“お出かけ隊”が来てくれる!ママ必見の宇部市の女性起業家支援策とは?
ベンチャーマインドを持つ山口県初の女性市長、久保田后子宇部市長インタビュー
(2016/02/23更新)
近年、「女性が活躍する社会」を後押しする政策を政府が打ち出すにつれて、女性起業家にスポットライトが当たることも増えてきました。そんな中で、市をあげて手厚い支援を多数取り揃えている、山口県宇部市の女性市長、久保田后子氏に、宇部市の手厚い起業化支援策や今後の施策など、お話を伺いました。
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“半農半○”?新たな起業スタイルを提案する宇部市の充実の起業家支援策とは?
東京都世田谷区生まれ。1978年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、ドイツのミュンヘンで1年間学ぶ。1980年に帰国後は民間企業に勤務。1990年に夫の故郷である宇部市にIターン。1995年に山口大学大学院経済学研究科修士課程修了。宇部市議会議員・山口県議会議員を経て、2009年宇部市長に初当選を果たし、現在2期目。山口県内では初の女性市長となった。
チャレンジするなら無防備ではいけない
久保田:創業にあたってみなさんにお伝えしたいのは、人生は一度きりなので、悔いのないようにチャレンジをしてほしいと思っています。
ただし、チャレンジするにあたって、無防備でやるのはもったいない。やっぱりきちんと情報を取る必要があります。
役所の情報を注視し、使える制度を使ってほしいと思います。
幸いにも今は情報社会だから、情報を取りに行こうと思えばいくらでも取れますが、自分が取った情報が適切かどうか判断するときに迷う。
その時に一緒に考えてくれるのが仲間であり同志です。だから同志を作ることが大事です。
1人の本当に信頼できる同志が、もしかしたら事業パートナーになるかもしれないし、自分の私生活を支える家庭のパートナーかもしれない。
何をやるにもそういうパートナー、同志を作る必要があると思います。私自身が政治家を続ける中でも非常に強く思っているところです。
今の日本は、世界的に見てもこれだけの経済大国なのに、創業、起業する人の数が全体の労働人口の4%程度だという数字が出ています。
先進国の中でも有数の高学歴で豊かな国なのに創業しようという人たちがあまりに少ないのです。
人生はワンチャンスなのだから、ワークライフバランスを自分で作るチャレンジができるといいですね。
チャレンジしろと言いながら手堅くというのは矛盾して聞こえるかもしれないのですけれども、自分のチャンスを作っていくための準備、手堅い所を押さえて創業というチャレンジの成功率を高めたほうが面白いと思っています。
久保田:女性と男性の家事や家庭に対する1日の時間の配分は、女性が5時間、男性が1時間という数字が出ています。
女性が仕事もしながら家庭のこともしろでは体が持ちません。やはりワークライフバランスが大切なのです。
でも、家事労働の中から見えるものもあるのです。実はそれが創業起業のニーズであり、シーズでもあるのです。
例えばコップ一つ取っても、デザインはいいけど高齢者は使いにくいとか、小さな子どもは危なくて使えないとか、生活経験に基づく発想をいっぱい持っているのです。
一日の大半を整えられたオフィス空間で過ごしていると、生活のなかの不便さをあまり感じないので、新しい事業モデルを生活者の視点から考えようと思ってもいいアイデアがなかなか浮かばないのではないでしょうか。
朝の限られた時間で朝食とお弁当を作って、家族に食べさせて、ゴミ出しして、保育園の送り迎えをしてから出勤して、帰ればお腹を空かせた子どもに食べさせて、遅く帰ってきた家族にまたご飯の用意という働く女性も多いと思います。
日本社会が重厚長大からサービス重視の時代になっている今、まさにサービス経済の勝負でもあるのです。
女性の生活感覚がビジネスの可能性を持っているのです。新製品開発などの女性チームを発足させる企業も増えています。
金融機関も女性の支店長が営業成績をあげる例も出ています。女性が役割分業の中で担ってきたものが、実は今の日本社会で必要になっている部分でもあるのです。
育児、家事、介護が今やビジネスになっています。家事労働を経済価値にしてみたら大変です。
断捨離がビジネスになったじゃないですか。「片づけコンサルタント」の近藤麻理恵さんがブームになりました。
主婦が家でやっていたことが、ビジネスになって世界に発信しているんですね。
物を片付けるときに、「ありがとう」と言って捨てる、感謝の気持ちを持って選別するということが、世界の人々に驚きを持って受け止められたわけですよね。
「要るか要らないか」という判断基準ではなく、自分の人生を振り返りながら捨てるものを選ぶという視点が新鮮ですよね。
それはまた、日本人ならではの「心」のような気もします。そういった意味で、女性が担ってきた役割分業社会を私は肯定しているわけではありませんが、歴史的に女性が担ってきたがゆえに、今、その生活感覚をビジネスに活かし、より豊かで安全な社会を作り、経済を動かす力にもなっていくと思います。
女性が輝ける社会にするための宇部市の対策
久保田:ただ、イクメンが増えているとは言え女性の場合は子どもがいたりしてなかなか事業を起こすことがむずかしいです。
そこで宇部市としては働きたい女性の再チャレンジ応援の取り組みを積極的に行っています。
創業セミナーに行きたいとか座談会に行きたいと思っても、子ども連れは大変ですから、宇部市ではちゃんと託児コーナーを設けています。
それから、女性の就労に関する総合相談窓口として、「ウィメンズワークナビ」を市役所の中に作りました。
これは、女性が仕事を始めるときに、子どもの保育園や親の介護をどうしようかということもあるので、総合的な相談体制が必要です。
女性の就職・起業は、実は福祉施策を一緒に紹介することが大切です。仕事をしたいと思っても、相談窓口に行くだけでも大変な女性たちがいます。
そこで、宇部市役所の「ウィメンズワークナビ」に行けば、福祉担当者がそこに来て「お住まいがここならば、ここの保育園に入れます。」といった案内ができるのです。
「デイサービスが必要ならケアマネさんを紹介しましょう」と、仕事探しから家庭の問題の解決まで、一緒に支えられるんですね。
ここから離陸していった女性も少なくありません。
「ウィメンズワークナビ」は、お母さんたちが集まっている子育てサークルに出向く「お出かけ隊」もやっています。
市役所に相談にも来られない人たちがいるわけですから、きめ細かくサポートをしています。そのぐらいてんこ盛りです。
久保田:そうですね。
まずは、本気でやっている行政の窓口に足を運んでみるということが大事だと思います。
創業手帳さんにおかれましても、今度「本気度たっぷり自治体一覧」みたいな企画を作ってもらったらいいんじゃいでしょうか。
会社を辞めて創業しようかどうしようか、でも不安だなと言う時に、やっぱり役所の窓口って頼りがいがあると思うんです。
久保田:あと、東京から移住して宇部市のサポートを全部使って起業すると決断しても、「住むところをどうしよう」って問題があるじゃないですか。
宇部はそれも大丈夫です。宇部も全国の多くの商店街と同じように、まちなかの商店街は厳しい状況にあります。
でも逆に言えば、このような商店街を活用して、若者や女性たちの住まいやシェアハウス、コーポラティブハウスに作り替えできないでしょうか。
市営住宅だといろいろな基準があって難しいのですが、政策目的で支援する住まいを作っていこうということです。
安価なインキュベーションオフィスみたいなところで、最初からパソコンと机がある。
そして、家がすぐ通りの向こうにあって24時間保育があるって、起業するのに良いじゃないですか。そういうエリアを街の中心に作りたいと思っています。
ベンチャーマインドを持つ政治家として
久保田:まだまだ日本の社会って女性が十分活躍できていないと思います。
女性は家庭にいて当たり前みたいなところが長くありましたから。そういった役割分業社会の中では、女性が発言すると生意気だ、ヒステリックだと言われます。
男性が同じことをやると、リーダーシップがあると言われるんですね。ジェンダーバイアスと言われますが、そういうものが日本社会の中に色濃く残っています。
私が約20年前に最初に市議会議員になった時、議員に立候補した私のキャッチフレーズは、「台所の声を届けます」だったんです。
一番住民に身近な市議会にもっと生活者の声を反映させたいと思ったんです。
ちょうどその時、1人目の子を産んで夫と共に宇部市にIターンして、2人目を出産した直後でした。子育て真っ最中の30代の主婦だったんですね。
政治もベンチャーマインドだと思います。
自分の家庭を良くすることは自分の努力でできるけれども、我が子だけがいい空気を吸える、我が子だけがいい環境で学び育っていけるかといったら、そうはなりません。
まちが良くならないと限界があるわけです。それなら良いまちにしようというベンチャーマインドをもって市議会議員選挙に挑戦しました。
政治の世界では、「若い女性が何をやっているんだ」、「生意気だ」と散々言われるなど辛い思いもたくさんしました。だけど、一方で支えてくれるたくさんの市民が「負けるな」と励ましてくれて今日があるんです。
だから、仲間が、同志が必要なのです。政治の世界では、私は一匹狼で無所属・無党派です。
主婦、子育て真っ最中の若い女性議員は、当時は宇部市議会始まって以来でした。
様々な攻撃を受けましたが、常に支えてくれる人がいました。私が県議会議員選挙に挑戦した時も、もちろん嫌なことがいろいろありましたが、応援してくれる人のほうが多かったのです。
バックアップしてくれる市民があって、今日の私があります。
ベンチャーで商品開発をする人も同じだと思います。
たった1人のニーズから思いついた商品かもしれないけれども、この商品によって多くの人が便利になった、救われた、楽になったってことがあると思います。
自分の作り上げるものが社会に良き変化をもたらす。まさにベンチャーマインドだと思います。
私はそれを政治の場で挑戦しています。
無所属無党派でやっていくことはすごくリスクもあるし、厳しい目に遭うけれど、支えてくれる人たちと、私には見えていなくても応援してくれる人がいることを信じて「志」を果たしたいと考えています。
(取材協力:宇部市長/久保田后子)
(編集:創業手帳編集部)