スタートアップのピボット事例8選!事業の方向転換を成功させるコツとは

創業手帳

事業のピボットで売上増や資金調達に成功するノウハウを、スタートアップ事例から解説

スタートアップの場合、最初は順調でも次第に事業の行き詰まりを感じることもあります。こんな時に有効なのが、事業を方向転換させる「ピボット」です。ピボットとは従来のアイデアを軸にしながら新たな事業に取り組むこと。最近はピボットによって売上アップや資金調達に成功し、成長を遂げるスタートアップも増えています。

しかし事業戦略を変えるピボットには、リスクも伴います。そこで創業手帳がこれまで行った起業家インタビューの中から、いつどのようにスタートアップがピボットするべきかについてのノウハウをまとめました。

円滑な経営を実現するためにはきちんとした事業計画とキャッシュフローを把握しておくことが重要です。創業手帳では、少しでも多くの起業家に事業を成功してもらいたく、事業計画シート&資金シミュレーターを無料でご利用いただいています。是非ご活用ください。



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NearMe 髙原幸一郎

ピボットを恐れないでほしい。起業時はどの方法がいいか誰にもわからない

弊社は、プチピボットのような経緯を経て事業を軌道に乗せました。この経験から起業家の方々にお伝えしたいのは「ピボットを恐れないでほしい」ということです。

「これしかできない!」「これじゃないと駄目なんだ!」ではなく、やりたいことを広く抽象化して捉えてみる。そのうえで、少し脇道に逸れても方向性として外れていなければ、必ず事業を成功させることができると思うんですね。

たとえば登山のルートも複数あって、決してひとつではありません。「この登り方をしないといけない!」なんて悩む必要はないんです。

特に起業初期は、どの方法がうまくいくかなんて誰にもわかりません。だからこそ、ピボットを恐れない。ぜひピボットありきくらいの気持ちで、事業を成功させていただけたらと願っています。

髙原 幸一郎(たかはら こういちろう)
株式会社NearMe 代表取締役CEO
シカゴ大学経営大学院卒業。2001年にSAPジャパン株式会社入社。国内外企業の様々な業界の業務改革プロジェクトに従事。2012年楽天株式会社入社。グループ会社であるケンコーコム株式会社(現Rakuten Direct株式会社)の執行役員として、日用品EC事業のP/Lマネジメントなどに従事。2015年からは米OverDrive社の副社長/取締役、仏Aquafadas社のCEOを歴任。2017年7月に株式会社NearMeを創業。

ジェイタマズ 小池 桃太郎

ピボットする時は、コアは変えず周辺を作りながら走ることが大事

(事業を)さらに加速しようと資金調達に踏み込みました。ある投資家から出資するからピボットしようと話を持ちかけられたことがきっかけです。ただし、ピボットする内容は君たちの自由だと言っていただき、私たちの意思でピボットすることにしました。

ピボットを決めてからローンチまで、1年ちょっとかかりました。その間、さらに資金調達を2回していますので、落ち着かない心境だったものの、良い株主さんに巡り会えたため、悲壮感は感じませんでした。

(ピボットにおいては)早めにパイロット版を作成し、フィードバックをもらうことも大事になってきます。そのフィードバックを元にブラッシュアップしていくことで、実際にローンチする時には、お客様にとって良い製品を使っていただくことができます。このように、コアの部分は変えませんが、その周辺の部分は作りながら走っていくことが大事です。

小池 桃太郎(こいけ ももたろう)
株式会社ジェイタマズ  代表取締役 CEO
東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。新卒で総合電機メーカーに入社し、ウェアラブルデバイスの電気回路エンジニア、掃除機の商品企画を経て、新規事業プロジェクトのリーダーを経験。2015年に経営コンサルティング会社へ転職後、中途最短キャリアで管理職へ昇進し、チーフ経営コンサルタントとして最大80社の経営者向け勉強会を主宰しながら約50社の経営コンサルティングを経験。株式会社ジェイタマズを共同創業し、「IT業界のリアルを動画で伝える」業界研究プラットフォームcaripの開発、運営を行っている。
ジェイタマズ 小池 桃太郎氏についてのインタビュー記事はコチラから>>

ジェイタマズ 小池 桃太郎|商談獲得ツール「OPTEMO」でWeb上での顧客と企業の関係性を最適化

SHE 福田 恵里

女性向けスクール事業に至るまで何度もピボット。軌道に乗ったのは3年目

手探りでサービスのピボットを何回も繰り返しましたね。軌道に乗ってPMFを迎えたのは3年目です。

(最初は)コワーキングのみでは収益が出ず、同じ事業をしている方々に話を聞き「日本でうまくいっているコワーキングスペースは、イベントなどのソフトコンテンツが充実している」とわかりました。

そこで、「女性向けの講座」をコワーキングの付随コンテンツとして始めてみました。すると、そちらの需要の方がずっと高かったので、コワーキングから「通学型の女性向け習い事スクール」への方向転換を決意したんです。

スクールで教える内容も途中でガラッと変えました。分析すると、お料理教室やヨガよりも、「女性×ビジネス」「女性×キャリア」という内容への需要が高かったんです。ですから、2年目にライフスタイル系の講座をすべてやめて、キャリア系の講座だけにしましたね。

(売上が伸びたのは)サブスクリプション型へ変えたことも大きかったです。「一定期間でしっかりキャリアチェンジを目指してもらうコース」を拡充させるために、10~15万円で講座を受け放題、という形へ変更しました。

福田 恵里(ふくだ えり)
SHE株式会社 代表取締役/CEO/CCO
大阪大学在学中、サンフランシスコ・韓国に留学。学生時代に初心者の女性向けのWebスクールを立ち上げ、約500名以上が受講。卒業後リクルートホールディングスに新卒入社し、ゼクシィやリクナビのアプリのUXデザインを担当。2017年26歳の時に、ミレニアル女性向けのキャリア支援を行うSHE株式会社を設立。主要事業である「SHElikes」は累計受講生7万名以上を突破。2020年に同社代表取締役CEOに就任。プライベートでは2児の母。

テモナ 佐川隼人

リーマンショックで危機感を持ち、受託開発からSaaSビジネスへピボット

当時僕らの主要取引先には、大手企業も多かったんです。リーマンショックの影響で大手企業の案件が中止となって、その翌月には売り上げが3分の1になってしまいました。

なんとかそのピンチは乗り越えたのですが、このままではいけないと強く感じました。受託開発のような労働集約型ビジネスは、大きな案件を受ければ売り上げになるけれど、それこそリーマンショックなどの影響で取引先がなくなると一気に落ちてしまいます。そこで受託開発だけではなく、自社製品を作ってSaaSで提供するというサブスク型ビジネスにピボットしようという決断をしました。

受託もこなしつつ自社製品を作って営業するということをしばらく続けていました。サブスク型ビジネスに完全にシフトできたのは3年後でした。

佐川 隼人(さがわ はやと)
テモナ株式会社 代表取締役社長
システムエンジニアを経て4度の起業経験を持ち、2008年10月にテモナ株式会社を設立。フロービジネスで労働集約モデルの事業に限界を感じ、SaaS型のサブスクモデルへ事業転換し、延べ2,000社以上に、サブスク事業のコンサルティングを行う。2017年マザーズ上場、2018年日本サブスクリプションビジネス振興会設立、2019年4月プライム市場昇格。著書に「サブスクリプション実践ガイド」(英治出版)。
テモナ 佐川隼人氏についてのインタビュー記事はコチラから>>

テモナ 佐川隼人|サブスク特化型ビジネスで成功した起業家が、4度の起業で経験した天国と地獄

ELEMENTS 長谷川 敬起

成功できたのは、自社技術に固執せず市場に合わせコア技術をピボットしたから

(事業を)何度もピボットしています。今のメイン技術は顔認証ですが、そもそも弊社は指紋認証で始まった会社です。つまりコア技術自体をピボットしているんです。もし最初から自社技術に固執していたら、うまくいっていなかったと思います。

またeKYC(オンライン個人認証)にたどり着く前の5年間ぐらいは、いろいろチャレンジしたもののヒットを出せず、試行錯誤していました。この頃はきつかったですね。

実は指紋認証を使った決済サービスを手掛けたことがあるのですが、うまくいきませんでした。この分野では、やはり資金がものを言います。メガプラットフォームが大量に資金を投入すると、僕らに勝ち目はありません。メガプラットフォーマーが完全に来ていないとか、もしくは来ているけれどかなり独自性があって勝負できるという形でないと難しいことを学びました。

長谷川 敬起(はせがわ ひろき)
株式会社ELEMENTS 代表取締役社長
慶応大学大学院卒業後、2002年外資系コンサルティングファームへ入社後、2005年ITベンチャーの株式会社ドリコムへ入社。2016年株式会社Liquid(現在の株式会社ELEMENTS)に入社、事業推進部長に就任。その後子会社の株式会社PASS(現在の株式会社Liquid)代表取締役に就任。2024年4月、株式会社ELEMENTSの代表取締役社長に就任。

ELEMENTS 長谷川 敬起氏についてのインタビュー記事はコチラから>>

ELEMENTS 長谷川 敬起|生体認証技術で急成長するスタートアップが目指す「滑らかな世界」とは

フツパー 大西 洋

多くのスタートアップはピボットする。だから仲間はスキルではなく相性や志で選ぶべき

友人同士で起業して、いいことしかありませんでした。実際に、起業に失敗する理由で最も多いのが、人間関係に起因する失敗ですよね。我々3人の場合、そこの部分は最初から完全にクリアされているので、そこは安心です。

それに、起業当初に「これがやりたい」と思っている事業も、大抵の場合、ピボットすることになりますよね。どうせピボットするわけですから、スキルで選んでも仕方ありません。逆にスキルがマッチしなくなったら、別れざるを得なくなってしまいますから。だから最初から起業するチームはスキルではなく、パーソナリティーの相性や志で選ぶべきだと思います。

大西 洋(おおにし ひろ)
株式会社フツパー 代表取締役CEO
1994年生まれ。兵庫県出身。広島大学工学部卒業。専攻テーマは製造プロセスの最適化。新卒で日東電工に入社し、ICT部門の法人営業に従事。退社後はイスラエルで起業を試みるも失敗し、工場向けAI/IoTベンチャーの事業開発グループリーダーを経て2020年にフツパーを設立。MENSA会員。ソフトバンクアカデミア外部12期生。
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フツパー 大西 洋|勢い余ってイスラエルで起業失敗。それでも諦めなかった起業の志

ケンズカフェ東京 氏家 健治

レストラン経営からスイーツ事業へピボット。成功の理由はデータを重視する姿勢

最初はイタリアンレストランとして創業しました。たまたまガトーショコラだけ、ものすごく評判がよかったんです。それがここまで成長するとは当時はまったく思わなかったですね。

ガトーショコラ専門店になったのは、ある意味では偶然なんです。でも、お客様の声を重視するとか、データを重視するといった私の経営姿勢から導かれた道なので、必然とも言えるかもしれませんね。

経営者が従業員に相談しても「絶対やめたほうがいい」と反対されるばかりです。でも反対されたことでも決断していなかったら、今、ケンズカフェ東京は成功していません。だから経営者自身がしっかりとデータと向き合った上で、冷静に判断し続けることが経営においては重要だと思います。変化を恐れずチャレンジをしないと、事業も大きくなっていきませんから。

氏家 健治(うじいえ けんじ)
ケンズカフェ東京 オーナーシェフ
1998年イタリアンレストラン「ケンズカフェ」を開店。開店当初は経営が軌道に乗らず、倒産の危機も経験する。35歳から経営やマーケティングを本格的に学び、実業家としての基礎を築く。お客様から好評だったガトーショコラの専門店へ業態を変えると、経営のV字回復に成功。ガトーショコラ販売の他にも多くのブランドとのコラボや監修、ライセンス契約も積極的に行う。また、経営者・起業家向けのビジネス講習会を日本全国で実施している。著書に『余計なことはやめなさい!ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』など。
ケンズカフェ東京 氏家 健治氏についてのインタビュー記事はコチラから>>

ケンズカフェ東京 氏家 健治|大人気なガトーショコラ店を創りあげるまでの挫折と運命の出会いとは

フォトシンス 河瀬航大

ピボット後VCに短期間の実績を見せて資金調達に成功。これが売上増につながった

当初、家庭向けサービスとして開発したプロダクトでした。ローンチしてから2ヶ月目にアクティブ率が伸びなくなったんです。そんななか、唯一アクティブ率が上昇し続けていたのがオフィスなどの法人利用だったんです。そこでピボットを行い、オフィス向けのプロダクトとして再開発を始めました。

なにしろ新たな製品として作り変えましたので、ベンチャーキャピタルからすると事業として成功するかどうかの結果が見えづらいんですよね。(ベンチャーキャピタルに)オフィス向けとして再度ローンチ後、短期間の実績を見せたんです。その結果として、資金調達に成功し、資金が入ったことで売上なども一気に伸び出したんです。

データを細かく分析して、どこが強みなのか?どんな点を改善しながら伸ばしていくべきなのか?をきちんと行い、その上でプロダクトを作る。この部分をしっかりと行ったことで成功できたと思っています。

河瀬 航大(かわせ こうだい)
株式会社Photosynth 代表取締役社長
1988年、鹿児島生まれ。2011年、筑波大学理工学群卒業後、株式会社ガイアックスに入社。ソーシャルメディアの分析・マーケティングを行う。2013年にはネット選挙の事業責任者として、多数のTV出演・講演活動を行う。「facebook 知りたいことがズバッとわかる本(翔泳社)」執筆。2014年、株式会社Photosynthを創業、代表取締役社長に就任し、スマートロックAkerunを主軸としたIoT事業を手掛ける。経産省が所管するNEDO公認SUI第1号をはじめ、これまでに累計50億円を調達するなど、IoTベンチャーの経営を担う注目の若手起業家。Forbes主催、Forbes 30 Under 30 Asia 2017にて、アジアを代表する人材として「ConsumerTechnology」部門で選出。筑波大学非常勤講師。

まとめ

スタートアップのピボット事例を見ると、「既存事業を続けながら時間をかけてピボットする」「従来の事業で得たデータを分析し、ピボットする方向を見極める」といったポイントが成功につながることがわかります。

事業をより成長させるには、時には変化が求められます。今回紹介した事例を参考に、事業のピボットを検討してみてはいかがでしょうか。

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(編集:創業手帳編集部)

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