クイックゲット 平塚登馬|欲しいものが10分で届く!クイックコマース「QuickGet」で切り拓く未来の市場
急拡大するデリバリー市場に登場したクイックコマースの先駆者
新型コロナウイルスの蔓延などを背景にデリバリーニーズが高まり、昨今では短時間で注文者へ商品を即配するクイックコマースが市場規模を拡大しつつあります。
なかでも「今欲しいものが10分で届く」をコンセプトとし、高い顧客満足度を獲得しているのが、2017年創業のクイックゲットが開発・運営するeコマースサービス「QuickGet(クイックゲット)」です。
業界の先駆者として注目を集める同社の代表取締役を務める平塚さんの起業までの経緯や、未来から逆算して事業を構築する理念について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
クイックゲット株式会社 代表取締役
同志社大学在学時の21歳で起業。京大の機械学習エンジニアなどとAIレシピアプリ「レキピオ」を開発し会社設立。創業時からあった食料品コマース進出の構想を元に、2019年にQuickGetに事業転換。独学でエンジアリングやデータ分析を習得、プロダクト作りに精通。Product, Growth, SCMなど全体を管轄し、優れた顧客体験を支える。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
学生起業家向けのビジネスコンテストでの優勝を経て起業
大久保:まずは起業までの経緯についてお聞かせ願えますか。
平塚:僕にとって初めての事業は、同志社大学時代に始めた人材ビジネスです。当時、関西ではインターンシップ募集がほとんどなかったため、「じゃあ自分でやろう」と。登記はしませんでしたが、本格的なビジネスとして取り組んでいました。
転機となったのは、現サイバーエージェント・ベンチャーズ主催の学生起業家向けのビジネスコンテストへの参加です。
奇しくもタイミーの小川さんやプロットの奥野さんら、現在、若手起業家として活躍する錚々たるメンバーが参加したコンテストだったのですが、優勝することができたんですね。この成功体験をきっかけに起業しました。
当初はインフルエンサーマーケティング事業を柱にする予定でしたが、すぐにレシピアプリの開発・運用に移行。京都大学の機械学習エンジニアとともにチームを組み、AIを活用したアプリケーションの開発やデータ分析、運用を行っていました。
この時期に身につけたプロダクト開発やデータ分析の知見が、現在のビジネスにも活かされています。
大久保:ここ数年でレシピアプリは一般的になりましたが、当時は先行優位のビジネスだったのでしょうか?
平塚:僕たちが手掛けていたのは「冷蔵庫のストックで作れるレシピ」を提供するサービスでしたので、競合が少なかったんですね。注目トピックスとして取り上げてもらうことも多く、ユーザー継続率も非常に良かったです。
ただ、主婦向けのレシピアプリは、食料品などの購入につなげにくいという難しさを痛感したんですね。そこで、事業として持続的利益をあげるためには、どういうサービスが最適だろうか?と常に熟考していました。
試行錯誤の末、たどり着いたのは「食料品のコマース事業に舵を切ろう」という結論です。レシピアプリでのユーザー獲得の成功を前哨戦として捉え、業態転換を決意しました。
こうした経緯で、2017年に設立したのがクイックゲットです。
デリバリー限定の次世代コンビニ「QuickGet」
大久保:QuickGetのサービス内容をお聞かせください。
平塚:QuickGetは「今欲しいものが10分で届く」をコンセプトに設計した、デリバリー限定の次世代コンビニサービスです。コンビニエンスストアがベースですが、成城石井やドラッグストア、ドン・キホーテなど、小売企業の強みや魅力を凝縮したデリバリーとして運営しています。
コンビニより豊富な品揃えの中から、専用アプリで注文後、10分程度でのお届けが可能です。Amazonより圧倒的に早い配送を実現し、コンビニに行くのと変わらないスピード感で利用できます。
小売企業とeコマースの中間に位置しており、ここ数年で定着しつつあるクイックコマースのビジネスモデルです。
大久保:商品管理や配送形態の仕組みをお教えいただけますか。
平塚:各サービスエリアに配送限定の店舗を配置し、業務委託の配送パートナーが商品をお届けしています。イメージとして近いのはUber Eats(ウーバーイーツ)です。
大久保:これから急速に事業を拡大していく段階だと思うのですが、現時点でどんな方々がユーザーとして利用されているのでしょうか?
平塚:20代から50代まで、男女問わず幅広くご利用いただいています。傾向として、利便性とお得さを比較しながら利便性を優先するユーザーが多いです。
日本を代表するECモールといえばAmazonと楽天市場ですが、弊社のユーザーはどちらかというとAmazonを利用する方が割合として占めています。「ポイントを貯めてお得な買い物を」というより、「豊富な品揃えから選べて、注文すればすぐに届けてくれるし便利」といった観点で、Amazonユーザーと親和性が高いサービスです。
それからコンビニによく行く方や、Uber Eatsを利用する方との相性も良いですね。
大久保:なるほど。コンビニに行く感覚でQuickGetを使うといった利用イメージでしょうか?
平塚:はい。弊社のサービスの強みは、平均11分での配送を実現したことです。
コンビニに出かけようとすると、往復や着替えの手間、マンション住まいの場合はエレベーターでの移動などもありますので、コンビニに行くのと変わらないか、早いくらいなんですね。「だったらQuickGetでいいよね」という手軽さでご利用いただいています。
大久保:ありそうでなかった画期的なサービスですよね。現時点で競合はありますか?
平塚:弊社が日本初としてサービスローンチしたのですが、後発で他社からも類似サービスが登場しています。ただ、約10分での安定した配送を実現しているのは弊社以外に存在しません。
100年後の世の中を想定した、あるべきサービスの構築
大久保:QuickGetのローンチに至った経緯や、サービス理念について詳しくお教えいただけますか。
平塚:学生時代から数えると、現在のクイックゲット設立までに4つほど事業を手掛けたのですが、その過程でマーケットサイズや市場トレンド、事業の収益性などについて検証を続けてきました。その結果、最終的に指標としたポイントが2つあります。
1つ目は、本当に自分が欲しいサービスであること。
検証してきた要素も重要なのは間違いないのですが、「何を優先すべきか?」を突き詰めていくと、自分自身が積極的に利用したいと思えない事業では駄目だなと。まずはこの観点を重視しました。
それから2つ目は、未来から逆算して構想を練った事業であること。
極論を言ってしまうと、100年後の世の中を想定して、あるべきサービスの構築が重要なんですね。
ドラえもんや、アメリカのスーパーヒーロー映画を製作するマーベルの世界観が大好きなのですが、SF作品では人間が理想として夢見る世界が描かれています。100年後には、きっとこういう世界になっているよねと。
僕は個人的に、こうした理想の具現化のために「現在のテクノロジーで実現できて、市場に受け入れられるイメージを現実社会に落とし込んだとき、どういうサービスができるだろう?」と未来から逆算して考える癖がついているんですね。この資質を活かして構想を練りました。
この2つを掛け合わせた理念で誕生したのがQuickGetであり、企業として事業継続できるよう重視している概念でもあります。
大久保:未来から逆算して事業を構築するにあたってコツなどはありますか?
平塚:先ほど申し上げたドラえもんやマーベルの世界観をイメージするのがわかりやすいと思います。特にドラえもんの発想は面白いです。
僕が目指したい世界は、ドラえもんの四次元ポケットなんですね。この世のすべてではありませんが、毎日暮らす中で必要だったり理想とする多くのものが入っています。しかも四次元なので、ポケットの中は果てしなく広いわけです。
「ポケットに手を入れると、欲しいものがほぼ手に入る」というのは、クイックコマースの究極の形ではないかなと。
こうした発想で深堀りしながら、「四次元ポケットを現実的にブレイクダウンしていくと、どんなサービスが実現できるだろう?」という方向で思考を巡らせていくのがコツではないでしょうか。
客観的なデータ分析と、確固たる経験を活かして事業運営
大久保:オンラインとオフラインを融合させたサービスは、特に人が絡むと難易度が上がる傾向があります。御社でいうと配送関連が該当するかと思うのですが、サービス構築や体制づくりで苦労した点はありましたか?
平塚:実は創業当初、オフィスに倉庫を作り、自分たちでピッキングから配送、在庫管理まですべて行っていました。苦労したといえば苦労になるのですが、結果としてピッキング・配送・在庫管理という一連の業務に関する最適解を導きだすことができたんですね。
やはり自分自身で経験した分、あらゆる面で理解を深められたことは大きなアドバンテージになるんだなと実感しています。おかげさまで、QuickGetは満足度の高い顧客体験を継続して提供できるようになりました。
当時は22歳でしたので、若さ全開ですべての業務に取り組めたのも良かったですね。オンラインとオフラインを融合させたサービスを構築する上で、自ら頭も体も使って作業にあたり、解像度が高い状態で事業を進めることができたので仕組みづくりもうまくいきました。
大久保:確かに経験値や年齢が上がってから始めると、どうしても効率優先で考えてしまい、自分でそこまでやろうと思えなくなるかもしれませんね。
平塚:はい。一見すると非効率に思えるかもしれない経験も、実は一番アドバンテージになるということも身をもって理解できました。
大久保:在庫ロスはいかがでしょうか?
平塚:データドリブンで運営していますので、それほど在庫ロスはないですね。廃棄も非常に少なく、コンビニ廃棄率の平均3%に対し、弊社は平均1%台。コンビニのPOSデータ以上に、顧客体験に密着したデータ収集を実現できているのがポイントです。
POSデータで取得できるのは、たとえば「30歳くらいの会社員と思われる男性が、Aビールを3本購入」程度なんですね。一方、弊社のデータでは「2回目の注文となる東京都港区在住のBさん(32歳)が、Cビールを3本購入」までわかります。顧客IDと購入データがすべて紐付いていますので、結果として在庫管理にも活かすことができています。
弊社は小売企業というよりテック企業ですので、予測を立てながら事業運営できるのは強みのひとつです。
目標は、3年後までに全国主要都市を中心とした200店舗展開
大久保:今後の展開をお聞かせください。
平塚:3年後までに200店舗まで拡大することが目標です。
現在は港区・目黒区・渋谷区が中心ですが、今後は東京都内全域をはじめ、大阪や横浜など、全国の人口密集地域からカバーしていきたいと考えています。
既存エリアでは利用率も顧客満足度も非常に高いので、QuickGetを体験してもらえる地域や顧客を増やしていくことに注力したいです。
大久保:先ほどお話しいただいた「未来から逆算して事業を構築していく」という理念が、事業運営上で一貫していますね。
平塚:はい、大きいですね。
多くの人は「未来はこうなる」と聞かされても、「誰かがやってくれるよね」で終わってしまいます。だからこそ、誰かがやらないと現実社会で未来を作ることはできません。
大手企業も含めて競合も参入してきましたが、現状ではオンラインとオフラインをバランスよく融合させながら、顧客満足度の高いサービスの安定供給を実現できているのは弊社だけです。そのため、「次世代のためにも、未来を作る」ということを僕自身の使命としています。
未来は誰かが作らないと、現実のものとして具現化することはできないからこそ、自分自身で未来を作っていこうと。この想いを大事にしていますね。
事業を始める前に熟考してほしい事業領域の見極め
大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。
平塚:「新規事業を立ち上げる前に、希望と照らし合わせながら事業領域を定めたほうがいい」ということをお伝えしたいです。
僕の場合は「便利なサービスで世の中を変える」をテーマに、小売とeコマースの中間に位置する事業を選びました。マーケット規模が大きいという魅力がある一方で、物理的な倉庫や配送員が必要になりますし、時間をかけて構築しなければならないビジネスモデルなんですね。本質的な成功まで10年はかかります。
年月をかけてでも、大きな成功を遂げたいのか?年商も飛躍的に伸ばしたいのか?
自分が事業を運営する中で、「どこまで目指したいのか?」によって、選ぶ事業領域も異なってきます。まずはじっくりと熟考しながら見極めていただきたいです。
(編集:創業手帳編集部)
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(取材協力:
クイックゲット株式会社 代表取締役 平塚 登馬)
(編集: 創業手帳編集部)