一人合同会社は可能?メリットやデメリットや設立の注意点について
一人合同会社は可能なのかや設立時のメリット・デメリットについて
合同会社といえば「合同」という名称が用いられていることから、複数の人間で立ち上げるものだと思っている方も多いことでしょう。
そのため、個人事業主、あるいはフリーランス等、個人で活動している方が法人化をと考えた時、合同会社ではなく、他の業態による法人化を考える人が多いのですが、果たして一人では合同会社が設立できないのでしょうか。
またもしも可能であればそこで生まれるメリット・デメリットとは何があるのか。これらについて解説していきます。
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この記事の目次
一人合同会社の設立は可能なのか
結論からお伝えすると、一人で合同会社を立ち上げることは可能です。
「合同会社」という名称、さらには既存の合同会社が様々な企業が集まって立ち上げられていることから、一人での合同会社設立は不可能だと思っている方もいることでしょう。
しかし、一人で合同会社を立ち上げビジネスを展開している方も多々おられます。
会社形態の一つなので一人でも問題なし
合同会社とは、決して「多くの人が集まった合同グループ」を意味するものではなく、あくまでも法人登記の種類です。
株式会社、有限会社、合同会社といった種類であって、決して人数等で分類されるものではありません。
つまり、一人で合同会社を設立することは決して不可能ではありません。ましてやルール違反でもなく、一人ではあっても会社設立時の選択肢と成り得るものです。
問われるのは人数ではなく登記内容
合同会社設立時に問われるのは携わる人間の数ではなく、登記内容です。
合同会社を設立するためには、本店所在地を管轄する法務局に必要書類を提出します。
- 提出書類
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定款(電子定款でも可能)
印鑑届書
社員の印鑑登録証明書
払込証明書
本店所在地決定書
代表社員就任承諾書
登記用紙と同一の用紙
収入印紙
合同会社設立登記申請書
これらを揃えて提出し、認められることで合同会社設立となります。
一人で合同会社を設立する場合には、これらを一人で揃えればよいのです。
もしも認可が認められない場合は、書類に不備があるからで、「一人だから」ではありません。
一人合同会社のメリット
合同会社は一人で設立が可能であることが分かっていただけたのではないでしょうか。
また、ただ設立が可能なだけではなく、いくつかのメリットが待っています。
そこで一人で合同会社を設立するメリットをご紹介しましょう。
法人化による社会的信用の獲得
一人合同会社も「会社」です。
取引する相手側も「個人」より、会社組織の方が安心感があります。
合同会社もまた、株式会社同様官報に掲載されます。
つまり、誰がどこで営業している合同会社なのか、調べることができます。
例えば個人とは取引をしないと決めている企業・団体とも合同会社であれば取引が可能になりますし、金融機関からの融資も個人より受けやすいなど、社会的信用が高まります。
個人よりも効率的な節税が可能
合同会社も会社組織です。
そのため、経費計上も会社単位で可能になることから、個人単位よりも効率的な節税が可能になります。
具体的には、個人としては不要でも、会社として必要なものは経費計上、つまりは節税が可能になります。その最たるものが役員報酬や給料です。
一人の場合、収入は基本的に個人のものです。
しかし合同会社の場合、会社としての収入から給料や役員報酬を支払いうのですが、それらは経費として差し引くことができます。
また、給与所得控除を適用することもできるなど、個人よりも経費適用範囲が広がります。
社会保険への加入
合同会社を設立することで、一人の身ではあっても社会保険への加入が可能になります。
個人事業主、あるいはフリーランスでは社会保険に加入することはできません。これは能力・資質の問題ではなく制度の問題で、基本的には国民保険・国民年金への加入となります。
しかし合同会社を設立すると、社会保険や厚生年金への加入が可能になります。
国民健康保険・年金と比較すると支出が増えますが、個人の場合、どれだけ収入があっても加入できないものなので、将来を考えた時、大きなメリットとなるのではないでしょうか。
会社組織ではあっても一人
一人で合同会社を立ち上げた場合、登記や税制は会社として行うことになりますが、事業に関してはそれまで同様、個人で行いますので、事業の感覚はさほど変わらないことでしょう。
むしろ一人だからこそのフットワークの良さもメリットです。
複数の人間で会社を立ち上げた場合、意思決定には合意形成が必要です。一人で勝手に動くことはできません。
しかし一人で合同会社を立ち上げた場合、同意を求めたり、許可を取らなければならない人間はいません。
つまり、個人事業主やフリーランスの時同様、自由な活動が可能です。
株式会社より合同会社のほうが設立費用が安い
合同会社は株式会社と比較すると設立費用を安価に抑えることが可能です。
この点は一人で設立するメリットではなく、あくまでも合同会社設立のメリットにはなります。
一人で会社を設立する場合、設立費用はすべて自らで用意しなければなりません。
なので、安価な費用も一人で合同会社を設立するメリットの一つだと考えてよいでしょう。
合同会社にせよ株式会社にせよ、登録免許税がかかるのですが、実は少々費用が異なります。
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株式会社:資本金の金額×0.7%、その額が150,000円に満たない場合には150,000円
合同会社:資本金の金額×0.7%、その額が60,000円に満たない場合には60,000円
上記のように、合同会社の方が安価です。
また、株式会社の場合、公証役場にて認証を受けなければならないのですが認証手数料は紙の定款でも電子定款でも30,000円~50,000円です。
定款の謄本も株式会社は2,000円ですが合同会社は無料。
印紙代(紙の定款は40,000円、電子定款なら無料)を踏まえると会社立ち上げの最低金額としては、下記になります。
合同会社:60,000円
このように、設立費用は合同会社の方が122,000円安いです。
一人合同会社のデメリット
一人で合同会社を設立するメリットは多々あることが分かっていただけたのではないでしょうか。
しかし、デメリットもあります。
合同会社を検討しているのであれば、メリットだけではなくデメリットも把握しておきましょう。
すべてを一人で行う必要がある
先に合同会社は誰にも許可を取る必要がなく、一人で自由に行動できる点がメリットだとお伝えしました。
しかし、この点はデメリットにもなりかねない部分です。
なぜなら、全て一人で行わなければならないことになるからです。
数人で会社を立ち上げた場合、役割分担が可能です。業務もシェアすることで効率化が可能ですが、一人で立ち上げた場合、全て自ら行う必要があります。
事業はもちろんですが確定申告等の税務・会計業務。さらには事業獲得のための営業活動、業務に必要な用具の準備等、全て自らで行わなければなりません。
個人事業主やフリーランスの時と変わらないのでデメリットにならないと考えることもできますが、会社組織を立ち上げたものの、結局はそれまで同様一人ですべてを行わなければならない点が、デメリットだと感じる人もいるでしょう。
設立時に金銭・リソースが必要になる
先に合同会社は最低でも60,000円あれば設立可能だとお伝えしましたが、一人の場合、当然全額自己負担になります。
仮にですが、複数の人間で合同会社を立ち上げる場合、人数で割ればよいので一人当たりの出費は低額になりますが、一人ではそれができません。
また、設立には書類の準備だけではなく会社の実印を用意し、印鑑証明書を取得したり、定款の作成等、お金以外の面でもリソースを必要とします。
複数の人間で立ち上げる場合、それらも分担して行えるのですが、一人で立ち上げる場合、全て一人で行わなければなりません。
特に個人事業主やフリーランスの場合、仕事をしていない時間はお金になりませんので、手続き等、お金にならないことに時間をかけるのは勿体ないと思う人もいれば、忙しくて手続きに回すリソースを確保できず、なかなか合同会社設立が進まないといったケースも考えられます。
合同会社の知名度の低さ
合同会社は個人と比較すると社会的信用度が高いとお伝えしました。
しかし、まだまだ合同会社の知名度は高くはありませんので、株式会社と比較すると、信用度が低いです。
「株式会社」であれば知名度も高いことから、より大きな社会的信頼を獲得できます。
しかし合同会社はまだまだ株式会社ほどの知名度がありませんので、例えば仕事を受注する際、「合同会社ってなんですか?」と尋ねられることもあれば、場合によっては「合同会社だから」「株式会社ではないから」と、敬遠されてしまう可能性もあります。
今後合同会社の知名度が高まることで解消される部分もありますが、まだまだ株式会社より知名度が劣る点は注意が必要です。
一人合同会社設立時の注意点
一人合同会社にはメリットもデメリットもあることが分かっていただけたのではないでしょうか。
設立するのであれば、これらを踏まえて一歩踏み出すことが大切ですが、実際に設立するにあたって注意すべき点がいくつかあります。
一歩踏み出してから「こんなはずではなかった」と思うことのないよう、事前に注意点も把握しておきましょう。
資金を確保しておく
合同会社は株式会社よりも安価に設立できます。しかし、資金を多く用意しておいた方が良いのは言うまでもありません。
資金が少ない場合、事業が立ち行かなくなるリスク、債務超過リスクが高まると共に融資を受ける際に不利になります。
個人での活動から合同会社に変えただけで急に業績が良くなるとは限りません。
例え当初好調だとしても、いつどのような事態に直面するか分かりませんのでできる限り資金を多く用意・確保しておきましょう。
プライバシーへの配慮
一人で合同会社を設立する際、自宅住所を会社として登記するケースが多いです。
もちろん違法でも脱法でもありませんが、先にもお伝えしたとおり、合同会社も官報に掲載されます。つまり、自宅住所が、誰でも調べられる状態となってしまいます。
住所を知られたところで気にならない人もいれば、さすがに自宅を知られることに抵抗感があるという人もいるのではないでしょうか。
後から変更することもできる部分ではありますが、自宅住所を知られたくない場合には、設立時点から借りたオフィスの住所にて登記した方が良いでしょう。
もしも自分が死亡したらどうするのかを定めておく
「不吉な」と思うことでしょう。
しかし、一人で合同会社を設立した場合、他に役員はいませんので、もしもですが自分自身が亡くなってしまった場合、合同会社がどうなるのか不明瞭になってしまいます。
実は合同会社の場合、定款にて定めない限り、相続人ではあっても合同会社を継承することができません。
つまり、合同会社の存在そのものが不明瞭な存在となってしまいます。
このような事態を避けるためにも、自身が亡くなった場合にはどうするのか定款にて定めておく必要があります。
一人合同会社に向いている起業スタイル
一人で合同会社を立ち上げるにあたって、特別な条件はありません。
もちろん、業種を問われることもないのですが、一人合同会社に向いている起業スタイルがいくつかありますのでご紹介します。
これらに該当する場合、一人合同会社を前向きに検討してみるのもよさそうです。
一般消費者向けサービス
カフェや飲食店といった一般消費者を相手にするサービスは一人合同会社との相性が良いです。
いわゆる「BtoC」のビジネスでは、顧客は会社組織まで考慮しないのがほとんどです。
先に合同会社は株式会社よりも知名度が劣るとお伝えしました。
そのため、BtoBでは知名度の低さが影響するリスクも懸念されますが、BtoCであれば合同会社の知名度の低さはさほど影響しません。
不動産投資、FX
不動産投資やFXのための会社としても合同会社は適しています。
個人での投資の場合、経費として計上できるものは少ないですが、合同会社であれば経費計上できる項目が増えます。
さらに個人での投資の利益は譲渡所得、配当所得、雑所得に区分されるのですが、合同会社であれば役員報酬としての支給が可能なので効果的な節税が可能です。
将来的な株式会社への成長を見越しているスタートアップ企業
合同会社は将来的に株式会社に変更することも可能です。
しかし、いきなり株式会社を設立するのは大変だと思う人もいることでしょう。
そこで、将来的には株式会社にしたいけど、まだ時期尚早だと思っている人やいずれは株式会社化を目的にしたスタートアップ企業にも合同会社はおすすめです。
合同会社を設立することで、個人と法人の違いを把握できます。
まとめ
一人で合同会社を設立することは何ら問題ないだけではなく、多々メリットがあることが分かります。
もちろんデメリット・注意点もありますが、メリットが自らの事業との親和性が高いのであれば、個人で活動している方も一人合同会社を視野に入れてみてはいかがでしょうか。
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