赤字を理由に役員報酬を減額することは可能?変更のタイミングや手順を解説

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業績悪化事由に該当すれば役員報酬の減額は認められる


役員報酬の事業年度途中での変更は原則認められていません。その理由としては安易な利益調整が可能となるためです。
その結果、税務署が役員報酬の損金算入を認めないケースがあります。
しかし、赤字経営などを含む、一部の事情においては役員報酬の変更が認められています。
変更の際には、手順を間違ってしまうと税法上損金と認められない可能性もあるため、役員変更をする際の流れを前もって把握しておく必要があります。

そこで今回は、年度の途中でも役員報酬の変更が認められるケースを解説すると共に、役員報酬を減額した場合の会社への影響、減額したい場合の手順や注意点など、役員の報酬を変更したい際に役立つ情報を解説していきます。
会社にとって損のない適切な方法を理解するためにも、参考にしてみてください。

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事業年度途中でも役員報酬の変更が認められるケース


要件を満たさない場合でも役員報酬の変更自体は可能です。しかし、要件を満たさなければ損金算入できないため法人税の税負担が大きく増えるデメリットがあります。
ただし、例外が認められるケースもあるため、事前に理解しておく必要があります。

役員が増えた・減った場合

事業年度の途中で役員が増えるケースもあれば、減るケースもあります。
例えば役員が増えた場合は、事業年度の途中だとしても報酬額の変更を損金として算入することが可能です。
反対に、役員が減った場合には報酬額の減額措置が可能となるので覚えておいてください。

役員が昇格または降格する場合

役員の職制上の地位の変更があった際にも変更が可能な場合があります。会社には会長や社長、副社長や専務、常務といった役員がいます。
その役員が昇格や降格となった場合に変更が可能です。例えば、副社長が社長に昇格するような状況です。
昇格するとなれば、責任や業務内容も大きく変わるため報酬額も増額されるでしょう。この場合であれば、税務調査があったとしても指摘されることはありません。

また、これまで役員だった人物が降格をして役員ではなくなった場合は、役員報酬の減額措置が可能です。

役員の職務内容に重大な変更がある場合

役員の職務内容に重大な変更があった際にも役員報酬の変更で例外が認められます。
役員の病気や怪我のほか、合併による組織の再編成が実施されるといった理由で、役員の職務内容が当初予定されていたものよりも変更する箇所が出てくるためです。

病気や怪我で役員が休職するとなれば大きく減額し、休んでいた役員が復帰する場合は、役員報酬が増額されます。
ただし、損金算入したい場合は報酬変更をせざるを得ないほどに職務内容が大きく変更となった時のみでしか認められません。

会社の業績が悪化した場合

会社の業績が悪化した場合には役員報酬を減額できるケースがあります。
経営状態が悪化すれば経営陣の報酬を削減しなければ経営難に陥ってしまうため、見直しは妥当だと考えられます。
しかし、前年度と比較して収益がわずかな額しかマイナスになっていない場合は、減額が認められないかもしれません。

業績悪化の場合は、大きく悪化した事実が必要です。経営状況の悪化によって株主や債権者、取引先など、第三者に影響が及べば認められます。
また、業績が悪化したとしても報酬額が契約で決められている場合や法的な制限があれば、減額は認められません。

役員報酬を減額した場合の会社への影響


役員報酬を減額すると、以下の影響を会社に与えます。

  • 社会保険料の負担が会社的に少なくなる
  • 減額した分、会社にお金が回せる

極端になってしまいますが、役員報酬を0円にすれば個人が支払う所得税や住民税、社会保険料も0円になります。その結果、会社の負担も少なくなります。
また、個人にお金を残さないため、減額した分をそのまま会社に残すことが可能です。
会社が安定して収益を上げるまでは、役員報酬をあえて少なくする経営者も中にはいます。
ただし、生活に影響を与える可能性や年金の受給額が少なくなる点には注意してください。

赤字が原因で役員報酬を減額したい場合の手順


役員報酬の減額を決めた時、税制上のルールに従って変更する必要があります。役員報酬が企業の損金に認められなければ法人税の金額に影響を与えてしまいます。
詳しい手順を解説していくので参考にしてください。

1.役員報酬の金額を決める

まずは、役員報酬の金額を決定します。株主総会の決議は普通決議です。減額の場合だけではなく、増額する場合も金額を先に決める必要があります。
また、前期と同じ額で変更がない時でも変更しない旨の議事録が必要です。

役員報酬の金額を決める際のポイント

役員報酬の金額を決定する際のポイントは以下の通りです。それぞれについて、詳しく解説していきます。

健全な経営が可能な範囲内で決める

1つ目のポイントとしては、健全な会社経営が可能な範囲の額で決めることです。
役員報酬が高すぎれば資金繰りの悪化や最適なタイミングで投資ができないといったデメリットが生まれます。
役員報酬の変更は年に1回の期首のみです。そのため、先を見越して余裕のある金額を設定することが大切です。

相場とのバランスを考える

2つ目は、世間の相場とのバランスを考える点です。役員報酬を決定する上では相場とのバランスを考えて決めていきます。
役職に見合う役員報酬額にしなければ、人材流出リスクが高まってしまいます。

2023年に発表された「民間企業における役員報酬(給与)調査」の結果は以下の通りです。

企業/役職 会長 副会長 社長 副社長 専務 常務
全規模 6,391.1
(万円)
5,821.5
(万円)
5,196.8
(万円)
4,494.4
(万円)
3,246.9
(万円)
6,391.1
(万円)
3,000人以上 9,305.8
(万円)
7,579.4
(万円)
8,602.6
(万円)
6,008.8
(万円)
4,545.0
(万円)
9,305.8
(万円)
1,000人以上
3,000人未満
5,813.1
(万円)
6,205.7
(万円)
5,275.6
(万円)
3,947.9
(万円)
3,343.6
(万円)
5,813.1
(万円)
500人以上
1,000人未満
5,636.4
(万円)
3,062.6
(万円)
4,225.5
(万円)
3,510.6
(万円)
2,543.4
(万円)
5,636.4
(万円)

出典:人事院「民間企業における役員報酬(給与)調査(令和5年3月承認)」
世間の相場とかけ離れた額にしないよう気を付けてください。

損金算入が認められる金額に設定する

役員報酬が損金と認められるには決まりがあります。法人税法第34条では、「不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入しない」と記されています。
具体的な数字が明確に示されているわけではありません。しかし、裁判で争われるケースもあります。
額の目安としては前述した「民間企業における役員報酬(給与)調査」の相場を参考にしてみてください。

法人税の負担が大きくならないようにする

最後のコツは、法人税の負担が大きくならないようにする点です。役員報酬は、税金対策に必要な経費でもあります。
役員報酬の額を極端に下げてしまえば、法人税の負担が大きくなってしまいます。

法人税の税率は、原則23.20%です。しかし、中小法人であれば所得800万円以下の部分に関しては税率19%となり、さらに時限的に税率15%となります。
税率が変わるポイントを意識して、役員報酬額を検討するのも策の1つです。

2.株主総会を開催する

役員報酬の金額を決めたら株主総会を開催します。株主総会での決議がなければ変更が無効となるので注意してください。変更の決議は通常の株主総会と同じ形式です。

株主総会を実施する際には、招集通知を行います。総会を開催する2週間前までに行い、通知書には開催する日時や場所、目的などを記します。
オンラインで実施する際には開催方法や参加の有無などの資料の添付も必要です。

3.議事録を作成する

株主総会で決定された報酬額の変更点は、会社法によって定めがあるため、議事録として残しておかなければいけません。
税務調査が入った時に正しい手続きをしている証拠となるため、必ず作成することが肝心です。

  • 変更する前の報酬額
  • 変更した後の報酬額
  • 変更する理由
  • 変更する時期
  • 決議内容
  • 総会を開催した日時
  • 総会を開催した場所
  • 議長名
  • 議事録を作成した日 など

 
これらの内容を議事録に含めます。株主や債権者が閲覧できるよう、作成した議事録は10年間会社に保管されます。

4.税務署・年金事務所に届出を提出する

役員報酬を変更したことで発生する税務上の手続きや年金事務所への届出を提出する必要もあります。
標準報酬月額表における2等級以上の変更があれば、年金事務所に被保険者報酬月額変更届を出さなければいけません。

手続きに不備があればトラブルを起こす可能性もあるため、十分に確認した上で申請をし、不明な部分が多ければ専門家のアドバイスを受けながら実行すると安心です。

赤字で役員報酬を減額する際の注意点


赤字で役員報酬を減額する際、どのような点に注意すれば良いのか解説していきます。

事前確定届出給与の場合も所轄の税務署長に届出の提出が必要

役員に対してあらかじめ決めた額を指定した日に支払うことを定める仕組みを、事前確定届出給与と言います。あらかじめ税務署に届出すれば損金算入できるようになります。
事前確定届出給与に関する変更届出は、株主総会を開催した日から1カ月以内に提出しなければいけません。
e-Taxソフトで届出書を作成し提出することも可能なので、国税庁のホームページを確認して届け出の準備を行ってください。

減額後に元の役員報酬へ戻す場合は「増額」とみなされる

役員報酬を減額した際、「売上げが回復したら元に戻そう」と考える方もいますが、減額をしてから元の額に戻す行為は、特別な事由には該当せずに増額とみなされる可能性があります。
利益調整したと判断されるケースもあるので、定期同額給与が使えなくなると判断できます。

そのため、経営が悪化した際には未払いの対策を取り、経営の回復がみこめた際に通常通りに支給する形式が現実的でしょう。
ただし、源泉所得税を納税する必要があるため、役員の理解を得る必要があります。

役員報酬の変更に伴う税務上の取り扱い


役員報酬を変更したタイミングごとに伴う、税務上の取り扱いをみていきます。

事業年度開始から3カ月以内

役員報酬の変更は、事業年度開始から3カ月以内に実行します。この期間内であれば、損金算入が可能です。
ただし、3カ月以内の時期でも改定は1度きりしか実施できないため注意してください。

事業年度開始から3カ月経過後

役員報酬を事業年度開始から3カ月経過後に変更すれば、以下のような取り扱いとなります。

・増額した時
3カ月を経過した後に増額をすれば、増額分の損金算入はできません。例えば、期首が4月1日で月50万円の報酬が、8月から月80万円になるとします。
その場合、損金算入できる額は毎月50万円です。差額の30万円は法人税が発生するため注意してください。
ただし、例外として新任役員の場合や既存の役職から昇格した時には、3カ月を経過していても損金算入が可能です。

・減額した時
減額した場合も増額と同じで3カ月以降は原則として損金算入が認められていません。
期首が4月1日で、月50万円だった報酬額が8月から月35万円となれば、4月から7月も損金算入できるのは35万円となり、差額の15万円に対しては法人税が発生します。
ただし、特別な事由があれば例外として減額が可能です。

  • 役員の降格
  • 役員の懲戒処分
  • 役員の病気や怪我
  • 会社の業績悪化

上記のような状況になれば、例外となるため損金算入ができる可能性があります。

まとめ・赤字で役員報酬を減額する際は慎重に手続きを進めよう

会社の業績が悪化し、赤字となった場合は役員報酬を減額できます。
その際、定められたルールに従った手順を踏んで減額しないと、法人税額に大きな影響を与えてしまいます。
今回ご紹介した手順を参考に金額の決定や株主総会の開催、届出などを実施してみてください。

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