攻め?守り?コンプライアンスの本質とは
CoCo壱番屋に学ぶ「攻め」のコンプライアンス
(2016/03/29更新)
前回は、マイナンバー制度導入が始まったのをきっかけに、「中小企業こそ取り組むべきコンプライアンス」についてご紹介しました。
前回もお伝えしたように、「マイナンバーの安全管理」はコンプライアンスに含まれるもので、「ITによるファイアーウォール」だけではなく、「人(従業員)によるヒューマンウォール」を必要としています。
多くの経営者はコンプライアンスについて、厳しい規定やルールといった「守り」のイメージを持っています。
経営者は、日々取り組む売上向上、利益の確保、新製品開発といったことを「攻め」として優先的に考えているからかもしれません。
しかし、コンプライアンスを考えることは、本当に「守り」なのでしょうか。
今回は、中小企業の経営者、従業員がコンプライアンスについて意識を高めることで、「組織文化」が変わり、「継続的な企業の発展」につながる、ということを
CoCo壱番屋の事例を交えてご紹介します。
この記事の目次
「法令遵守」だけじゃないコンプライアンスの本質
まず、「コンプライアンス」というのは、法令遵守のことですが、企業を取り巻くコンプライアンスは、下記①〜③のような、もっと広い意味で捉えなくてはなりません。
- 法令遵守・・・企業を取り巻く「法令」を守る
- 社内規範・・・「社内規則」や「マニュアル」などのルールを守る
- 倫理規範・・・社会の「常識」や「倫理」を守る
企業が、そして、経営者が考えなければならない「コンプライアンス不祥事防止」には、万一情報漏えいが起きた場合の罰則が非常に厳しいマイナンバー制度の他にも、まだまだたくさんあるのです。
コンプライアンスで考慮すべきこととは
コンプライアンスとしては以下のようなことを考える必要があります。
- 営業秘密・機密情報漏えい
- インサイダー取引
- 利益供与・相反
- 製造物責任
- 各種ハラスメント
- 個人情報漏えい
- 企業間取引
- 労務トラブル
- 粉飾決算
- 不正経理
よく知られている例として、④製造物責任では、昨年発覚した横浜でのマンション傾斜に関わるデータの改ざん、⑧労務トラブルでは、有名な某居酒屋チェーンの長時間労働に関わる事件、そして⑨粉飾決算では、大手製造業の長年に渡る不正会計などがあります。
中小企業で求められるコンプライアンスの取り組みとは
確かに中小企業は、マイナンバーのように新しい制度が導入されても、専任として従事する人を用意したり、コンプライアンス委員会などを設置したりすることは人的リソースやコストの関係で難しいという課題があります。
ただ、このような大きな事件だけではなく、中小企業でも、
- 従業員によるちょっとした噂話で話してしまったトピックスが競合他社に漏れてしまった
- 家族経営による内紛が起きてしまった
ということが発生するリスクはあるのです。
中小企業ならではの制約がある中で、これらの万一の際の「不祥事防止」として、どのような対策を講じるべきでしょうか。
コンプライアンス不正の大きなニュースが流れると、一時的に「自社は大丈夫だろうか」と心配になり、担当者に確認したものの、担当者からの「うちは大丈夫です」という中身の確認をしないやりとりで終わっていたり、「更に厳しい規定の一文を加えましょう」といった形式だけで終わっていたりすることです。
しかし、一番大切なのは、従業員が自分ごととして考える「意識変革」なのです。
従業員が自発的に取り組む「意識変革」を
企業に関わる不祥事を防止するのに重要なことは、「IT導入」だけではなく、従業員が自発的に
- 不祥事によるリスクを「自分ごと」として捉える
- 現場から湧き上がる対策を納得したかたちで決定する
- 人(従業員)の教育と研修の機会を持つ
ことが大切になります。
この「自発的に」がポイントです。誰かに強制されることなく、現場に即して決めたルールならば、従業員自らが行動するようになるからです。
失敗例やアイデアを持ち寄り、自分たちで決めていくという、「意識変革」こそが、一緒に働く同僚に良い影響を与え始め、やがてステップ3である「組織文化」が変わっていきます。
CoCo壱番屋に学ぶ「攻め」のコンプライアンス
最近のニュース「CoCo壱番屋」の廃棄カツ流動事件は、コンプライアンスを経営の「攻め」に転じた良い例です。
食の安全管理を厳密にするなかで、廃棄カツを第三者の産業廃棄物処理業者に依頼したにも関わらず不正に横流しされていたことを発見したのは、同社のフランチャイジーに勤務するパートの方だったそうです。そしてその方がすぐに本社に報告し、本部が迅速に事実関係を公表しました。
CoCo壱番屋としては、信用を損ないかねない事態でしたが、「廃棄理由をきちんと説明し、不正転売までを突き止め、公表するという透明性を持った迅速な行動」が世間の評価を受け、逆に株価が向上しました。
これこそが、コンプライアンスが実は守りではなく、「攻め」である実例です。そして、従業員全員が自分のことのように会社のリスクを考え行動できたからこそ、会社の社会的評価が上がりました。経営者が現場の声を大切にする姿勢を示すことで、従業員自らが考えて行動するようになれば、真の意味での「意識変革」が進むことを意味しています。
現代の時代の流れに沿った「継続的な企業の発展」へ
現代の社会問題として、「長時間労働」、「うつ病の増加」、「労働力の低下」などがあり、その解決策として、「女性活躍推進」、「生産性の向上」、「ダイバーシティ」、「ストレスチェックの義務化」などの取り組みが実施されています。
日本は長く根付いてきた「忠実に長時間労働をする」という働き方からの転換期を迎えており、転換を実現するには、会社のリスクを自分のこととしてとらえるような従業員全員の意識変革が必要です。
このマイナンバー制度の導入をきっかけに、
- コンプライアンスへの意識を持つ
- 従来からの常識や小さな慣習をひとつずつ変えていく意識を持つ
という従業員ひとりひとりの意識変革ができれば、全員の行動が掛け算のように結びつき、新しい価値を自ら創造できる従業員が増え、組織文化を変えていきます。
そしてそのような環境・企業で働き続けたいと思う従業員が増えるからこそ、ステップ4である「継続的な企業の発展」へと繋がっていくのです。
(監修:JCPA認定コンプライアンスコンサルタント 久保田一美(くぼたかずみ))
(編集:創業手帳編集部)