Pendo トッド・オルソン|Pendoでソフトウェア・アプリのユーザー体験を分析し、日本のDX推進に貢献していく

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年07月に行われた取材時点のものです。

※このインタビュー内容は2023年6月に行われた取材時点のものです。

Pendoで、あらゆるソフトウェア・アプリを使いやすく改善


様々なソフトウェアやアプリが生み出されており、多くの企業で複数のソフトウェアやアプリを導入することが一般的になっています。しかし、業務効率化ツールを導入して、顧客管理や在庫管理を行うはずが、そのツールが使いづらく、結果的に業務が効率化できていないという事例も多く発生しているのが現状です。

そこで、Pendoというプロダクトデータの収集・分析を行うツールを色々なソフトウェアやアプリに組み込むことで、ソフトウェアやアプリの利便性が向上します。

今回は、Pendoの創業者でありCEOであるトッド・オルソンさんに、Pendo創業までの経緯やPendoが解決する未来について、創業手帳の大久保が聞きました。

トッド・オルソン(Todd Olson)
Pendo 創業者兼最高経営責任者(CEO)
トッド・オルソンは、14歳よりコーディングの仕事を開始し、学生時代にはスタートアップ、セレベラム(Cerebellum)を友人と起業。その後Pendoを設立するまで2社のスタートアップをゼロから築きあげ、内1社はIPOに成功、1億ドル(約110億円)以上の資本を調達しました。ソフトウェア企業で会社勤務を経験した際は、ロシアのサンクトペテルブルクで200人のチームを引き継いだほか、日本での事務所設立も経験。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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2社の起業後、ソフトウェア企業勤務を経て「Pendo」を創業

大久保:Pendoを起業した経緯を教えてください。

オルソンPendoを創業する前は、別のソフトウェア企業のプロダクトチームのリーダーを務めていましたが、そこでは様々な課題がありました。

一つの課題として、我々が作ったプロダクトを、ユーザーがどのように使っているのかがわからないことでした。

その時に、ユーザーの離脱率を下げるためには、ユーザーの行動における根拠や動機に関する情報、いわゆる「インサイト(※1)」を集めることが重要だということを痛感しました。これをビジョンとして、約10年前にPendoを創業しました。

大久保:インサイトにより何がわかるのでしょうか?

オルソンインサイトを把握することでユーザー体験を悪くしているところや、逆に貢献できているところを発見でき、フィードバックすることでアプリの改善に繋げることができるのです。

さらにPendoのプラットフォームでは「定性情報」も取り扱えます。

例えば、ユーザーがアプリに対して持っている「感想」や「期待」など、アプリの価値を最大限に引き出すための意見を定性情報として得られるのもPendoの強みの1つです。

※1:インサイト・・・ユーザーの行動における根拠や動機に関する情報

Pendoは「ユーザー体験」の向上に貢献

大久保:ユーザーにとって、Pendoを導入するメリットは何ですか?

オルソンアプリのユーザー体験の向上に貢献できます。

例えば、Pendoをご利用いただいている会社の1つにコロナワクチンのテストを行っている会社があります。

コロナを患っているかもしれないと思ったユーザーがサイトを訪れたにもかかわらず、期待通りの結果を見つけられなかった場合は、サイトとしての役割を果たせていないことになり、ユーザー満足度が下がってしまいます。

そのため、ラブコアはPendoを使って、ユーザーが求める結果に辿り着く方法を教育する仕組みを構築しました。

大久保:日本には「ざるで水をすくう」という言葉がありますが、多くの起業家は水を急いですくうことに懸命になりがちです。しかし、ビジネスを成功させるためには、ざるの質を変える/向上させる、すなわちユーザー体験を良くすることが、1番の近道なんですね。

オルソン:はい。ユーザー体験にこだわり抜くことが大事です。

大企業が制作したアプリには、自社でアナリティクス機能をつけていますが、大前提としてユーザーがアプリをストレスなく使えていないと意味がありません。

さらに、ユーザー体験の分析を行う際に重要なことは、ちょっとした改善点を探すのではなく、核心部分の問題点を探す必要があります。

大久保:それらをPendoのアプリで解決できるということですね。

オルソン:おっしゃる通りです。

Pendoは、ユーザー1人1人にパーソナルな体験を提供するためにデータを取得します。アプリ内のユーザーの行動や特徴、感情を理解することを主目的に分析機能が用意されているのです。

値上げをするなら価格以上に高い付加価値をユーザーに提供すべき

大久保:これまで経験した印象的な失敗と、それをどうやって乗り越えたかについてのエピソードを教えていただけますか?

オルソン:たくさんの失敗をしてきましたが、1つ挙げるとすると、Pendoを創業した当時、プロダクトを作ってインターネット上に公開すれば、多くの人が試してくれると思っていました。しかし、スタートアップとしての資金が少なかったこともあり、最初はほとんど誰も使ってくれませんでした。

6ヶ月ほど試行錯誤をして、大企業をターゲットにすることにしました。すぐに導入件数が爆増したわけではありませんが、件数はほとんど同じでも5倍〜10倍の利益を生み出すことに成功しました。

大久保:その成功の裏にはどんな戦略がありましたか?

オルソンターゲットを変えたタイミングで「値上げ」をしたことが成功に繋がりました。

自社の営業社員の多くが「こんなに値上げをしたら、誰も買わない」と不満を言っていましたが、結果的にその戦略は成功でした。

大久保:日本人ビジネスパーソンの多くが「いかに値段を下げていくか」ということばかり考えてしまっていますが、勇気を持って「適切な値段」を設定することが重要なのですね。

オルソンサービスの値段は「お客様に提供している価値」と比例していなければなりません。

そのため、ただ自社の利益のために値上げをしているわけではなく、付加価値が増やしたから値上げをしているのです。

むしろ、Pendoが請求している金額以上の価値を提供していると思っています。

Pendoでプロダクトの価格を決定する時には、その価格の2〜3倍の価値を提供する約束しています。Pendoユーザーの中で、最も良いところでは、5〜10倍の効果を生み出せた事例もあります。

大久保:ユーザーにとってもお得な値上げなのですね。

オルソン:ターゲットやサービスによっては、必ずしも安ければ良いということでもありません。逆に値段が安すぎると、安いからサービス品質が悪いのではないかと思われるリスクも発生します。

ユーザーの多くは、何かにお金を投資する時には、高い方が投資対効果を得られると期待して、良い意味で構えますよね。

そのため、付加価値に見合う適正価格を提示した方が、ユーザーと良いパートナーシップを組むことができ、成功に向けてお互いに軸合わせができると思っています。

DXは短期集中で進めないと失敗する

大久保:日本のデジタル化が進んでいない理由は何だとお考えですか?

オルソンスピード感が遅いことが考えられます。

政府が5年間のDX推進計画に対して資金調達に許可を出しますが、5年も経てば世の中が変わりますよね。それだと遅すぎてDXになりません。

そのため、DXを進めるためのプロジェクトを5年ではなく、短期間にして、PDCAをもっと回す必要があります。

5年できっちり計画を固めていた場合、2年目でクラウドが出て、4年目でAIが出てくる可能性もあります。しかし、5年後には時代の流れに合わない古いものしか出来上がらないため、もっと短期間でのプロジェクトにしなければいけません。

大久保:日本のアナログな部分を変えたいという思いはありますか?

オルソン:もちろんです、そのため何度も来日しています。

日本は動きがゆっくりしているので、加速させたいと思っています。そのために、ビジョンを持った日本人を探し出したいです。

全てのテクノロジーはアーリーアダプター(※2)に売るかどうかで結果が大きく変わります。

アーリーアダプターは新しいもの好きで、イノベーションが好きで怖いものがない層です。一方、アーリーマジョリティ(※3)というのは、大衆なのでケーススタディなどに敏感になっている層です。

日本の人口構成を見ると、アーリーアダプターの割合が、アメリカと比べて圧倒的に少なく、その差も非常に大きいと思います。さらに、アーリーマジョリティへの移行も、より難しいということがわかります。

Pendoを色々なデジタルサービスに組み込むことで、アーリーアダプターがより早く使い始めるようになり、アーリーマジョリティへの移行もよりスムーズに行えるように、サポートしていきたいと考えています。

※2:アーリーアダプター・・・新しい技術や商品、サービスなどに早くから興味を持ち、それを積極的に導入・利用する人々のこと

※3:アーリーマジョリティ・・・新しい技術や商品、サービスなどを導入する際に、アーリーアダプターに次いで一般的な人々が導入・利用する人々のこと

大企業にはないベンチャー企業の強みとは?

大久保:小さい会社の強みは何だと思いますか?

オルソン「スピードが早いこと」と「リスクを取れること」です。

この2つの強みを最大限に発揮することで、小規模な企業でも大企業の既存ビジネスと戦えるのです。

世界ランキングのトップ20の会社を見ると、ここ何十年も、毎年違う会社がトップ10に上がってきます。

昔はGEという大手企業がトップにいましたが、今はもうランクインすることはありません。

逆にここ数年毎年ランクインしているAmazonやAppleは、30年前ほどはランキングに存在すらしていなかったので、小さい会社でも逆転劇を起こせるという良い事例です。

今注目されているOpenAI社も2022年の12月にローンチしたばかりですが、たったの3ヶ月で世界で最も使われているアプリケーションとなりました。

この「創造的破壊(※4)」を起こせるということが、小さい企業の最大の強みだと考えています。

※4:創造的破壊・・・経済学者ジョセフ・シュンペーターが提唱した概念で、新しいイノベーションや技術の導入によって既存の産業や市場が変革される現象のこと

AIは人間の仕事を奪うだけでなく、新しい仕事を生み出している

大久保:オルソンさんが今、個人的に興味を持っているのはどのような分野、技術ですか?

オルソン:Pendoはアナリティクスの企業ですので、同じアナリティクス分野や生成系AIにはアンテナを張っています。

世の中にあるビッグデータを活用するためには、分析をしなければいけませんが、その分析作業を手動ではなく自動化することによって、情報の重要性を見極められます。

大久保:色々な作業がAIに置き換えられるようになると、人間はどこを伸ばすべきだと思いますか?

オルソン:AIを事業に活用することで、75%ほどは自動化できると思いますが、100点満点ではありません。つまり、残りの25%は人間がやらなければいけません。

また、AIの登場により、なくなる仕事もありますが、一方で新しい仕事も生まれます。

どのような分野においても、AIを活用するためには、色々な情報をAIに学習させなければいけません。つまり、AIに学習させるという「新しい仕事」が生まれるかもしれません。

AIの苦手分野は人間の仕事として残り続ける

大久保:具体的には、どのような作業は人間が行い続けることになりますか?

オルソン:ある実験で、ChatGPTが様々な試験を受けた時の話があります。

その中で最低のスコアを記録したのが「英語」でした。

ChatGPTの得意分野は「文章生成」です。英語も「文章」の問題ですので、本来は、数あるテストの中でも、ChatGPTが一番得意でなければいけない分野です。

しかし実際には、英語には「解釈」を必要とすることが多く、ChatGPTが回答するには難しかったということがわかりました。

このようなAIが苦手とする分野においては、人間がチェックしなければいけないため、そのような新しい仕事が生まれる可能性があります。

もう一つ別の事例を挙げると、弁護士がある裁判で、AIが100%作ったレポートを提出した時の話があります。

その中には3つの前例が書かれていましたが、それは捏造された嘘のものでした。

幸いなことに、裁判官は捏造しているということに気がつきました。

このように、AIが生成した情報の正確さをチェックする仕事は、人間にしかできない仕事として残ると考えています。

起業家にはポジティブシンキングが必要不可欠

大久保:起業家が身につけた方が良い能力は何だとお考えですか?

オルソン決意と覚悟、そして粘り強さです。

さらにもう一つ挙げるとすれば、将来の見通しをボジティブに考えることです。

私は楽観的でポジティブな人間ですが、アントレプレナー(※5)においては必須要件だと思います。

起業家は大変な時期を乗り越えなければいけません。どのような状況になっても、会社をポジティブに運営する力は必要不可欠です。

大久保:日本の起業家へのメッセージをお願いします。

オルソン:社会の現状は何もしなければ変わりません。それをどんどん打破して、チャレンジを続けてほしいです。

そのため、Pendoでは日本を変えようと思っている人のお力になれると考えています。

アメリカで、オーガニックの考え方が流行っていた時に、食の領域にも、オーガニックフードが非常に早いスピード感で広まっていきましたが、オーガニックコットンで洋服は、うまく広がっていきませんでした。

しかし、大手企業であるウォルマートがオーガニックコットンの洋服を売り出したことで、全てが変わりました。やはり、大企業には一瞬で世の中を変えることができる力をもっていることがわかります。

そのため、何かを広げるために苦労していることがあれば、大企業と手を組むことも一つの手だと思っています。

※5:アントレプレナー・・・新しいビジネスや企業を創業し、経営する個人またはグループのこと

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(取材協力: Pendo 創業者兼最高経営責任者(CEO) トッド・オルソン(Todd Olson)
(編集: 創業手帳編集部)



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