農業の事業承継とは?成功の秘訣や進め方などを徹底解説!
農業の事業承継は親子間だけじゃない!支援制度・補助金を活用しよう
農業を維持することは、地域経済や食糧生産の持続可能性に直結する重要な課題です。しかし昨今、高齢化や後継者不足により、多くの農家が事業承継に苦労しています。
本記事では、農業における事業承継を成功させるための方法やポイント、具体的な流れなどを詳しく解説します。後継者選定から資源の移行、税務対策まで、農業経営を次世代に繋ぐためのポイントを押さえて、持続的な農業を目指しましょう。
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この記事の目次
農業における事業承継の現状と課題
農林水産省の統計によると、2023年時点で農業従事者の平均年齢は68.7歳に達しており、65歳以上の農業者が全体の約80%を占めています。(※)一方で、新規自営農業就農者(※1)はわずか約3万人にとどまっており、農業の高齢化と後継者不足が顕著です。
※出典:農業労働力に関する統計/農林水産省
※1 新規自営農業就農者:個人経営体の世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」から「自営農業への従事が主」になった者及び「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者
これらの課題の要因には、家族経営の農業では親族内で後継者が見つからないことや、若者が農業を職業として選択するケースが減少していることが挙げられます。また農業では財務面の負担も、事業承継を妨げる大きな課題です。
農地や機械、設備の相続には高額な税金が発生するほか、相続税や贈与税の問題もあります。これらの税務負担を軽減するためには専門家の介入やサポートが必要ですが、知識やノウハウがなく、結果として事業の縮小や廃業を避けられない農家が増えています。
このまま就農者が減り廃業が進めば、農地の荒廃が進み地域経済や食料供給へのリスクが高まるため、事業承継を円滑に進めていくことは農業における重要な課題です。
このような状況を受け、政府や地方自治体では農業における後継者不足を喫緊の課題と捉え、農地の集積や法人化を促進する施策や、相続税や贈与税に関する特例措置など、さまざまな支援に取り組んでいます。
これらの支援策や補助金・助成金については下記で詳しく解説します。農業事業者は従来の親族内承継にこだわらず、柔軟な方法で日本の農業を維持していかなければなりません。
農業における事業承継の種類
農業における事業承継の方法には、主に3つのパターンがあります。
1. 家族内承継
家族内承継は、農業経営者の子や親族が事業を引き継ぐ方法です。もっとも一般的な方法で、農地や設備、農業ノウハウをスムーズに伝承できる点が利点です。しかし家業を継がない子どもが増え、後継者探しに苦戦している農家が増えています。
2. 親族外承継
家族内で後継者を見つけられない場合、信頼できる従業員や地域の農業関係者といった親族外の人間に事業を引き継ぐケースがあります。親族外承継の利点は、農業に関わるスキルや経営感覚を持った人物を選定できる点です。
従業員に事業を承継する場合、日々の業務に精通しているため比較的円滑な引き継ぎが期待できますが、後継者の育成や経営意識の共有には時間がかかることもあります。
3. 第三者承継(M&A)
親族や従業員などの内部に後継者がいない場合、外部の第三者に事業を譲渡するM&A(企業の合併・買収)という選択肢もあります。最近では、農業法人や企業が農業事業の買収を通じて事業を引き継ぐケースも少なくありません。
農地を売却して資金を得られる点や従業員がいる場合は雇用を維持できる点が利点として挙げられますが、事業承継にはさまざまな要件を満たす必要があります。
事業承継で引き継ぐ3つの資源
農業で次世代の後継者に引き継ぐ資源には、目に見える有形資源だけでなく目に見えない無形資源もあり、大きく以下の3つに分けられます。
1. 経営資源
まずは農地、機械、設備、農業用資材などの物的資源です。これらは事業運営に欠かせない資産であり、正確な評価と適切な管理が求められます。特に農地は法律や税制の制約が多いため、法的手続きを円滑に進めることが重要です。必ず税理士などの専門家を巻き込んで進めましょう。
2. 人的資源
人的資源には経営権にくわえて、従業員や地域の農業協力者、農業ネットワークなどが含まれます。前任者の人間関係をそのまま引き継がなければならないことに不満に感じ、後継者が事業継承をためらうケースもあるため、従業員や取引先との信頼関係を築き、スムーズに引き継ぐことが大切です。
3. 知的資源
経営ノウハウや市場との関係性、販路、ブランド力などの知的資源は、長年の経験によって培われたものです。目に見えない無形の資源ですが、これを新たな経営者に伝えることが事業の継続・繁栄に直結します。農業では特定の農作物の栽培技術や管理ノウハウなどがこれにあたり、具体的にはOJTや業務遂行時のコミュニケーションを通じて承継します。
農業における事業承継を成功させるポイント
事業承継を成功させるためには、農業事業者と後継者の関係性の構築が欠かせません。トラブルに発展しないよう、以下のポイントを心がけましょう。
事業の魅力を明確にする
まずは事業の強みや特色を整理し、後継者にとっての魅力を伝えることが重要です。農地や設備の状態、販路、収益性などを具体的な数字で示すことで、引き継ぐ側がリスクを判断しやすくなります。また承継する際、後継者にとってメリットや利益がある状態に事業を維持しておくことも大切です。
事前に信頼関係を築く
第三者承継では単なるビジネス取引ではなく、農業の経営や地域に対する共通の価値観やビジョンが求められます。マッチング前に十分なコミュニケーションを取り、信頼関係を構築できるかどうかが成功につながるポイントです。
専門家のサポートを活用
農業法人や地域の農業協同組合、またはM&A仲介業者など、専門家や団体のサポートを活用することも有効です。こうした専門家は、マッチングのプロセスを円滑に進めるためのアドバイスや適切な第三者候補を紹介してくれます。
長期的な支援環境を提供
第三者がスムーズに事業を引き継げるように、承継後も経営者が一定期間サポートする体制を整えることが信頼感を高め、円滑なマッチングにつながります。引き継ぎをして終わりではなく、サポートできる状態を準備しておきましょう。
農業における事業承継の進め方:7つのステップ
農業で事業承継を行う際は、主に以下の流れで進めます。
- 事業の現状把握
- 後継者の選定
- 承継計画の策定
- 税務対策と法務手続き
- 経営資源の移行
- 地域や農協との調整
- 後継者の育成と実践
1. 事業の現状把握
事業承継の第一歩は、現在の事業状況を正確に把握することです。具体的には農地、設備、機械、農作物、販路、従業員の状況などを包括的に見直します。
さらに財務状況の確認も不可欠です。収益、負債、補助金や融資の状況を整理し、次世代にどのような形で事業を引き継ぐかの基盤を整えます。この段階で税務リスクや相続に関する問題も確認しておくと良いでしょう。
2. 後継者の選定
次に、後継者を決定します。前述の通り、後継者は家族、親族、従業員、または外部の第三者など、複数の選択肢があります。
最近では農業法人化や第三者承継(M&A)を活用して事業を外部の法人や企業に引き継ぐケースや、農業をしたい人と譲りたい人を引き合わせるマッチングサイトも増加しており、積極的に活用すると良いでしょう。
後継者と出会うためには、主に以下の方法などが挙げられます。
- 事業承継において後継者と出会う方法
-
- マッチングサイト
- 自治体への相談
- 専門家への相談
ただし親族内に後継者がいないと思い込み第三者への承継を決定したあと、後継の意思を持つ親族がいることが判明し、トラブルになるケースがあります。必ず親族内の意思を明確に確認したうえで、後継者を選定しましょう。
後継者選定において重要なのは、経営の視点を持ち、農業に強い意欲と知識を有する人材を見つけることです。家族内承継の場合は家族間のコミュニケーションを深め、早くから後継者に経営者としての役割を意識させましょう。
3. 承継計画の策定
後継者を決めたら、事業承継の具体的な計画を策定します。承継計画には資産の移行、経営の移行、財務計画、税務対策が含まれます。
例えば農地の相続や贈与に関しては、税制上の優遇措置や補助金制度を活用し、税負担を軽減する方法を検討する必要があります。また農業用機械や設備、農業関連の契約や販路なども、順次後継者に引き継ぐスケジュールを作成しましょう。
承継計画は長期的な視点で考えることが理想です。この間、後継者が少しずつ経営に携わりながら、ノウハウや関係者とのネットワークを構築していきます。
4. 税務対策と法務手続き
農業の事業承継では、相続税や贈与税の対策が重要なポイントです。農地や機械、設備などの資産は大きな財務負担になる可能性があるため、早期に税理士や弁護士などの専門家と相談し、最適な相続・贈与のプランを立てることが求められます。
農地の相続については、農地法の規制や農業委員会の承認が必要な場合もあるため、法務手続きをスムーズに進めるための準備が欠かせません。また農地を分割する場合は、後継者間での公平な分配を行い、事業の存続に影響が出ないよう配慮しましょう。
5. 経営資源の移行
承継計画に基づいて、具体的に経営資源を移行します。農地、機械、設備、従業員、販路、契約などの資源を、段階的に後継者に引き継ぎます。ここで重要なのは、農業の経営ノウハウや作業技術の移行です。
特に特定の農作物に関する知識や技術、販路の管理方法、取引先との関係は、経験に基づく重要な資産といえます。これらは単なる書類上の移行ではなく、後継者が実際の経営の中で学びながら引き継いでいく必要があります。
6. 地域や農協との調整
農業は地域や農業協同組合(農協)との関係が根強い事業です。地域コミュニティや農協との信頼関係を維持し、後継者がスムーズにこれらの関係を引き継げるよう調整することも現経営者の役割といえます。後継者が新たな地域リーダーとしての役割を果たし、地域農業の発展に貢献できるよう、円滑な関係構築を図りましょう。
7. 後継者の育成と実践
最後に、後継者が経営を本格的に引き継ぐ準備が整った段階で、経営の現場に立たせます。この時期は現経営者が指導しつつ、後継者が自らの判断で経営方針を打ち出していくプロセスが重要です。事業の円滑な引き継ぎのためには、後継者に十分な実践の場を与え、失敗を経験させながら成長を促す環境を整えることが成功の鍵となります。
このように、農業事業承継は複数年かけて計画的に進めるべきプロセスであり、経営資源の継続的な移行と後継者の育成が成功の鍵といえるでしょう。
農業における事業承継の成功事例
ここでは、農林水産省の事例集(※)に掲載されている、実際に農業における事業承継の成功事例を紹介します。
近所の知り合いと思わぬマッチング(第三者承継)
種鶏・花きを中心に営農していた先代経営者のOさん(当時81歳)は、後継者の息子が体調不良となり離農を決意。しかし近隣に住む知り合いの男性が営農を検討していることを知り、相談を受け、所有していた鶏舎やノウハウを継承することに。
後継者は小野さんの紹介でJAにて研修を重ね、就農を実現した。鶏舎の補修や設備の導入に費用を要したが、継承する農場で実際に作業しながら経験を積めたことがスムーズな承継につながった。その後、後継者の長男や長女も参画し、前職の経験を生かして事業を拡大させている。
農作業の手伝いから娘婿が後継者に(親族内承継)
先代経営者のYさん(当時68歳)は肉用牛の経営から露地野菜の栽培まで幅広く営農していた。時折、農作業の手伝いを頼んでいた近隣に住む娘婿に事業承継を相談したところ、話し合いで快諾。
地元の専門家(税理士)に依頼し、親族内継承を進めることに。後継者名義の開業届を提出し、資産売買契約を行った。先代経営者のYさんは継承後は経営に関与せず、相談があった場合にのみサポートを行う姿勢を保っている。
※出典:より良い経営継承のための優良事例集/農林水産省
農業における事業承継で知っておきたい法律
農業事業承継を進めるためには、さまざまな法律や税務知識が必要です。ここでは代表的な法律を5つ紹介します。
農地法
農地の取得や譲渡に際して、農地法に基づく制約が存在します。特に農地の売買や賃貸には、農業委員会の許可が必要です。
また農地の用途転用や農業以外の目的で使用する際にも、行政の承認が必要となります。農地を承継する際は、農地法をしっかりと把握しておきましょう。
相続税・贈与税
農業に限ったことではありませんが、事業承継の際は相続税や贈与税に注意が必要です。農業の場合、農地や機械、設備などの資産価値が高ければ高いほど、相続税の負担は大きくなります。
ただし農業には一定の条件下で税負担を軽減できる納税猶予制度が用意されており、後継者が農業を続けることで税金の納付を先延ばしできる場合があります。
農業経営基盤強化促進法
この法律は、農業経営の効率化を目的として、農地の集積や農業法人化を支援するものです。事業承継の際に法人化を検討することで税制優遇や補助金の対象となり、経営基盤を強化できます。
会社法・商法
法人化する場合は、会社法や商法に関する知識が必要です。農業法人を設立する場合や、M&Aによる事業承継を行う場合には、企業法務や取引に関する基本的な知識が求められます。
労働法・社会保険制度
従業員を抱える農業経営では、労働基準法や社会保険制度についても知識が必要です。従業員の雇用継続や待遇改善に対応するため、後継者はこれらの法律に基づく管理体制を整える必要があります。
事業承継における支援制度や補助金について
事業継承で後継者が多額の贈与税・相続税を支払わなければならない場合は、各種支援制度や補助金を活用しましょう。
こちらでは、農業での事業承継に活用できる支援制度や補助金についてご紹介します。
経営継承・発展等支援事業
特に中小企業や小規模事業者の事業承継を円滑に進めるために国や自治体が提供する「経営継承・発展等支援事業」は、農業における事業継承でも有効です。
具体的には後継者へのスムーズな引き継ぎを支援するために、経営計画策定や事業承継に関するアドバイス、M&A(合併・買収)を通じた第三者承継など、さまざまなサポートを提供しています。また税制優遇や資金面での支援も含まれており、相続税や贈与税の負担を軽減する特例措置や、事業承継に向けた融資制度の利用が可能です。
さらに事業承継後の発展を目指すため、後継者が新たな事業戦略や技術革新に挑戦するための補助金が設けられています。特に農業分野では、地方自治体や農業団体と連携した支援もあるため、ぜひチェックしてみましょう。
※出典:経営継承・発展等支援事業(経営継承関係)/農林水産省
就農準備資金・経営開始資金
新たに農業を始める人を対象とした補助金制度には以下の2つがあります。
就農準備資金
就農準備資金は、道府県農業大学校や先進農家などで研修を受ける場合に支給される資金です。研修期間中の研修生(就農予定時の年齢が原則49歳以下であること)に対して、月12.5万円(年間150万円)が最長2年間交付されます。研修中の経済的負担を軽減し、安心してスキルを習得できる点がメリットです。
経営開始資金
経営開始資金は、実際に農業経営を開始してから経営が安定するまでの生活を支援するための資金です。原則49歳以下の認定新規就農者に対して、月12.5万円(年間150万円)が最長3年間交付されます。例えば農地の借り入れや機械の購入、種苗の調達など、農業経営に必要な初期投資や運営資金に充てることができます。
いずれの制度もそれぞれ交付要件があるため、自治体の窓口や新規就農相談センターなどに相談すると良いでしょう。
※出典:就農準備資金・経営開始資金/農林水産省
まとめ・農業の後継者問題解決には、第三者承継がポイント!
農業の人手不足や後継者問題の解決には、柔軟な事業承継が求められています。昨今では家族や親族だけでなく、第三者とのM&Aやマッチングサイトを利用した承継など、幅広い選択肢があります。廃業を検討する前に、まずは公的機関や専門家に相談してみましょう。
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(編集:創業手帳編集部)
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