経営者が知っておくべき「労災と補償」ポイント解説
労災の概要と、特に経営者向けのポイントをまとめました
(2020/02/26更新)
事業で将来的に人を雇用する予定がある経営者にとって、「労災」にまつわる知識を持っておくことは必須です。事業でどんな労災が起こりうるかを知った上で、未然に予防策を打つのはもちろんのこと、正しく知識を抑えているかどうかは、実際に労災が起きてしまってからの対応にも影響します。
今回は、労災と補償について、経営者が知っておくべき基本的な概要を解説します。
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この記事の目次
労災とは
労災は労働災害の略で、被雇用者が仕事に関わる形で怪我をしたり、病気になることです。被雇用者は、労働基準監督署から労災認定を受けることで、かかる治療費などを保障してもらうことができます。
正社員、パート、アルバイト、日雇いなど、雇用形態を問わず、従業員を一人でも雇っている事業所は必ず労働災害補償保険(以下、労災保険)に加入しなければなりません。(暫定任意適用事業や国の直営事業などの適用除外事業は除く)個人単位ではなく、法人単位での加入となります。
※暫定任意適用事業とは、農業・畜産業・水産業などで常時5人未満の被雇用者を雇用している事業のこと
労災には業務災害と通勤災害の2種類がある
労災が適用になるケースには、「業務災害」と、「通勤災害」の2種類があります。
業務災害
労働者が業務上の事由によって負傷したり、病気になったり、障害が残ったり、死亡することを、業務災害といいます。業務上とは、業務が原因となったということであり、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。
通勤災害
通勤災害は、その名の通り、通勤の間に起きた負傷や疾病のことです。労災が適用される通勤の定義は、
- 住居と就業の場所との間の往復
- 厚生労働省令で定める就業の場所から 他の就業の場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するもの)
を、合理的な経路および方法で行うこととされています。通勤に対する扱いは複雑で、例えば、退勤の途中にジムに寄るなど私的な寄り道をした時間は通勤にあたりませんが、薬局に寄るなど、日常生活に必要な範囲で最小限度寄り道した場合は「通勤」の扱いとなるなど、ケースによってさまざまです。
労災認定の基準となる「業務遂行性」と「業務起因性」
労災の認定には主に、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの基準があります。
業務遂行性
業務遂行性とは、「業務を行っている最中」に起きた怪我や病気であるかどうかです。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- 事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
- 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
という3つの類型が想定されています。それぞれ概要を見ていきましょう。
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
オフィスなどの業務場内で、所定労働時間内および残業時間内に災害が起きた場合は、事業主の管理下で業務を行っているとみなされ、労災が認められます。
事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
昼休憩や就業の前後などの、業務場内における業務時間外に発生した災害は、基本的に労災は認められません。しかし、起きた災害の原因が、オフィスなどの施設自体の問題や、管理の問題に起因すると判断された場合には、労災が認められます。例えば、オフィス内の老朽化した階段で電話をしていたら、足場が崩れて怪我をした、といったケースですね。
事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
例えば出張や営業回りをしているなど、事業場施設外で仕事をしている場合は、事業主の管理下をはなれているものの労働者としての業務を行っている扱いになります。この時間に起きた災害は労災と認められます。もちろん、外出が、会社の仕事とは全く関係ない私用であった場合は認められません。
業務起因性
業務起因性とは、「被雇用者が事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められること」をいいます。端的に言うと、業務と相当因果関係があると認められる怪我や病気などが該当します。仕事のストレスが原因でうつ病になってしまったり、残業続きによる過労死など、業務時間外に起きたものの、その原因が業務にあったことが明確な場合は労災が適用されます。
病気の扱い
労災における病気は、業務上疾病という扱いになりますが、業務と相当因果関係の立証が困難なため、業務上の疾病の範囲は、労働基準法施行規則において、1~11まで具体的に定められています。主なものは以下のとおりです。
- 業務上の負傷に起因する疾病
- 粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症等
- 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)もしくは解離性大動脈瘤またはこれらの疾病に付随する疾病
- その他業務に起因することが明らかな疾病
例えば、勤務中に脳出血が起きたとしても、その発症の原因となった業務上の理由が認められなければ労災扱いになりません。
補償の種類
労災による補償には、「療養」、「休業」、「傷病」、「障害」、「遺族」、「葬祭料」、「介護」、「二次健康診断等給付」の7種類あります。業務災害による給付は「〇〇補償給付」、通勤災害による給付は「〇〇給付」とし、扱いを区別しています。
概要 | |
---|---|
傷病(補償)年金 | けがや病気が療養によって治癒しない場合に支給される |
休業(補償)給付 | けがや病気のために休業したときに支給される |
療養(補償)給付 | けがや病気の治療に支給される |
障害(補償)給付 | 治癒後障害がのこった場合に支給される |
介護(補償)給付 | 介護が必要になった場合に支給される |
遺族(補償)給付/遺族(補償)年金/葬祭料 | 死亡した場合に支給される |
二次健康診断等給付 | 脳や心臓に疾患を発症する可能性がある場合、必要な検査や疾病発生予防のための医師による保健指導を現物支給される |
経営者が知っておくべきポイント
労災に関する基礎知識を抑えた上で、特に経営者が抑えておくべきポイントを解説します。
労災で休業している従業員を解雇してはいけない
労災で休業している従業員の雇用について、法律では「休業期間中及びその後30日間は労働者を解雇してはいけない」という定めがあります。
一方で、治療が3年以上にわたり、その後も治癒する見込みがない場合は、例外として「打ち切り補償(平均賃金1200日分)」を支払うことで解雇が可能になります。
健康保険証を提示しない
労災では、治療に健康保険を使うことは出来ません。労災の対象となる従業員が間違えて健康保険証を提示して治療を受けてしまった場合は、訂正のための手続きが必要となります。
間違えた場合、従業員に治療費をたてかえてもらった上で、労災に請求し直す必要があるので複雑な対応が必要になります。また、労災隠しを疑われ兼ねないので、リスクが高いことも覚えておきましょう。
経営者や役員も、場合によっては労災が適用される
労災保険は、労働者の災害を補償するためのものなので、経営者や役員は原則として、労災保険の対象になりません。
しかし、経営者や役員が従業員と同じように業務をこなす場合もあります。その場合、「特別加入制度」の適用を受けられる可能性があります。特別加入制度は一定の条件を満たす中小事業の代表と役員を対象としています。中小事業として認められる事業規模は、金融業・サービス業など、業種によって異なります。
労働者数 | |
---|---|
金融業/保険業/不動産業/小売業 | 50人以下 |
卸売業/サービス業 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
他にも、経営者がもしもの時に備えるため、法人向け保険に加入する場合も多いようです。
適用事業は「保険関係適用届」を必ず提出する
保険関係成立の日以降、1年を経過してなお保険関係成立届を提出していない場合、重大な過失により保険関係成立届の提出を行っていないものと認定されます。もし、その間に労災が発生すると、保険給付の額の40%に相当する額が徴収されるので、注意が必要です。
まとめ
労災と補償について、基本的な概要を解説しました。どんな場合に、どんな判断がくだされるのか、概要を把握した上で、自社の事業の中で起こりうる労災の可能性を見極め、未然に防ぐための対応をしっかりと取れるようにしましょう。万一、労災が発生してしまった際に、判断に迷った場合は、社労士や弁護士など、専門家に相談するのも手です。
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(編集:創業手帳編集部)
(監修:
HK人事労務コンサルティングオフィス代表/田中直才)
(編集: 創業手帳編集部)