Dodici 大河内 愛加|使わ”れなくなった”日本の着物とイタリアのシルクを融合し、新しい価値を生み出す
日本の伝統工芸の魅力を、現代のライフスタイルに合わせた商品へ落とし込む
使わ”れなくなった”生地や技術を活用するブランド「renacnatta(レナクナッタ)」では、日本の着物とイタリアンシルクのデッドストックに着目し、両方の魅力を引き立てる「巻きスカート」を考案。その後、西陣織や丹後ちりめんなど日本の伝統工芸とコラボした商品も展開しています。
そこで今回は、renacnattaを運営するDodici代表取締役の大河内さんに、ブランド立ち上げの経緯やデッドストックに注目した理由、今後の展望をお伺いしました。
株式会社Dodici(ドーディチ) 代表
1991年横浜市出身。株式会社Dodici代表取締役。
ディレクター・デザイナー。
15歳でイタリア・ミラノに移住。 Istituto Europeo di Design ミラノ校(ヨーロッパデザイン学院。略称IED)広告コミュニケーション学科卒業。 2016年に、ブランドrenacnatta(レナクナッタ)を立ち上げ、日本とイタリアのデッドストックや伝統工芸品などの素材を組み合わせたアイテムを展開している。2020年にはブランドcravatta by renacnnatta(クラヴァッタ・バイ・レナクナッタ)を立ち上げ、着物をアップサイクルしたアイテムを展開。企業や伝統工芸の会社のリブランディングや商品プロデュースも手がける。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
15歳でイタリアへ移住。アートが身近な日常へ
大久保:15歳でイタリアに移住されたそうですが、その理由をお伺いできますか?
大河内:父も会社経営をしていたのですが、イタリアに住むことに長年憧れていたそうです。さらに、子どもをイタリアに留学させたいと言うので家族全員で移住しました。
大久保:実際にイタリアへ移住されてからはいかがでしたか?
大河内:現地の学校に通ったので、言葉の壁やカルチャーの違いには苦労しました。早々に「こんなはずじゃなかった」「日本へ帰りたい」という気持ちになってしまいましたね。
でも、3年、4年が経ち言葉の壁がなくなると楽しくなりました。不便ではありましたが、得られるものは多かったので、今ではイタリアに移住して良かったなと思っています。
大久保:現地ではデザイン系の学校を卒業されたとお聞きしています。子どもの頃からデザインに興味があったのでしょうか?
大河内:小さいころからアートやデザインなど、クリエイティブなことが好きでした。だから父も、海外でデザインを勉強させたいと考えてくれたようです。そのため、自分から希望して現地の美術専門の高校に通いました。
大久保:デザインという観点で、イタリアと日本の違いはどのようなところだと感じますか?
大河内:デザインを習っていない人、例えば一般の主婦の方でも、インテリアや服のセンスが抜群に良い人が多いと感じました。
それは、街の景色や絵画、建物の内装、古いものを大事にする文化など、暮らしの中に芸術やデザインが根付いていることが影響しているのではないでしょうか。
私も14年ぐらいイタリアで過ごすうちに、自身のデザインのベースが形作られたように思います。
大久保:イタリアでは芸術やアートに触れる機会が多いことが、センスを身に着けることにつながっているのですね。
大河内:建築物も古くて洗練されたものが多く、美術館も日本よりもずっと身近な存在です。無料で入れるところも少なくありませんし、毎年クリスマスの時期には有名な絵画が市民に開放されます。美術館まで行かなくても、教会でたくさんの絵画を見ることもできますから。
大久保:イタリアではどのようなデザインを専門にされていたのでしょうか?
大河内:高校では特に専門を持っていたわけではなく、デッサンからデザイン、建築、立体などを幅広く勉強しました。大学では広告デザインやコミュニケーションデザインを学びました。
大久保:高校では作る側の、大学では受け取る側の視点を学んだのですね。
大河内:高校生のときは、広告代理店に勤めてアートディレクターになりたいなと考えていたので、デザインをする上でのディレクション、ものの伝え方、技術的なことを勉強しました。
ところが、大学で学ぶうちに広告への興味は薄れてしまい、広告代理店に就職するのはやめてしまいました。ですが、自分のブランドをほぼすべて自分でアートディレクションして発信できていますから、あの頃に勉強したことはとても活きていると思います。
使わ”れなくなった”イタリアと日本の素材を組み合わせた巻きスカートを考案
大久保:2016年にブランド「renacnatta(レナクナッタ)」を立ち上げておられますが、そのきっかけについて教えてください。
大河内:ブランドを立ち上げたのは、「自分の2つの母国(日本・イタリア)のものを組み合わせたモノづくりをしたい」「両国の魅力を引き立てるモノを作りたい」という想いからでした。
漠然とですが「オンラインで販売するだろう」と考えて、実際に試着しなくても着ることができる、サイズが関係ないものにしようと。そこで着物からインスピレーションを得た「巻きスカート」にたどり着いたんです。
大久保:renacnatta(レナクナッタ)のブランド名にもあるように、使わ「れなくなった」素材を使おうと思った理由もお伺いできますか?
大河内:特にイタリアのミラノではファッションの勉強をしている人が身近にたくさんいたので、自分はファッション分野ではそういう人たちには敵わないなと思ったんですよ。
そこで、社会や関わる人に良い影響を与えられるものにしたいなと、使わ「れなくなった」素材、いわゆるデッドストックに着目しました。そしてブランド名は、使わ「れなくなった」ものを使うというところから、「renacnatta(レナクナッタ)」と命名しました。
大久保:実際に巻きスカートに使用されている素材の良さ、魅力を教えてください。
大河内:デッドストックのラインでは、北イタリアのシルク名産地であるコモのデッドストックを使っています。コモには、イタリアを中心としたヨーロッパのラグジュアリーブランドから大量にシルクの注文が入ります。
そのとき、多めに作って余りが出たり、ミスプリントなどで廃棄寸前になったりといった理由で使われず、倉庫に眠ってしまうシルクがたくさん生まれるんです。それらを使用していますから、質もデザインもハイブランドと同レベルなのが魅力ですね。
大久保:デッドストックのラインでは、日本とイタリアの素材を組み合わせていると拝見しました。日本の素材はどのようなものを使用されているのでしょうか?
大河内:反物の状態、つまり新品の状態で眠っていたシルク100%の良質な着物を使っています。そして巻きスカートは、イタリアのシルクの面と日本の着物の面をどちらも選べる「リバーシブル」な作りです。イタリアのシルクは華やかな柄を、日本の着物はネイビーや黒のシックな無地に近い柄を選んでいて、2種類とも楽しめるデザインを心がけています。
日本の素材については、丹後ちりめんや西陣織などの伝統工芸のラインも作っています。伝統工芸というと身に着けるには少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、言われないと気づかないくらい、現代のライフスタイルに合うようなデザインに落とし込んでいるのが特徴です。もちろん織や色に注目すると、日本の職人さんたちの技術を感じてもらえると思います。
伝統工芸の魅力を伝えるのが自分の役割
大久保:日本の伝統工芸とは、どちらで出会ったのでしょうか?
大河内:日本の伝統工芸に興味を持ったのは、ブランド立ち上げ後に京都へ拠点を移してからです。それまではデッドストックという「過去に作られたもの」だけに目を向けていたので、量産のものはうちでは取り扱えないと勝手に決めつけていました。
ところが、伝統工芸を京都でよく目にするようになってから、作ら「れなくなった」ものも、使わ「れなくなった」ものと同じではないかと気づいたんです。だから、伝統を残そうと頑張っている職人さんたちに貢献するためにも、伝統工芸のラインを作りました。
大久保:伝統工芸に対する想いを教えてください。
大河内:伝統工芸は、何百年、何千年という単位で残ってきたものです。そこには、美しさや機能など、残った理由が必ずあるはずなんです。そして、残ってきたものに宿る価値は、世界にも通用するものだと私は信じています。それでも、知らない人が多いと、誰にも知られないままどんどん消えていってしまいますよね。
私は伝統工芸を作る側の人にはなれませんが、多くの人に知ってもらう役割は果たせます。たくさんの人に知ってもらって、欲しいと感じて買ってもらう。そして生産を増やして伝統工芸を残すお手伝いをするのが私の役割だと思ってます。
特に今はインバウンドで多くの外国人が京都に来てくれています。日本の文化にもかなり興味を持っているようで、着物を着て散策している人も少なくありません。だから、伝統工芸のラインもインバウンドと同じぐらい伸びる可能性はあると考えています。
とはいえ、まだ海外に向けての発信はできていませんから、今後は海外向けの発信や展示会、販売もしていきたいですね。
個々の得意分野に合わせたチーム作りを
大久保:大河内さんはお子さんを育てながら起業もされています。これまでにやって良かったことを教えてください。
大河内:起業してから約2年くらいはずっと1人でやっていたのですが、妊娠するまでにチームを作っていたのは良かったですね。私のつわりがひどかった時期や入院をしたときにも、商品をリリースしたり発信を続けたりできたのはチームのおかげでしたから。
大久保:人に任せることに抵抗はありませんでしたか?
大河内:元々は人に任せたり仕事を振ったりするのが苦手でしたから、抵抗はありました。「すべて自分でやりたい」「誰かに何かを頼むためのコミュニケーションすらも面倒くさい」と思っていたほどです。でも当たり前ではありますが、自分が苦手な分野、例えば事務や配送などは得意な人に任せることが大切だと気づきましたね。
ただ、自分が得意なところまで「大変だから」という理由で他の人に任せてしまうと、ブランドの世界観などのバランスが崩れてしまうこともありました。だから、小さい規模の会社は「人に任せること」と「自分がすること」のバランスを取るのも重要だと思います。
少なくとも私にとっては、自分が得意だと思う分野は自分でやった方が良かったと感じました。
大久保:今も子育てをしながらお仕事をされていますよね。
大河内:子どもが1歳になるまでは自分で面倒を見たいので、職場や取引先さんにもご理解をいただきながら仕事をしています。
もちろん以前のように、100%の力を出せてはいませんが、優先順位をつけて私自身が納得ができる仕事を心がけています。
目が向けられていないものにこそ価値を見つけてほしい
大久保:巻きスカート以外の製品も作っておられますが、どのような展開をされているのでしょうか?
大河内:丹後ちりめんや西陣織だけでなく、金彩や久留米絣などさまざまな伝統工芸の素材を活用した商品を展開しています。アイテムに多いのは巻きスカートですが、ワンピースや男性用の羽織り、日傘やアクセサリーなどもあります。
大久保:今後力を入れていきたいことをお伺いできますか?
大河内:最近、振袖と訪問着をリリースしました。これまでは伝統工芸を今のライフスタイルに落とし込んだ商品を作ってきたのですが、職人さんたちと関わる中で「伝統ど真ん中」のアイテムも作ってみたいという思いが芽生えてきました。
なぜなら、着物の伝統工芸のほとんどが「和装」に紐づいています。そのため、和装の文化が途絶えてしまうと一気に廃れてしまうからです。だから洋装で伝統工芸を応援するだけでなく、和装の文化も盛り上げられるブランドになりたいと考えました。振袖や訪問着は高価格帯なのもあり販売は大変ですが、長く続けていければと思っています。
大久保:最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
大河内:少しネガティブなものや今目が向けられていないものにこそ、光を当ててみるとよいのではないでしょうか。renacnatta(レナクナッタ)というブランドにも当てはまるのですが、そのようなものには「他の人が見つけられなかった価値」が出るはずだからです。
そして、今は目が向けられていないものに関わる人や作るものには、愛を持って接することも大切だと思います。抽象的な言い方になるかもしれませんが、相手に対して愛や尊敬がなければ関係性も良くなりませんし、自分の納得いかないものが世の中に生まれてしまいます。私自身も今のような時代だからこそ、感覚的なことを大切にしていきたいと考えています。
(取材協力:
株式会社Dodici 代表 大河内 愛加)
(編集: 創業手帳編集部)