スマートバンク 堀井翔太|負けはあっても、失敗はない。2度の起業経験が生み出した、他社には真似できないプロダクト
勝敗を分けるのはライバルの数とタイミング。資金と時間がかかるフィールドにあえて挑戦
お金を「使う」「貯める」「増やす」をすべての人に。株式会社スマートバンクは、家計簿アプリ「B/43(ビーヨンサン)」の提供を通じて、家計管理の新しい可能性に挑戦しています。
代表の堀井さんは、日本初のフリマアプリ「FRIL(フリル)」やエンジェル投資家のマッチングサービス「ANGEL PORT」など、これまで様々なプロダクトをリリースしている敏腕起業家です。
今回はそんな堀井さんに、会社の立ち上げの経緯、今後の展望についてお伺いしました。
新卒でVOYAGE GROUPに入社し、最年少でグループ会社社長に就任。2012年にFablic社を創業し日本初のフリマアプリ「FRIL(フリル)」をリリース。2016年に楽天株式会社に売却、2018年に代表取締役を退任。2019年に株式会社スマートバンクを設立。
https://smartbank.co.jp/
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
新卒3年目で立ち上げた事業が小会社化。最年少でグループ会社社長に
大久保:まずは生い立ちから伺っていきたいと思います。小さい頃から起業に興味を持たれていましたか?
堀井:父も祖父も会社経営をしており、小さい頃から起業は身近な存在でした。
その影響もあり大学3年生頃からスタートアップでインターンを始め、卒業後は新卒で株式会社VOYAGE GROUPに入社しました。
当時はまだ上場していない100名〜200名程度の会社で、3年目までは新規事業の立ち上げ部署に配属され、そこで0→1の経験をたくさん積ませていただきました。
その経験をもとに私ともう1名の社員で新規事業を立ち上げたところ、年々売り上げの規模が大きくなり、新規事業でありながら粗利の高さなどが評価されて小会社化することになったんです。
大久保:入社から様々な事業の立ち上げを経験されていますが、そこではどんな学びがありましたか?
堀井:事業立ち上げが成功するかどうかは、勝負するタイミングが大きく影響するということです。
私が初めて担当したガラケーのリスティング事業は、ちょうどガラケーの検索市場ができ始めたタイミングでした。
当時はそこまで意識はしていませんでしたが、タイミングがうまくハマれば、インパクトはかなり大きいと感じましたね。
逆にタイミングが合わないものはどれだけ頑張ってもそこまで伸び切らないのだということも学びました。
独立するも後発サービスに敗北。スタートアップの戦い方を知る
大久保:独立された経緯を教えてください。
堀井:小会社の代表としてではなく、自分で一から事業を作り、成長させてみたいと思うようになったからです。
元々起業前から共同創業者を含めた複数メンバーで、プライベートでプロダクト作りをしていたんですが、鳴かず飛ばずの状態が続いていました。
仕事と両立しながらだとリリーススピードも上がりませんし、次のプロダクト作りの話をしているうちに「もう思い切って独立してやらない?」という話になったんです。
万が一失敗しても、これまでの実績でなんとかやっていけるだろうという自信もあり、起業に踏み切りましたね。
大久保:これまでの事業立ち上げ経験が、独立への後押しにもなったんでしょうか?
堀井:何もない状態で起業してしまうと、無収入の期間はキツイじゃないですか。
私の場合はサラリーマンでお給料ももらいながら0→1の経験をたくさん詰めたので、助走期間が長い分ある程度の自信はありました。
大久保:独立後はどんなプロダクトを作られたんですか?
堀井:一番初めのプロダクトは女性用のフリマアプリ「FRIL(フリル)」です。
読者モデルの方などが使ってくださったり、口コミが広がったりし、ユーザーが増え黒字化に成功しました。
後発の競合サービスにも負けることなく順調で、資金調達は一切していませんでした。
そんななか競合のメルカリさんが、大規模な資金調達で広告宣伝を開始したんです。
当時スタートアップ企業がほとんど流していなかったテレビCMも放映され、ユーザーは一気にメルカリへと流れてしまいました。
そこで改めて、目先の利益を追うのではなく、利益の再投資や資金調達でサービス全体を大きくさせることの重要性を学びましたね。
私たちも急いで資金調達を進めましたが、どの投資先もすでにメルカリさんに出資していました。
もう事業会社さんを頼るしか選択肢がないと考え、最終的に楽天さんに売却することにしたんです。
今のままやり続けていても勝ち目はないですし、事業を伸ばすなら売却がベストだと考えた結果の決断でした。
複数の企業さんとお話しさせていただきましたが、楽天さんにお願いした決め手はやはり資金力です。
事業を成長させるための投資を惜しみなくしていただけたので、かなりありがたかったですね。
また、いきなりの社名変更や転籍はメンバーの退職リスクが高く、事業存続にも影響しかねないため、最初の2年間は子会社として独立経営をさせてほしいとお願いしました。
再チャレンジで選んだのは、参入障壁の高い金融業界
大久保:堀井さんご自身はロックアップ終了後に退任され、その資金を元手に2回目の起業をされたんですね。
堀井:1回目の起業との大きな違いは、売却で得たまとまった資金があることです。
創業や免許取得、採用などのコストにも困らなかったのは大きかったですね。
特に金融系の許認可はハードルが高く、免許取得のために数億円かかるケースもあります。
大久保:なぜ敢えて参入障壁の高い金融業界への進出を決められたのですか?
堀井:1回目の起業時にはどんどん増えていく競合に苦労したので、できるだけ競合の少ない業界を選びたいと考えていました。
その分とにかく準備が大変で、各種許認可やカードの決済機能構築を含め、リリースまでには2年ほどかかりましたね。
許認可関連の情報は全く出回っておらず、直接金融庁に電話しなければいけませんでした。
提出書類の中には1,000項目以上の質問が書かれているものもあり、本当に骨の折れる業務でしたね。
ユーザー視点を持ち続け「あったらいいな」をカタチにしていく
大久保:主力プロダクトの「B/43(ビーヨンサン)」についても伺いたいと思います。なぜ、家計管理に着目されたんですか?
堀井:資産管理は年々デジタル化していますが、日々の家計管理は現金派の方がまだまだ圧倒的に多いんです。
無印のパスポートケースにラベルを貼って、食費や生活費を分ける、みたいなやり方ですね。
今後更なるキャッシュレス化が進む中で、家計管理もデジタルでできるサービスが必要なのではないかと考えました。
大久保:従来の家計簿管理サービスとはどのような違いがありますか?
堀井:家計簿をつけたり収入や支出を見たりするだけでなく、実際のお金も紐づいている点です。
多くのサービスでは、アプリ内に銀行口座やクレジットカードを紐づける仕組みですが、弊社の場合は専用のプリペイドカードを作れば、決済情報をアプリの中でご覧いただけます。
プリペイドカードは目的ごとに分けることができ、複数の用途でお使いいただけます。
大久保:共同口座のサービスはユーザーからも高い支持を得ていますよね。
堀井:海外では一般的なのですが、日本の銀行は様々な法規制の関係で共同名義の銀行口座は作れません。
共働き世帯の中には生活費は妻の口座、家賃は夫の口座に入れる、みたいなケースがよくありますが、お互いの口座の中身を見にいけないので管理しづらいんですよね。
B/43は、事前にチャージした口座をパートナーやお子さんと共有できる革新的なサービスです。
共有しているメンバーはカードで支払いや残高を把握できます。共同口座の管理に使えるペアカード、お子さんに持たせても安心のジュニアカードがあり、使い分けが可能です。
ペアカードは同棲している学生やカップルなど婚姻関係がなくても使えるので、結婚式や新婚旅行のための共同貯金用に利用するユーザーもいるんですよ。
アプリ内での有料課金はあるものの、ユーザーは年会費無料でサービスを利用いただけます。
失敗ではなく経験値。恐れず前に突き進むことで未来が切り拓ける
大久保:ユーザーの立場に立ったプロダクト開発で、これまでにない新しいサービスを生み出されてきたのですね。今後の展望も教えてください。
堀井:家計管理、カード決済だけではなく、家計の改善までプロダクトで解決できるようにしていきたいです。
AIによる支出データの改善などを通し「B/43を使えばお金が貯まる、増える」という体験を提供していきたいですね。
大久保:最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。
堀井:2回の起業を経験し大切だと感じたのは「失敗を失敗と思わないようにすること」だと思います。
B/43を生み出せたのはFRILでの経験があったからですし、そう考えるとFRILは失敗ではないんです。
今私たちが取り組んでいるプロダクトも、業界初の取り組みが多く不確実性が極めて高いものばかり。
ですが、失敗を恐れていては、新しいものを生み出すことはできません。
今の日本では、たとえ起業に失敗してもいきなり死ぬ、なんてことはないので、まずは実験と思ってトライしてみていただきたいですね。
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(取材協力:
株式会社スマートバンク CEO 堀井翔太)
(編集: 創業手帳編集部)