タイ進出の公認会計士が教える「海外進出のステップ」と起業家のヒントになる視点

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年10月に行われた取材時点のものです。

観光大国タイのビジネス事情とは?タイでビジネスを始めるコツや日本との違いを紹介


「人口が縮小する日本から海外進出したい」という会社も多いでしょう。海外市場の中でも、中国をはじめとするアジア地域は穴場と言えます。さらに、その中でも「タイ」は近年の経済発展が目覚ましく、一説には約10万人の日本人が在留している穴場の国です。

また、インバウンドに熱心な日本をはるかに上回る「年間4500万人もの観光客」を呼び込む観光大国でもあります。日本人が暮らしやすい外国=タイであり、日本では見えてこない面がタイに居ることで見えてくることもあります。

今回は、公認会計士事務所 代表の森場氏に、タイへの進出の仕方と、途上国ビジネスから見える日本のチャンスについて伺いました。

森場忠和(もりば ただかず)公認会計士
日本の「森場忠和公認会計士事務所」、タイの「J-CROWN」代表取締役

トーマツにてIPO支援を経験後、DeNAにて財務・M&A・管理会計を経験。その後タイにて会計事務所を起業。日系企業の会計や税務はもちろん、タイにおける経営全般を支援。現在は日本にて中小企業の会計や税務をサポート。ベンチャー内での業務や海外起業に自らも挑戦してしまう、不確実・不安定な状況を好む変わった士業。「情熱」「人間味」「愛」をもって経営者と接し、対話をすることが大好き。それにより、経営者とステークホルダーを本当の幸せに導くサポートを行うことを大事にしている。趣味は海外旅行とタイマッサージ。

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妻の一言でタイへ

ー本日はよろしくお願いします。まずは、タイで起業するまでの経緯を教えてください。

森場:こちらこそよろしくお願いします。

当初は公認会計士として、大企業の監査などをしていました。その後、3カ月ほど世界一周をして、DeNAに勤務後、タイで会計事務所を始めました。現在は、日本でも活動しており、中小企業に対して会計サポートをする業務と、タイの進出支援をしています。

ー執筆活動もされているようですね。

森場:はい、最近だと「タイで見つける最幸の働き方」という本も出しました。こう書くとタイで起業したときに、さぞ現地慣れしていたように思われがちなのですが、タイで起業した当初はタイ語を全く話せませんでした。海外旅行はしてましたが、住むのは初めてで。

ーそうだったんですか…なぜタイを選んだのでしょう。

森場:最初は普通に就職して、フィリピン勤務を考えていました。ところが妻に「なぜフィリピンなの?」と言われ、あらためてタイと比較したときに、タイの良い点が多いことに気づいたんです。

<タイの良い点>

  • 食事が美味しい
  • 物価が安い
  • 治安がそこまで悪くない
  • 日本人が多いのでコミュニティが出来上がっている

<タイの悪い点>

  • 生活コストが安い分、在留の日本人が雑多で悪い人も中にはいる

例えば、シンガポールなどは生活コストが日本より高い。暮らしていくのは大変です。でもタイだと居心地が良く、コストも安い。高級マンションで共同のプール・ジム付きでも、5万円ぐらいから物件があります。圧倒的なQOL(生活の質)がタイの特徴といえますね。

あと、日本では外国人がアパートを借りるときに、保証人を探すなどの手続きが大変です。タイの場合は、家も簡単に借りることができます。ハードルが低い国であるがゆえに、タイでダメなら、ほとんどの国では住めないだろうとすら思うほどです。

その分だけ、ちょっと怪しい商売の人でも生きていける面もあるので、日本人との付き合いは良質なコミュニティに入るなどして、トラブルに巻き込まれないように注意しています。

現地を狙うか、現地の日本人を狙うか

ータイでビジネスを始めるコツなどはありますか?

森場:タイで起業する場合、市場の考え方として2つのパターンがあります。

  • 現地の人を相手にする
  • 在留している日本人を相手にする

海外市場の開拓という意味では、一般的に皆様が想像するビジネスの方法は前者ですが、後者の市場が割と大きいのがタイの特徴です。日本人村といっても、10万人規模の地方都市ほどの需要があります。

あとは、タイは製造業のすそ野が広いので、タイ人に商品・サービスを最終的に提供している日本の大企業に対して、自社の商品・サービスを提供することで、商売として成り立つという部分も多々ありますね。

例えば、トヨタ(あるいはその子会社)に対して、部品を供給する仕事があり、日系の企業がそのために多数進出していたりもします。BtoBでも相手先が日系企業になる、またその企業をさらにサポートする企業もいるので市場も大きいです。

私の会計事務所は「タイ進出の日系企業」をサポートしているので、まさにその形ですね。ちなみに、日系企業の進出数は約8,000社といわれています。

日本と途上国のタイムマシン経営

ー途上国ビジネスは、日本人にとってチャンスになるでしょうか。

森場:日本人からするとちょっと時代遅れ・古臭いようなビジネスは、タイに限らずですが、途上国では受け入れられる傾向があります。

逆に、最先端すぎると受け入れられないケースもありますね。ただ、途上国はレガシーな技術がない分だけ急に技術が進む「リープフロッグ現象」も起こります。

例えば、固定電話が普及していないのに、固定電話をすっ飛ばしていきなりスマホが普及するような現象です。

そういった事例もなくはないですが、途上国の現実として、やはりトータルで見ると生活水準や社会の発展水準にまだまだ差があります。なので、最先端のモノで挑戦しすぎることによる失敗の方が確率としては高いといえます。

ーなるほど、日本国内のビジネスとは違った面があると…

森場:そうですね。途上国のビジネスで面白いのは差別化ではなく、存在していないニーズを埋めるという点にあります。日本では、すでに多くのモノが行き渡っているので、あとはサービスやブランドなどで差別化していくしかないんです。

一方で、途上国の人はモノを持っていない傾向なので、すでに飽和している市場で細かい差別化でしのぎを削るのではなく、「全く新しい市場に・新しい商品を売り込む」というスタイルが通用すれば非常に面白いと思います。

例えば、タイではワインブーム中です。日本では、バブル時代にワインブームがありましたが、これは所得が上がって「贅沢を謳歌し始めている層ができてきた段階」ということです。こういったまだ埋まっていないパーツを探すのも、タイビジネスの面白さですね。

ーやはり国民性の違いなどもあったり?

森場:例えば、アジアといっても、ガッツにあふれて上昇志向が強い中国や韓国、親日的な台湾、真面目なミャンマーなどのように国民性が違います。タイは良くも悪くもマイペンライ(大丈夫)という文化ですね。

現地スタッフは、割と転職が当たり前で、転職のたびに昇給が前提になる。なので、日本のように安定した雇用関係を想定すると面食らうかもしれません。

転職や昇給が当たり前のほうが国際標準に近いわけですが、国民性の違い(日本の独自性など)も踏まえつつ、ギャップを埋めながらマネジメントしていく必要があります。

タイ進出の手順を紹介【5つのSTEP】

ータイ進出の手順について教えてください。

森場:タイに進出する際は、以下のような手順で進めていきます。

1.居住してみる

責任者(できれば経営者)がまずはタイに住んでみることをおすすめします。そこで一定期間、居住することが最良のリサーチになります。敷居の低い国であるタイのメリットですね。

2.リサーチ

次に、現地のリサーチ会社があるので、市場調査など一通りできることをやります。注意すべきなのは、リサーチ会社の言うことを鵜呑みにしないこと。

あくまで調べられる情報はまとめてくれますが、それだけで成功したらビジネスは苦労しません。実際に自分でもニーズを深堀りしましょう。

3.パートナー探し

日本人のパートナーに関しては、日本人会・商工会議所・WAOJE・和僑会などの団体や、現地の日本人コミュニティの仲間内で評判を聞いて探します。狭い世界なので、大抵の情報は出てくるはずなので、そこで信頼が置ける人かどうかを見極めていきます。

なお、タイの場合は政府のシステムで売上などが全て公開されています。脱税でもしていない限り、売上が全て分かってしまうわけです。政府のサイトはタイ語なので、英語版のサイトを利用してもいいでしょう。一風変わっているのが、件数ではなく、アクセス時間で課金される仕組みであることです。20時間で3万円程度の利用料が発生します。

4.テスト販売

リサーチは最終的にどこまでいっても正解は出ないものなので、少しでもいいので実際に販売してみましょう。日本企業の場合は、テストまでに時間をかけすぎることが往々にしてありますが、タイではテスト販売を早く始めることが大事です。

5.組織づくり

よくある失敗として、タイは本来なら雇用コストが低いのに、日本語ができる人材で固めすぎてコストが増えすぎたというパターンがあります。例えば、タイでは新卒の月給が5万円程度ですが、日本語の通訳クラスは月給20万円ほどなので、日本人の給与と変わらなくなります。

英語を話せる人材よりも、日本語を話せる人材のほうが少ない傾向なので、どうしても賃金は高くなります。要所ごとに、日本語でコミュニケーションできる人材を配置しますが、なるべく「タイ語スピーカー」などを活用しながら組織づくりをしてコストを抑えましょう。

タイでビジネスをして日本に対して思うこと

ータイに住んで感じた、日本との違いなどを教えてください。

森場:日本とタイではまだまだ経済格差がありますが、タイから学べるものは多いですね。とくに観光大国ならではのホスピタリティの高さ。

例えば、日本の場合は、相手が外国人だと英語で話しかけるのに戸惑うケースもあります。タイ人は英語が得意な人ばかりではないですが、とりあえず下手な英語でもなんとかしようとします。まずは相手の困っている点を手助けようとするのがタイ人の特長です。

日本人はマニュアル通りの対応だったり、恥ずかしがって結果的にホスピタリティが非常に低い対応になったりすることがあるので…。そのあたりは残念ですし、今後インバウンド大国を狙うのであれば、サービス業は身直さないといけない点だと思います。

ーそのほか、タイでビジネスをして日本に対して思うことはありますか。

森場:ソフトウェアやモノ作りなどでも、最近は日本製品の存在感が薄くなってきていると感じます。ソフトでいえばアメリカ製、家電で言えば中国・韓国製がやはり強いです。

以前は日本も家電などの競争力がありましたが、現地に合わないオーバースペックで高すぎる商品などを、現地の事情を踏まえずに売っている間に、結果的にシェアを奪われてしまった状況ですね。

これからタイだけでなく、途上国・アジアは経済が必ず伸びていきますから、現地の事情にあったモノを販売してほしいと思います。

ー最後に、読者にひとことお願いできますか。

森場:「タイで見つける最幸の働き方」という本のタイトルにあるように、タイは日本に比べれば所得は低いとはいえ、それなりに幸せな生活をしています。必ずしも所得の高い日本人が幸せかというと、じつはそうとは限らないでしょう。

安い賃金でも幸せに暮らせるヒントやホスピタリティ、現地の実情に合わせた商品開発の大切さなど、タイから学べるものは多いと思います。

公認会計士  森場忠和

タイで見つける最幸の働き方 タイ語がほとんど話せない僕がバンコクでベンチャー社長になった理由 森場忠和 梓書院

タイで働くために役立つ情報満載の一冊です。海外進出によって自分らしい「最幸」の働き方を実現する際に、ぜひ参考にしてください。

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(取材協力: 公認会計士事務所 代表取締役 森場忠和
(編集: 創業手帳編集部)



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