協調支援型特別保証制度とは?中小企業の経営をサポートする保証制度の概要などを解説
2025年3月から新たな保証制度がスタート
企業は、売上げの拡大やコスト上昇、人材確保や後継者不足、賃上げなど、あらゆる問題や課題を抱えて事業を継続しています。
特に人材不足や人手不足といった問題は、今後も状況が悪化する恐れがあります。
解決する見通しが立たなければ疲弊する従業員も増えていき、生産性や売上げにも影響を与えるかもしれません。
そのような中、中小企業が抱える課題を解決する取組みを後押しするため誕生したのが「協調支援型特別保証制度」です。
今回は、協調支援型特別保証制度の概要について解説するとともに、活用するメリットや利用に向いている企業の特徴、申し込みをする際のポイントなどを紹介していきます。
課題解決を目指したい企業や協調支援型特別保証制度について理解したいと考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
協調支援型特別保証制度の概要
まずは、協調支援型特別保証制度がどういった制度なのか、その概要を解説していきます。
協調支援型特別保証制度とは、原材料の高騰や人手不足の影響を受けている中小企業・小規模事業者に対して金融機関のプロパー融資や保証付き融資を組み合わせることで、金融仲介機能の強化を図り、省力化投資による中小企業の経営の安定化や事業の発展、幅広い経営課題解決への取組みを後押しする保証制度です。
中小企業庁が主導している制度となり、各都道府県の信用保証協会が窓口となって全国的に実施しています。要件や保証率、保証期間などは以下の通りです。
主な要件
協調支援型特別保証制度は、以下のいずれかの要件に当てはまる中小企業・小規模事業者が活用できる制度です。
1.申し込む金融機関から保証付き融資制度の実行と保証付き融資額の1割以上のプロパー融資を受ける
2.申し込みを行う金融機関の支援を受けながら自ら経営行動計画の策定、計画の実行、進捗の報告を実施する
上記の1については、保証付き融資とプロパー融資は原則同時に受ける必要があります。
保証率・保証限度額
保証率は0.45%~1.90%です。要件や保証の申込受付日に応じて事業者負担が異なる点が特徴です。
また、補償限度額は2億8,000万円で、組合等の場合は4億8,000万円となります。
保証期間
保証期間は、返済の仕方によって異なります。
-
- 一括返済:1年以内
- 分割返済:10年以内
返済方法は自由に選べますが、返済が遅れてしまえば信用情報に傷がつくほか、追加の費用が発生する可能性があるので注意してください。
据置期間
措置期間とは、融資における返済方法のひとつです。元金の返済を一定期間猶予してくれるため、期間中の返済は利息のみを支払うという特徴があります。
措置期間中は、返済の負担が少ないので資金繰りに余裕を持たせることが可能です。
ただし、措置期間も返済期間に含まれるため、措置期間を終えた後には支払いの負担が大きくなってしまいます。
措置期間が長ければその分事業に集中できますが、思うような結果が出なければ後々厳しい状態になりかねないので注意しておいてください。
協調支援型特別保証制度の措置期間は、以下のようになっています。
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- 運転資金:1年以内
- 設備資金および運転設備資金:3年以内
保証料率の補助
協調支援型特別保証制度では、国は信用保証料の一部を補助してくれるので、企業の負担が軽減可能です。
補助率に関しては、申し込みの受付日と当てはまる要件によって異なります。
【表A】※国が1/2相当を補助
区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
保証料率(%) | 1.90 | 1.75 | 1.55 | 1.35 | 1.15 | 1.00 | 0.80 | 0.60 | 0.45 |
国の補助(%) | 0.95 | 0.87 | 0.77 | 0.67 | 0.57 | 0.50 | 0.40 | 0.30 | 0.22 |
事業者負担(%) | 0.95 | 0.88 | 0.78 | 0.68 | 0.58 | 0.50 | 0.40 | 0.30 | 0.23 |
【表B】※国が1/3相当を補助
区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
保証料率(%) | 1.90 | 1.75 | 1.55 | 1.35 | 1.15 | 1.00 | 0.80 | 0.60 | 0.45 |
国の補助(%) | 0.63 | 0.58 | 0.51 | 0.45 | 0.38 | 0.33 | 0.26 | 0.20 | 0.15 |
事業者負担(%) | 1.27 | 1.17 | 1.04 | 0.90 | 0.77 | 0.67 | 0.54 | 0.40 | 0.30 |
【表C】※国が1/4相当を補助
区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
保証料率(%) | 1.90 | 1.75 | 1.55 | 1.35 | 1.15 | 1.00 | 0.80 | 0.60 | 0.45 |
国の補助(%) | 0.47 | 0.43 | 0.38 | 0.33 | 0.28 | 0.25 | 0.20 | 0.15 | 0.11 |
事業者負担(%) | 1.43 | 1.32 | 1.17 | 1.02 | 0.87 | 0.75 | 0.60 | 0.45 | 0.34 |
上記、制度の要件①を満たす場合には、受付日によって表A~表C分の補助率に相当する額を国が補助してくれます。
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- 2025年3月14日~2026年3月31日受付分:表A
- 2026年4月1日~2027年3月31日受付分:表B
- 2027年4月1日~2028年3月31日受付分:表C
上記要件②を満たしている場合には、受付日を問わずに表Cの補助率に相当する額を国が補助してくれます。
対象期間
協調支援型特別保証制度は、2024年3月14日から取り扱いがスタートした時限的な保証制度です。時限的なので、一定の期間のみ申し込みを行えます。
対象となる期間は、2028年3月31日までです。申し込みをする期間によって補助率も異なるので、活用したい場合には早い段階での申し込みがおすすめです。
協調支援型特別保証制度を活用するメリット
ここからは、協調支援型特別保証制度を利用することで得られるメリットを紹介していきます。
資金調達額を増やせる
企業にとって、制度活用のメリットは非常に大きく、中でも資金調達額を増やせる点は大きな魅力です。
複数の金融機関からの支援を受けられるので、単純に資金調達額が増加します。そのため、多くの資金を受け取りたい場合には有効な手段だと考えられます。
国からの信用保証料の一部補助あり
保証協会の保証付き融資では保証料の支払いが必要です。
企業にとってはデメリットとなるポイントですが、協調支援型特別保証制度であれば保証料の一部を国が補助してくれます。
前述したように、国による補助は申請するタイミングによって補助率が異なります。
早い段階で申し込みをすれば、その分補助額も多くなるため活用を検討しているのであれば、早めに申し込みを行ってください。
金融機関の融資判断が前向きになりやすい
信用保証協会による保証があるので、金融機関は貸倒のリスクを抑えられます。そのため、企業への融資判断に前向きになりやすいです。
普通に融資を申込んだとしても、企業の状態によっては融資を受けられないケースも考えられます。
しかし、保証協会の保証が付けば融資承認が得やすくなるため、資金繰りもしやすくなるでしょう。
金融機関に断られてしまった場合でも、一度相談してみることで解決を目指せる可能性があります。
金融機関からの信用が高まる
信用保証協会の保証が付けば、金融機関からの信用度向上も期待できます。
銀行から融資を受ける場合、信用がなければ受けることは難しいです。資産に乏しい中小企業にとっては信用を示すのは困難でしょう。
しかし、現在取引きがあるメイン銀行において、協調支援型特別保証制度を活用した場合、プロパー融資をした実績が残ります。
その結果、ほかの銀行からも信用が得られる可能性があり、新たに融資を提案してくれる可能性が高まります。
協調支援型特別保証制度の利用が向いている企業
協調支援型特別保証制度の利用が向いている企業には特徴があります。
・事業拡大や設備投資に意欲を持っている
新規事業や設備投資、人材採用など、あらゆることに積極的な計画を持っている企業は制度の活用に向いているといえます。
協調支援型特別保証制度は、成長戦略を後押しする制度となっているため、攻めの資金需要として非常にマッチしています。
反対に将来の展望が描けていないまま運転資金のつなぎを繰り返している企業は、再生計画の支援策が検討できるので本制度には向いていないと考えられるでしょう。
・銀行との信頼関係を築いている企業
普段から銀行との取引きがあり、一定の信頼関係を築いている企業は要件①を満たしやすい傾向です。
直近の業績が黒字で純資産がプラスになっており、銀行から「プロパーでも貸していい」とみられるほどの信用度があれば、活用しやすいといえます。
目安としては、売上高1億以上の企業は比較的活用しやすいです。
しかし、売上高1億円未満だからといっても決して活用できないわけではありません。
経営や財務内容が堅実で、銀行とのコミュニケーションを継続していけば活用は可能です。
・プロパー融資に向けて信用を高めたい企業
プロパー融資は企業にとって保証料が不要となり、担保や保証人も柔軟に対応してもらえることから、企業側のメリットも大きい融資です。
しかし、中小企業がプロパー融資を活用して多額の融資を受けるのは難しいといえます。
プロパー融資を受けるためには、金融機関からの信用を得なくてはなりません。
協調支援型特別保証制度なら、保証協会からの信用補完もあるため、金融機関側もプロパー融資がしやすくなります。
ここで融資を受けて信用力を獲得できれば、将来的に多額のプロパー融資を受けられるようになることも期待できます。
そのため、多額のプロパー融資を受けるのに金融機関からの信用を高めていきたい企業は、協調支援型特別保証制度を橋渡し役として活用するのがおすすめです。
協調支援型特別保証制度を申し込む際のポイント
ここからは、制度を申し込む際のポイントを解説していきます。
税理士・金融機関に相談する
まずは、制度を活用するためにも金融機関に相談してみてください。
制度の詳細については、保証協会や中小企業庁が公開している情報にも掲載されていますが、最終的には銀行を通じて申請します。
制度の詳細やプロパー融資の意思があるか確認するためにも、金融機関への相談は不可欠です。
また、税理士への相談もおすすめです。制度を利用する際の経営行動計画書の策定や金融機関との関係構築、資金調達の相談など、様々なサポートを行ってくれます。
準備を進めるためにも相談を検討してみてください。
事業計画書を作成する
協調支援型特別保証制度を申し込む際には事業計画の作成が必要です。
現時点での経営状況や課題を洗い出して、それを踏まえてどういった経営を推進していくのかを考えていくことで、経営改善計画の実現を目指せます。
税理士に相談をすれば、計画の策定サポートを受けられます。
事業のモニタリングと進捗の報告を怠らない
制度は利用して終わりではありません。利用後には、金融機関や信用保証協会と定期的に情報共有が必要になります。
計画未達リスクがあれば早期に察知するためにもモニタリングは怠らず、問題点があればすぐに修正するようにしてください。
担保・保証人が必要になる場合がある
協調支援型特別保証制度は、担保や保証人が不要になるとは限りません。
一定の要件を満たせば不要になるケースもありますが、必要になる場合もあるため、あらかじめ理解しておいてください。
保証人に関しては、原則として法人代表者以外は徴求されません。
調整・合意形成に時間がかかる可能性がある
複数の金融機関が関与するので、各銀行との調整が必要になり合意形成に一定の時間を要する点に注意が必要です。
資金調達を迅速に求めている場合、調整期間が資金実行の遅れにつながります。経営状態がさらに悪化してしまうリスクがあるので注意してください。
協調支援型特別保証制度とプロパー融資・保証付き融資との違い
協調支援型特別保証制度は、プロパー融資と保証付き融資を組み合わせることによって中小企業の資金繰り支援や経営における課題解決への取組みを応援することを目的に生まれた保証制度です。
保証協会による融資と金融機関のプロパー融資を組み合わせる形で資金繰りを支援してくれます。違いを知るためにも、それぞれの特徴を解説していきます。
プロパー融資との違い
プロパー融資は銀行が実施している融資制度の一種です。信用保証協会の保証を受けずに銀行と企業が直接取引きをする融資制度です。
決算書や事業計画書などを確認し、返済能力を判断した後、融資決定の可否を判断し、融資額や金利、返済期間などを決定していきます。
万が一返済が滞れば銀行は大きな損害を受けるため、融資審査は非常に厳しい特徴があります。
そのため、信用力が高く、決算書の数字を見ても実績のある企業が審査に通りやすいです。
創業間もない企業や信用力に低い企業は利用が難しい融資といえます。
保証付き融資との違い
保証付き融資は、信用保証協会が融資の補償を行う融資です。
信用保証協会という公的機関が事業主の融資を受けやすくするために、資金調達を実施する企業の信用保証をします。
返済が困難になってしまった事業主の代わりに信用保証協会が費用を立替えて返済を行う融資方法となっており、信用保証を利用する対価として事業主は信用保証協会に保証料を支払う必要があります。
まとめ・協調支援型特別保証制度を活用して経営課題の解決に取り組もう
協調支援型特別保証制度とは、中小企業の資金繰りや企業成長支援のための用意された制度です。
保証料の補助を国が行ってくれるため、企業側の負担が軽減されます。
プロパー融資と同時に保証付き融資を受けられるので、攻めの投資をしたいと考える企業にとっては有効な手段だと考えられます。
中小企業、特にこれまでプロパー融資を受けたことがない人は制度の利用を検討してみてください。
資金繰りの悩みを乗り越えるには、融資を正しく理解し、上手に活用することが大切です。
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(編集:創業手帳編集部)