穴熊 西村成城|「声を出さずに電話できる」テキスト通話アプリで、200年の電話の歴史に変革を!
眠くなるビジネスをするな。Z世代を虜にするアプリ開発の裏側
「人類の可能性を解放する」というビジョンを掲げ、テキスト通話アプリ「Jiffcy(ジフシー)」を提供する株式会社穴熊。JiffcyはLINEを脅かすメッセージアプリと、Z世代に熱い支持を受けており、日経トレンディスタートアップ大賞も受賞している今注目のサービスです。
代表の西村さんは、大学在学時から独学でプログラミングを学び、数々の自社サービスを立ち上げてこられました。
今回はそんな西村さんに、会社の立ち上げの経緯、今後の展望についてお伺いしました。

株式会社穴熊 CEO
日本大学経済学部卒業。学生時代から様々な事業を展開し、株式会社穴熊を2018年に設立し、代表取締役に就任。テキスト通話アプリ「Jiffcy(ジフシー)」をリリース。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
祖父の影響で、誰もやっていないことに挑戦する起業家を目指した
大久保:まずは生い立ちから伺えますでしょうか。小さい頃から起業に興味を持たれていましたか?
西村:祖父が経営者で、今まで誰もやっていないことにチャレンジする人でした。その姿を小さい頃から見て育ち、中学生くらいから将来は会社を作りたいと思うようになったんです。
中学の授業で「13歳のハローワーク」からいろいろな職業について触れましたが、その頃には「起業家」という選択肢はまだなく、無理やり「冒険家」を選びました。
今思えば、冒険家も「誰にもやっていないことをやる」という意味では通ずるところがあり、私の価値観はこの頃に醸成されたのだと思います。
大学進学後は仲間を探し、いろんなサービスを作り始めました。初めに作った大学の授業の口コミサイトは、先生から大クレームがきて、サービスを辞めるか大学を辞めるかの二択を迫られるまでの大問題に発展したんです。
自分にとってはサイトよりも大学卒業の方が大事だったため、口コミサイトはクローズし、その後はWebサービスやアプリ開発も複数手がけるようになりました。
大久保:プログラミングスキルはどのように習得されたのですか?
西村:全て独学で学びました。スクールで学ぶこともできますが、高い学費を払ってゼロから学ぶより、自分で知りたいタイミングで調べる方が効率が良いと思ったんです。
作りたいものを少しでも早く形にしたかったので、体系的に学ぶより成果物から逆算して技術を身につける方が私には合っていました。
ネットには世界中のいろんな人が作ってくれた技術が転がっているので、それをうまく活用してどんどん形にしていくことの方が大切だと思います。
大久保:社長業をしながらプログラムまでできる方は日本では珍しいですよね。
西村:自分で作れるタイプの社長の強みは、自分のアイデアをすぐに形にできることです。結局のところ、口で説明するより実際に触ってもらったほうが早いんです。説明能力がどれだけ高かったとしても、自分でプロトタイプを作れるに越したことはないんですよね。
最近はもうプログラミングを学ばずともノーコードでサービスを作れる時代になりました。私自身、Jiffcyの原型となったサービスは、ノーコードのツールを活用して3日でプロトタイプ版を作り上げました。
起業家志望の方の多くは開発を外注されますが、最近はAIの発展もすさまじく、自分でも十分に作れます。まずは自分で手を動かしてみることをお勧めしますね。
安定よりも挑戦。自分のアイデアをどんどん形に
大久保:学生起業をされる方は、受託開発など安定したクライアントワークから始められる方が多いですが、自社サービスから始められたのはなぜですか?
西村:受託開発などにはあまり面白味を感じられず、やるなら自分でゼロから作りたかったんです。
普段生活していく中でも「もっとこうしたら良さそう」「こういったサービスはまだないな」など思いついたアイデアをどんどん形にしていきました。
2つ目にリリースした家政婦のマッチングサービスは、学生時代にやっていた家庭教師のアルバイトから着想を得ました。家庭教師のアルバイトは直接契約と仲介契約があり、私は仲介手数料が取られず時給の高い直接契約の方が「頑張ろう」と思えたんですよね。
家庭教師のマッチングサイトはすでにたくさんあったので、当時はまだなかった家政婦のマッチングサイトを開発。細かなサービスの依頼ができたり、追加のお願いが頼めたりと、大手の仲介サイトではカバーしづらいような小回りの良さが評価され、評判も上々でした。
ただ、大学卒業後から、自分でアイデアを出してサービスを作ることに限界を感じるようになったんです。
世界中の人が使うような大きなサービスを作るためには、もっと多くの資金や人材が必要だと感じ、スタートアップとしてやっていくことを決めました。
テキストより早く、電話より気軽に。新しいコミュニケーションツールが誕生
大久保:そこからどのような経緯でJiffcyをリリースされたのですか?
西村:いろんなサービスを作ってみるもなかなかうまくいかず、落ち込んでいるタイミングでコロナが流行しました。
仲良い友達と話がしたくてもなかなか会えない状況下で、コミュニケーションツールのアイデアが浮かんだんです。
LINEやメールは気軽に送れますが、相手の返信が遅いとなかなかコミュニケーションが進みませんし、電話はハードルが高いじゃないですか。
Jiffcyなら、通話感覚で気軽にコミュニケーションが行えます。通話のように相手を呼び出してリアルタイムでやり取りができる、これまでにはなかったコミュニケーションツールです。
大久保:リリース後、どのようにユーザーを獲得されましたか?
西村:まずは友達に使ってもらうところから始め、招待制でユーザーを増やしていきました。ユーザー数は公表していませんが、招待制をやめてからは一気に増え、アクティブユーザーは毎月1.5倍ほど増えている状態です。
TikTokなどSNSでの反響が大きく、現在のメインユーザーの多くは若者ですが、最近は30歳以上の方の継続率も上がってきました。
というのも、Jiffcyは通話とメッセージの中間的存在として新しいポジショニングを確立できています。
例えばLINEは「いつ返信してもいい」という柔軟性がある一方、緊急時や即時の反応が求められる場合には対応しづらいですが、Jiffcyはリアルタイムで相手が応答する前提のため、即時性を求めるコミュニケーションを円滑に進められます。
また、通話は声を出す必要があり、周囲の環境や心理的ハードルが高い場合に使いにくい一方、Jiffcyでは、声を使わずに情報のやり取りが可能なため、電車内や静かな場所などでも利用しやすいんです。
より便利で、相手にも迷惑をかけにくい点が幅広い年齢層から支持されていのではないか感じています。
大久保:西村様はこれまで様々なサービスを作られていると思いますが、伸びるサービスの特徴は何だと思いますか?
西村:あるシチュエーションの中で「合った方が良い」ではなく「なくてはならない」サービスは強いと思います。
Jiffcyの場合、ユーザーにとって電車の中で電話したいときにはJiffcy以外の選択肢はないんです。利用頻度が少なくても、必ず使うタイミングがあるサービスは自ずと伸びていくんですよね。
距離という変数に左右されないコミュニケーション社会を作りたい
大久保:今後の展望を教えてください。
西村:200年以上の歴史がある電話というツールの変革を、自分たちの手で行うことです。
声を出さずに電話する、というのはこれまでありそうでなかったコミュニケーションの手段です。
電話を使用する方のうち、声を聞きたくて利用している方は2割ほどで、残りの8割は、別に声を聞きたいがために電話しているのではなく、リアルタイムでやりとりがしたい、すぐに返事が欲しい、話し切ってしまいたい、という目的なんですよね。
その層にアプローチができれば、世界中の人たちに新たなコミュニケーションの手段を提案できると思うんです。
もちろん対面とリモートコミュニケーションが同一になることはありませんが、Jiffcyのようなリモートを対面に近づけるソリューションを提供し続け、距離という変数に左右されないコミュニケーション社会を作っていきたいですね。
大久保:最後に、起業家に向けたメッセージをお願いします。
西村:儲かる儲からないより、自分がやっていて眠くならないサービスを作って欲しいです。
私自身、過去に占い師の口コミサイトとサブスクプラットフォームを手掛けていたんですが、作業がとにかく眠かったんですよね。
眠くなると考えも仕事も進みませんし、たとえ儲かったとしてもそれに人生をかけたくないと思いました。
もちろん難易度が格段に上がりますし、失敗も数え切れないほどしてきました。ですが、人生は一度きり。人生において、時間以上に大切なものはありません。
時間を無駄なく使うためにも、必要のないことや面白くないことは削ぎ落とすことが重要です。
何にフォーカスを置きたいのか明確にしながら、そこに一直線に進んでいくことが成功への近道ではないでしょうか。
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(取材協力:
株式会社穴熊 CEO 西村 成城)
(編集: 創業手帳編集部)