次の社長はこれをしろ!第2創業・事業承継の浅野泰生が教える「考え方シフト」
日本の課題である事業承継、どんなハードルがあり、どうやって解決する?
日本には350万の会社があり、その多くが中小企業です。そして平均年齢は60代になっており、一斉に社長が交代もしくは廃業やM&Aといった選択を迫られる時代になってきています。
社歴が長い会社は、それだけ資産や信用もありますが、若い世代の経営者がそもそも少なく、2代目があとを継がないというケースも多く、世代交代は困難を極めています。
莫大な中小企業が廃業しかねない状況なので、政府も躍起になって承継支援を行っているようです。
そんな事業承継、経営計画支援をしているのがthink shift。創業者の浅野 泰生氏は、経営計画の支援会社で、莫大な数の経営支援を行い、新たに独立した豪腕です。
浅野氏に、第2創業、経営計画を作っていくにはどうしたら良いかおうかがいしました。
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2014年、血縁関係のない創業者からの経営承継により代表取締役社長に就任し、承継後5年で5期連続増収を達成。後継経営者としての実績を活かし、2019年6月、2代目経営者支援に専念すべく、think shiftを設立し同時に代表取締役に就任。後継経営者向けに独自の経営理論・経営メソッドを確立し、100社以上の他社支援の実績をもつ。
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この記事の目次
事業を承継し、創業者を超えるために大切なこと
浅野:大塚家具さんの事例は上場企業なので、現経営者が後継経営者を「指名」し承継するということは難しいのです。このような大塚家具さんとは違って、多くの中小企業においてはオーナー経営者が後継経営者を「指名」し、事業承継をするのが通常のパターンです。
指名というカタチで「表面上」は円滑な事業承継がなされますが、それでもうまくいかないのが実態。
なぜうまくいかないのかを、質問内容の論点を2つに分けてお答えします。
①事業承継をする際に重要になるポイントはなにか?
②事業承継後、創業者を超えるためには何がポイントになるか?
①事業承継をする際に課題になることはなにか?
浅野:事業承継をバトンリレーに例えると、バトンを渡す承継する側(先代)と、バトンを受け取る承継される側(後継)それぞれに重要なポイントがあります。
バトンを渡す承継する側(先代)は、後継経営者に「完全に任せる覚悟を持つ」こと。事業承継をしたあとは法的には意思決定の権限はなくなりますが、実質的に事業承継をする側の先代経営者が影響力を持つ場合が多くあります。
このような状態になると後継経営者は何をするのにも先代の意見を聞くことになり、最終意思決定者という経営者の仕事が全うできなくなります。
バトンを受け取る承継される側(後継)は、法的に自身が会社の最高意思決定者になったとしても、先代への「配慮」「敬意」を忘れないこと。後継経営者の役目は事業承継後の経営を成功させることであり、そのために先代が協力・支援してくれるような状態を作らなければなりません。いくら法的な権限を承継していたとしても、先にお話ししたように、先代の実質的な影響は残ります。
自分の代の会社の成長のためには、先代の協力は不可欠なものともいえます。
このように事業承継する側、される側ともに事業承継した「瞬間」だけではなく、承継してからが始まりです。末永い協力関係を築けるかどうかが、重要なポイントとなります。
②事業承継後、創業者を超えるためには何がポイントになるか?
浅野:例えに出していただいた、星野リゾートの星野社長、ユニクロの柳井社長、最近ですとジャパネットたかたの高田旭人社長などは、創業者以上の企業成長を実現しています。ポイントとしては「自分らしさ」を出した事業や組織をつくっていけるかどうかです。
私がよく後継経営者にお伝えすることとして、「違いは違いであって間違いではない」ということがあります。後継経営者は先代とは違う人間です。違う人間だからこそ、ものの考え方ややり方も違って当然で「間違い」ではないのです。
自分自身が確信をもった「自分らしい」経営をしなければ、経営者としての責任を全うできません。
浅野:事業承継が日本の社会課題として考えたとき、多くの場合は事業の引き継ぎ手、後継者不足の点がクローズアップされています。
ただし、これは個人事業主の方などを含めたものなので、このことだけが社会課題だとは考えてはいません。
私が課題だと思っているのは、①創業者や先代がビジネスを盛り上げたものの、外部環境や事業サイクルとして、ビジネス自体が岐路に立たされている ②組織がある程度大きく、関係者(取引先・従業員など)が多数いるような事業承継の場合、本来は事業継続が難しい局面であるにも関わらず、後継経営者への経営支援が十分ではないということです。
浅野:これまで経営支援を10年以上してきており、経営計画の策定や、戦略立案の支援を1000社以上行っております。
弊社創業後は後継経営者の支援に専念し、後継経営者の戦略立案や組織開発などの経営支援を100社以上しております。
事業を承継したときから、次代へバトンを渡す日を考える
浅野:準備としては自社ビジネス事業構造の理解、大枠のオペレーションの理解、お金の流れの理解などの業務知識も当然重要ですが、もっとも重要なことは別にあります。それは後継経営者の役割から考えられます。後継経営者の役割は、自分のさらにその次の経営者へバトンを引き継ぐこと。
そのため、まずやるべきはゴールを設定する、すなわち自分が引退して自分の次の経営者へ引き継ぐ日を決めることです。
ゴールを決めない限り、どのような経営をすべきなのか、最適な戦略も、とるべき組織形態も決まりません。
浅野:第2創業も含めた事業構想について、構想の順番と着手の順番は違うということをお伝えしています。
構想については、先ほどもお伝えした「自分らしい経営」の観点から新規事業を構想すべきです。私たちはこの部分について、独自のメソッドを持っています。
しかし着手の順番として、まずは既存の事業のポテンシャルを最大化させることとお伝えしています。後継経営者の最大の強みは、既存の事業が「まわっている」ということです。この強みを活かさずにいきなり新規事業をすると、既存事業も新規事業もボロボロになります。
浅野:社員側の世代交代ということであれば、役割を明確にし、少しずつ裁量を与えて、出来ることとを増やしていくことです。また業務の見える化を行い、人ではなく役割に仕事をつけるという組織改革が必要です。
浅野:経営計画においては、年間や一定期間(中期だと3年から5年程度)の目標数字を決め、月ごとの目標数字を決め、そのための方針や施策(すべきこと)を計画していく、というのが大体の流れです。
多くの支援者が数字の部分だけを重視します。そうすると数字を合わせることや、数字あそびになってしまうことは少なくありません。
まず数字から始めるのではなく、ありたい姿を描くことから始めることが重要だとお伝えしています。どのような会社にしていきたいのか、なぜそうしたいのか、心から自分がやりたい経営とはなんであるのか。
計画も重要ですが、計画を立てたあとにしっかりとやりきることの方がもっと重要。自分がありたい姿を明確にしないと、経営者は経営をやりきることができないと考えています。
次世代の悩みは時期ごとに変化する
浅野:そうですね。次世代の経営者の悩みで多いのは、承継する前は「承継することは決まっているがいつするかわからない」というもの。事業承継した後10年程度は「先代の影響力が残っている、自分が雇っていない社員が反目する、組織が自分の思うような風土・文化ではない」というもの。事業承継後10年以降は多くの経営者が自分の組織を作れているので、通常の創業経営者と同じような悩みになりますが、「創業」していないということにコンプレックスを感じることもあります。
先代はなかなか会社ばなれができない
浅野:先代の経営者の悩みとしては、「心のどこかで『自分がやったほうがいい』と思っていて、大小様々なことが気になる」「自分の『居場所』がなくなる」「どこかでまだ『自分の会社』だと思っている」「完全に譲ったといいつつ、どこかで影響力を残したい」「どこかで自分を超えてほしくないと思っている」といったことが挙げられます。
浅野:積極的に勉強会や講座に参加することでしょうか。できればワークショップ型のものが良いでしょう。他社の後継経営者の悩みにふれ、それを自分ごとに捉えて助言をすることで、強いネットワークが築かれます。
事業承継における様々なハードル
浅野:DX推進の前提として、そもそも業務プロセスのデジタル化(デジタイゼーション)が出来ていないことが多いのです。先ほどもお話ししましたが、歴史が長い中堅企業では、人に業務が紐付いている場合が多いためです。その場合は、そもそも業務の整理・見える化からする必要があります。
このような業務の見える化は、DX推進とは別の部分で必要になるケースが多くなります。
ビジネスモデルや、組織状態のデジタルによる変革という観点でのDX推進は、当然必要ではあります。多くの事業承継をする企業のビジネスは、転換期を迎えていることが多いためです。
ですが、このような大胆な改革は、むしろ事業承継したあとにしか推進できないと考えています。
仮に事業承継を考えている先代にその気力と気概があるのであれば、先代が推進してやりきるべきですが、むしろ事業承継をきっかけにDX推進をしたほうがうまくいくと考えています。
またどちらかというと、デジタル化やDX推進をするための障害は、事業承継をしやすいかというよりも、会社における「人」の問題のほうがハードルになります。新しい取り組みは多くの場合、既存社員や古参の社員の抵抗にあいます。
そのため事業承継をしやすくするためというより、事業承継を成功させるためにデジタル化やDX推進をする、そのさらに前提としてその組織にいる人のマインド、風土、文化を変えていく必要があるので、事業承継→組織開発→事業・組織のDX推進という流れになります。
浅野:財務の部分(税金や借入金など)や、法律の部分(相続、株式の権利、親族内外の権利問題)など、個別課題については、それぞれ個別個社の状況に応じて必要な専門家が異なりますので、一概にこの専門家に、この士業にとは言いにくい部分があります。
一番必要な専門家は、事業承継における自社の課題を抽出してくれて、適切な専門家につないでくれるプロデューサー的な存在です。
浅野:後継経営者としての苦労と、起業して創業者としての苦労は、比べられるものではなく「質」がまったく違うものだと考えています。
創業経験しかない方が後継経営者の支援をしているケースも多いのですが、後継経営者にしかわからない苦労や悩みもたくさんあることを、起業することで改めて認識しました。
先ほどもお話ししたように、既存の事業があるという強みを活かすなど、創業者と後継経営者としての両方の立場を経験しているからこそ見えてくるものがあります。
浅野:事業承継の成功を私は、「自分らしさを発揮した経営で会社を成長させ、社員やその家族を幸せにすること」と定義しています。これは簡単なようでとても難しいことだと考えています。
承継した会社を成長させ次代に引き継ぐために、ときに後継経営者は孤独な戦いを強いられますが、創業者が築き上げた歴史のある会社を次代に引き継げるのは、後継経営者しかいません。
私たちはこれからも後継経営者の支援をしていきながら、次代へ引き継がれる企業を一社でも多く、ともに作りあげていければと考えています。
事業承継は昭和世代から平成世代への世代交代の機会でもあり、デジタル化やDX推進をはじめとしたさまざまな障害がありますね。先代と、ものの考え方ややり方に大きな違いがあっても、それは間違いではないと信じて「自分らしい経営」を貫くことが大切であるようです。
次代へバトンを渡す日を決めて承継するという言葉が印象的でした。事業承継を考える方々を後押しするきっかけになれば幸いです。
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(取材協力:
株式会社think shift 代表取締役 浅野泰生)
(編集: 創業手帳編集部)