エンジェル投資家から出資を受けるための方法
個人起業家がエンジェル投資家から資金調達するには?
(2017/11/20更新)
「資金調達どうしよう?」というのは起業家の多くが直面する悩みではないでしょうか。
融資や助成金、クラウドファンディングなど、起業の資金調達方法には様々な手段が考えられます。
今回は、そんな数ある資金調達方法の中でも注目の、「個人で起業家に投資をしている『エンジェル投資家』から投資してもらう方法」についてみていきたいと思います。
この記事の目次
エンジェル投資家って?
エンジェル投資家とは、企業に投資する個人投資家のことをいいます。主に起業からごく初期の段階、場合によっては準備の段階に出資して、事業の立ち上げを資金面で支える役割を持っています。
元々欧米で劇団や役者を支援する人のことを「エンジェル」と呼んでいましたが、1980年頃から「起業家に投資する人」の意味にも使われるようになりました。
ヒットすれば大きいけれど芽が出ないまま終わる可能性も少なくない、個性あふれる役者や起業家に温かい支援をさしのべる人には「エンジェル(天使)」という表現がぴったりなのかもしれません。(「投資家」と言うには違和感がありますが、起業する時に少しずつ資金を出して協力してくれる家族、親戚、友人知人も広い意味では「エンジェル」と言えるでしょう。)
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタル(VC)の違い
ベンチャー・キャピタル(VC)とエンジェル投資家は起業家を投資対象にするという点では共通ですが、エンジェルが個人投資家なのに対して、VCはハイリスク・ハイリターンの利益を得ることを目的に投資事業を行う会社です。
金融機関や企業、大学などが母体となって設立するもののほか、第三者から独自に資金調達して活動するVCもあります。
また、VCは起業初期の段階だけでなく、大きく成長を始めて上場やM&Aなどに向かっていく段階の企業を投資対象とするものも多く、1件あたりの投資金額でも、エンジェル投資家より大規模なもの(数千万~数億円など)を多く手掛けています。
個人のエンジェル投資家に比べてVCは公開されている情報が多くあります。起業家としては、起業家向け施設の運営、母体企業などを含めた組織的なサポート、研究者の創業支援など、VCそれぞれの特徴をみながら、事業分野や計画、必要な資金規模に合わせて選択することが可能です。ただし、調達希望額が少額すぎたり、株の上場やM&Aなどを目指さないなど、大きな利益が見込めない事業はそもそも投資対象になりにくい面があります。
エンジェル投資家とクラウドファンディングの違い
クラウドファンディングは、インターネット上のサービスとして、資金を集めたい人と、プロジェクトを支援したい人の双方が気軽に参加できる資金調達の仕組みです。
起業家など、資金を集めたい人がプロジェクトを立ち上げ、それに対してネットの向こう側の多くの人がそれぞれ数千円~数十万円程度の資金を提供して支援します。
資金提供者には、リターンとして製品やサービスの提供を約束する形のものが一般的です。(リターンはお礼状のみ、など寄付に近いものもあります。)
株などを発行して受け入れるエンジェル投資と異なり、会計上、起業家側が受け取る資金は製品・サービス代金の前受金や寄付金の受取りと同じ扱いになります。
(株を渡す「株式投資型クラウドファンディング」も一部でサービスが始まっています。)
クラウドファンディングは、プロジェクトに多くの人の共感を集めることができれば、予想以上の金額を短期間に集めることができる可能性があります。
一方、エンジェル投資家の経営的なアドバイスのように、支援する人から資金以外の面でのサポートなどは期待しにくいところです。
エンジェル投資家が起業家へ投資する目的
エンジェル投資家として知られる人は企業経営者や元経営者、自身も起業して成功した人などが中心です。
多くのエンジェル投資家は、自身の資産と経験を活かして、若い起業家や新しい企業を育てたい、応援したいといった動機を持って投資を行っています。
「社会貢献のつもりでやっている」という人など、金銭的利益よりも起業家の挑戦を後押ししたいという目的意識を持って取り組んでいるエンジェル投資家も少なくありません。
投資額の相場は?
投資額はエンジェル投資家それぞれの考え方次第ですが、おおむね1社あたり数百万円~数千万円程度とみられます。著名なエンジェル投資家の中には「1社100万円」などとルールを決めて取り組んでいる方もいるようです。
エンジェル投資の仕組み
エンジェル投資家の資金を受け入れる方法はいくつか考えられますが、株式会社であれば第三者割当増資と転換社債型新株予約権付社債(CB)がよく使われます。
第三者割当増資では、会社がエンジェル投資家に新株を引き受ける権利を割り当てることで資金を受け入れ、増資します。
CBは、一定の条件で株に転換する権利をセットにした社債です。条件に従って株に転換するか、社債として持ち続けるか、投資家側が選ぶことができます。
会計上は、株に転換するまでは負債として計上されます。
また、どちらも株主総会での特別決議が必要になります。
なお、株式会社以外の法人の場合は資本や経営などのあり方が異なりますので、出資の受け入れを検討する際は会社法や自社の定款の規定などを確認する必要があります。
例えば合同会社の場合、基本的には出資者=社員=経営者であり出資額にかかわらず同等の議決権を持つとされていますので、定款に経営を行う社員(業務執行社員)を指名する、議決権割合について定めるなどの対応が考えられます。
日本にエンジェル投資が広がってきた背景
日本のエンジェル投資家はアメリカなどに比べまだ少ないですが、ベンチャービジネスに注目が集まる中、長年有力企業をリードしてきたベテラン経営者や、IT起業で成功した人などを中心にエンジェル投資に取り組む人が増えてきたことで「エンジェル投資」という言葉も定着してきました。
また、国も創業を支援するための税制優遇制度「エンジェル税制」を導入してエンジェル投資を後押ししています。
エンジェル税制では、創業から(最長)10年未満の企業を対象として出資をし、その企業の株を取得した個人に対して大きく2つの優遇措置があります。
(1)対象企業に出資して株を取得した時(所得控除または株式譲渡益からの控除)
(2)対象企業の未上場株を売却したり、対象企業の破産、解散などにより損失が出た時(株式譲渡益から相殺)
エンジェル税制の対象企業となるには企業側でもいくつかの要件を満たすことや手続きが必要になりますが、投資家にとっては出資する時だけでなく、投資先の企業が失敗して損失が出るリスクに対しても一定のメリットが得られる制度になっています。
エンジェル投資家への説明材料としてはもとより、少額の出資もエンジェル税制の対象になりますので、身近な友人、知人などに協力を依頼するうえでも見逃せない制度です。
このような取り組みもあり、現代は、起業家にとってもエンジェル投資家から資金調達するチャンスが増えている好環境といえるでしょう。
関連記事:ベンチャー企業の強い味方「エンジェル税制」!担当者連絡会議が開催
エンジェル投資家から出資を受けるメリット・デメリット
メリット
返済不要で資金が得られる
エンジェル投資家から出資を受ける一番のメリットとしては「出資は借金ではない」ことが挙げられます。銀行や公庫などからの借入金は利息をつけて返済しなくてはなりませんが、出資はそもそも返済の必要がありません。上場やM&Aなどに成功すればエンジェル投資家にも利益が得られる一方、たとえあなたの会社が失敗しても、株などが紙くずになるだけです。(もちろん、人間関係や信用問題は別ですが。)
また、エンジェル投資家が事業のアイデア、技術、すぐれたチームなどに納得できれば担保や保証も必要ありません。
会社の信頼向上につながる場合がある
有力な元経営者、起業家などが株主などとして名を連ねることで、他の投資家や取引先に対して会社の信用を補完する効果を生むことがあります。
経営のアドバイスが得られる
エンジェル投資家の持つネットワークや経験、アドバイスが経営や営業のサポートになることもあります。
場合によっては株主としてだけでなく、社外取締役などとしてより深くコミットしてもらうことも考えられます。
デメリット
経営に介入される
メリットと紙一重ですが、エンジェル投資家側としては親切心や良かれと思ってアドバイスしたものが、起業家にとっては「余計な介入」と感じられて不満に思うケースもあるようです。
エンジェル投資家といえども一個人ですので、人間関係が崩れるとさまざまな影響が及ぶ可能性がありますので、出資後も良好なコミュニケーションを維持することが欠かせません。
もっとも、自己資金だけならどんな経営判断も、極端に言えば廃業も自由ですが、第三者の投資家の資金を受け入れるならば信義にもとらない誠実な経営に努める責任があることは言うまでもありません。
詐欺などの危険性
また、未上場企業の株の売買は容易ではありませんが、逆に言うと、いったん投資家に渡った株を手放してもらうのも難しくなりますので、株主構成を考えながら進める必要があります。
例えば、「よく知らない人が出資してくれたが、実は暴力団関係者だった」となると大企業との取引や株式上場などの際に深刻な問題になります。未公開株詐欺事件などもありますので、悪意を秘めた「自称エンジェル投資家」には注意が必要です。
税務的な免除が受けられない場合がある
出資の受け入れにより資本金が1千万円を超えると、消費税の納税義務免除の対象から外れるため、起業1期目、2期目でも消費税の納税義務が生じます。
資本金額によって扱いが変わる税制などへの目配りも欠かせません。
投資家の心を動かすためにするべき準備5つ
エンジェル投資家に出会い、しっかりと自己アピールをして投資してもらうことで、あなたの起業は成功に大きく近づくことでしょう。
いざエンジェル投資家と会うチャンスがあった時にあたふたしないよう、まずはしっかりとした準備が欠かせません。
1.ミッション・ビジョンを掲げる
起業の原点ともいえることですが、多くのエンジェル投資家の思いに応えるうえでも特に大切なポイントです。
事業を通じてこの世界にどのような貢献をし、良い影響をもたらそうとしているのか。
自分たちはいったい何のためにこの事業を行うのか。
忙しい毎日の中で忘れがちなことですが、大きな視点で自分の事業を改めて考える機会にしましょう。
2.事業について深く熱く考え、事業計画書を作成する
「大きな視点」と書いたばかりですが、ふろしきを広げるだけでなく地道な計算と計画が必要なのは言うまでもありません。
エンジェル投資家自身も優れた経営者が多いので事業計画の良し悪しはすぐに見抜かれるでしょう。
また、「成功とは成功するまで続けること」(松下幸之助)という言葉もありますが、起業して直面するさまざまな困難を乗り越えてやり抜く起業家の熱意をしっかり伝えることも大切なポイントです。
3.起業したい分野や業界について綿密に調査する
エンジェル投資家との関係に限らず、起業するなら競合の状況や業界の動向や先行する企業など十分に調べておく必要があります。
起業分野や業界について最低限の知識や情報をふまえない提案に説得力はありません。
4.できるだけ多くの協力者を作る
どんな事業でも一人ではできません。身近な配偶者や家族、親族はもちろん、友人、知人、場合によってはこれまでの仕事の関係者など、できる限り協力の輪を広げましょう。そうした中から思いがけないサポート得られることもあります。
逆に言えば、身近な人の理解・協力を得られないようでは、赤の他人であるエンジェル投資家を納得させるのはいっそう難しいと覚悟する必要があるともいえます。
5.起業家・経営者とのネットワークを作る
事業内容は違っても、起業や経営をめぐって多くの人が直面する共通の課題も少なくありません。
それらの課題を相談できる起業家や経営者のネットワークを持つことも有効です。そうしたネットワークの中でのあなたの評価が、エンジェル投資家の投資判断をサポートする可能性もあります。
実際、多くのエンジェル投資家も自身の持つネットワークや人脈を通じて起業家と出会い、投資を行っています。
SNSなどのほか、法人会、商工会議所、商店会、業界団体など起業家・経営者が集まる組織を活用したり、イベントやセミナーなどもきっかけ作りに有効です。
エンジェル投資家はどこにいる?3つのアプローチ方法
ここまで読んで「そうは言っても、結局エンジェル投資家ってどこにいるの?」という方も少なくないと思います。
実際は、人づての紹介が一番多いようで、前述のようにネットワーク作りがエンジェル投資家に出会うために非常に重要ですが、それ以外にも出会う方法はあります。
1.経営者に直接連絡する
「ぜひこの人にお願いしたい」という人に手紙やメールなどで直接連絡してみるのは一番ストレートな方法です。文面は丁重かつ簡潔に要件を伝えて、面談の機会を申し込みます。ただし、必ず返事をもらえるとは期待しないでおきましょう。
オススメはしませんが、提案書などを持って直接訪問して成功した事例もあるようです。門前払いの可能性が高いですが、折れない心と熱意を持って当たれば最終的に理解してもらえることもあります。
2.イベント・セミナーなどで接触する
起業関連のイベントやセミナー会場には、起業家だけでなく、エンジェル投資家が参加している場合もあります。
例えば、事業プランコンテストなどに出場した起業家が、優勝はできなかったけれど来場していた投資家に評価されて投資を受けられた、という話も聞かれます。
ベンチャーキャピタルや金融機関などのほか、全国各地の自治体でもイベントを開催していることがあるので有効活用しましょう。
3.マッチングサイトを利用する
インターネット上に起業家とエンジェル投資家を引き合わせるサービスが展開されています。マッチングサイトに掲載されているエンジェル投資家のプロフィールや関心分野などを参考にしながら提案機会を得ることができる仕組みです。
なお、会費、成功報酬などの費用がかかるものもあります。
投資家選びは慎重に!エンジェル投資家チェックポイント
エンジェル投資家とは長いお付き合いになります。実際に会って話して、お互いよく理解して気持ちよく付き合える人を選びましょう。
【望ましいポイント】
- 尊敬できると思える人である
- 関係者に話を聞いたり、インターネットやSNSなどを調べても評価が高い人物
- 事業内容について理解、関心がある
- 出資以外にも経営のことなど相談に応じてもらえる
- あなたの会社以外にもエンジェル投資の経験がある
- 場合によっては社外取締役就任など、より深くコミットしてもらえる
【避けるべきポイント】
- 暴力団など反社会的勢力の関係者
- 生活状況や経歴などに見合わない投資など、資金の出処が不審
- 自称する経歴やプロフィールに裏付けや周辺情報が得られない
- 「投資の元本保証」などありえない条件を要求する
- 投資とひきかえに自身や関係者の役員就任や入社を要求する
- 投資契約書にない内容を口約束したがる
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(執筆:創業手帳編集部)
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