累進課税のしくみを理解しよう。計算の仕方や節税方法とは?

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累進課税制度とは?対象となる税金の種類・メリット・デメリットと税率や計算方法を解説


累進課税は日本の課税方法のひとつで、個人事業主やフリーランスに関わる税金にも取り入れられているものです。
税金は種類によって異なる計算方法が使われており、その中でも累進課税は仕組みが難しく、自分がいくら納めるべきかがわかりにくいこともあります。

これから起業する人や現在事業を営んでいる人は、自分の納める税金の仕組みや計算方法などを知っておきましょう。
累進課税が用いられている税金の種類ごとに、節税の方法なども紹介します。

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累進課税制度とは


累進課税とは、日本の課税方式のひとつで独特な計算方法で税率が上がる仕組みです。
累進課税制度には2つの種類がありますが、日本国内ではどちらかというと計算が難しい方法をとっています。

累進課税制度の仕組みや種類など、自分がどのような計算方法で納税しているのか知っておきましょう。

累進課税の仕組み

累進課税は、課税対象額が増えると税率が段階的に上がる仕組みになっています。種類ごとに詳しい計算方法は異なりますが、税額の上がり方の基本は同じです。

累進課税の「累進」とは、数量が増えるに伴い比率が増えることを意味します。
文字通り、累進課税では課税対象額が高い人ほど税額を計算するパーセンテージが高くなります。

例えば、課税対象額が300万円の人は税率10%、500万円の人は20%、700万円の人は23%というイメージです。
税率は200万円以下は〇〇%、200万円~400万円は〇〇%と課税対象の金額の範囲ごとに区分が定められています。
実際に、課税対象になる金額の範囲や区分ごとの税率は税金の種類によって異なるため、それぞれの税率を確認してください。

累進課税の種類

累進課税には単純累進課税と超過累進課税という2つの種類があり、それぞれに納税額の計算方法が異なります。
日本で用いられているのは、超過累進課税です。超過累進課税は、単純累進課税よりも税額計算が複雑ですが、手間を省くための速算表があります。

超過累進課税

超過累進課税は、一定の金額を超過した分だけ、超過累進課税率を使う計算方法です。
例えば、100万円以下は10%、100万円ごとに10%ずつ上がっていくと仮定した場合、課税対象額が150万円の人は100万円までは10%が課税され、残りの50万円だけに20%が課税されることになります。
税額の上昇は緩やかになりますが、計算は煩雑です。

日本の超過累進課税で納める税金の税率は7~8段階の区分に分かれ、課税金額が高くなればなるほど、計算の手間は増えます。
そのため、それぞれの税金の種類ごとに簡易的に計算できる「税の速算表」が用意されています。

単純累進課税

単純累進課税は累進課税の計算方法のひとつで、日本では用いられていない方法です。超過累進課税と比較すると納税額の上がり方は急になります。

単純累進課税での計算方法は、超過累進課税よりも簡単です。
例えば、上記と同じく100万円以下は10%、100万円ごとに10%ずつ上がっていくと仮定した場合、課税対象額150万円の人の税率は全額に20%が課税されます。

超過累進課税の場合、100万円×10%+50万円×20%=20万円だったのに対し、単純累進課税では、150万円×20%=30万円と税額が高くなります。

累進課税制度のメリットとデメリット


累進課税制度には、その仕組みや計算方法によってメリット・デメリットと感じられることがあります。
デメリットが多いからといって累進課税制度による納税は避けられるものではありませんが、累進課税の側面として理解しておきましょう。

累進課税制度のメリット

累進課税制度のメリットは、公平性とやり方によっては節税できる可能性がある点です。
累進課税制度が採用されている理由や詳しい計算方法や申告方法を知ることで、その良さを理解できるかもしれません。

富の格差に応じて納税額が公平に決まる

累進課税制度のメリットのひとつは、その公平性です。そもそも累進課税制度は、納税者の納税できる力に合わせて負担額を決めるための制度として始まりました。
課税対象額に応じて税率を上げることで、納税者の富の格差に応じて公平に納税額が決まるようになっています。
手に入った金額が少なければ納税額も少なくなるため、無理なく納税できるということです。

節税のための控除もある

累進課税制度には節税のために工夫できる余地も残されています。課税対象額や納税額を計算する際に適用される控除は、高い節税効果が期待できる制度です。
その人の状況に応じて可能な控除の種類が違い、様々な条件で控除が適用される仕組みになっています。
課税対象額だけでなく、一人ひとりの状況も反映して納税額が決まるため、控除はさらに公平性を高める仕組みと言えそうです。

累進課税制度のデメリット

累進課税制度にはデメリットもあります。納税者の状況によって負担を公平に保つための制度ですが、場合によっては正しく機能していないと感じるかもしれません。

物価を反映しない

累進課税制度のデメリットは、物価を反映しない点です。このため、インフレの際には累進課税によって税負担が重く感じるようになる場合があります。

インフレ時にはお金の価値は下がっているのに税率は変わらないため、実質税金が増えてしまうことがあります。
例えば、所得税の場合、インフレで物価も上がっているにもかかわらず、所得が上がったとみなされて課税されるため、実質的に増税に感じることもあるようです。

低所得者の負担が大きいと感じる

日本の所得税の累進課税の場合、低所得者の負担が大きいと感じることもあります。
所得税の最高限界税率が段階的に引き下げられてきたことなどから、高額所得者の税負担が軽減されているように思われるようです。

現実的には、特に1,000万円前後の所得の家庭が相対的に税負担が大きいと感じることが多くなります。
また、過去の例を見ても、税率は時代によって刻々と変化するものです。
もし本当に現実にそぐわない状況であれば、本来の累進課税の目的を果たすべく現状の税率が変わる可能性もあります。

制度が複雑でわかりにくい

日本が採用している超過累進課税の制度は、複雑でわかりにくく、計算も難しいものです。
そのため、実際に課税されることになった時に税額計算を自分でできない場合もあります。
わかりやすくするための速算表はありますが、正確な計算や控除の反映、納税手続きまで行うのは難しいケースもあるでしょう。

そのため、状況によっては税額計算から納税手続きまでを税理士などに依頼することもあります。

累進課税の対象になる税金


累進課税の対象となる税金には、所得税・相続税・贈与税があります。個人事業主やフリーランス、または、財産のやり取りなどを行う人に関係のある税金です。
この3種類の税金の税率や節税方法などをそれぞれまとめました。

所得税

所得税は、個人の所得に課税される税金で、税率区分が総合課税・申告分離課税・源泉分離課税に分かれます。このうち総合課税が累進課税の適用される部分です。

事業で得た所得は事業所得、会社で働いて得る給与所得、そのほかにも山林所得や譲渡所得などがあります。
このうち、総合課税にあたるのは事業所得や給与所得などです。申告分離課税には山林所得や株式などの譲渡所得、源泉分離課税には銀行の利息などが該当します。

個人事業主やフリーランスの事業所得は確定申告、会社員の給与所得は年末調整で納税します。

所得税の累進課税率の速算表

所得税は7段階の超過累進課税で計算します。そのまま計算すると非常に手間がかかりますが、簡単に計算できる速算表を利用可能です。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

※国税庁ホームページ(平成27年分以降)所得税の速算表より

累進課税率の計算例

所得税の速算表をもとに計算すると、所得金額を段階に応じてそれぞれの税率で計算しなければいけなかった税額をシンプルに計算できます。

例えば、課税所得が400万円の場合では、

400万円×20%ー427,500円=372,500円

となります。つまり、課税所得400万円の人は372,500円の所得税が課税されるということです。

主な節税方法

上記の所得税の計算には節税対策が含まれていません。所得税を計算する際には、所得控除と税額控除という2種類の控除を用いて節税できます。
所得控除は所得から一定の金額を控除して、課税所得を減らすことができるものです。税額控除は所得税額から直接控除できます。

相続税

相続税は、亡くなった人の財産を受け取った時に課される税金で、所得税と同様に超過累進課税が適用されます。
受け取った財産の金額が大きければ大きいほど税率も高くなるのは所得税と同じですが、相続税の計算には財産の評価額を算出することも必要です。
財産の種類によっては複雑な計算を要するため、自分たちで計算できない場合もあります。

相続税の累進課税率の速算表

相続税の累進課税も、速算表を用いて計算できます。相続税の速算表では、法定相続分に応じた取得金額の区分ごとに税率と控除額が設定されています。

法定相続分とは、民法で定められた相続割合のことです。実際に相続する割合は法定相続通りにする必要はありませんが、相続税は法定相続分を基準に計算します。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

※国税庁ホームページ【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表より

累進課税率の計算例

相続税の速算表に従って計算すると、例えば、法定相続分が1億円の場合、

1億円×30%ー700万円=2,300万円

で、相続税は2,300万円となります。

法定相続人が複数いた場合には相続割合に応じて財産を分け、実際に相続した金額に応じて相続税を算出することになります。

主な節税方法

相続税の節税方法としては、生命保険金などの非課税枠を利用する方法や税額控除を利用する方法などがあります。
また、被相続人や被相続人と生計を一にする親族が使っていた住宅や事業用の宅地を相続する場合、「小規模宅地等の特例」という制度を使うことが可能です。

生命保険金は「500万円×法定相続人の人数」まで非課税となります。例えば、法定相続人が3名の場合、1,500万円まで非課税です。

相続税の税額控除は各相続人に財産の割合に応じて相続税を分けたあとで適用します。税額控除には配偶者や未成年者、障害者などが対象となる控除があります。

贈与税

贈与税は、個人から個人へ財産を贈与した時に課されます。贈与税には一般税率と特例税率の2つの税率があり、どちらかの税率が適用されます。
祖父母や父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫への贈与でかかるのが特例税率、それ以外が一般税率です。また、贈与税には110万円の基礎控除があります。

贈与税の累進課税率の速算表

贈与税の累進課税率にも速算表があります。贈与税の速算表は一般税率と特例税率の2種類です。それぞれ課税価格の区分が異なるため注意しましょう。

一般税率

基礎控除後の課税価格 税 率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

※国税庁ホームページ<一般贈与財産用>(一般税率)より

特例税率

基礎控除後の課税価格 税 率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

※国税庁ホームページ<特例贈与財産用>(特例税率)より

累進課税率の計算例

贈与税の累進課税の計算は、誰からの贈与かによって異なります。また、贈与を受けた年齢によっても異なるため注意が必要です。
20歳以上の人が直系尊属から贈与を受けた場合は特例税率ですが、20歳未満の場合には一般税率が適用となります。

例えば、600万円の贈与を直系尊属から受けた場合、20歳以上の人の贈与税は、

(600万円ー110万円)×特例税率20%ー30万円=68万円です。

20歳未満の場合には、

(600万円ー110万円)×一般税率30%ー65万円=82万円となります。

主な節税方法

贈与税の節税方法としては、110万円の非課税枠を使って、毎年非課税の贈与を繰り返す方法があります。
また、相続時精算課税制度も、60歳以上の祖父母や父母が20歳以上の子や孫に財産を譲る際に節税できる方法です。
相続時精算課税制度を利用すると2,500万円まで贈与税がかかりません。ただしこの2つの方法は併用できません。

まとめ

累進課税が採用されている税金の中には、個人事業主やフリーランスにも関係の深い税金があります。
累進課税の仕組みには不満に感じる点もあるかもしれませんが、本来、所得格差を緩和するために導入された公平な方法です。
負担が大きいと感じた場合には、納税する際にできる節税対策を最大限活用し、負担軽減を試みましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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