運送業の許可を取得するには?押さえておくべき申請の流れと必要書類
運送事業の許可申請方法を理解しておこう
(2019/03/08更新)
運送業で起業しようとしている方にとって、一つの関門となるのが運輸局への事業許可申請です。初めての開業では申請の流れや書類もわからず、戸惑うことも多いかもしれません。
今回は、広島県に拠点を置いて起業家たちをサポートしている行政書士の山本重吉さんに、運送事業を始めるための許可申請について解説していただきました。
運送事業とは?
運送事業とは、「クライアントから依頼を受け、お金をもらって荷物を運ぶ事業」のことを指し、次の4つに大別されます。
運送事業の種類
一般貨物自動車運送事業
最も一般的な運送事業です。「運送業」と一般に呼ばれるのはこの一般貨物自動車運送業のことです。
第一種利用運送事業
車を所有しないで行う運送事業です。一般貨物自動車運送事業者が兼営しているケースがよく見られます。
特定貨物運送事業
荷主が1社に決まっていて、その荷主のためだけの運送業者です。
軽貨物運送事業
軽トラックなどの軽貨物自動車を使って荷物を運ぶ運送事業者です。個人の方が多い形態です。
運送事業を行うには許可が必要
運送事業を行うには、規定の手続によって許可を取得しなければなりません。これを取得しないで運送を行うのは違法であり、懲役や罰金を課せられてしまう可能性もあります。
ここからは、最もポピュラーな「一般貨物自動車運送事業」の許可について解説します。
運送事業許可の4要件
※弊社は広島に拠点を置いてサポートをさせていただいているため、ここでは一例として中国運輸局の公示に基づく申請についてご紹介します。他の地域で開業される方は、当該運輸局の公示に読み替えてご参考にしてください。
貨物自動車運送事業経営の許可申請には、多くの書類と労力が必要になります。
ですが、極論すると営業ナンバー(青ナンバー・緑ナンバー)の取得要件は、運送事業者としての経営能力について審査する以下の4点に集約されます。
1.人に関する要件
運送事業を遂行する上で、最大の要となる「人」が確保されているかどうか(または確保が予定されているかどうか)という点です。
5名以上の運転手・運行管理者・整備管理者が必要になります。
2.物に関する要件
運送事業の経営の保証となる、運送する「物」(荷主企業)があるかどうかという点です。
3.施設に関する要件
運送する手段となる、土地建物車輌等の「施設」としての営業所・車庫があるかどうかという点です。
4.お金に関する要件
運送事業の安定的経営の裏付けとなる、「お金」があるのかどうかという点です。
事業開始に要する資金の合計額以上の自己資金を用意できないと、トラック運送業(いわゆる青ナンバー)許可申請はできません。
「事業開始に要する資金」とは、従業員給料、自動車購入資金またはリース料、営業所・車庫の賃借料、燃料費、社会保険料等の経費を指します。
これらは使用するトラックの購買金額を厳しく圧縮したとしても、700万円は必要と考えられます。
しかも、この金額は申請が受け付けられてから許可が出るまでの間は下回ってはいけません。申請時と許可直前で残高証明が必要です。
以上の「人」「物」「施設」「お金」について十分な準備をすることで、許可を取得することが可能になります。
なお、運送事業の許可申請は個人でもできますが、後に会社にすると譲渡譲受の手続きが必要になりますので、会社を設立してから申請をする方がおすすめです。
また、株式会社や合同会社を設立する際に、自動車運送事業を行う旨の目的を入れておく必要があります。
許可申請から運輸開始までの流れ
では、運送事業許可の申請から運輸開始までの流れを押さえておきましょう。
1.経営許可申請
開業予定地を管轄する広島運輸支局へ申請書を3部提出します(1部は申請者控え)。
審査基準は中国運輸局公示第183号、183号の細部取扱。
様式は中国運輸局 HP(各種申請書書式)・申請書作成の手引きを参照してください。
2.法令試験・審査
法令試験の受験
申請後受付後、申請者のうち代表者または取締役の方のどなたかが、運送業者としての適性があるかどうかの試験として法令試験を受けることになります。
試験は奇数月の第4水曜日に実施されます(試験月の上旬に受験通知郵送)。
これは、1度は不合格となっても良いのですが、2度不合格となってはいけません。そうなった場合は、申請を取り下げてもう一度申請を行うことになります。
中国運輸局(広島市)での審査
標準の処理期間は3~4ヶ月です(補正期間除く)。
3.許可
許可基準に適合していれば、中国運輸局から許可の連絡、通知文書が発送されます。
通知文書の受領後、登録免許税を納付します。
広島運輸支局で行われる新規講習を受講すると、「許可証」が交付されます。
4.事業施設の確保や帳簿類の備え付けなど
事業施設の確保
事業施設(営業所、休憩室、車庫・車両)を申請どおり確保します。
帳簿類の備え付け
備え付けるべき帳簿類を揃えます。
代表的なものは以下の通りです。
- 許認可書類(控え)
- 運行、整備管理者の選任届
- 運転者台帳
- 点呼記録簿
- 乗務記録(運転日報)
- 乗務員教育記録簿
- 運行管理規程
- 車両台帳(車検証の写し可)
- 日常点検表
- 整備管理規定
- 賃金台帳
- 就業規則、給与規定など
許可後に大部分の帳票はトラック協会で購入することができます。
運行管理者・整備管理者・運転手の専任
運行管理者・整備管理者を選任し届け出ます。
運転手も選任します。初任診断および適齢診断の受診、社会保険等への加入を行なってください。
運賃・料金の設定や届出
30日以内に、運賃・料金の設定および支局への届出を行います。
運賃・料金、約款等を営業所に掲示します。
5.運輸開始前の確認・自動車の登録など
事業の「運輸開始前の確認について」を提出すると、連絡書が発行されます。
これにより、青(緑)ナンバーへの登録ができるようになります。
事業用トラックの登録・車体表示
事業用自動車の登録を行います。登録には連絡書が必要になります。
さらに、氏名、名称または記号を車体に表示します。
ダンプの場合はダンプ番号を表示しましょう。
自動車保険(任意保険)への加入
自動車を扱うことになるので、自動車保険(任意保険)にも加入しておきましょう。
6.運輸開始
事業用トラックの5両すべてが登録済みとなれば運輸開始です。
7.運輸開始届出・運賃料金設定届出
運輸開始届出を提出します(社会保険等加入状況の確認)。
また、先ほどの4. で出していなければ、運賃料金設定届出も提出してください。
許可申請に必要な書類
最後に、運送事業の許可申請に必要な書類をまとめておきます。
1.会社の登記簿謄本
法務局などで、会社の登記簿謄本を入手します。
2.会社定款の写し
会社定款の「事業目的」に、貨物自動車運送事業と記載してあることが必要です。
3.残高証明書
預貯金残高証明の日から処分まで適宜の時点までの間に自己資金が常時確保されていることを確認するため、適宜の時点での残高証明及び適宜の時点までの残高の推移が分かるものが必要です。
4.決算書の写し
直近分。新規の会社の場合は期首の対照表を提出します。
5.役員の方全員の履歴書
役員の方全員の履歴書も、必要書類となります。
6.車検証の写し
車両の所有状況によって、下記のように対応が分かれます。
- 車両を購入予定の場合:自動車売買契約書及び現在の車検証の写し
- リース契約の場合:リース契約書及び車検証の写し
- 車両を所有している場合:車検証の写し(所有権留保の場合は、残債又は完済証明が必要)
7.営業所・車庫の平面図および配置図
施設の案内図、見取図、平面(求積)図の写しを提出します。都市計画法等関係法令に抵触しないことが必要です。
車庫は、予定の全車両が車両間相互に50センチメートル以上の間隔を空けた状態で収容される広さが必要になります。
8.営業所・車庫に関する土地建物の登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
自己所有と借り入れで、準備する資料が下記のように変わります。
- 自己所有の場合:不動産登記簿謄本又は固定資産課税台帳登録事項等証明書等
- 借り入れの場合:賃貸借契約書(写)、使用承諾書(写)等(「事業用として使用できること。「借入面積」、車庫については「地目」、の記載必要)
9.車庫前面道路の幅員証明書
前面道路が国道の場合は不要です。
10.運行管理者の履歴書および合格証の写し
運行管理者がいない場合は、試験(年2回実施)を受けて合格するか、有資格者を雇用する予定になります。
「有資格者」とは、運行管理者の試験に合格して、どこにも勤務していない方もしくは転職可能な方のことです。
11.整備管理者の履歴書および資格者手帳の写し
整備士の資格者または実務経験のある人を採用する計画になります。
ちなみに「整備管理者」というのは、ドライバーからの報告に基づき整備工場に発注する役割を果たします。整備を自らする立場ではありません。
12.貨物自動車利用運送を行う場合の契約書
自社のトラックが出払ってしまっていなくなってしまった場合に、他社のトラックを雇って対応するために準備するものです。運送に関する契約書が必要になります。
13.営業所・休憩または睡眠室・車庫の写真
- 営業所・休憩室または睡眠室の外観及び内部
- 車庫の全体および出入口
- 車庫の前面道路の様子
の写真が必要になります。
14.社会保険(健康保険・雇用保険・厚生年金・労災保険)に加入している証明書類
許可直前でも差し支えありません。
15.運転手の免許証の写し
許可直前でも差し支えありません。
まとめ
運送事業を行うにあたって必要になる、運輸局への許可申請についてご紹介しました。
必要な書類が多かったり、地域によって手続きが異なったりと、わかりづらい点も多いかと思います。その際は、専門家の力を借りて、手続きを進めていくといいでしょう。
(監修:行政書士法人アッパーリンク 代表社員 行政書士 山本重吉)
(編集:創業手帳編集部)