トランプ再選が日本経済に与える影響は?為替・株価・物価など多方面から考察

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トランプ候補が再選なら貿易・外交・エネルギー政策の全てが大転換。ドル円をはじめ日本経済への影響は必至

2024年11月5日に決着するアメリカ大統領選挙は、7月になって潮目が変わるイベントが複数起こるという異例の展開を見せています。世界に衝撃を与えた前大統領 ドナルド・トランプ候補の銃撃事件。そこから2週間を待たずして今度は現大統領のバイデン氏が大統領選からの撤退を表明。公認候補となったカマラ・ハリス副大統領が支持率を高めてきています。

日本にとって最大の輸出相手国であり、唯一の同盟国であるアメリカの大統領選挙の行方が、日本経済に少なからず影響を与えることは間違いありません。とくに影響が大きいと考えられるのが、バイデン政権が進めた政策のほとんど大転換するであろうトランプ氏の再選。以下では、トランプ氏の再選が日本経済に与える影響について、同氏の過去の傾向や第二次政権で断行するであろう諸政策も踏まえて論じます。

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トランプ銃撃にバイデン撤退、波乱続きの米大統領選挙

体調不良があったともいわれている精彩を欠いた6月末のテレビ討論会などを受けて、バイデン現大統領は7月24日夜、米大統領選からの撤退を発表。「新しい世代へ引き継ぐことが最善策」と撤退理由を語り、後任候補にカマラ・ハリス副大統領を指名しました。ハリス氏が当選すれば、黒人・アジア系・女性で初めてのアメリカ大統領となります。

一方、7月13日には、こちらも次期大統領候補であるトランプ前大統領が銃撃される事件が発生。そこから奇跡的に生還したトランプ氏を英雄視する見方も起こり、大統領選は同氏が一歩リードとも言われています。実際、2024年7月27日時点の世論調査では、ハリス氏の支持率が47%なのに対し、トランプ氏は49%。わずかながらトランプ氏がリードしています。しかし、同月31日の調査では激戦7州の支持率で48%のハリス氏が47%のトランプ氏を上回り、同氏のリードを消し去りました。両者の支持率は拮抗しており、現状ではどちらが当選してもおかしくない状況となっています。

リベラル傾向は強いものの経済政策ではバイデン路線を継承するといわれているハリス氏。対して、トランプ氏が再選すれば、通商政策、外交政策、エネルギー政策などのすべてが大転換されることになります。そのため、日本経済への影響もより大きなものになると予想されます。その意味でも、私たちはハリス氏当選よりもトランプ氏再選に備えなければならないでしょう。

トランプ氏は2期目も変わらず「米国第一主義」


政治家としてのトランプ氏のイデオロギーを一言で表すなら「米国第一主義」が最適です。トランプ氏は、貿易政策でも、外交でも、エネルギー政策でも、目下のアメリカの利益を最優先してタクトを振るいます。

実際、過去のトランプ第一次政権では、関税の引き上げを中心とする保護主義的な貿易政策を推進。米国の「エネルギー独立」を目指して石油・天然ガスを増産すべく、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からも離脱しました。ほかにも、イランとの核合意破棄やメキシコ国境での壁建設、キューバをテロ支援国家に再指定など、外交面でもアメリカ第一主義の強硬策を進めました。

また元来「ビジネスマン」であるトランプ氏は、企業優遇策とも批判される法人税減税をはじめ、政策が産業界寄りであることも特徴です。米国国内の製造業の有利を考えてドル安を好み、ドル高を激しく嫌悪。金融政策をめぐってFRBのパウエル議長とも激しく対立してきました。こうした傾向のほとんどがトランプ第二次政権にも受け継がれると考えられます。

対して大きく変わる世界情勢、「トランプ再選」の影響は読めず

「トランプショック」という言葉もできるほど世界中に強烈なインパクトを与えた第一次トランプ政権。しかしながら、過去のトランプ政権は世界を激変させるほどの大きな影響を与えたわけではありません。トランプ氏は保護主義的な政策を過激に推し進めたものの、アメリカおよび世界の経済はそれほど悪化せず、同氏のドル安志向とは裏腹に、ドルもそれほど下落しませんでした。

そのため、次にトランプ再選が実現してもさして影響はないだろうという「トランプ慣れ」の見方もあります。しかし、トランプ氏が最初に当選した2016年と2024年現在では米国および世界の情勢がまるで違うため、その影響力は計り知れません。

例えば、第一次トランプ政権が誕生した頃は、先進国の低インフレが課題となっていました。そのため、関税引き上げや減税など、インフレ誘発型といわれるトランプ氏の政策が受け入れられやすい状況にありました。一方、現在のアメリカでは高インフレの抑制こそが喫緊の課題。トランプ氏の政策はミスマッチともいえます。また現在、ドルは歴史的な高水準、日本から見れば歴史的な円安となっていますが、こちらも8年前にはなかった状況です。

さらに現在のアメリカ財政は積極的なコロナ対策によってトランプ前政権時より悪化しており、中国経済も当時より減速しています。そのため、トランプ氏が前回政権の延長で大減税や対中国への強硬策を断行すれば、米国および世界経済により大きなインパクトをもたらす可能性があります。

そのほか、日本の政権もトランプ政権と蜜月関係だったいわれる第二次安倍政権から代わっており、世界ではロシア・ウクライナ戦争も起きています。このように、スタンスを変えないトランプ氏に対し、大きく変わっている米国・世界の情勢。合衆国憲法において大統領の3選は禁止されており、再選したトランプ氏は次の選挙を気にせずやりたい放題できるという状況も危惧されます。以上より、次の「トランプショック」がどれほどのものになるかは不透明です。

トランプ新政権が断行するとされる政策【トランプノミクス2.0の概要】

トランプ候補がアメリカ大統領に再選すれば以下のような政策を断行すると言われています。

10%の関税導入など保護主義的な貿易政策

トランプ氏は、貿易赤字の解消に向けて、すべての輸入品に10%の関税をかけることを明言しています。中国をはじめとする安価な外国製品の流入を抑制し、自国の製造業を保護することが狙いです。

また国外製造の自動車(輸入車)に対しては200%の関税をかけることも示唆。外国からの輸出から米国内生産への転換を促し、雇用創出を促進することが意図されています。

こうした関税引き上げは輸入品のコストを押し上げ、家計への負担を増大させることから、消費増税に等しいとの批判も。左派系シンクタンクによる試算では、10%の関税によって1世帯あたりの家計負担は年間約1500ドル増えるという結果も出ています。

60%超える関税も含めた「対中国」強硬策

トランプ氏は中国に対する最恵国待遇を撤廃し、60%もしくはそれを超える関税をかけることを示唆しています。また電子機器、鋼鉄、医薬品など、中国からの輸入品を段階的に締め出すことも計画しているとのこと。さらに中国企業がハイテクやエネルギー分野でアメリカのインフラを所有することを禁止することも示唆しています。

中国の過剰生産に対するこうした強硬政策は、過去のトランプ政権、現在のバイデン政権でもすでに行われています。2024年5月には、中国製EVに対しての関税率を4倍の100%にすることが発表されました。

トランプ氏は「最大の脅威はロシアではない」とも発言。再選となれば、米中貿易戦争がさらに激化することはほぼ確実であり、日本を含めたアジア諸国にもさまざまな負の影響が予想されます。

大幅な減税や移民抑制などのインフレ誘発施策

トランプ氏は、関税引き上げによる家計負担の増大には大規模な減税で対応する考えです。2017年に自身が成立させた広範囲な減税措置を延長することに加え、富裕層や企業も対象にしたさらなるトランプ大減税を提唱。そのほか、ホテル従業員などへのチップを非課税にする、法人税を現行の21%から最低15%に引き下げるなど考えも示しています。

またトランプ氏は、バイデン政権下で急増した移民の抑制にも強い意欲を燃やします。「米国史上最大の強制送還作戦」や不法移民の子供に自動的に市民権を与える措置の停止など、強硬な移民政策を実行する構えです。米国への不法移民阻止に協力しない国に対しては、追加の関税を課すことも明言しています。

なお、トランプ氏や共和党は、現在の米国の高インフレを終息させ、物価を家計を圧迫しない水準まで落ち着けることを目指しています。それとは裏腹に、減税のための財政赤字の拡大や移民抑制による賃金上昇などは、むしろインフレ圧力を高めるとの見方が主流です。

石油・天然ガス開発を主体としたエネルギー政策の大転換

トランプ氏は「ドリル・ベイビー・ドリル(資源を掘りまくれ)」という共和党のスローガンを引用し、バイデン現大統領が進めてきた環境政策を全否定する考えを示しています。石油・天然ガス開発を推進して国内エネルギー資源の生産を解放し、アメリカの「エネルギードミナンス(優勢)」を確立する構えです。

その実現に向けて、バイデン政権が実行したEV(電気自動車)普及のための排ガス規制や液化天然ガス(LNG)の新規輸出許可の凍結などは、トランプ第二次政権発足の初日に廃止されるとのこと。バイデン政権が復帰した気候変動対策の国際的な枠組みであるパリ協定からも再び離脱する見込みです。

トランプ氏は、石油・天然ガスを増産することでエネルギーコストを低減させ、物流や製造、家計の負担を和らげると主張しています。また自国のエネルギー資源を友好国に積極輸出する考えも示しており、原油価格・エネルギー価格へのポジティブな影響も期待されます。

同盟国に対して防衛費の追加負担を求める

トランプ氏はNATO加盟国に対して、相応の軍事費を負担しなければ、有事の際に防衛しない旨を発言。過去の政権では、日本政府にGDPの2%に相当する軍事費負担を求めましたが、再選すれば2%超えを要求してくるとも言われています。在日米軍に対する日本の思いやり予算を増やすように求めてくる可能性も考えられます。

またトランプ氏は台湾に対しても、アメリカに防衛費を支払うべきだと主張。同氏は台湾の半導体ビジネスの好調ぶりに激怒しており、防衛費負担の要求は報復措置のような意味合いもあるのでしょう。

同盟国に対するこうしたディール志向な外交姿勢は、西側諸国の軍事的結束を弱め、地政学的リスクを高める恐れがあります。地政学的リスクの高まりは、エネルギー価格をはじめとするさらなる物価高騰につながり得ます。

トランプ再選が日本経済にもたらす影響

トランプ氏の再選は、日本経済に以下のような影響をもたらすと考えられます。

円安・ドル高の加速、もしくは急速な円高・株安の恐れも

トランプ氏のドル安志向とは裏腹に、同氏が公約する政策はむしろドル高を加速させるとも見られています。関税引き上げや減税、移民抑制は、全てインフレ誘発型といえる政策です。インフレが加速すると金融政策の引き締めで金利が上昇し、ドル高要因となります。

現在の円安・ドル高が解消されるかどうかを決める重要な要素は、FRBによる利下げです。現在、アメリカの政策金利は歴史的な高水準にありますが、インフレ率は落ち着いてきており、早ければ2024年9月から利下げが始まるといわれています。しかし、トランプ第二次政権の施策が再び高インフレを招けば、金利が高止まりし、円安・ドル高傾向がさらに強まる恐れがあります。円安がさらに進めば、日本国内の消費者やサービス業をはじめとする中小企業は、さらなる苦難を強いられることになるでしょう。

一方、トランプ政権の諸政策が米国経済および世界経済を低迷させ、ドル安・株安を招くという見方もあります。例えば、保護主義的な貿易政策は、対米輸出国の経済はもちろん、輸入品の高騰により米国経済にも負の影響を与えます。また大規模な移民抑制によって若い労働力が激減し、米国経済が低迷する可能性も。バイデン政権下、2021年以降の労働人口増加の7割強は移民が占めるとのデータもあるほど、現在の米国経済を支えているのは移民の労働力だからです。

さらにインフレによる金利上昇も景気にマイナスであり、株安要因になります。低金利志向のトランプ氏が、前回政権時のようにFRBに露骨な利下げ圧力をかければ、ドルの通貨の信認が悪化し、ドル安を招く可能性もあります。

現在、円安・ドル高は歴史的な水準にあり、その水準がさらに上がるよりも、一気に逆に振れた場合の悪影響のほうがより怖いともいえるでしょう。円安が緩やかに解消されれば日本国内にとっては好ましいですが、急速な円高となれば輸出企業の業績悪化や株の大幅下落などにより、日本経済に深刻な影響が出る恐れもあります。

日系企業の輸出環境は悪化

一律10%の追加関税によって、米国への輸出が落ち込むことは必至です。200%の関税もあるといわれている自動車産業への影響はより甚大で、米国移転や中国からの撤退など、サプライチェーンの大幅な変更を強いられる可能性も少なくありません。実際、トヨタにさえ「日本脱出」といった声が上がっており、日本国内の産業空洞化も心配です。

また米国市場から締め出された中国製品が、輸出ドライブのような形で世界市場に氾濫する問題も看過できません。米国以外の市場では、安価な中国製品が日本製品にとって大きな脅威となり、激化する価格競争に日系企業が競り負けるケースもより多くなることが危惧されます。実際、通信機器や太陽光パネルなど、一部の分野ではすでにそのような日系企業の撤退事例が相次いでいます。

米国市場からとりわけ厳しく追放されるのが安価な中国製のEV車であり、世界市場において日本の自動車産業は厳しい局面に置かれるでしょう。自動車産業は日本の基幹産業であり、その不振は日本国内の経済にも少なからず負の影響を与えるはずです。ただし、米国市場に限っていえば、石油・ディーゼルの開発を再推進するトランプ氏の施策によって、日本のハイブリッド車が売れやすくなるかもしれません。

なお、本来、円安は輸出企業にとって良い環境ですが、トランプ氏の保護主義的な貿易政策によってその恩恵は萎んでしまいます。そこで輸出を止めて米国移転となると、今度は移民抑制による賃金コストの増加に苦しめられる恐れがあります。すでに米国内の日系企業は、製造業を中心に人手不足を課題とし、賃金上昇に苦しんでいるといわれており、トランプ氏の望む現地生産への切り替えも容易なことではありません。

米中貿易戦争の激化による「巻き添え被害」

米中貿易戦争の激化によって中国経済が減退すると、その影響は中国と緊密な関係にあるASEAN諸国、ひいては日本経済にも波及すると考えられます。事実、過去25年において、中国の対米輸出と日本の対中輸出には7割を超える大きな相関があると言われています。中国の対米輸出が激減すれば、日本の対中輸出およびGDPも大きく落ち込み、日本経済が低迷する原因となり得るのです。

また60%を超えるともいわれる中国への追加関税は、日本企業が中国から輸出する製品にも及ぶため、実質としては日本の首も絞める政策です。さらに中国製の部品や素材を用いた他国の製品も制裁の対象となる可能性があるといわれており、生産拠点や部品・素材を中国に依存した日系企業は、サプライチェーンの大幅な見直しを迫られることになるでしょう。

加えて、米中対立が激化すれば、必然的に東シナ海の緊張感も高まり、「台湾有事」もより現実味を帯びてきます。そうなれば、トランプ氏が日本に対して防衛費増強を要求する口実にもなり、日本にとっては二重にも三重にも好ましくない状況になると考えられます。

ガソリン代や電気代などの物価は下がる可能性

トランプ氏が公約通りに石油・天然ガス開発を推進すれば、世界への化石燃料の供給量が増え、エネルギー価格の高騰が抑えられます。それはガソリン代や電気代の低下につながり、日本国内の家計や中小企業にも恩恵となります。

またドル安志向のトランプ氏の思惑通りに緩やかに円安が解消されれば、輸入品のコストが下がり、こちらも日本経済にとってはメリットです。

一方、トランプ氏の再選が、物価高に拍車をかけるシナリオも考えられます。例えば、トランプ氏がイランへ圧力をかけたり、NATOの軍事的結束を弱めるような振る舞いをとったりする可能性には注意が必要です。地政学的リスクの高まりからむしろエネルギー価格の高騰を招く恐れがあります。

加えて、気候変動対策を軽視した化石燃料の掘削によって地球温暖化が深刻化し、異常気象による作物不良などによって物価高にはね返ってくる事態も想定されます。地球環境を長期的に考えれば、トランプ政権がパリ協定から再度離脱することは好ましくない状況でしょう。

さらに、円安が是正されることで輸入コストが下がるのはメリットですが、安価な中国製品の流入が日本市場でも脅威になるという懸念もあります。中国製品との価格競争に苦戦し、業績を落とす中小企業が増えるかもしれません。

防衛費増強のための増税もあり得る

トランプ氏が再選すれば、過去の要求を上回るGDP2%超えの防衛費負担を求めてくる可能性があります。

日本政府は2022年に5ヵ年の防衛費の総額を43兆円程度に増額することを決めたばかり。この増額でも2027年度の防衛費はGDP比1・59%であり、GDP2%超えは相当な負担増になります。また目下の円高や物価高の影響で、43兆円では目指す防衛力の整備ができない状況にもなっており、防衛費は日本にとって喫緊の問題です。

そのような状況下でトランプ新政権から軍事費負担の増強を強く求められれば、財源確保のために防衛増税をせざるを得なくなるかもしれません。増税は無論、消費者や中小企業にとっての負担となり、低迷した日本経済に追い打ちをかける可能性が考えられます。また防衛費をめぐるトランプ新政権との交渉の状況次第では、日本政府への不信感が高まり、政権運営の混乱が日本経済にネガティブな影響をもたらすこともあるでしょう。

まとめ

トランプ候補の再選によって日本経済に好影響があるとすれば、緩やかな円安の解消やエネルギー価格の低下などが考えられます。しかし、トランプ氏が掲げる保護主義的な貿易政策や米中貿易戦争の激化、軍事費負担増の圧力など、日本にとって好ましくない展開も多く、楽観視はできません。

アメリカ大統領選挙の投開票は2024年11月5日に行われます。同年9月に実施されるかもしれないFRBの利下げにも要注目です。来る投開票やFRBの9月会合、その後の日本経済の動向に引き続き注視していきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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