個人事業主向け消費税の基礎知識!課税対象になるタイミングはいつから?
個人事業主で消費税納税が必要となる条件は?必要な届け出と確定申告の方法
個人事業主やフリーランスは、消費税の納税義務のある人とない人に分かれています。
消費税は課税事業者にならないと納税しなくても良いことになっていますが、課税事業者になるかどうかの判断基準は少し複雑です。
個人事業主やフリーランスは、どのような条件で消費税の課税事業者になるのか、自分は納税の義務があるのかを正しく知ることが必要です。
消費税の課税事業者になった場合、自分でしなければいけない手続きがあります。
手続きを忘れると節税の面で不利益を被る場合もあるため、課税対象になったタイミングを見逃してはいけません。
課税事業者に必要な手続きや個人事業主が消費税課税対象となる条件やタイミングなどを、詳しくチェックしておきましょう。
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この記事の目次
課税事業者は預かった消費税を申告し税務署へ納付する義務がある
消費税は、消費者が負担し事業者が納付する税金です。
個人事業主も法人も、消費税の課税事業者はそれぞれ年間の消費税を申告し、税務署に納付します。
納付する消費税額は、自分の受け取った消費税から自分の支払った消費税を引いた金額です。
消費税は仕入れなどの際に自分が支払った分もあるため、それを加味して自分が納めるべき金額を計算することが必要です。
適切に課税事業者になるための手続きをしておけば、この計算の際に有利な計算方法を選べるようになります。
以下では、まずは課税事業者とはなんなのか条件を見ていきます。
個人事業主の消費税の課税の条件
個人事業主の消費税の課税条件は、以下の3つのポイントから判断されます。以下の条件のどれかひとつに当てはまった事業者は課税対象です。
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- 課税期間より前々年の課税売上が1,000万円を超えている
- 前年の1月1日から6月30日までの課税売上、または給与支払い額が1,000万円を超えている
- 消費税課税事業者選択届出書を出している
法人の場合にはそれぞれの事業年度で判断しますが、個人事業主の消費税は1月から12月までの1年間が区切りです。
第一の条件となる基準期間は前々年の1年間で、その間の売上高によって本年の消費税課税の有無が決まります。
つまり、開業した初年度は前々年の売上げはないため、消費税もかからないということです。
前年の1月〜6月までの半年も特定期間として課税の判断条件になっていますが、このケースでも開業初年度は課税の条件に当てはまりません。
消費税の納付義務は基準期間の課税売上高で決まる
消費税は、基準期間の課税売上の金額によって課税の有無が決まり、基準期間の売上高が条件を満たした場合、課税期間の消費税の納税が必要となります。
個人事業主の場合、前々年が基準期間となり、その期間の売上高1,000万円がボーダーラインです。
ただし、前年の1月から6月までの半年間も例外的に「特定期間」とされ、1,000万円を超えた場合に課税対象となるため注意が必要です。
どちらのケースでも、消費税の納税は条件を満たしたからといってすぐに必要となるわけではなく、条件を満たした翌年からとなります。
また、消費税課税事業者選択届出書を提出した事業者は、翌年から消費税が課税されます。
1,000万円以下の免税事業者であっても、消費税課税事業者になったほうが有利な場合もあるため、このような制度があります。
個人事業主が消費税の課税事業者になるタイミングはいつから?
消費税の課税事業者は、税務署に届出を提出する義務があります。届出を提出するタイミングは、消費税の課税事業者となる条件を満たした時です。
1年間の課税売上が1,000万円を超えたら、2年後から消費税の課税事業者になる旨の届け出を出します。
また、1月から6月までの売上げが1,000万円を超えたら、翌年から消費税の課税事業者になる旨を届け出てください。
これにより、前もって消費税の課税事業者となることを税務署に伝えられます。
消費税課税事業者になるための届け出・必要書類
消費税課税事業者になるためには、個人事業主自らが届出をしなければいけません。
免税事業者が消費税課税事業者になる場合はもちろんですが、課税対象者が正式に課税事業者になる際にも届出を出します。
届け先は、納税地を所轄する税務署長です。
消費税の届け出に必要な書類は、基準期間1年間の売上高が1,000万円を超えたケースと、特定期間の課税売上もしくは給与の支払い額が1,000万円を超えたケースで異なるため、注意が必要です。
自分が提出すべき書類を正しく選んで届け出ましょう。
消費税課税事業者届出書(基準期間用)
前々年度の基準期間中の課税売上高が1,000万円を超えた個人事業主は、消費税課税事業者届出書のうち「基準期間用」という書類を提出します。
消費税課税事業者届出書は2つの様式があり、2年後に消費税課税となる事業者はそのうちのひとつである「基準期間用」の提出が必要です。
記載項目は以下のような内容です。
・納税地・住所
納税地に会社の住所を記載し、住所は同上とします。
・名称(屋号)
会社名、個人事業主の場合には氏名、または屋号を記載します。
・個人番号または法人番号
個人事業主の場合には個人番号です。
・適用開始課税期間
納税義務が免除されなくなる期間を記載します。
・上記期間の基準期間
売上高が1,000万円を超えた基準期間を記載する欄です。
・事業内容など
個人事業主の場合には自分の生年月日と自分の営んでいる事業内容を記載します。
消費税課税事業者届出書(特定期間用)
特定期間に売上高などが1,000万円を超えた人は、消費税課税事業者届出書のうち「特定期間用」を使います。
特定期間用も、基本的な内容は上記基準期間用とほとんど同じです。
「上記期間の基準期間」だけが「上記期間の特定期間」となっているため、そこには対象となる特定期間を記載します。
個人事業主の消費税の計算方法
個人事業主でも消費税課税事業者となった場合には、消費税を計算して納税しなければいけません。
納税の時期が来たら、消費税の計算方式を選び、納税に必要な手続きを進めていきます。個人事業主の消費税の計算方式について解説します。
消費税も、所得税と同じように納税する金額を計算して確定申告をすることが必要です。課税事業者となったら、消費税を自分で計算して確定申告手続きを進めてください。
消費税の計算方式には、原則的に用いられる計算方式とそれに対して例外的に認められている簡易的な方式があります。
方式ごとに計算方法や揃える書類の種類も異なります。
また、事業内容によっては、簡易課税方式のほうが節税効果の高いこともあるため、注意して選択してください。
消費税の計算方式は、何も申し出なければ原則課税方式になります。
原則課税方式
消費税の計算方式のうち、原則的に使われる課税方式を「本則課税」や「原則課税」と呼ぶことがあります。
簡易課税方式に対して、「本来の規則に則って税額を計算する」ことから付いた言い方です。
原則課税方式の計算式では、売上げとして顧客から預かった消費税から仕入先などへ支払った消費税を差し引きます。
こうすることで、自分が仕入先などへ消費税として支払った分を二重に納めずに済みます。
消費税は、消費者から預かった事業者が代わりに納める間接税です。
事業者は消費者から税金を預かりますが、自分も仕入先などでの消費の際に消費税を預けることがあります。
そのため、納税の際には預かった消費税をそのまま納めるのではなく、自分が支払った分を計算して差し引くことが必要です。
具体的な計算式は、「売上げに対する消費税ー経費にかかった消費税=納付金額」です。
簡易課税方式
簡易課税方式とは、一般的な課税方法に対して、売上げの規模がそれほど大きくない場合に限り特別に認められている簡単な計算方法です。
簡易課税方式は、消費税の計算が簡単であるだけでなく、事業内容や預かり消費税と支払い消費税の額によっては、節税効果も高くなります。
簡易課税方式は、売上金額だけを使って消費額を算出する計算方式です。基本の計算方法では、仕入先などに支払った消費税を1件ずつ計算しなければいけません。
それでは計算が煩雑になるため、規模の小さな事業者に限り、負担を軽減するために簡易的に計算できるこの方法が認められています。
具体的な方法は、売上げの税額に「みなし仕入れ率」をかけて計算します。「みなし仕入れ率」とは、業種ごとに定められた売上げに対する仕入れの割合です。
一般的に、売上げに対して仕入れの割合が高い業種ほど「みなし仕入れ率」も高くなります。
計算式は、「売上げに対する消費税-経費にかかる消費税(売上高×みなし仕入れ率)」です。
実際に仕入れなどにかかった消費税がいくらであっても、売上金額と「みなし仕入れ率」によって消費税額が決まります。
そのため、(売上高×みなし仕入れ率)よりも実際に仕入れにかかった消費税額のほうが少ない場合には、簡易課税方式を選んだほうが節税できることになります。
簡易課税方式は売上高5,000万円以下であることが条件で、利用するためには届け出が必要です。
消費税課税事業者届出書だけでなく、消費税簡易課税制度選択届出書を適用期間の前日までに税務署へ提出しなければいけません。
課税事業者となったにもかかわらず、届け出を出していない場合には、自動で原則課税方式となり、簡易課税方式を選べなくなります。
二割特例
2023年10月1日より、インボイス制度が開始されました。この制度によって課税事業者となった場合、「二割特例」を適用できます。
これにより納税額の8割を控除でき、結果的に消費税の支払いは納税額の2割になります。
しかし、二割特例は2026年9月30日までの経過措置で、2029年10月1日以降は5割の控除に変更されます。
また、軽減措置期間内でも、控除額が3年ごとに変化する点に注意が必要です。
納付する消費税額が大幅に軽減できるため、個人事業主になったばかりで売り上げが少ない方は、二割特例を選ぶといいでしょう。
たとえば、消費税率10%で仕入れなどにかかる消費税額が100万円の場合、売上高が500万円なら消費税額は40万円です。
しかし、二割特例を適用すると「40万円×0.8=32万円」を控除できるため、実際に納付する消費税額は「40万円-32万円」で8万円となります。
個人事業主必見!消費税の納税の流れ
消費税納税までの準備と手続きの流れを紹介します。
消費税の確定申告の期限は所得税とは異なり、個人事業主は課税期間の翌年3月31日までです。
決算期末から2カ月以内という法人の期限とも違うため、注意してください。
1.消費税の確定申告に必要な書類を入手する
消費税の確定申告で必要な書類は、計算方式によって異なります。
原則課税方式の場合には、
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- 「消費税及び地方消費税確定申告書(一般用)」
- 「付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」
簡易課税方式の場合には、
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- 「消費税及び地方消費税確定申告書(簡易用)」
- 「付表5 控除対象仕入税額の計算表」
が必要です。
これらの書類は、国税庁ホームページ、または確定申告書作成コーナーから入手可能です。税務署の窓口でももちろんもらえます。
確定申告書作成コーナーの場合には、ネット上で入力してプリントアウトできるため、手書きの必要がありません。
2.消費税の確定申告に必要な書類を記入する
消費税の確定申告では、「課税標準額」・「消費税額」・「控除対象仕入税額」の合計を記入する必要があります。それぞれを計算して正確に記入してください。
課税標準額とは、課税の対象となる金額です。消費税込の売上金額を消費税抜きの金額にします。
その課税標準額に消費税率をかけたものが売上げに対する消費税です。確定申告書では、①~⑯の項目に国税を記入することになっています。
消費税10%のうち国税部分は7.8%なので、注意が必要です。
さらに、控除できる仕入金額に対する消費税額を計算して記入します。経費と仕入れ額に含まれる消費税が対象です。
ただし、給料や租税公課など、消費税が含まれない経費や非課税取引は除いて計算します。
3.確定申告書を提出する
消費税の確定申告書が完成したら、納税地を所轄する税務署に提出します。
通常、翌年の3月末日までに税務署に確定申告書を提出し、納税しますが、過去には新型コロナウイルスの影響によって延長された年もありました。
4.各種方法で納税する
消費税の納付には、以下のように複数の方法があります。
・電子納税(e-Tax)
e-Taxを使用して確定申告を行う場合、登録済みの口座から振替納付が可能です。
また、インターネットバンキングを利用した電子納付も選択できます。
・振替納税
金融機関に口座振替依頼書を提出するか、e-Tax経由で口座振替依頼書を提出し、納税する方法です。
・クレジットカード納付
クレジットカードで支払いが可能ですが、決済手数料がかかります。
・コンビニ納付
納税金額30万円までの場合、納付に必要なQRコードを作成し、コンビニエンスストアで納付できます。
・窓口納付
金融機関や所轄税務署の窓口で、納付書を使った納税です。
・スマホアプリ納付
納税金額30万円までの場合、PayPayなどのスマホアプリを使って、消費税を納付できます。
個人事業主が実施したい消費税の節税対策
個人事業主が消費税を節税するためのポイントは、所得金額を減らすことです。
・経費を漏れなく計上する
事業運営のために発生した経費は1円も漏れなく計上し、所得金額を減らします。
特に注意が必要な経費には、水道光熱費の家事按分、青色事業専従者給与の特例、事業専従者控除の特例があります。
・控除を最大限利用する
生命保険料、小規模企業共済、医療費控除、国民年金や国民健康保険料、iDeCoなどの控除は最大限活用し、所得金額を減らしましょう。
・青色申告を実施する
青色申告を行うと、最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。
これには、複式簿記の記帳や貸借対照表と損益計算書の添付、確定申告の期限である翌年の3月15日までに提出するといった条件があります。
・法人化を検討する
法人化すると、消費税に関する特例や優遇措置を利用でき、税率が一定の法人税になります。
さらに、経営者の給与に給与所得控除が適用されるメリットもあります。
・非課税取引を活用する
海外輸出や特定の商品やサービスの提供は非課税取引となり、消費税の対象外になります。
個人事業主が知っておきたい消費税の留意点
個人事業主の消費税納税のルールはやや複雑で、消費税をどう扱って良いか迷うこともあるかもしれません。
課税事業者かどうかの判断や、計算方式を選ぶ上で個人事業主として知っておきたいポイントをまとめました。
免税事業者も課税事業者も、消費税課税の仕組みやルールを知っておきましょう。
課税売上高が5,000万円を超えると原則課税方式になる
事業規模が比較的小さい個人事業主は、簡易課税方式を選べる人も多いでしょう。
しかし、事業規模が拡大し、課税売上が5,000万円を超えた時点で簡易課税方式は使えなくなり、原則課税方式のみとなります。
ただし、簡易課税方式をやめるための「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければ、再び売上げが5,000万円以下になると自動的に簡易課税方式に戻ります。
免税事業者も消費税を請求できる
消費税は、売上高が1,000万円以下などの条件下で免除されるようになっています。そのため、免税事業者は取引先に消費税を請求して良いか迷うことがあるようです。
しかし、免税事業者は消費税を納める必要はありませんが、売上げに消費税を乗せて請求可能です。法的に禁止する項目などもありません。
非課税取引と不課税(対象外)取引は消費税がかからない
消費税にはその課税対象となる取引きと対象とならない取引きがあります。勘定科目でいえば、売上高・受取利息・配当金・雑収入などが消費税のかかる課税取引です。
課税取引にあたらないものには、課税対象に馴染まない、または社会政策的な意味で非課税が認められている非課税取引と、そもそも課税対象にならない不課税取引があります。
非課税取引には預貯金の利子や土地の譲渡などがあり、不課税取引には海外での取引き・寄付・贈与などがあります。
インボイス制度が個人事業主の消費税に与える影響
インボイス制度の導入により、消費税の免税事業者に該当する個人事業主も、課税事業者に転換する必要が出てくる可能性があります。
これまでは取引先が免税事業や課税事業者であっても、仕入れにかかった消費税を引くことができました。
しかし、インボイス制度導入により、免税事業者からの仕入額控除が段階的に使えなくなります。
この変更により、課税事業者のみが発行できる適格請求書を発行できない取引を避ける傾向が強まり、これまで消費税を支払う必要のなかった個人事業主が課税事業者となり、消費税を納める状況になる可能性が高まります。
個人事業主も消費税を意識して確定申告に備えよう
個人事業主は消費税が免税される人も多くいますが、一定額以上の売上げが出たら課税対象となります。
ある程度の売上げが出はじめたら、個人事業主も気を抜かずに消費税を意識しておきましょう。
消費税の対象となった事業主は、自主的に届け出る必要があり、届け出を怠ると節税のチャンスを失うかもしれません。
そのため、開業してから1回でも決算を終えたら、消費税課税の条件を満たしているかどうか、課税売上を確認してください。
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(編集:創業手帳編集部)