アルハイテック 水木 伸明|廃アルミから作る「グリーン水素」で富山県からエネルギー革命を起こす
運送会社でのリサイクル事業の担当者から一転し、廃アルミから水素を作る技術ベンチャーを起業。その経緯とは
SDGsやカーボンニュートラルなど、様々な環境関連の用語がビジネスシーンでも飛び交うようになりましたが、そのずっと前から環境カウンセラーとして活動し、今では廃アルミを使い水から取り出す本当の意味でのクリーンな水素エネルギーの開発をしているのが水木さんです。
廃アルミを使い水から水素を生成する最新技術を使った事業や技術ベンチャーならではの苦悩について、創業手帳の大久保が聞きました。
アルハイテック株式会社 代表取締役社長
1959 年富山生まれ。桃山学院大学を卒業後トナミ運輸株式会社に入社。在職中に廃アルミを使い水素燃料電池へ再生させる研究を始める。同テーマで富山大学で研究博士号を取得。実用化へ向けアルハイテック社へ出向、代表取締役社長に任命。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
運送会社でリサイクル事業に着手したことをきっかけに「廃アルミ」の可能性に着目
大久保:起業までの経緯を教えてください。
水木:20年ほど前に「トナミ運輸」という運送会社で機密文書などのリサイクル事業に携わっていました。
環境関連の事業を担当していたこともあり、2005年に環境省登録の環境カウンセラーになったことで、全国から様々な問い合わせを受けるようになりました。
その中の1つとして、四国の製紙会社からある問い合わせをいただきました。それは、「パック飲料の紙パルプを取り除いたカス、いわゆるアルミプラスティックを処理する場所が四国にはないので、富山に運んで埋め立ててもらえないですか?」という内容でした。
四国から富山県にごみを持って来るなんてありえないと思いましたが、まずはそのサンプルを送ってもらうことにしました。
送られてきたサンプルを見てみると、パルプとプラスチックとアルミの混合物で、これらの資源を全部分離回収できたらすごいと思いました。これが廃棄物から資源エネルギーを取り戻したいと最初に思ったきっかけです。
ですが、運送会社にはこれに取り組む費用も、部署もありませんでした。
そこで、県や国の公的資金や競争的資金に応募してみたところ、採用されたんです。
それをきっかけに、本業の運送業務をやりながら、製品輸送ではなく廃棄物や循環物を扱う静脈産業としてやっていくことになりました。製品を運ぶ事も良いですが、廃棄物やリサイクル品に新しい価値を見出すことで世の中に貢献できる事業になると思いました。
大久保:SDGsなどは最近注目されてきましたが、随分前から水木さんは環境カウンセラーとして取り組まれていたんですね。
水木:当時はよく変わり者だと言われました。
それから環境の分野で起業することになりましたが、起業した段階では、まだ「この技術を使ったら面白いことができるだろうな」という漠然としたイメージしかありませんでした。今思ったら怖い状態でのスタートですが、やるしかないという感じでしたね。
社内ベンチャーとして研究をスタートし、その後独立起業へ
大久保:トナミ運輸の企業内ベンチャーのような形での起業でしたか?
水木:起業するまでは社内ベンチャーとしてやっていましたが、社内ベンチャーの立ち上げも大変でした。私だけの意見では会社を動かすのは難しかったので、外部の研究者や県や国の声を直接社内に届けてもらい、会社を動かしてもらいました。
資金は公的資金や競争的資金で賄いながら、自分にない力を補うために仲間作りをしました。すぐに仲間に対価を払うことはできませんでしたが、自分の思いを感じ取ってくれる素晴らしい人が集まってくれました。
ですが、事業を進めて行く中で、運送会社の中でやるには限界を感じ始めました。そこで、トナミ運輸等に出資してもらい、独立して会社を作ることになりました。
大久保:独立起業してからも大変でしたか?
水木:当時はカーボンニュートラル、脱炭素、SDGsを課題としてあげられる世の中になるとは想像できず、事業を始めたものの、どこを目指したら良いのか、先が見えませんでした。
何もわからない状態なので、出資額が予定より少なくなり、建物の建て替えや展示場建設、デモ機の作成などであっという間に出資金はなくなりました。増資が必要になりましたが、売上がない中、増資のお願いをすることは困難でした。
そこで、増資してもらうために、現状の研究成果と今後の見通しを明確にし、自分たちの事業をマスコミにリリースしました。
リリースを出したところで、マスコミが取り上げてくれるとは限らないので、リリースはこまめに何度も出しました。わずかなステップアップでもリリースを出して、世の中への貢献度を言い続けることが大事だなと感じていました。
こういうことをコツコツと続けた結果、3年半ほど前から急に大手企業も関心を示してくれるようになりましたが、私が47歳で起業してから現在に至るまでに16年もかかりました。
今まで捨てられていたアルミは「電気の塊」
大久保:なぜアルミに注目したのでしょうか?
水木:元々アルミは「電気の塊」なんです。アルミは高価なものなので、アルミをそのまま捨てるともったいないと思いました。
そこから研究を開始して、パック飲料の容器から箔アルミだけを取り出すことに成功したので、金属買取業者に資源としての買取のお願いをしました。
ですが、薄いアルミは火に近づけただけで焦げてしまうので、資源として活用することが難しいと言われました。そこからさらに色々と考えていると、化学反応でアルミを使って水素ができると学校で習ったことを思い出しました。
様々な大学の教授たちとやりとりをして、論文発表をしていると、バルセロナの大学の教授からアルミを使って水素を取り出す効率的な方法をやっているから遊びに来ないかと連絡をもらいました。
その大学では、アルミ缶を入れると水素がたくさん発生して、「水酸化アルミニウム」という価値のある物質の生成にも成功していました。その基礎技術を買い取らせてもらい、それを応用しながら研究を重ねました。
そしてついに、アルミを使って水から水素を繰り返し取り出せる液体の開発に成功しました。この研究においては、「水を足すだけ」で水素を繰り返し取り出せるというのが事業継続の決め手になりました。
技術開発には成功したのですが、詳しい内容を対外的に発表することはできないので、誰も信用してもらえませんでした。そこで、実際に現象を見せて、化学の先生に鑑定してもらい証明してもらいましたが、なかなか周囲の理解を得られず、投資を集めることはできませんでした。
そこでも諦めずに、多方面に発信し続けて、地域の人たちを巻き込みながら、世の中にとって役立つ技術だと声を上げ続けることで、なんとか資金調達ができました。
大久保:アルハイテックの作る水素にはどんな特徴がありますか?
水木:水素でも作られる過程により違いがあり、そこが重要です。化石燃料を燃やして作る水素は「グレー水素」と呼ばれ、作る過程や水素を運ぶ時に多くのCO2が排出されます。
一方でアルハイテックの作る水素はCO2が排出されない最もクリーンな「グリーン水素」です。
アルハイテックの「工小僧」という製品を使えば、アルミさえあればその場で水素を作れます。
カーボンニュートラルのために、自社で自立したエネルギーを作りたいというアルミ屑が事業の中から出てくる企業からたくさん問い合わせが来ています。
アルハイテックは、エネルギーの地産地消にこだわっています。
大久保:水素はどんな使い道になりますか?
水木:水素を使えば、事業所で使う電力を賄うことくらいはすぐにできます。
今後は、電気自動車にも活用されていくと思います。
今、電気自動車で使われている電気は火力発電所から来ている電気が大半です。仮に日本中の車が電気自動車になると、火力発電所や原子力発電所をフル稼働させても電力が足りないと思います。
そうなると、CO2がたくさん発生してしまい、せっかくの電気自動車がグリーン電気で動かなくなるので、水素を活用して電気自動車へ充電する技術の開発をしています。
10年以上の研究の末に事業化に成功
大久保:アルハイテックで開発している技術が世の中に受入れられるまで何年くらいかかりましたか?
水木:11〜12年くらいかかりましたね。転換期になったのは「脱炭素」や「ガソリン車に変わる自動車のニーズの高まり」などに注目が集まるようになり、主要な自動車メーカーが電気自動車を発表したことで、アルハイテックの事業も応援してもらえるようになりました。
その後、富山県の企業を始め、たくさんの企業から出資し応援したいと言ってもらえるようになり、驚きました。
大久保:長年苦労されてようやく軌道に乗ってきたんですね。
水木:例えば他社を事例にあげると、タカタのシートベルトも開発当初は不要だと言われていましたが、今ではシートベルトが義務化されるまでになりました。
ベンチャーは初めは信用されなくて当たり前です。自分がしていることが本当に世の中に必要なことなのかを自分で判断して、自信を持つことが大事だと思います。
アルハイテックの場合、様々な人が事業内容を認めてくれ、お金を払わなくても協力してくれたので、ここまで続けることができました。
これまで、北陸では70拠点でアルミパックの回収を試験的にやってきました。1度でも活動に参加してくれた人は事業を理解し、賛同してくれます。
大久保:一般の方々の理解はどのように得られましたか?
水木:資源をリサイクルに出して、その先にどうなるのかは普通知らない人が大半だと思います。
アルハイテックでは、アルミ付きパックを回収して、地域のお祭りや婦人会やボランティアの会合など様々なところへ行き、電気をつけたり、トイレットペーパーを渡したりしています。
これにより、アルミを使って電気を発電できることや、パック容器をリサイクルしてトイレットペーパーを作れることを見せ、資源回収の可能性をお伝えするような地道な活動を時には自腹も切りながら続けました。
この活動を通して周りが後押ししてくれるようになり、私は頑張り続けられました。
住民の皆さんに支えられたなと思います。
儲けよりも、人が喜ぶ事業であることが事業が長続きする秘訣だと思います。
技術ベンチャーならではの苦悩
大久保:技術ベンチャーだからこそ困ったことはありますか?
水木:リリースを出し、周囲の理解を得られるようになると、技術を盗もうという人が出てきます。良い人も悪い人も近づいてくるようになるので、その判断が難しいです。
起業した頃は、こんな悩みが出てくるとは思いもしませんでした。
私に経営手腕なんて全くありませんが、怪しいと感じたら、はっきり言うようにしました。会社の大小に関わらず取引は対等であるべきですし、どちらが優位ということではありません。
大きい企業は素晴らしいところが多いですが、その企業の会社員が素晴らしいかというと話は別で、自分の利益しか考えていない人もいたので、あまり信用できませんでした。
大久保:技術ベンチャーだからこそ自社の技術には自信を持つべきですよね。
水木:他にはない技術には、自信を持っていいし、同じ商品でも、独自の良さがあると思うんです。自分の色をどう出していくかが大事だと思います。
自社のビジネスモデルや優位性が何かをはっきり言えないといけません。熱い想いを語れないといけないんです。
それができているのにも関わらず、あまり世の中に認められないのであれば、続けてもだめかもしれませんね。ただの価格勝負になり、持続していきません。
実際私も軌道に乗っていない時は、どこかの企業に吸収されて事業だけでも残す方が良いのではと考えたこともありましたね。資金が足りなくなり、本当に苦しかったんです。
ですが、事業が本格的に動き出すと、受け入れてもらえるようになったので、早く事業を形にし、動き出すことが大事だと思いました。
大久保:人材確保で困ったことはありますか?
水木:ベンチャー企業は、先が読めません。これまでは社員募集をしても大した倍率にはならないですし、志を持った人が来てくれるわけでもありませんでした。
最近少し世間で注目されるようになってからは、実力のある方が増えてきてくれたなという感覚はありますが、人材集めはとても難しいなと思いました。
今は給料が高くなくても、世の中の役に立つ事業に関われると、アルハイテックの一員になれるという喜びで来てくれる人もいます。
事業が将来的に世の中の役に立つものだとアピールをすることで、資金や人材確保にも繋がるんだなと思いました。
アルハイテックの技術は「防災」にも役立つ
大久保:アルハイテックの今後について教えてください。
水木:装置を売るだけでなく、装置はBCP対応もしないといけません。
アルハイテックでは、小型の装置をAEDと消火栓の横に置き、難所の倉庫に小型の装置とアルミを置いてもらえれば発電させて電気を使えるようになります。
災害時など防災訓練や避難訓練にどんどん活用してもらい、AEDや消火栓と一緒に誰にでも触ってもらえるような製品を年度内に開発する予定です。
大久保:富山の企業として良いところを教えてください。
水木:富山県は水が豊富で、水力発電による電気が豊富なんです。製薬会社が多くてアルミをたくさん使っています。建材会社や、自動車関連メーカーなどアルミを集積している会社も多くあります。
廃アルミを使って水素を出した後に、水酸化ナトリウムが出ますが、これをアルミに戻すことでもう一度電気エネルギーを得ることができます。
こういう循環する地域モデルを地域の皆さんと作りながら、これを全国、世界へと繋げるビジネスモデルを考えています。
大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。
水木:今自分がやろうとしている事業が良いものであるかを確認してください。確認は自分ではできないので、利害関係者以外の人の意見を聞くことをおすすめします。
利害関係者でなければ嘘をつかないので、客観的な意見をもらえるでしょう。
少し踏み出してみないと良いものであるかわからないので、臆することなく、前に出てみることが大事だと思います。
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(取材協力:
アルハイテック株式会社 代表取締役社長 水木 伸明)
(編集: 創業手帳編集部)