取締役委任契約書とは?記載事項や作成する時の注意点も解説

創業手帳

取締役委任契約書は後発するトラブルの防止に役立つ契約書!


取締役は会社と委任契約で結ばれた立場で、雇用契約でつながっている従業員とは立場が異なります。

取締役委任契約書を結び、委任内容や役割を明示しておくことで、認識の違いや誤解で生じるトラブルを防止する際にも役立ちます。

ここでは、取締役委任契約書に記載される項目や作成時の注意点をまとめました。

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取締役委任契約書とは


会社の意思決定や監督を行う取締役は、会社法で権利や義務が規定されています。法人と役員をつなぐ関係は、雇用関係ではなく委任関係です。
一般の従業員から取締役になった時には、雇用契約から委任契約に切り替えなければいけません。

取締役は、あらかじめ与えられた責任や義務の範囲であれば自由度が高く、さらに強い権限を持っています。
一般の従業員よりも多くの内部情報を知っているため、規制やルールを破った場合のペナルティが重くなる点にも注意が必要です。

「取締役委任契約書」は、株式会社と取締役が取り交わす契約書。取締役の任期や報酬、秘密保持事項などが記載されています。
取締役と会社は、取締役委任契約書を交わすことで、委任内容や権限、義務を確認します。

取締役委任契約書を取り交わす必要性

取締役委任契約書は、取締役の責任の範囲や委任内容を明示するために必要な書類です。

取締役には労働基準法が適用されないため、会社は取締役に対する残業手当の支払い義務はありません。
しかし、長時間労働や対価が合わないと感じて訴訟に発展するケースもあります。
こういったトラブルを避けるために、事前に取締役委任契約書を結ぶ際に協議しておくことが必要です。

また、取締役が退任してから新たに競業するケースもあります。取締役委任契約書では、競業についても一定の制限をかけられます。
取締役が就任した時に取締役委任契約書を作成して、義務や権利を明文化しておくことでお互いにリスク回避ができます。

取締役(役員)の役割

そもそも会社役員と一般の従業員では役割が違います。役員の役割は、会社の経営や管理、監督に従事することです。
会社法第348条において、『取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行する』と定められています。

役員については、会社法でも定義されていて、役員を「取締役」と「会計参与」、「監査役」に区分します。
この中で、株式会社を設立する時に欠かせないのが取締役です。
取締役の役割は、会社の業務遂行の意思決定や経営方針、重要事項に関する決定です。
取締役が複数人いれば、会社の最高責任者となる代表取締役を取締役から専任できます。
取締役には、代表取締役や社外取締役、常務取締役、専務取締役のように様々な種類があります。
名前は似ていてもそれぞれ役割や選定方法が異なるため注意してください。

一方で、会社と従業員の契約形態は雇用契約であり、雇用する会社と雇用される従業員の間には主従関係が生じます。
従業員の待遇や働き方は、労働条件通知書や就業規則で定められたとおりです。
従業員には労働基準法が適用されますが、役員は異なります。従業員は正当な理由がなければ解雇されませんが、役員は株主総会の決議で解任可能です。

取締役委任契約書の記載事項とは


取締役委任契約書は、その取締役の責任の範囲や権限を定める重要な書類です。会社の方針や役員の経験、知識、スキルによって条件は異なります。
役員就任時には、取締役の業務内容や責任の範囲を取締役委任契約書で明確にしてください。取締役委任契約書の記載事項を以下で紹介しています。

目的

第1条(目的)
甲は、令和○○年○○月○○日付第〇〇回定時株主総会の決議によって、乙を甲の取締役として選任し、乙は就任を承諾するものとする。

取締役は、原則株主総会を経て選任されます。取締役委任契約書では、選任した株主総会の日時や目的を記載して、どの株主総会で選任されたかわかるようにしてください。

取締役の設置自体の目的は、代表者が独断で経営方針を決定することを避けて、監視機能や自浄作用を持たせることです。
2015年からは、会社の透明性を上げるために、社外取締役・社外監査役の権限が強化されています。

任期

第2条(任期) 
乙の任期は、選任後3年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

取締役の任期は、会社法332条で原則2年以内と決められています。しかし、定款や株主総会の決議によって短縮は可能です。
さらに、監査等委員会設置会社の取締役の任期は1年以内です。監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く非公開会社であれば定款で10年まで延長できます。

地位

第3条(乙の地位)
乙の取締役としての地位は、甲の株主総会における取締役の選任に準ずるものである。

取締役は、株主総会の選任によって地位を得ているため、株主総会の決議で解任することが可能です。
会社法で明示されている内容ではありますが、取締役に就任する人には慣れないことかもしれません。
会社と取締役の間で誤解が生じないように、契約の段階で取締役の地位について明確にしておくことをおすすめします。

遵守事項

第4条(遵守事項)
乙は、甲の取締役として業務を遂行するにあたり、甲の定款及び社内規定、その他の規則を遵守する。

前述したように、委任契約である取締役は、お互いにいつでも契約を解消できる並列の関係です。辞任や解任によって委任契約を解除できます
会社に対して取締役は、善管注意義務や忠実義務があります。これらの義務を守らずに行動して会社に損失を与えれば損害賠償責任を負うかもしれません。
そのため、遵守事項を定め、損害賠償の範囲についても契約書に残す必要があります。

報酬

第5条(報酬等)
甲が乙に対して支払う報酬等は、毎月甲の就業規則、給与規則その他社内規則に定める期日限り、年俸を12か月に均等割りした金額を乙の指定する口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料については甲の負担とする。

取締役の年俸や報酬、退職金といった報酬の情報を記載します。報酬の振込先口座や支給日、振込手数料についても明示します。
労務管理や事務手続きの点から他の従業員と同じ支払いサイクルにしておくと便利です。

競業避止義務期間

第6条(競業禁止)
乙は、自己又は第三者のために、甲の定款で定めている業務と同じもしくは競合する可能性のある内容の業務を行い、又は、そうした事業を行っている会社その他の組織に役員としての就任もしくはコンサルタント契約の締結等を行ってはならない。

取締役の在任期間中は、会社と共同する他社への参画や協力が禁止されます。ところが、問題になりやすいのが取締役が退任した後です。

取締役委任契約書で定めていない場合、同業他社に就職して、同様の仕事に携わることが可能です。
そのため、一定期間は同業他社への就職やコンサルタント契約の締結を禁止する項目が盛り込まれています。
ただし、厳しく就業を禁止すれば職業選択の自由に反することになってしまうため、一定期間の制限として記載されます。

秘密保持条項

第7条(秘密保持) 
乙は、甲の職務を遂行する過程で知り得た甲の営業上又は技術上の秘密を、事前に甲の書面による承諾を得ない限り、第三者に開示もしくは漏洩してはならない。当事者以外の第三者の情報についても同様とする。

取締役は、会社の重要事項の決定に関わる立場です。従業員や顧客の個人情報、取引先の情報や内部の財務、経営情報、特許や技術といった機密情報にアクセスできます。
機密情報を不正利用されたり、漏洩を防いだりするためには秘密保持条項も必要です。在任中と、退任してから一定期間は秘密保持を義務付けるようにしてください。

また、取締役が退任した時には機密情報に関わるデータや資料については、すべて返却するか破棄することを定めておきます。

反社会的勢力排除条項

第8条(反社会的勢力の排除)
本契約において「反社会的勢力」とは、下記のいずれかに該当する者をいう。
甲及び乙は、自らが反社会的勢力に該当せず、反社会的勢力と関係がないことを確約する。

委任契約を締結する時、会社も取締役も反社会的勢力と無関係であることを約束する内容を取締役委任契約書に記載します。

取締役が反社会的勢力の関係者であれば、会社が反社会的勢力と関係があるとみなされ、信用の失墜やイメージ低下を招くことがあります。
取締役委任契約書に反社会的勢力時排除条項を記載していなければ、取締役が反社会的勢力の関係者であれば、一方的に解任すると訴えられてしまうかもしれません。

反社会的勢力排除条項を記載しておくことで、スムーズに委任契約を解消できます。会社が不利益を被った時には、相手方に損害賠償も可能です。

その他の一般的な契約事項

第9条(協議)
本契約及び定款又は会社規則に定めのない事項については、甲乙双方が協議し、別途、個別の契約によってこれを定めることとする。

第10条(管轄の合意)
 本契約の紛争に関する裁判の第一審裁判所については、甲の本店所在地を管轄する◯◯地方裁判所を専属合意管轄裁判所とする。

取締役委任契約書の骨格となる部分に加えて、一般的な契約に含まれる内容も記載します。
一般条項の具体的な内容は、契約を解除する時の解除条項や協議、個人情報の取り扱い、譲渡禁止条項といったものがあります。
このほかに、第一審合意管轄裁判所を決めておくと、訴訟の時にスムーズです。

取締役委任契約書を作成する時の注意点とは


取締役委任契約書は、双方が理解、合意して締結しなければいけません。取締役委任契約書を作成する時の注意点について紹介します。

取締役の権限が会社の組織形態によって変わる

取締役が持つ権限は、取締役会の有無といったその会社の組織形態によって変わります。
取締役会を置かない取締役会非設置会社では、意思決定は株式総会で下されます。

取締役会設置会社の場合には、業務執行の決定は取締役会が実施し契約締結の権限は代表取締役が持つ点が大きな違いです。
取締役の代表権の有無によって、対外的な権限の有無はまったく異なります。
代表取締役が定められていなければ原則取締役全員が業務執行権を持ち、複数名の取締役がいる時には、過半数をもって決定が下されます。
会社法354条では、社長や副社長など、代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、代表権があると信じた第三者に対して会社は責任を負わなければいけません。

取締役は労働基準法が適用されない

取締役は雇用契約を結んだ従業員ではないため、労働基準法は適用されません。労働基準法で定められる労働者とは、事業や事務所に使用されて賃金を支払われる者のことです。
そのため、取締役には時間外労働の割増賃金が発生しません。休憩の付与や休日や有給休暇など、休日休暇の付与も一切不要の立場です。

また、労働者に適用される就業規則は、取締役には適用されません。取締役は、労働時間や欠勤、遅刻を管理する必要もないため、勤怠管理が不要です。
しかし、委任契約と雇用契約の両方を結んでいる使用人兼務役員には、一部勤怠管理をしなければいけません。
なお、役員から従業員となった時には労働者として雇用契約を結ぶため、労働基準法や就業規則が適用されます。

競業避止義務は退任後には生じない

取締役として就任していた会社と競合するような取引きをする場合は、会社による事前承認が必要です。

この競業避止義務は、取締役が会社の業務執行に対して大きな権限を持ち、企業機密にも通じていることから設けられたものです。
取締役の地位を悪用すれば、会社を犠牲にして自分や第三者の利益を図れるため、そういった行為を防ぐ目的があります。
しかし、取締役を退任した後は、基本的に競業避止義務はありません。委任契約をした時に一定期間を定めて制限することはできます。
無期限に義務を課すことはできないため、業務の範囲や権限については慎重に判断してください。

まとめ 取締役委任契約書とはどのような内容かを理解してリスク回避のために作成しよう!

取締役委任契約書は、取締役の権限や責任の範囲を明らかにするとともに、委任内容を明示する役割があります。
取締役委任契約書を作成することによって、会社と取締役の双方がリスクを回避できます。
取締役委任契約書を結ぶ時には、互いに内容を理解して合意を得るようにしてください。トラブルを避けるためにも、慎重に内容を確認することをおすすめします。

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(編集:創業手帳編集部)

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