アクセルラボ 小暮 学|スマートホームでシームレスな世界をデザインする
スマートホームは高齢化が進む日本の住宅にこそ必要
スマートフォンやスマートウォッチの登場で私たちの生活は急速に便利になりました。しかし、手動で電気をつけたりエアコンの温度調整をしたりと、住宅にはアナログな部分がまだ多く残っています。
日本で高齢化が進み、住宅に必要な機能を自動化することで、多くの人の生活がより便利になると言われています。
このような中で、住宅内にある多種多様な家電メーカーの機器をIoTプラットフォームで連動させ、自動化させるスマートホーム事業を行っているのがアクセルラボの小暮さんです。
そこで今回の記事では、小暮さんがアクセルラボを起業するまでの経緯や日本におけるスマートホーム市場について、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社アクセルラボ 代表取締役/CEO & Founder
1976年生まれ。不動産投資会社営業職を経て、2004年、27歳で株式会社インヴァランスを設立。総合デベロッパーとして東京都内の投資用マンションにおけるリーディングカンパニーへと成長させる。2017年、アクセルラボ設立。空間とテクノロジーの融合を掲げ、スマートホームサービスなど様々な事業を展開。AI・IoT分野の海外スタートアップへの投資も積極的に行っている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
起業前は不動産投資会社で営業力を磨く
大久保:まずは起業する前までのご経歴を教えてください。
小暮:起業に関しては、思春期くらいから漠然と考えていました。
当時、ITの勢いが増している時代だったので、物を売れる人材になれば、事業を起こせると考えていました。
なので、営業会社を3社ほど受け、そこでたまたま不動産投資の会社に入社することになりました。
大久保:ゴリゴリ営業するような環境だったんですね。
小暮:仕事はすごく忙しく、休みもなかったのですが、すごく楽しかったです。
3年ほどその会社で仕事をして、元上司が作った会社を手伝うこととなり、さらにその会社で3年ほど仕事していました。
このように、社畜のように働いていたため、起業を志していたことはすっかり忘れていました。
しかし、元上司の会社である程度やり切ったことで目標を失ってしまい、次は自分の夢を追うことにした時に、起業という目標を抱いていたことを思い出し、26歳の時に会社を辞めました。
不動産投資会社営業職を経て、27歳で株式会社インヴァランスを設立
大久保:最初の事業はどのような内容だったのでしょうか?
小暮:やることは同じで、投資用不動産を販売する事業です。
高額商品を扱っていましたが、経験値がある分野だったので、比較的起業しやすかったですが、自分で起業してやるからには、より良いものを作ってお客様にもっと喜んでもらいたいと思っていました。
特にものづくりにはこだわりたいと思っていたため、2年目くらいから自社で物件を開発して、販売するようになりました。
その後、資本政策など様々なこともやりましたが、結果的に大手企業の100%子会社として入ることとなりました。
大久保:アクセルラボを設立したのはいつですか?
小暮:アクセルラボを設立したのは2017年です。2016年くらいからインヴァランスの社内で、スマートホーム開発を始めていました。
実はこの時にはすでに、住宅もソフトウェアが入っていくことが予想できたため、自社物件に入れていくことになりました。
最初に導入したのは、アプリケーションから鍵を開けたり、エアコンをつけたり、お風呂を入れられたり、といった機能です。これがお客様から大変喜ばれました。
いずれ誰かがやる事業だと思ったので、我々がやろうと大きく舵を切り、分社したという流れです。
大久保:スマートホームがこれから来るとわかったのはなぜですか?
小暮:当時のアメリカでのスマートホームの普及率は約40%ほどあり、新築にはほとんど入っている計算になります。
アメリカの市場において、最初は大手の通信キャリアがスマートホーム事業を始めたのですが、あまり伸びず、スマートホームプラットフォーマーと言われる会社が何社か出てきて、今は大手が何社かいるという状況になっています。
それと同時に、ホームセキュリティの会社も参入し、テクノロジーを使ったホームセキュリティを展開していきました。
この情報を掴んでいた上に、我々が日本でスマートホームを実際に作って提供した際には、非常に反応が良かったため、これからは日本でも来ると確信を持ちました。
高齢化が進む日本ではスマートホームのニーズが今後さらに高まる
大久保:小暮さんから見て、スマートホームは何が便利だと思いますか?
小暮:一度使ったら便利だということがすぐわかると思います。
中と外がかなりシームレスになりますし、エネルギーを使用状況に応じて管理できます。
さらにホームセキュリティに関しては、日本での普及率は7%ほどしかありません。一方アメリカでは、30〜40%ほどありますので、日本でもポテンシャルはあるのですが、日本の警備業法では30分以内に駆けつけなければなりません。
そのため、センシングやカメラなど、様々な機器を使うことにより、遠隔で探知できるようにしています。
大久保:具体的にどのような機能が選ばれていますか?
小暮:特に人気が高いのは「家の自動化」ですね。いまだに家の電気を全て物理スイッチで消しに行っていることが大半ですよね?色々な条件に連動して、自動で動かす機能は大変人気があります。
例えば、夜になったらカーテンを閉めて、電気を暗くする。部屋を涼しくする時は、窓を開けたり、エアコンをつけたりもします。さらには家を出る時は、電気を消して鍵を閉めるなど。
それらの動作を一つのソフトウェアで操作を可能にするホームオートメーションという機能もかなり便利です。
大久保:日本は高齢化が進んでいるため、本当はもっと必要なものなのかもしれませんね。
小暮:おっしゃる通りです。スマートホームが出てきて10数年たちますが、普及しない中、我々が上がってきている実感はあります。
さらに、これまで日本でスマートホーム市場に参入してきた企業はハードウェアに強みを持つ企業ばかりです。自社ブランドだけでやっている企業が多く、あまり広がっていません。
アクセルラボでは、スマートホームにはハードウェアではなく、ソフトウェアが重要だと考えています。なぜなら、家の中にはエアコン、シャッター、インターホン、お風呂など、様々なメーカーの機器が入っています。
そこでアクセルラボでは、それぞれの機器を繋ぐ、IoTプラットフォームを作りました。
IoTによるエアコンの自動温度調整を体験したらやめられない
大久保:今スマートホームの市場はどのような状況なのでしょうか?
小暮:今、ウォシュレットはかなり普及していますが、実は普及するまでに15年ほどかかっています。
この10年目くらいの時に何が起きたかというと、トイレにコンセントが付くようになりました。そこから5年で一気に伸びました。
このように、市場にハマるにはインフラも重要となってきます。
そういう意味では、新たに通信プロトコルができてきて、通信速度が改善し、消費電力の改善によって、今スマートホームの市場全体が伸びているフェーズになっています。
そこでアクセルラボとしては、あらゆるデバイスメーカーを繋ぎ込み、ソフトウェアの開発に特化した会社を目指しています。
大久保:この領域は、IoTに詳しい企業がやっていると思いますが、アクセルラボが技術革新を起こした企業をうまく取り込んでいくような立ち位置なのですね。
小暮:おっしゃる通りです。言うなればアクセルラボは「居住者に寄り添うことをソフトウェアで解決する会社」です。
今、エアコンの温度を自分で調整している方がシームレスなIoT化を体験したら、やめられないと思います。
大久保:今見えている未来のビジョンもシェアしていただけますか?
小暮:アクセルラボは、空間自体にテクノロジーを実装していくことがミッションです。
今時点でも、テクノロジーは個別では入っていますが、生きるということに対しての最適化にはなっていません。
そこでアクセルラボの技術を使って、生きやすさや心地良さを表現していきたいと考えています。この心地良いというところが重要なのです。
起業する上で最終的には大事なのは「楽しめているか?」
大久保:起業して大変だったことはありますか?
小暮:アクセルラボに関しては、私もある程度経験を積んだ上での起業です。
逆にインヴァランスに関しては、理想を求めて始めたのですが、自分が走っていくことに楽しさを感じていました。
そこで仲間を集めて、同じ方向を向いて走っていけるか?と考えながらやっていましたが、起業する上で最終的には大事なのは「楽しめているか?」ということだと思っています。私自身も楽しくないことはやらないと決めています。
その点では、チャレンジャーであることは、すごく刺激を受けます。
今、スマートホーム領域の企業のサードパーティーもすごく伸びています。その中でアクセルラボが残りの6,000万世帯ある住宅市場に参入していくのは、ワクワクします。
日本は頑張った起業家が報われる平等で希望溢れるマーケット
大久保:起業家に向けてのメッセージをいただけますか?
小暮:起業を全力で楽しんでください!ということをまずお伝えしたいです。
それと、日本は高齢化社会で閉鎖的で、チャンスがあまりないと思っている人も多いとは思いますが、全然そんなことはありません。
私の両親は学校の先生だったのにもかかわらず、大学も出ず、今は営業のたたき上げでテックカンパニーの代表をやっていますが、経歴関係なく良い製品を純粋に認めてくれるマーケットがあります。それは、銀行や株主も同じです。
頑張った人が報われる、平等なマーケットで、希望があると思っています。
もちろんアメリカと比べると劣る部分もあるかもしれませんが、日本市場も能力とチャンスとアイディアがあれば勝負できるマーケットだと思いますので、ガンガン挑戦してほしいと思います。
訳がわからず大企業にずっといるよりも、起業してしまった方が良いです。
大久保:ポジティブなお話をありがとうございました。
大久保の感想
(取材協力:
株式会社アクセルラボ 代表取締役/CEO & Founder 小暮 学)
(編集: 創業手帳編集部)
また繰り返し「心地よさ」というキーワードが出てきました。同じプロダクトでも使い勝手が良いかどうかで成否が分かれてきます。
個々の製品ではなく、スマートにつなぐ役割に徹して「心地よさ」を武器にしてスマートホームという巨大市場に挑戦する小暮さんの挑戦に注目ですね。