一般社団法人が利益を得るのはNG?非営利法人の本当の意味とは
一般社団法人における利益の考え方、普通型と非営利型の違いについてわかりやすく解説
一般社団法人のような非営利法人は、利益についての考え方が株式会社や合同会社などの営利法人とは違います。
非営利法人は営利目的の事業ができない法人です。一般社団法人は利益を得てはいけないのでしょうか。
一般社団法人に認められた事業内容や運営の仕方で社団法人にできること、できないことを解説します。
また、一般社団法人には普通型と非営利型があるため、この2つの違いについても理解しておきましょう。
非営利法人や非営利型の意味は、勘違いされやすいため注意が必要です。
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この記事の目次
一般社団法人とは?
一般社団法人とは、利益を分配できない非営利法人のひとつです。このほか、非営利法人にはNPO法人、財団法人などがあります。
反対に、株式会社や合同会社といった営利法人は、利益を分配できる法人です。
一般社団法人は非営利法人として、営利法人とは利益の扱い方が違います。この違いは一般社団法人が営利目的ではないために起こるものです。
非営利法人である一般社団法人とはどのような法人なのか、株式会社のような営利法人とは違う特徴や目的などを押さえておきましょう。
利益を分配できない非営利法人
一般社団法人の主な特徴は、営利目的の事業をしない点です。「営利」とは、構成員に剰余金を分配することを意味します。
つまり、一般企業のように事業で利益をあげて、その利益を株主に分配するのが営利法人です。
その反対である「非営利」は、構成員に剰余金を分配しないことを示しています。
一般社団法人の運営や管理は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」で定められており、その目的についても厳密に規定されています。
定められた目的以外の事業は許されないため、目的が合わない場合には会社のような、ほかの法人形態で行うことが必要です。
一般社団法人の目的
一般社団法人の目的として許容されていないのは、以下の3つのものです。それ以外のものは一般社団法人の目的として許容されます。
・営利目的
営利目的の事業は、上記の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下、一般法人法と記載)11条2項で禁止されています。
・違法な目的・無効な目的
違法な目的とは、各種規制に反する目的です。例えば、訴訟事件や法律事件を取り扱って報酬を得ることは、弁護士法で弁護士や弁護士法人にしか許されていません。
こうした法に反して事業を起こし、営むことは一般社団法人のみならず、すべての人にとってNGです。
・目的の記載が不明瞭
登記事項の目的についても一般社団法人の目的の条件に入っています。定款の目的は登記官の審査を受けますが、不明瞭な場合には登記できません。
不明瞭にあたるものとしては、意味のよくわからない記載や複数の意味があり、どれを示すか特定できない記載、日本語として定着していない記載などです。
反対に、一般社団法人の目的として認められているのは以下のようなものです。
・公益目的
不特定かつ多数の者の利益に資する目的のことです。公益とは、社会全般の利益を意味します。
つまり一部の人のためではなく、市民や国民など、広い範囲の人のためということです。
・共益目的
社員に共通する利益に資する目的のことを言います。一般社団法人では株主という概念はなく「社員」が経営と出資をしますが、その社員の利益を指すのが「共益」です。
公益が広い範囲の人々の利益を指すのに対し、共益は限られた範囲の人を指します。
・収益目的
法人税法上の課税対象となる収益を得る目的を指します。つまり、事業でお金を得るために行うことです。
一般社団法人に多い業種
一般社団法人は、上記の禁止されている目的以外の事業であれば、どのような事業でも営むことが可能です。
業種にも制限はなく、株式会社や合同会社が経営する業種でも始められます。
その中でも一般社団法人が使われやすい業種は、芸術・地域振興関連事業や障害福祉、介護福祉事業などです。
芸術の振興や教育、また、地域の振興や発展を目的とした事業で、公共性が高いものです。
障害者の支援や介護、高齢者の健康維持などの社会全体に貢献する事業も、一般社団法人の形態で行うことが多くなります。
また、観光業に関する振興事業なども一般社団法人として行われています。
ただし、一般社団法人が多いのは、宿泊業や物品の販売といった事業ではなく、観光業全体の振興や観光地の知名度を高めることを目的とした非営利事業がメインです。
それとは別に、一般社団法人は同窓会・学術団体・職能団体・業界団体・自治会・町内会などの組織にも用いられています。
法人化するのは、ほかの法人との契約や銀行口座の開設などがしやすくなるためです。
法人格の中でも一般社団法人は設立しやすいため、前述した団体も一般社団法人を選ぶことが多くなるようです。
一般社団法人は利益を得ても良い?
一般社団法人は非営利法人ですが、事業の内容は法で定められた目的に合うものであれば比較的自由に選べることがわかりました。
しかし、事業で利益を出すことは問題ないのでしょうか。事業の収益、利益に関して、一般社団法人ができることとできないことを解説します。
一般的な感覚で、非営利法人は「利益を出してはいけない」・「ボランティアでお給料が出ない」といった印象を持たれることもありますが、それは正しい認識ではありません。
分配はできないけれど利益を出すのは自由
一般社団法人は非営利法人として、利益の分配ができません。しかし、利益を出すことは自由です。
一般社団法人に許容されていないのは営利目的の事業であり、収益目的は許容されています。つまり、利益を出す目的で事業をしても問題ありません。
非営利法人と聞くと、利益を出してはいけないと思う人も多いようですが、正確には利益を分配できないだけです。
利益の分配とは、株式会社のように株主に配当金を出すことです。一般社団法人には株主はいないため、出資者でもある「社員」に配当金を出してはいけないことになります。
そもそも、法人は利益を出さなければ事業を継続することは難しくなります。それは一般社団法人であっても同様です。
そのため、利益を分配してはいけませんが、利益を出すこと自体は禁止されていません。
分配できない利益は活動費へ
一般社団法人は利益を出しても良いですが、分配はできないため、利益が出た場合には分配以外の方法で使う必要があります。
一般社団法人では、分配できない利益は法人の活動費として使われ、出た利益は事業に再投資され、一般社団法人の目的を果たすために使われます。
一般社団法人では寄付金や基金などの資金調達方法もありますが、安定的で継続的な収入源となるのは事業収入です。
収益事業で収入を得ることで、一般社団法人として十分な活動もできるようになります。
利益から給料や役員報酬を払うことも可能
一般社団法人が収益事業で得た利益は、給料や役員報酬として使うこともできます。
一般社団法人では利益を分配してはいけませんが、従業員への給料や理事への役員報酬として支払うのは問題ありません。
一般社団法人はボランティア団体で無給であると勘違いしている人もいますが、会社のように給料をもらって働いている従業員も在籍しています。
ただし、役員報酬として支払う場合には、利益の分配にあたらない条件を守ることが大切です。
税制面では、報酬額を事前に確定し、税務署へ届け出るルールになっています。また、報酬は定期給付かつ同額であることも役員報酬と認められるための条件です。
一般社団法人には「普通型」と「非営利型」がある
一般社団法人は1種類ではなく、「普通型」と「非営利型」に分かれます。普通型と非営利型は、税制上の違いがあり、それによって利益にかかる税金が違います。
一般社団法人の利益の扱いについて理解する上では、普通型と非営利型の違いも明確にしておくことが大切です。
どちらも非営利法人である
普通型と非営利型と名づけられていますが、どちらの一般社団法人も非営利法人です。
普通型とはいえど、一般社団法人の大原則である非営利法人には違いなく、非営利型だけが非営利法人というわけではありません。
では、どのような違いがあるかというと、税制上の優遇と認められるための要件が違います。
普通型と比べると非営利型のほうが優遇されている分、非営利性が徹底されています。
税制上の違いがある
一般社団法人の普通型と非営利型の違いのひとつは、税制上の優遇です。
どちらも非営利法人ですが、法人税法上の法人区分が異なり、法人税の課税のされ方が異なります。普通型にはない税制上の優遇が非営利型にはあります。
普通型
普通型一般社団法人は、税制上では株式会社と同じです。
一般社団法人の事業には収益事業や公共事業、共益事業などがありますが、それらで得た所得のすべてが課税対象となります。
非営利型
非営利型一般社団法人は、NPO法人などと同様の「公益法人など」にあたります。
課税されるのは、収益事業のみで、それ以外の寄付金や会費などで得た所得は法人税の課税対象外です。
要件が厳しいのは非営利型
税制上の優遇がある非営利型一般社団法人ですが、その分認められるための要件が厳しくなっています。普通型一般社団法人は特別な要件を満たす必要はありません。
非営利型一般社団法人になるための要件は、非営利性が徹底された法人、または、共益的活動を目的とする法人のどちらになるかで異なります。
非営利性が徹底された法人の要件は以下の通りです。
-
- 定款に剰余金の分配を行わないことを定めている
- 定款に解散した時は、残余財産を国や地方公共団体といった一定の公益的な団体に贈与することを定めている
- 上記に反する行為を行うことを決定していない、行ったことがない
- 理事とその理事の親族などにあたる理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下(つまり理事の人数は3名以上必要)
また、共益的活動を目的とする法人の要件は以下の通りです。
-
- 定款に会費の定めがある
- 主な事業として収益事業をしていない
- 定款に剰余金の分配を特定の個人や団体に行うことを定めていない
- 定款に解散した時にその残余財産を特定の個人または団体に帰属させることを定めていない
- 特定の個人、団体に特別の利益を与えることを決定したことがない、与えたことがない
- 理事とその理事の親族などである理事の合計数が理事の総数の3分の1以下(つまり理事の人数は3名以上必要)
解散した場合の残余財産の処分方法については、非営利性が徹底された法人のほうの要件が厳しくなっています。
共益的活動を目的とする法人の場合には、贈与先までは定める必要がなく、解散時には社員総会決議によって残余財産を分配することも可能です。
普通型から非営利型への変更は可能か
普通型一般社団法人は、非営利型一般社団法人に比べて厳しい要件もありませんが、優遇措置もありません。
そのため、節税メリットのために非営利型一般社団法人を目指したいと考える普通型一般社団法人もあるでしょう。
以下には、普通型一般社団法人から非営利型一般社団法人になることは可能か、変更には何が必要かをまとめました。
非営利型の要件を満たすことで可能
普通型一般社団法人が非営利型になるためには、その要件を満たすことが必要です。非営利型の要件を満たせば、届出により変更できます。
非営利性を徹底した定款の作成
非営利型一般社団法人の要件を満たすためには、まずは定款を作成し直すことが必要です。非営利型の要件のほとんどが定款の内容となっています。
定款で定めたことは必ず従う必要があるため、書き換えれば良いというものではなく、非常に重要な決定をすることになるでしょう。
人的要件を満たす理事の登記
非営利型の要件には、理事についての内容もありました。それは、理事が3名以上登記されており、その全員が親族以外であることが必要というものです。
条件をすでに満たしている場合には変更不要ですが、2名以下の場合や3名以上いても全員が親族だった場合には新たな人選が必要です。
法人区分変更の届出が必要
非営利型の要件をすべて満たせたら、法人区分の変更の届出をします。税務署・都道府県税事務所・役所へ「異動届」を出すことが必要です。
これは法人区分を普通法人から非営利型法人に変更する届出であり、税法上の扱いが変わるだけで「非営利型一般社団法人」と登記されるわけではありません。
変更にかかる費用
普通型から非営利型一般社団法人に変更する際には、費用がかかる場合とかからない場合があります。
税務署などに異動届を出すだけの場合には、特に費用はかかりません。
ただし、理事に変更がある場合のみ、法務局への登記申請が必要となり、その登録免許税として1万円がかかります。
まとめ
一般社団法人は非営利法人ですが、利益を出すことは可能です。一般社団法人ができないのは、利益の分配であり、収益事業を営むことは認められています。
一般社団法人は、株式会社や合同会社などの法人とは組織や利益の扱い方が違いますが、収益事業もでき、業種にも制限がありません。
起業の際にも、法人格として有効な選択肢のひとつとなるでしょう。
(編集:創業手帳編集部)