スタートアップ育成5か年計画とは?概要やポイント、起業家のメリットなどを解説
2027年に向けてスタートアップを大幅に増やす戦略を政府が決定!起業家は創業のチャンスが広がります
スタートアップ育成5か年計画とは、日本国内のスタートアップを大幅に増やすための戦略とロードマップを示したものです。本計画により、2027年までにスタートアップへの投資額が10倍以上になるほか、将来的には10万社の創出が予定されています。
スタートアップ育成5か年計画は、2022年11月28日の第13回新しい資本主義実現会議において決定されました。政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、5か年計画に沿って大規模なスタートアップの創出に乗り出す構えです。
今回はそんなスタートアップ育成5か年計画について、概要から具体的な取り組み、起業家のメリットまで、詳しく解説します。起業家にとってポジティブな改革がいくつも含まれているので、起業に少しでも興味のある人はぜひご一読ください。
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この記事の目次
スタートアップ育成5か年計画の概要
スタートアップ育成5か年計画とは、政府・民間によるスタートアップ育成の戦略と、5年間のロードマップをまとめたものです。
内容を要約すると、2027年までにスタートアップへの投資額を大幅に増やし、創業が次々に起こるシステムを作ろうということ。岸田政権は「日本をアジア最大のスタートアップハブとします」と宣言しています。
また内閣官房が公開する資料には、5か年計画の基本的考え方や目標、方向性について、以下のようなことが書かれています。
基本的考え方
2022年をスタートアップ創出元年として、日本に「第二の創業ブーム」を起こす。そのためにスタートアップの起業と大企業のオープンイノベーションを促進し、日本にスタートアップを生み育てるシステムを作る。
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以上が、スタートアップ育成5か年計画の基本的考え方です。スタートアップを生み育てるシステム(エコシステム)の創出では、グローバル市場に積極的にチャレンジするという観点が重視されます。
なお、背景にあるのは、2022年の日本が、開業率やユニコーン※の数で欧米に劣るという事実です。他方、成長が鈍化した大企業も、スタートアップを絡めたオープンイノベーションで新技術を導入すれば、再度の成長が可能になります。
※ユニコーン:時価総額1,000億円超の未上場企業
またそもそもスタートアップは、社会的課題の解決に立脚するため、数が増えることは社会にとってメリットのあることです。そこにオープンイノベーションによる既存の大企業の再成長も加われば、高度に持続可能な経済社会が実現できます。
これこそ政府が目指す「新しい資本主義」の体現であり、スタートアップ育成5か年計画が重視される理由です。
目標(2027年に向けて)
スタートアップ育成5か年計画の目標は、以下の2点です。
・スタートアップへの投資額を、8,000億円規模の現状から、10倍を超える10兆円規模とする(2027年度)
・将来において、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出し、日本をアジア最大のスタートアップハブとする
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スタートアップへの投資額に着目するのは、創業の「数」だけでなく、創業後の「規模の拡大」も重要視するからです。スタートアップへの投資額は、スタートアップの絶対数が増えることのほか、創業した企業の成長によっても増加します。
またスタートアップの創出数を増やすことに関しては、日本が「世界有数のスタートアップの集積地になること」が目指されます。
全体としての方向性
スタートアップ育成5か年計画の大まかな方向性としては、以下の3本柱が示されています。
1. スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
2. スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
3. オープンイノベーションの推進
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第一に重要になるのは、スタートアップの担い手を増やすことです。若い人材を中心に、海外も絡めながら起業家を育成するとともに、起業家によるグローバルなネットワークの構築が目指されます。
また公的資本を含めて、スタートアップへの資金供給の拡大も行われます。具体策としては、ベンチャーキャピタルの育成や海外からの呼び込み、オープンイノベーションの推進などです。それらはスタートアップの事業展開を後押しするほか、出口戦略の多様化にもつながります。
ちなみに開業率やスタートアップへの投資額を比較すると、日本は欧米に大きく劣ります。現状の水準が低い分、スタートアップ育成5か年計画によって、起業家を取り巻く状況が大きく好転するかもしれません。
さらに企業の参入率・退出率が高い国は、1人あたりの経済成長率が高くなる傾向にあり、経済全体への好影響も期待できます。
スタートアップ育成5か年計画のポイント【3本柱と49の具体的取組】
スタートアップ育成5か年計画では、大きな3本柱について計49種類の具体的な取り組みが明示されています。以下ではそれらに関して、政府が強調するとくに重要なポイントをピックアップしてお伝えします。
第一の柱:スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
第一の柱は、スタートアップの担い手となる人材を育成する仕組みをたくさん作ることです。日本では起業を望ましいと考える人が少ないことも踏まえ、意識改革も含めて起業家を育てる取り組みが多角的に実施されます。
具体的には、起業経験者らメンター(助言役)による人材の育成規模が、年間70人から5年後に年間500人まで拡大されます。IT分野で一定の成功を収めたメンターによる支援事業が、エネルギー・環境分野をはじめ、多分野に横展開される見通しです。
またシリコンバレーやボストンなど、海外に起業家育成の拠点を作る「出島」事業も展開されます。そのほか、海外のトップ大学を誘致する「グローバルスタートアップキャンパス構想」などで、学界にも起業家を育む仕組みを構築します。
以上の内容も含め、第一の柱では、12の具体的な取り組みが実施される予定です。
(1)メンターによる支援事業の拡大・横展開
(2)海外における起業家育成の拠点の創設(「出島」事業)
(3)米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化
(4)1大学1エグジット運動
(5)大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援
(6)高等専門学校における起業家教育の強化
(7)グローバルスタートアップキャンパス構想
(8)スタートアップ・大学における知的財産戦略
(9)研究分野の担い手の拡大
(10)海外起業家・投資家の誘致拡大
(11)再チャレンジを支援する環境の整備
(12)国内の起業家コミュニティの形成促進
第二の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
第二の柱は、スタートアップへの投資額を増やすことです。ベンチャーキャピタルの投資をはじめ、さまざまな資金調達の手段について、増強・拡充の取り組みがなされます。
また税制改正によって、創業者などの個人が保有株式を売却してスタートアップに再投資する場合、売却益が20億円まで非課税となる予定です。そのほか、スタートアップの事業展開および出口戦略の多様化のため、ストックオプション税制や公共調達の拡大なども進められます。
以上の内容も含め、第二の柱では以下28の具体的な取り組みが実施される見通しです。
(1) 中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化
(2) 産業革新投資機構の出資機能の強化
(3) 官民ファンド等の出資機能の強化
(4) 新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップへの支援策の強化
(5) 日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化
(6) 海外先進エコシステムとの接続強化
(7) スタートアップへの投資を促すための措置
(8)個人からベンチャーキャピタルへの投資促進
(9)ストックオプションの環境整備
(10)RSU (Restricted Stock Unit:事後交付型譲渡制限付株式)の活用に向けた環境整備
(11)株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
(12)SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公 共調達の促進
(13)経営者の個人保証を不要にする制度の見直し
(14)IPO プロセスの整備
(15)SPAC(特別買収目的会社)の検討
(16)未上場株のセカンダリーマーケットの整備
(17)特定投資家私募制度の見直し
(18)海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置
(19)Web3.0 に関する環境整備
(20)事業成長担保権の創設
(21)個人金融資産及び GPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環
(22)銀行等によるスタートアップへの融資促進
(23)社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進
(24)海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化
(25)海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備
(26)地方におけるスタートアップ創出の強化
(27)福島でのスタートアップ創出の支援
(28)2025 年大阪・関西万博でのスタートアップの活用
第三の柱:オープンイノベーションの推進
第三の柱はオープンイノベーション、つまりは既存の大企業からスタートアップへの投資の推進です。オープンイノベーションは大企業の持続的な成長と、スタートアップの資金調達および出口戦略のために重要となります。
主要な取り組みは、スタートアップの既存発行株式の取得にかかる税制の優遇措置です。これにより、大企業×スタートアップのM&Aが促進されることを見込んでいます。
そのほか、第三の柱では、以下9種類の具体的な取り組みが実施される予定です。
(1)オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方
(2)公募増資ルールの見直し
(3)事業再構築のための私的整理法制の整備
(4)スタートアップへの円滑な労働移動
(5)組織再編の更なる加速に向けた検討
(6)M&Aを促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大
(7)スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理
(8)公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
(9)大企業とスタートアップのネットワーク強化
スタートアップ育成5か年計画のメリット【起業家向け】
スタートアップ育成5か年計画は、きちんと履行されれば、起業家にさまざまなメリットをもたらすと考えられます。とくに以下3つの事柄が、5か年計画の履行によってわかりやすく変わる部分です。
資金調達がしやすくなる
スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップへの投資額を増やすために、さまざまな資金調達手段の拡充を見込んでいます。そのため、現状に比べると、スタートアップの創業資金や事業資金の調達は、格段にしやすくなるでしょう。
具体的にはベンチャーキャピタルや公的支援、大企業のオープンイノベーション、保有株式の売却など、多様な手段が想定されます。銀行等からスタートアップへの融資促進も予定されており、銀行からの借入もしやすくなる可能性があります。
資金調達が容易になれば、創業のハードルが下がるほか、創業後の雇用やイノベーションにもより積極的に取り組むことが可能です。
M&Aが成功しやすくなる
スタートアップ育成5か年計画にかかる税制改正により、今後はM&Aが成立しやすくなると考えられます。IPOだけに適用されるスタートアップ企業とのオープンイノベーションに関する税制優遇が、M&Aにも適用拡大されるからです。
スタートアップにとってM&Aは、成長の機会が増えることや多額の売却益が入ることなど、メリットが大きい出口戦略といえます。M&Aには、IPOのような複雑な手続きも必要ないため、エグジットにかかるスピードや手間といった点でも恩恵があります。
創業のノウハウを学べる機会が増える
メンターによる支援事業の拡充などにより、今後は起業について学べる機会も大幅に増えると想定されます。起業に興味はあるものの、ノウハウや経験がないといった人が、チャレンジしやすい状況になっていくでしょう。
ちなみにメンターによる支援事業は、現状、情報処理推進機構がIT分野で実施し、一定の成果を上げています。起業家甲子園などのコンテストに向けてメンタリングを実施し、過去に300人の起業ないし事業化を実現しました。今後は、新エネルギー・産業技術総合開発機構をはじめ、同様の取り組みが多分野で実施される見通しです。
そのほか、若手人材の海外への派遣事業や研修なども拡充が予定されており、グローバルな経験も積みやすくなるでしょう。
まとめ
スタートアップ育成5か年計画は、基本的に起業家にとってはメリットばかりです。資金調達がしやすくなるほか、大企業とのM&Aやグローバルな展開などのチャンスも増えます。
スタートアップの創業に興味のある人は、今後の税制改正やルール変更に注目しつつ、ぜひ前向きに準備を進めてみてください。
(編集:創業手帳編集部)