企業のカーボンニュートラルに向けた取り組みとは?実施するメリットや事例を紹介
カーボンニュートラルは環境保護だけでなく、ビジネスチャンスにもつながる
カーボンニュートラルの実現は世界で加速していますが、企業が一体となって取り組まなければ実現が難しくなってしまいます。
しかし、取り組むとしても「何から始めればいいのか」と疑問を持つ人もいるでしょう。
カーボンニュートラルの取り組みは、ビジネスチャンスにもつながるので積極的に進める必要があります。
そこで今回は、カーボンニュートラルの概要について紹介すると共に、日本国内での取り組みや取り組むメリットなどを解説していきます。
企業が実際に取り組んでいる事例も紹介していくので、カーボンニュートラルへの取り組みを検討している企業担当者はぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
カーボンニュートラルとは?
温室効果ガスの排出量から植物による吸収量を差し引いて全体の排出量をゼロにすることをカーボンニュートラルといいます。
人間の生活が豊かになった一方で、たくさんの温室効果ガスが排出されています。
温室効果ガスの排出が増加していけば、平均気温が上昇するだけではなく、気候変動による自然災害のリスクが高まるといった問題点も懸念されるでしょう。
そのため、世界的に温室効果ガス減少への取り組みが必要とされています。
しかし、温室効果ガスは日常生活でも排出されているためゼロにすることは難しいです。
そのため、森林保全活動や植林活動に取り組むなどして吸収量を増やすことで排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルを目標にしています。
世界各国の動向
1992年の国連環境開発会議で採択された「国連気候変動枠組条約」から温室効果ガスの安定や気候変動への悪影響を防ぐ目的で、毎年締約国会議が開催されています。
2015年に採択されたパリ協定では、「世界的に起きている平均気温の上昇を産業革命以前と比較をして2度より十分に低く抑えて1.5度未満に抑える努力を継続すること」を長期目標として掲げています。
そして日本を含めた多くの国で「2050年カーボンニュートラル実現」を目標に政府や企業が協力をして取り組みを進めており、例としては、以下のような政策や取り組みです。
- 【EU】
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- 建物のエネルギー効率化
- 建物の省エネ改修投資促進
- 天然ガスから水素やバイオガスへと移行するルール改正 など
- 【アメリカ】
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- 航空分野で持続可能な燃料へと変更
- 電化が難しい産業を水素化
- 電力分野の脱炭素化 など
- 【イギリス】
-
- 水素発電の促進
- 低炭素燃料への移行
- 二酸化炭素回収や固定技術の開発 など
日本国内での取り組み
日本では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」が出され、脱炭素社会の実現を目指すことが表明されていました。
2020年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、政策目標や実行計画を具体的に定めています。
そして2021年4月には「2030年度までに温室効果ガスの排出量を46%削減(2013年度比)し、さらに50%削減に向けて挑戦し続ける」ことを宣言しています。
企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット
ここからは、企業がカーボンニュートラルに取り組むことで、どういったメリットを得られるのかを解説していきます。
コストを削減できる
1つ目のメリットは、コストを削減できる点です。
脱炭素社会を実現するためには、現在使用しているエネルギーを見直して、より効率の高いエネルギーの消費サイクルに変えることが最も基本といえる取り組みです。
太陽光発電や蓄電池といった省エネ化を進めれば、温室効果ガスの排出量削減に貢献できます。
その結果、企業はエネルギーの消費を抑えられるのでコスト削減へとつながるでしょう。
企業のイメージアップにつながる
2つ目のメリットは、企業のイメージアップにつながる点です。
環境に優しい取り組みを行っている企業に対しては、消費者やユーザーは企業に対して以下のようなイメージを持つでしょう。
-
- 先進的な取り組みをしている企業
- 環境問題を意識している魅力的な企業
- 商品を購入すれば問題解決に役立てる
環境に優しい商品を取り扱っている企業は、人々に対して良い印象を与えることができます。
その結果、信頼や認知度のアップ、人材の獲得など、企業は様々なメリットを享受できると予想できます。
投資対象になる
3つ目のメリットは、投資対象になる点です。
環境・社会・企業統治を重視したESG投資が投資家や金融では一般的になっています。
ESG投資は、上記3つに配慮した経営をしている企業に投資することを意味し、カーボンニュートラルに取り組んでいる企業であれば、他企業との差別化を図ることができるはずです。
競争力を強化できる
競争がある市場環境の中でも、サービスや製品を十分に販売し、供給する能力のことを競争力といいます。
カーボンニュートラルへの取り組みは、競争力強化にもつながるでしょう。
現代では、深刻化している地球環境問題の観点から、カーボンニュートラルを意識した商品やサービスが高評価を受けています。
例えば、食品容器を製造している企業であれば、エコで地球に優しい商品の開発に成功すれば、利益拡大が期待できます。
新たなビジネスチャンス獲得につながるので、カーボンニュートラルは積極的に取り組むことが重要です。
企業がカーボンニュートラルに向けてできること
カーボンニュートラルの実現に向けて、企業ができることを解説していきます。
省エネルギーへの推進
1つ目が省エネルギーへの促進です。方法としては以下のような取り組みが考えられます。
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- 蛍光灯からLED照明に交換する
- 流量調整方法としてインバーターを設置する
- 排熱回収方法としてヒートポンプを設置する
企業が実施する省エネ対策を検討する際には、一部の自治体や省エネルギーセンターが行う省エネルギー診断の活用もおすすめです。
費用のかからない運用改善案や省エネ化のアドバイスなどを受けることが可能です。
補助金活用にもプラスに働くので、省エネの方向性を考えるためにも活用を検討してみてください。
再生可能エネルギーの活用・切り替え
2つ目が、再生可能エネルギーの活用や切り替えです。
再生可能エネルギーとは、太陽光や地熱、水力や風力などを活用して発電するエネルギーを指します。
化石燃焼による発電とは異なり、発電時に二酸化炭素が発生しないので二酸化炭素削減が期待できます。
また、再生可能エネルギーは枯渇せずに繰り返し利用できるため、燃料の節約にも貢献できる仕組みです。
温室効果ガスの削減に加えて、化石燃料以外でのエネルギー確保が進められるので、カーボンニュートラル実現に向けて、しっかりとアプローチできる方法です。
生産工程の自動化
3つ目は、生産工程の自動化です。
自動化ができれば、生産効率が向上するため、温室効果ガスの排出量削減へとつながります。
例えば、製造業であれば工場の機械設備を自動化すれば、業務が中断もしくは停止しているダウンタイムを最小化できるので、生産効率アップが期待できます。
食品の流通業においては、AIによって生産量を最適化することで、廃棄の削減ができ、且つ資源やエネルギーの無駄を省くことも可能です。
ネガティブエミッションの導入
4つ目は、ネガティブエミッションの導入です。
ネガティブエミッションとは、二酸化炭素を大気中から除去・削減する技術を指します。
具体的な方法としては、植林や再生林です。植物は成長するために光合成を行い、その過程で二酸化炭素を吸収します。
そのため、植林や再生林を導入すれば、大気中の二酸化炭素を減らすことにつながります。
そのほかには、土壌炭素貯留やバイオ炭、BECCSなどです。
カーボン・オフセットの導入
5つ目は、カーボン・オフセットの導入です。
カーボン・オフセットとは、カーボンニュートラルに向けて温室効果ガスを削減する努力をした上で削減できなかった分を排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること、環境保護へ寄付することで埋め合わせを行う考えを指します。
具体的な取り組みとしては以下の通りです。
-
- カーボン・オフセットを活用した商品の製造や作成で付加価値をつける
- 二酸化炭素を排出しないイベントや会議に参加する
- 非化石証書やJクレジットなどの購入
企業が取り組むカーボンニュートラルの事例5選
ここからは、実際に企業が実施しているカーボンニュートラルの実例を紹介していきます。
2050年度までに温室効果ガス排出量ゼロを目指す事例
オフィスビルや大型商業施設、住宅、ロジスティクスなど、総合的な街づくりを行っている三井不動産の取り組みを紹介します。
三井不動産は、グループ全体の温室効果ガス排出量を2030年までに2019年と比較して40%削減し、2050年度までにはゼロにすることを目標に掲げています。
具体的な取り組みは以下の通りです。
-
- 新築や既存物件の環境性能向上
- 物件共用部や自社利用部の電力グリーン化
- 入居企業や購入者に向けてグリーン化メニューの提案
- 再生可能エネルギーの安定的な確保
- 建築時の二酸化炭素排出量削減に向けた取り組みの実施
- 森林活用
- 外部認証取得
- オープンイノベーション
- 社内体制の整備
- 街づくりにおける取り組み
不動産業界においては、ZEHやZEBが主流となっているため、今後さらなる普及促進が期待できます。
工場環境・製品環境の両方からCO2排出量削減に取り組む事例
大手電機メーカーのPanasonicでもカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています。
主に、二酸化炭素排出量を削減する工場環境と、ソリューションの提供による二酸化炭素量削減に貢献する製品環境の2つです。
工場環境では、「2030年までに二酸化炭素排出量実質ゼロ」を目標に、徹底的な省エネと再エネ利活用を推進しています。
そのために、スマートEMSで空調を自動制御する機能を開発し、実際の製造現場で稼働させており、その結果、年間約30%越えの電力量削減を実現しています。
また、屋外休憩所に導入しているのが、シルキーファインミスト気化熱利用空調です。
ミストによって4℃近い冷却効果が得られる仕組みで、スポットクーラーと同じような快適な空間を約1/7のエネルギーで実現しています。
製品環境においては、再生可能エネルギーの利用拡大に向けて、ペロブスカイト太陽電池の開発に着手しています。
ペロブスカイト太陽電池は、軽くて曲げられる特徴を持つ太陽電池です。
設計の自由度が高く、これまで設置が難しかったスペースへの配置も可能となる仕組みです。
食品製造時のロスを活用した事例
動植物油脂製造や飼料製造などを実施するやまこ産業株式会社では、ポテトチップスやラーメン、揚げ煎餅などの食品製造時のロスを活用して再生油脂や飼料原料などを製造しています。
今後は、未利用資源を活用した独自のバイオマス発電用ペレットの製造方法で特許を出願し、安定的な原料の確保や製造技術、販売網確立を目指していくことを表明しています。
農工連携でCO2・余熱を資源化した事例
株式会社誠和は、施設園芸業界の先駆的総合メーカーとして農業用の様々なシステムの製造販売を実施しています。
「2050年に化石燃料に依存しない施設園芸への完全移行を達成する」ことを目標に、生産者をトータルサポートしています。
カーボンニュートラルに貢献する取り組みとしては、佐賀市と連携して清掃工場の排気ガスから二酸化炭素を分離・回収して施設園芸で利用するカーボンネガティブ技術を開発中です。
また、清掃工場からの予熱を資源化する仕組みづくりにも着手しています。
省エネ・再エネを意識した経営にシフトした事例
最後に、神奈川県川崎市にある日崎工業株式会社が取り組んでいるカーボンニュートラルの取り組み事例です。
日崎工業株式会社では、東日本大震災を契機に省エネ・再エネを意識した経営にシフトしました。
工場や事務所のLED化をはじめ、屋根遮熱塗装や新電力オンデマンド監視、太陽光パネルの設置、EV導入、蓄電池設置などによって、電力使用量や二酸化炭素排出量を削減しています。
電気自動車に関しては、2019年~2020年に導入し、二酸化炭素排出量を70%削減した実績を持っています。
そのほかにも、再エネ100宣言やGXリーグ、地元の脱炭素アクションに参加するなど、カーボンニュートラルの実現に向けて積極的に活動している会社です。
まとめ・カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは企業経営にもメリットがある!
温室効果ガスの排出量を減少させるためにも、世界中で様々な取り組みが行われています。日本でも、多くの企業で取り組みが実施されています。
コスト削減やイメージアップにつながるといったメリットも得られるため、自社に合った方法で積極的に取り組んでみてください。
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(編集:創業手帳編集部)