スタバ元CEO 岩田 松雄|【第一回】「ミッションが浸透する」8つのコツ
スターバックスコーヒージャパン 元CEO 岩田 松雄氏 特別インタビュー
経営手腕を高く評価され、数々の企業の再生にかかわってきた岩田松雄氏。働く人を生き生きさせるリーダーとは?社員一人一人のパフォーマンスを上げる人材育成のコツ、リーダーは何を語るべきか?コミュニケーションのコツなど、二回に分け、その全貌を明かします。
先行き不透明な昨今、ビジネスや人生には「ミッション」や「ビジョン」を確立させる必要があります。企業の再生に成功した専門経営者である岩田氏の著書から「ミッション」がなぜ必要なのかを学んでみてください!
日本の専門経営者。スターバックスコーヒージャパンCEO(最高経営責任者)を経てリーダーシップコンサルティングを起業。大阪出身。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。工場での生産管理や営業、財務など様々な業務を経験。カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソンマネジメントスクールでMBAを取得。ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラなどを経て、コカ・コーラビバレッジサービス常務執行役員、ゲーム会社アトラス社長、タカラ取締役常務執行役員、イオンフォレスト社長などを歴任。その後、スターバックスコーヒージャパンでCEOを務めた。UCLAよりAlumni 100 Points of Impactに選出される(歴代全卒業生37000人から100人選出。日本人は合計4名)著書に『ついていきたいと思われるリーダーになる51の考え方』『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』ほか。新刊『リーダー絵ことば イラストでわかる人の動かし方』
リーダーシップコンサルティングHP:http://leadership.jpn.com
起業家としてはヨチヨチ歩きです
岩田:大学を卒業してから日産自動車で13年間働きました。製造現場・セールスマン・財務などの様々な業務を経験し、在職中にカリフォルニア大学のビジネススクールにてMBAを取得しました。帰国後に国際調達や財務を経て外資系コンサルティング会社に転職しました。
その後日本コカ・コーラを経て、経営者として3期連続赤字企業のアトラスを再生し、イオンフォレスト(ザ・ボディショップジャパン)では、売上を2倍、利益を5倍にすることができました。一般的にブームが過ぎ去ったブランドの立て直しは難しいと言われていますが、運良く再成長させることができました。
スターバックスCEOを務めた後は、1年間浪人をしていました。その後産業革新機構という政府系ファンドで1年間投資先の経営指導をする仕事を経て、今の会社リーダーシップコンサルティングを起業しました。
ですから、創業手帳の読者の方々と同じ経験を起業時にしているわけです。
おかげさまで、リーダーシップの本が30万部を超えるベストセラーになりましたので、講演や執筆依頼が来て、さらにコーチングやコンサルティング依頼も来て、無我夢中という感じで会社を立ち上げました。
起業してからもう2年経っていますが、私は未だに人を雇うのが怖いので1人でやっています。本当に忙しいので、ぜひ秘書を雇いたいと思っています。しかし人を雇うという事は、オフィスも必要になってきますし、固定費がかかるので、創業手帳にも掲載されている、シェアオフィスを借りています。
ですから、私はまだ起業家としてはヨチヨチ歩きなんですよ。
リーダーに不可欠なことは『ミッション』を語り続けること
岩田:会社の規模によってやり方は違いますが、まずは『ミッション』つまりこの会社の存在理由はなんなのかという事をみんなに語れないといけないと思うのです。それと「絵とことば」の発信ではないでしょうか。リーダーは絵=ビジョンを描き、それをみんなに「この会社をこういう風にしていきたい…」とわかりやすい言葉で示す事です。
「利益とミッションは相反するものだ」というご意見をいただくこともありますが、私はそうではないと思います。AorBではなく、A&Bであるべきだと。つまりどちらかではないのです。目先の利益を追う事も大切だけど、企業の存在理由についても考えないといけないのです。
起業家には、それぞれ創業の思いがあると思います。しかし「金持ちになりたい」という事で人は集まってきません。もちろん創業期はミッションどころではなく、日々どうやって売り上げを作るかを考えるべきですが、人も雇いある程度会社が回り出すと、皆が違った方向を向いてしまい、俺たちって一体何のために働いているの?という事態に陥るのです。その時にちゃんと自分たちで立ち止まって、会社の存在理由である「ミッション」をしっかり考えることが必要です。
特に創業期は、当然最初の想定と違う事がいっぱい起ってくるわけですからね…
その時に社長がちゃんと『ミッション』と『ビジョン』を示す。あるいは、みんなで立ち上げたのだから、「私はこの会社はこういう思いで作ったんだけれども、君たちはどういう考えなのか?」という対話をして、みんなで会社のミッションについて考えるのはとても重要な事だと思います。
会社というのは大きくなればなるほど、新しい人も入ってきますし、創業期の思いが薄れがちになっていきます。常に何のためにやっているのか…という創業の原点に戻らないといけないと思います。
新しい人たちは、会社の規模や、給料やステータス…と全然違う次元のところから人が入ってくるわけです。勿論、採用面接をするときには、自社の理念や価値観にあった人を採用しなければなりませんが、入社した後も繰り返しミッション教育・理念教育はしなくてはなりません。特に、新卒は、ほとんど何も世の中や会社のことはわかっていない場合が多いですからね。だから、何度も繰り返し言わなければならないのです。
でも私は、新卒はとても大事だと思っていて、彼らは全くの白紙だから会社の理念や価値観をスッと吸収してくれる。だから、ある程度会社の規模できたら、少数でもよいから新卒は定期的に採るべきだと思います。
岩田:リーダーはあらゆる場面で「ミッション」を語らなければならないと思います。朝礼や会議やちょっとした飲み会でも。私は毎週出していた社長からの手紙(マネジメントレター)でも繰り返し、「社長の思い」を発信していました。大切なのは手を変え、品を変えて常にメッセージを発し続けることです。
- 時系列にみるリーダーの役割
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- 創業当初→キャッシュを作る
- 会社が成長→マネジメント(人をどう動かすか)
常に創業時の思いや理念を繰り返し繰り返し皆に伝え、会社理念を形骸化させない工夫が必要。
ミッション手帳で「人」の悩みを解決
岩田:創業時の思いを明文化して皆で共有する方法として、『ミッション手帳』を活用するのも良いと思います。
現在経営者に向けてエグゼクティブ・コーチングを行っているのですが、ベンチャー企業にしろ、大企業にしろ、社長さんの悩みの7割ぐらいは「人」の問題です。会社の中には思い(ミッション)を共有している人がいれば、そうでない人もいます。日々業務の中には簡単に白黒つけられないような問題がでます。それらを解決するために、私は会社の思いを明文化させた『ミッション手帳』を作ることをお勧めします。何か問題が起こった時に、企業の原点が書かれているミッション手帳に照らして、判断するのです。
あるベンチャー企業の社長さんは、社員がバラバラの方向性を向いているという悩みを持っていました。『ミッション手帳』を作成し一年間実践したところ、社員が自ずと『ミッション手帳』を読んで自ら判断して行動するようになってくれたそうです。そしてずっと頭を痛めていた不良社員は、自然と辞めていったそうです。
また、「考え方、価値観が違い、能力もいまひとつ…」という人がいても、簡単に解雇できないのが現状です。考え方が違うというのは企業にとっては決定的なダメージです。『ミッション手帳』を元に、皆で勉強会や意見交換を行う。
つまりミッションに対して共有化することによって、会社のミッションと自分の方向性が合っているのかを確認できます。そこで、自分とは方向性が違うと感じ、合わないと思う人は自然とその会社を辞めて行くのです。
『ミッション手帳』を作成し、新しく入ってきた人たちにも『ミッション』を浸透させることにより皆が同じ方向を向いて仕事ができるようになる事が大切なのです。
理念やミッションを導入した成功例として挙げられているのは、JALの再生です。稲盛さんが『フィロソフィー』(=ミッション)を、3万人を超えるにスタッフに徹底的に浸透させました。<理念>や<使命>という事を大事にすることによってJALはあっという間に再生できたのです。
だからリーダーの仕事というのは、企業の段階によって違うけれども、基本的にはずっとその会社の『ミッション』や創業の思いを語り続ける事、徹底する事、あるいは意識することが一番の仕事だと思うのです。
リーダーに問われる資質
岩田:私も経験したのですが、「リーダーはトイレに行くときも見られている」。
つまりみんなはリーダーを本当によく見ているのです。顔色を見ているというと機嫌を取るとかというふうに取られるかもしれませんが、いつも自分が見られていることを意識しなくてはなりません。結構大変な状況でも、「絶対に大丈夫だから…」という明るさというか、「為せば成る」という気持ちをリーダーが持っていないと皆が不安になりますよね。
岩田:マネージャーは決められたことを上手く行うよう求められています。リーダーは、そもそも何をするかを決める人です。だからマネージャーは必要のないことを一所懸命してしまうこともあるのです。リーダーの判断によっては悪いことを一所懸命やってしまう場合もあるのです。
リーダーは常に良い方向に皆を導く必要があるのです。リーダーが何をすべきで、何をすべきではないかの判断を誤ってはならないという事です。
岩田さん自身の『ミッション』とは
岩田:多いのは講演ですね。その次が執筆、その次がビジネススクールでの授業です。コンサル的な仕事やエグゼクティブ・コーチングいわゆる経営者のコーチングなども増えてきています。最近はいろいろな企業でリーダー育成の研修を頼まれるケースも増えています。
私は日本も日本人も大好きです。日本をもっといい国にしたいという思いがあって、じゃあ自分が何をできるのか?…今の日本には絶対的に良いリーダーや経営者が足りていないと思っています。だからもっとリーダーを育成していこうと思っています。
私がこの日本のためにできることは、微力ながら、講演したり、ビジネススクールで教えるとか、経営者のコーチングをするとか、リーダーはこうあるべきだという自分の経験の本を書く事だと考えています。
つまり私の『ミッション』はリーダー・経営者を育てる事なのです。
- リーダー8か条
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- 『ミッション』や<理念>を常に発信し続ける
- 社員全員が社長の働きができるようにしっかりと『ミッション』浸透させる
- 『ミッション』の浸透により社員に判断を委ねられる
- 採用は慎重に。失敗するとマイナスになることも
- 仕事を頼むときはその意味や意義を説明する
- 教えることは最大の学び
- 自ら学び判断できる社員を育てる
- 社長と同じ気持ちになれるように言葉のキャッチボールをする
(取材協力:飛鳥新社)
(編集:創業手帳編集部)