う場合、管轄の年金事務所や健康保険組合に賞与支払届を提出してください。
年金事務所や健康保険組合に登録されている賞与支払予定月の前月に賞与支払届が送付されるため、必要事項を記載して提出します。
全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合、年金事務所に提出すれば問題ないですが、それ以外は加入している健康保険協会にも提出してください。
窓口と郵送以外に電子申請で提出することも可能です。なお、賞与を不支給とする際は、賞与不支給報告書を提出しましょう。
また、賞与を支払ったら従業員に賞与明細を発行します。賞与明細には、支払額と賞与に対する所得税や社会保険料の控除額が記載されています。
賞与明細は賞与支給日に発行されるのが一般的です。
透明性を確保して算定結果に納得感を持たせる
賞与支給額を決める際は、透明性を意識するようにしてください。どのように支給額を算出したのか不透明だと、従業員の多くは算定結果に納得感を得られません。
不公平感や不信感を与えてしまえば、従業員のモチベーションの低下につながり、離職のリスクも高まる可能性があります。
そのため、どのように賞与を算定しているのか明確にして、社内で周知させることが大切です。
また、日頃から自分自身の業績や貢献度を把握できる状態にしておくと、賞与の算定結果に納得感を持たせられます。
業績不振などの際は無理に支給しない
賞与はなるべく毎年度支給したいところですが、業績不振などで財政が厳しい時は無理せず支給しないようにしましょう。
就業規則で業績不振などやむを得ない事由が発生した際は不支給となる旨が記載されていれば、不支給にすることは問題ありません。
また、業績や従業員の勤怠状況など考慮して、必要に応じて賞与額を調整してください。ただし、頻繁に支給額を変更すると従業員に不信感を与えてしまうので注意が必要です。
変更する際は、トラブルを防ぐためにも従業員の理由を説明して納得してもらうことも大切です。
賞与から差し引かれる社会保険料・税金を理解しておく
賞与は満額ではなく、通常の給与と同じく社会保険料や税金が差し引かれて支給されます。差し引かれる社会保険料と税金は以下のとおりです。
差し引かれる社会保険料・税金 | 計算方法 |
---|---|
健康保険料 | 標準賞与額×健康保険率(加入する保険組合によって変動) |
厚生年金保険料 | 標準賞与額×厚生年金保険料率(一律18.3%) |
雇用保険料 | 賞与総支給額×雇用保険料率(毎年度変動) |
所得税 | (賞与-社会保険料)×所得税率(前年の給与額・扶養人数によって変動) |
賞与の場合、差し引かれる税金に住民税は含まれません。差し引かれる社会保険料・税金を理解し、正しく処理しましょう。
まとめ・中小企業の賞与の種類や決め方を知って適切に支給しよう
賞与の支給は必須ではありませんが、支給することで社員のモチベーションやエンゲージメントを高めることが可能です。
メリットは大きいので、無理のない範囲で支給できるように賞与制度を整備していきましょう。
賞与には基本給連動型・決算賞与型・業績連動型に分けられるので、自社の規模や中長期的な業績の見込み、経営陣の考え方に考慮して自社に適したタイプを選択してください。
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(編集:創業手帳編集部)