Retreat 山田 俊輔|シリコンバレー発!リモートワーク時代の「新しい社員旅行の形」
ゼロから掴んだアメリカ起業のチャンス!日本人が挑戦するための道標
アメリカの中でも特に「シリコンバレー」での起業を夢見る日本人が多いですが、アメリカでのコネもなければ、ビジネス英語を話せない人が大半です。今回お話しを伺ったRetreatの山田さんもその1人でした。
山田さんは、いわゆる観光ビザや学生ビザを使い、アメリカ起業に挑戦しては失敗してを繰り返して、ある時チャンスを掴みました。アメリカで起業した日本人の中でも、山田さんほど「ゼロイチ起業」を体現している日本人は少ないかもしれません。
そこで今回は、山田さんがアメリカで起業するまでの流れ、最初に得た成功体験、今注力しているサービスについて、創業手帳の大久保が聞きました。

Retreat CEO
2020年にRemotehourを創業。WebRTC領域のプロダクトを開発し、同年にPioneer、LAUNCHとシリコンバレーのアクセラレーターを2つ卒業し、Jason Calacanisらから出資を受ける。
現在、ピボットし、リモートチーム向けのオフサイト事業をUSメインで展開している。顧客層はSeriesAからNYSE上場企業まで。
同社創業以前は、シリコンバレーでYoutuber、フリーランス開発者、日本で会社経営など。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
憧れのアメリカへ。コネなしのまま前進し続けた過去
大久保:これまでのご経歴を教えてください。
山田:高校まで静岡県にいて、青山学院大学に進学するタイミングで関東に来ました。
大学4年の時に表参道のソフトバンクショップでインターンとして働き、卒業後はソフトバンク本社へ新卒入社して、1年ほど勤めました。
ソフトバンクの本社ではゴリゴリのBtoB部署にいましたが、「The 日本の会社」という感じで、自分が生き生きと働ける環境ではなかったです。
大久保:ソフトバンクを退社してすぐにアメリカに行かれたのでしょうか?
山田:はい。私がアメリカに来たのは約10年前になります。
当時アメリカで起業する日本人はあまりいませんでしたが、シリコンバレーに対する憧れが強かったため、ESTA(※1)で90日間滞在するつもりで渡米しました。
アメリカに来て色々と調べていくと、Tech Houseの内藤さんとつながったことをきっかけに、アメリカでの起業を具体的にイメージできるようになり、とにかくたくさんのビジネス系のイベントに参加しました。
大久保:その当時に何か成し遂げたと言えることはありますか?
山田:イベントや生活の中で触れた最新サービスのブログを書いていました。例えば当時、日本ではまだ導入されていなかったUberやスターバックスの最新アプリなどについてブログに書いていたら、ライティングの仕事をもらえるようになりました。
90日の滞在期間後は一度日本に帰国してF1ビザ(※2)を取得し、再度アメリカに戻りました。
しかし、起業という観点ではまだ情報収集段階でしたので、YouTubeチャンネルを立ち上げて、ひたすら色々な創業者にインタビューをしていました。
アメリカでのコネが圧倒的に足りていなかったので、アメリカの起業情報を日本に届ける形で少しでも前に進みたいという気持ちでした。
※1:ESTA(Electronic System for Travel Authorization/電子渡航認証システム) ・・・アメリカ合衆国への短期渡航時に必要な電子渡航認証システム。ビザ免除プログラム(Visa Waiver Program:VWP)加盟国の国民が、観光や商用目的で90日以内の短期渡航をする際に必要。
※2:F1ビザ・・・アメリカ合衆国でフルタイムの学業を行うための非移民学生ビザ。アメリカ国内の認可された学校や教育機関(大学、短大、高校、語学学校など)で学ぶことを目的としたビザで、留学生が最も一般的に取得するビザのひとつ。
ゼロから始めたアメリカ起業で最初に転機となった出来事
大久保:その後、どのような経緯でアメリカで起業することになりましたか?
山田:F1ビザも切れて日本に戻ってきてからは他に使えるビザがなかったので、長期でアメリカに行く機会がありませんでした。
それでもアメリカに行くための準備を何かしたいと思い、サンフランシスコで出会った人と日本で起業して、アプリケーションを受託で制作する事業を行っていました。
お金を稼いではESTAでアメリカに行くことを繰り返しているうちに、運良くグリーンカードがあたり、2019年に完全にアメリカに移住できるようになったのです。
受託の事業をそのままアメリカに持っていき、作ったアプリケーションをイベントに出して、アメリカでのパートナーを探していました。
大久保:そこから何が転機となりましたか?
山田:アメリカに来てからも、リモートワークで日本のクライアントの仕事を続けていましたが、時差がネックでした。
時差を考慮したスケジュール設定とWeb電話を掛け合わせたサービスを開発して使ってみたところ、便利だと感じたのです。
これをコロナ渦でWebRTC(※3)の需要が高まった2021年のタイミングでローンチしたらバズり、パイオニアのアクセラレータープログラムに通りました。
大久保:アクセラレーターへはどのような経緯で申し込むことになったのですか?
山田:通常、書類や面接の審査を複数回重ねて進めていくのですが、パイオニアの場合は1週間に1回レポートを提出し、参加者同士で評価し合ってポイントを重ねていくというものでした。
そのランキングで上位に入ると、アクセラレータープログラムに通る確率が上がるという仕組みです。
日本人がアメリカで起業する際に1番不利なのは「コネがないこと」です。そこに手を挙げて参加できたのは非常に良かったのですが、今はそのアクセラレータープログラムがなくなってしまったので残念です。
大久保:自社プロダクトをアメリカでローンチした際は、どのような心境だったのでしょうか?
山田:ローンチした時のことは人生で1番記憶に残っています。それまでビザを得たものの表舞台に出られるようなプロダクトを開発できていなかったので、本当にアメリカでやっていけるのか?起業できるのか?と不安な気持ちでいっぱいでした。
ですが、ローンチしたプロダクトが世界中で使われていると知った時は、アメリカに来て良かったと思った瞬間でした。
大久保:ブログを拝見させていただきましたが、小規模のプロダクトを数多くローンチさせてますよね。その経験が活きたのでしょうか?
山田:プロダクトを開発できても、ローンチさせるまで行きつかない人が多い印象です。
その点、私は思い切ってローンチできるタイプなので良かったのかなと思います。
当時は大変でしたが、結果として数多くの投資家に声をかけてもらえるようになったで、今となっては良い修行だったなと考えています。
※3:WebRTC(Web Real-Time Communication)・・・ウェブアプリケーションやサイトで、ブラウザ間で直接音声・映像ストリームやデータをリアルタイムにやり取りできる技術。
プロダクトの失速から生まれた転機!旅行業界へ新たな挑戦
大久保:その後、どのような流れで今のサービスに変わっていったのですか?
山田:先ほどのサービスは最初は勢いがあり、サインイン数は3万人ほどあったのですが、失速したタイミングで跳ね返すことができず、チームが解散となってしまいました。
その後、また新しいプロダクトを開発したかったのですが、良いアイディアが思い浮かばず、再びいろんな方々にインタビューを始めました。
そこで、ある会社が社員旅行の費用を経費にし、節税に活用している話を聞いたのです。その話をきっかけに、2022年にオミクロン株の流行が収束し始めたタイミングで、旅行代理店業に新たに参入しました。
大久保:その後の展開はいかがでしたか?
山田:資金調達のため、日本に一時的に帰国しているタイミングで、日本で事業を軌道に乗せようとしながら、チーム作りから業務のすべてを1人でこなしていたため、非常に大変でした。さらに、アメリカとの時差の影響で営業が思うように進まず、生活も厳しく、ご飯を食べる余裕もなかったほどです。
そんな中で共同創業者を見つけるために色々な方と連絡を取って、結果的にソフトバンクショップで副店長をしていたJack Tadami氏とパートナーを組むことになりました。
彼はソフトバンクを辞めた後、約10年間旅行代理店で働いていた経験があったのです。彼の協力のおかげで、事業をしっかりと成長させることができました。
リモートワーク企業向けに新しい社員旅行を提供する「Retreat」を開始
大久保:改めてRetreatのサービス内容を教えてください。
山田:私たちのサービスはリモートワークを導入している企業向けに、いわゆる「社員旅行」を提供しています。従業員が各地から集まるため、飛行機などの移動手段も考慮し、まずは「どこを旅行先にするか」を決めるところからスタートします。
Retreatの目的は、オフィスの代わりにリアルな場で集まり、会議やチームビルディングを行うことです。そのため3泊や1週間程度など、一般的な日本の社員旅行よりも長期間のスケジュールで実施されることが多いです。
「社員旅行」というよりも「全社集会」や「オフサイトミーティング」のイメージに近いサービスになっています。
大久保:今後の展開はどのようにお考えでしょうか?
山田:売り上げを伸ばしていくことが一つ。そして、ホテルとの連携を強化していきたいと考えています。
私たちのサービスに適したホテルは世界に約30万軒ありますが、地域や条件を絞ると選択肢はさらに限られます。そこで、私たちならではの「オフサイトミーティング専用パッケージ」をホテルと共同で開発し、差別化を図りたいと考えています。
大久保:アメリカ企業のオフサイトミーティングの目的地として日本も選択肢に入りますか?
山田:アメリカにとって1番近いアジアは日本です。円安の影響もありますし、オフサイトミーティングの目的地として日本も選択肢に入ります。
ただし、日本は言語の壁があるので、日本でアテンドするためのオプションも必要です。BtoBインバウンドにはまだまだ可能性がありますよね。
大久保:日本がBtoBインバウンドを誘致する際の課題は何ですか?
山田:300〜400室あるようなホテルが東京に少ないことです。
私はサンフランシスコとラスベガスの2拠点生活をしていますが、ラスベガスのホテルは4,000室もあります。
これほどの客室があれば大規模なイベントも実施しやすいので、例えば日本でも「お台場のラスベガス化」などをテーマに開発を進めると、BtoBインバウンドを誘致しやすいですね。
アメリカ起業に最初から完璧な英語は必要ない
大久保:よく聞かれると思いますが、どのくらいの英語レベルならアメリカで通用しますか?
山田:もちろん最終的にはビジネスレベルの英語力が求められますが、最初から完璧である必要はないと思っています。
実際、私自身もあるビジネスピッチイベントで発表は何とかできたものの、質疑応答の時間になると全く返答できず、相手に怒られた経験があります。
そのとき、提案先の秘書から「最終ピッチまでにネイティブレベルの英語を習得するか、通訳を連れてくるように」と言われたので、友人に通訳を頼んでなんとか乗り切りました。
大久保:日本のIT業界では、シリコンバレーの人たちを崇拝する傾向がありますが、実際のレベルはどう感じますか?
山田:確かにシリコンバレーには「神レベル」の人もいますが、全員がそうではありません。凄い人もいれば、そうでもない人もいて、日本とあまり変わらない印象です。
私自身は、自分が関わる業界の深い部分を知りたいと思っています。今であれば、特にHR(人材領域)やホスピタリティ分野に興味があり、その分野で歴史に残るようなことを成し遂げたいと考えています。
大久保:最後に、読者へメッセージをお願いします。
山田:私がアメリカに来た当初は、具体的なアイディアもない状態で「とにかく起業したい」という思いだけでした。でも、それでも大切なのは、自分の可能性を諦めず、どこに価値を提供できるかを探し続けることです。
そして、私はこの業界で「ゲームチェンジャー」になることを目指しています。失敗を恐れず、一歩踏み出して挑戦することが、何より重要だと思います。
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(取材協力:
Retreat CEO 山田 俊輔)
(編集: 創業手帳編集部)