法律事務所amaneku 山本飛翔|バイネームで仕事を取ることが独立準備になる

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年04月に行われた取材時点のものです。

資本政策と同様に特許も後戻りはできない。スタートアップに強い弁護士山本飛翔氏に聞く攻めの知財戦略

後に上場するような大型スタートアップの中には、最初から資本政策をガチガチに固め、万全の状態で創業するスタートアップも多く存在します。しかし、そんなスタートアップでも意外と見落としがちなのが、知財戦略です。特許や意匠、商標などの知的財産をいかに守るかが、勝敗を分けることもあります。

今回は、著書『スタートアップの知財戦略』を執筆するなど、スタートアップの知財戦略に詳しい法律事務所amaneku代表弁護士の山本飛翔氏に、スタートアップがやりがちな知財戦略における失敗や、ご自身の独立までのキャリアなどについて伺いました。

山本 飛翔(やまもと つばさ)法律事務所amaneku 代表弁護士・弁理士
弁護士になって以来、一貫してスタートアップの知財戦略支援に取り組んでおり、2020年の3月には『スタートアップの知財戦略』を出版し、同月に特許庁よりスタートアップ知財の専門家として奨励賞を、2022年には東洋経済の「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」知的財産部門1位を受賞。2023年より法律事務所amanekuを設立し、同事務所の代表弁護士に就任。
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特許庁お墨付きのスペシャリスト直伝 スタートアップのための知財戦略講座(基礎編)
特許庁お墨付きのスペシャリスト直伝 スタートアップのための知財戦略講座(実践編)

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バイネームで仕事を取るための逆算キャリア

ー事業概要をお聞かせください。

山本:弁護士になって以来、一貫してスタートアップの知財戦略支援に取り組んできました。その経験を活かしてスタートアップの伴走者として、さまざまなサポートを行っています。とはいえ、業務内容はスタートアップに絞っているわけではなく、大企業や大学の知財・法務面のサポートもやっています。

ーキャリアの最初からスタートアップを中心に仕事をされてきたのでしょうか。

山本スタートアップの知財戦略は、弁護士になる前からやりたいと思っていた領域なので、当初からスタートアップさんとお仕事はさせていただいていました。もっとも、最初に就職した法律事務所は、国内外の大手企業さんからのご依頼が中心でしたので、最初は大手企業さんのお仕事が多かったです。そこから、少しずつスタートアップさんのお仕事が増えていきました。

ー事務所の仕事は大手企業からのものが多かったにも関わらず、山本さんにスタートアップの仕事がくるようになったということですね。どのようにして、そのような状態を実現されていったのでしょうか。

山本:私が就職する前から妻が大手企業の知財部で仕事をしていたこともあり、弁護士のユーザーサイドの立場にある妻と、徹底したユーザー目線で、キャリアをどう築いていくかを相談していました。例えば、妻は著名なプレイヤーがどの年次にどんなことをしていたのか調査してくれて、それを受けて私もどの年次までに何をしていくのか、という目標を、短期・中期・長期で定めて取り組んでいきました。

ーなるほど。二人三脚で素晴らしいですね。

山本:ありがとうございます(笑)。もともと、所属事務所の看板ではなく、自分の名前で仕事をしたいと思っていました。「若いときからバイネームで仕事ができる領域って何だろう」と思ったときに、クライアントが、ベテランではない若手である自分に敢えて頼む理由をどう作るべきか、ということを考え、まずはユーザー側であるスタートアップの考えていること・悩んでいること・あったら助かるものが何か、ということを理解することに努めようと思いました。

その一環として、弁護士になってから3年間くらいは、ランチの時間帯にスタートアップの(知財戦略の構築にはビジネスサイドの方との連携が必須であるため)ビジネスサイドの方々とミーティングを重ね、彼らが何を考えているのか、をひたすらヒアリングし、その中で自分の考えをぶつけ、フィードバックを受ける、ということを繰り返していました。

そこで考えたことや、彼らに提案していったことを2020年に『スタートアップの知財戦略』という書籍に著した頃、ちょうど特許庁からスタートアップの知財の専門家として表彰され、その辺りから一気に「スタートアップの知財なら山本に相談してみても良いかも」という声も増えていきました。

ーすべて戦略的に動かれてきたのですね。独立してからも、変わらず依頼はきているようですね。

山本:そうですね。前の事務所のときから「山本に」とバイネームで依頼がきていたクライアントからは、ありがたいことに今でもご依頼いただいています。また、独立してからは大手企業さんからのご依頼は減るかと思っていたのですが、スタートアップさんと大手企業さんとの間のオープンイノベーションのサポートにも力を入れていたこともあり(2021年に「オープンイノベーションの知財・法務」を出版しています)、大手企業さんからもご依頼をいただけており、ありがたい限りです。

独立してよかったことは「自由」

ー弁護士で独立準備をするにあたって、他に気をつけるべきことはありますでしょうか。

山本自戒の念も込めていうと、弁護士は、プロダクトアウト的な発想をされる方が多いです。そういう状況下で、徹底してユーザー目線で考えて、ユーザーの馴染みのある思考枠組みで、彼らの困っていること・知りたいことに直接応えていくことができれば、差別化ができると思います。

ー独立されることに不安はありませんでしたか。

山本:不安はありましたが、それよりも努力次第で好きな仕事を好きなだけできることに魅力を感じ、独立しました。

ー独立して「良かったな」と思うことはありますか。

山本:好きな仕事を自分の責任で判断してできることと、時間の融通が効くことですね。朝早くや夜に仕事をすれば、人手が少ない平日に子供と遊ぶこともできますし。

資本政策と同じく、特許も後戻りはできない

ースタートアップが知財について気をつけておきたいことをお聞かせください。

山本一つ絶対に言っておきたいのは、資本政策と同じく、特許も後戻りができないことです。お金に余裕が出てから取り組もう、という方も多いですが、特許に関しては「新規性」という要件があるので、出願のタイミングが遅れれば遅れるほど、特許が取りづらくなっていくんです。そこは絶対に知っておいていただきたいですね。

もう1つは、特許を取得する目的をはっきりさせておいていただきたい、ということです。スタートアップさんは、大手企業さんのように、数で勝負することはできないので、1件1件の価値を最大化させるためにも、目的をはっきりさせて、その目的に沿った権利形成・活用を考えて戦略を立てていただきたいんです。

なんとか資金を捻出し、早い段階からも特許を含む知財の活動に取り組む、というのが基本です。

ー知財関係でスタートアップが陥りがちな失敗について、あればお聞かせください。

山本商標を取らずに創業したら、後で商標が取られていることがわかった、というケースが一番多いですね。悲惨なのは、ミドルとかレイターステージくらいになってきて、広告も何千万円規模で売ってサービスの知名度が上がってきていたのにもかかわらず、その段階で商標を変更しなければならない、となるパターンです。スタートアップが社名やサービス名を変えるときには、商標の問題が絡んでいることも珍しくありません。

あとは、サービスをリリースした時点でもう新規性がなくなっていて、特許が取れなくなっていた、というケースも多いです。

ーなるほど。ここ最近で、知財に関して気をつけるべきトレンドは何かありますか。

山本最近は投資家も特許についてチェックすることが増えてきています。例えば、自分たちが投資した企業のビジネスモデルが、後で特許が取られているものだとわかったら、大変ですよね。投資家はいろいろなところから資金を集めてきているので、投資家の責任問題にもなってしまいます。

そうした事情もあってか、IT系スタートアップにも最近は早い段階から特許について知ろうとされている方々も多いです。

スタートアップの場合、ブルーオーシャンで勝負されている方も多いですよね。最初はニッチマーケットでスタートするかもしれませんが、ニッチマーケットを独占できても売上・利益に限界があるので、市場も大きくしつつ、市場での支配力や価格競争力などを保ち続ける必要があります。これを実現するためにも、知財戦略は重要です。

知財戦略を上手く活用して大きくなったスタートアップの成功事例として、Spiberさんが挙げられます。Spiberさんは世界初の人工合成による構造タンパク質素材「Brewed Protein™️」の普及に取り組む企業です。彼らは特許で技術をクローズドにして守るだけではなく、規格化・標準化戦略というスキームを使いながら、「いろんな情報をオープンにするし、使ってもいいんだけど、特許のライセンスっていう形にするから、こちらの提示するこういうルールには守ってくださいね」という形にすることで、市場の成長と自社の支配力の維持に成功なさっています。自分たちしか技術が使えないと、市場が大きくなっていかないからですね。知財を使って、市場も大きくしつつ、自分たちの優位性も守れる形に持っていったんです。

このような成功事例をもっと生み出せるよう、支援していきたいですね。

お医者さんと同じで、早めに弁護士に相談すべき

ー最後に、起業家へのメッセージをお願いします。

山本:起業したい方であれば、まだビジネスモデルができていない段階でも、早めに弁護士にも相談しておくことをおすすめします。

弁護士って、お医者さんと同じなんですよね。早い段階で来てくれた方が、提案できることも増えます。だからこそ、早めに相談にお越しいただきたいです。

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(取材協力: 法律事務所amaneku 代表弁護士・弁理士 山本 飛翔
(編集: 創業手帳編集部)



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