欧州のテクノロジーとアートの中心ベルリンで活躍ー矢野圭一郎氏に聞くリモートワーク仕事術

欧州の最先端エリア「ベルリン」を拠点として活動する矢野氏に、リモートワークにおける仕事術を聞きました

ベルリン

(2020/05/17更新)

ドイツの首都であるベルリンは、アートやカルチャーの中心として知られ、モダンな雰囲気のある街です。

そんなベルリンは、アートだけではなく、数々のスタートアップが誕生しているテクノロジーの中心地としても知られています。

現在、徐々に緩和されてきてはいますが、ドイツでは新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナとする。)の感染拡大防止のために、厳格な都市封鎖(ロックダウン)を実施しています。

日本でも緊急事態宣言が発令されるなど、世界的に外出規制などの対策が行われています。この状況下でビジネスを継続していくためには、ITツールなどを活用して自宅で仕事することができる「リモートワーク」が欠かせません。

今回は、ベルリンで数多くのスタートアップに関わり、欧州と日本のリモートワーク事情に精通している矢野圭一郎氏に、日本と欧州における働き方の違いやリモートワークのコツなどについて話を聞きました。

矢野 圭一郎(やの けいいちろう)Interacthub(インタラクトハブ) CEO
ベルリン在住。東京都渋谷区出身、中学と大学をドイツで過ごす。ベンチャー企業勤務を経て成長期のセールスフォース・ドットコム、Googleなど、米大手IT企業の法人向けクラウドサービスの事業開発やパートナーシップに携わる。Google在籍中にスペインのIEビジネススクールでMBA修了後、2017年にオープンイノベーション支援事業を展開するInteracthub GmbHを設立。AIやブロックチェーン領域の開発をウクライナのオンデマンドチームで行う東欧先端ITラボ開発サービス”SWATLAB”を共同創業。その他ドイツ、エストニア等で起業経験あり。共著書に「ネクストシリコンバレー”次の技術革新が生まれる街”」(日経BP社)

冊子版の創業手帳では、先輩起業家によるインタビューや資金調達方法など、起業家に役立つ有益な情報をご紹介しています。ぜひ、ご活用ください。

欧州と日本のリモートワーク事情の違いとは?

リモートワークのイメージ
日本では優秀な人が組織に依存してしまう構造が強くあります。欧州では、優秀な人が組織に依存せずに個人や小グループで経済活動をしているケースが多く、特にベルリンはその傾向が強いと思います。

ベルリンのスタートアップでは、開発者は東欧のニューイースト地域(ウクライナ、ベラルーシ、ジョージア等)出身者が多く、リモート開発チームとして個人で加わったり、高度IT人材をかかえる開発会社が実際にリモートで開発しているケースも多いです。

起業家として会社を建てるときには、ドイツにあってもジブラルタル法人であったり、イスラエルにあってもキプロス法人であったり、戦略的にいろいろな国の税制やレギュレーションを考慮した経営をしている場合が多く、それに応じてリモートコミュニケーションも長く定着しています。

欧米系の企業において、リモートワークは15年くらい前から定着しています。採用面接も、欧米系企業では以前から一次面接をWeb会議で行うことが当たり前でした。

しかし、日本では新型コロナの後押しもあって、ようやく追いついてきたという感じです。

リモートワークはリモートとリアルの使い分けが大切

日本では、リモート=バーチャルと認識してしまう傾向が強く、リモート=リアルという認識が薄いです。私は過去にMBAをリモートで取得しましたし、会社員時代も含めて10年以上、日常的にリモート環境を使っています。

リモートorリアルではなく、リモート&リアルであるということの理解が大切です。実際に会うと効率が良い状況と、逆にリモートの方が効率が良い状況をうまく使い分け、社員の評価も含めて働き方をデザインすることが重要だと思います。

これを理解しないと、たとえば日本製のリモートツールにありがちな「監視」に進むケースがありますが、これは最悪のパターンです。そのようなツールや文化が広まってしまうと、リモートワークは一気に衰退してしまうでしょう。

私の経験上、良いリモートワークというのは、働くチームの信頼関係や成果ベースの客観的な評価システムの有無、定期的に実際に会って交流する機会の提供など、リモート+リアルを組み込んだワークデザインができているかといった「全体の仕組みづくり」が非常に重要です。

私が昔働いていたGoogleもその条件を満たしていましたし、文化がWork from anywhere(どこからでも仕事ができる)でした。また、私が2013年頃に通っていたMBAも、マドリードで年3回、1週間程度の対面型授業がある以外はオンラインディスカッションで、突然教授に当てられるコールドコール(※)も普通にありましたし、各国在住の学生とグループワークも行っていました。

2012年に開校したハーバード大学より入学が難しいといわれる新興大学・ミネルバ大学も、リモート+リアルの手法を取り入れています。ミネルバ大学では、学生が世界の主要都市でインターンをしながら、オンラインで課題や授業をこなしていくといったスタイルを取り入れており、非常に注目されています。

最近、Zoomウェビナーが盛んですが、ウェビナーではチャットなどを同時に流しながら、実際のセミナーよりもインタラクティブに進めることができます。

※コールドコール・・・前触れもなく指名され、意見を求められること

リモートワークのおすすめツールと選び方

当社ではZoom、Slack、G Suite、Salesforceなどの一般的なツールを使用しています。選ぶ基準としては、どの国のパートナーや顧客を相手にしても使用できることが重要です。

日本市場に特化したものだと、海外のパートナーが使ってくれなかったり、そもそも言語対応すらできていないケースもあるので、ユニークさよりも、国内外で誰もが使っていて慣れていることが大切だと思います。誰でも使い慣れてるツールであれば、「どう使うのか?」という初期段階でつまづくこともありません。

ウェビナーのコツは「参加しやすい環境」をつくること

ほぼ対面型セミナーと一緒だとは思いますが、ウェビナー独特のファシリテーションスキル(※)は多少必要だと思います。また、質問はチャットを通して参加者に自由に書き込んでもらったり、挙手してもらったりするなど、参加しやすい環境をつくることが大切です。話している方も、レスポンスがあったほうが楽しいですよね。

※ファシリテーションスキル・・・物事が円滑に進むよう、調整する能力のこと

IT人材をリモートで活用できるサービスも!

IT人材・リモート活用
私はベルリンでInteracthub GmbHという会社を経営していますが、新規事業で東欧の先端ITチームをリモートで日本企業に提供する「SWATLAB」というサービスを提供し始めました。ベルリンで出会った共同創業者の下野さんと事業化して、日本を中心とした市場に展開していく予定です。

SWATLABは、常時稼働可能な300人以上の先端IT人材や1,000人以上のCVを、リモートかつオンデマンドに活用できるサービスです。基本的に開発者は、国を問わず同じ開発ツールを使い、言語も英語なので、日本に呼ぶコストや時間を考えると圧倒的にリモートの方がスケールします。また、場所を問わず、世界中の優秀な人をすぐにプロジェクトチームに入れることができます。

海外では、世界のハイスキル開発者をリモートで大手企業の開発チームに組み込むという仕組みは、すでにGigster社Distributed社などが展開しています。しかし、日本ではまだこのような仕組みはなく、コロナの影響によって日本も働き方の変革期となったことから、チャンスがあると感じています。

リモートだけではなく、リアルをかけ合わせて短期出張で日本に開発者を呼んだり、逆に日本のクライアント側がウクライナを1週間ほど訪れたりしてプロジェクトをキックオフしたあと、ZoomやSlackなどでコミュニケーションすることで、日本国内にいるのと同じ感覚で仕事ができます

私たちも、ウクライナやベラルーシ、東南アジア、ウラジオストクなどの開発会社やパートナーと頻繁に打ち合わせをしますが、相手がどこにいるかを意識することはありません。

時差をデメリットと捉える企業もありますが、日本のゲーム業界を代表する某企業では、日欧米それぞれのタイムゾーンをあえて分け、それぞれの拠点で開発することによって3倍の開発速度を実現しています。

タイムゾーンを逆利用して開発生産性を倍増する手法は、グローバル競争力のある企業では普通に行われていることなのです。開発だけではなく、営業もマーケティングも現地に出向く必要はどんどんなくなっています。

一方で、渋谷のコミュニケーションプラットフォームを運営するEDGEofさんのように、「出会いを提供する場所」として物理的な空間を提供するようなコンセプトが増えてくると思います。リモートがリアルになり、実際に会う=特別なイベントになっていくでしょう。

新型コロナでロックダウン中のドイツの現状とビジネスの変化とは?

ベルリン凱旋門
ドイツは政府のリーダーシップが発揮され、医療等も問題なくまわっているようです。5月12日現在、5月中には学校や会社も段階的に再開されていく見通しで、お店や人通りも元に戻りつつあります。

一方で、空港はまだ復帰していないため、飛行機による移動が以前と同じレベルに回復することを願っています。

日本に向けたビジネスは、新型コロナ以前よりも圧倒的にやりやすくなりました。ウェビナーも一般化しただけでなく、Zoomによる営業、VCとの相談までリモートでできるようになりました。

これまでは、日本だけリモートワークしづらいという印象だったのですが、以前はあった「海外からはお断り」のようなスタートアップイベントや、営業で会うことを重んじる風潮もなくなり、圧倒的に仕事がしやすくなったと思います。

「移動」がなくなったことによるメリット

移動する機会が減ったことで、時間を有効に使うことができ、生産性は2〜3倍上がった気がします。打ち合わせも、移動があれば午前中に1回しかできませんが、移動がないので午前中に3〜4回入れることができます。

また、ビジネスパートナーがウクライナのキエフとハルキウにいるのですが、感覚的にはベルリンにいるのと変わりません。つまり、世界中の人や企業と共同ビジネスができるため、税率や雇用法などを考慮して一番やりやすい良い場所で一緒に仕事をすることができます。

本当に行く必要があるときにだけ移動すればいいので、プライオリティー(優先順位)づけもできて、無駄な移動時間やコストを抑えることができます。

テクノロジー分野において欧州で注目のエリアとは?

ニューイーストと呼ばれているコーカサスを含めた東欧が、文化的にも先端エンジニア集積地としても注目されています。ベルリンだけではなく、たとえばシリコンバレーのユニコーン企業であるGrammarlyはウクライナ、楽天が買収したViberもベラルーシに開発拠点があります。

私たちもCVをみてみると、デュアルマスター(たとえばコンピューターサイエンスと化学両方の修士号をもっている人)やPhD.(※)を取得してリーダー経験もある開発者が多く、英語やグローバルな開発フレームワークを採用しているので先端開発に特に適していると感じます。

※PhD・・・博士号のこと

リモートワークは日本のライフスタイルを多様化する

多様化イメージ
グローバルハブの時代から、ハイパーコネクト時代に変化していると思います。一言でいうと、大都市にいるメリットが以前よりもなくなってきています。

日本でも、東京から出て小都市で自分らしく働くみたいな流れが出てきました。しかし、さらにリモートワークのフレームワークが洗練されていくと、たとえば鎌倉に住んで週2回だけ東京に出社し、週末は副業に取り組むなど、ライフスタイルの多様化が進むと思います。

ツールはたくさんありますが、本当の意味でリモートワークを文化や仕組みとして許容できている企業は、日本ではまだ少ないかもしれません。そこは、これからの課題だと思います。

ベルリンにおいても、キプロス法人で営業はロンドン、開発はウクライナみたいな会社があるように、ファイナンスの課題が解決されていけば、日本でもバーチャル+リアルの組み合わせで、これまでなかった仕事の仕方が増えていくでしょう。

リモートワークがどうという局所的なものではなく、働き方の「普通」が変わってきたのだと思います。私たちもSWATLABを通して、「新しいチームのかたちを創る」提案を企業に展開していきます。もしかすると、これからはハブ空港が近くにあり、空気が綺麗で食べ物がおいしい小都市みたいな場所が理想のビジネス拠点になるのかもしれません。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: Interacthub GmbH/CEO 矢野圭一郎
(編集: 創業手帳編集部)

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