事業用口座を作らないとどうなる?混在した場合の正しい帳簿づけを解説
混在口座でも混乱しないための安全な資金管理

多くの個人事業主が悩む問題が会計処理です。特に事業用口座を分けずに私用口座と混在してしまった場合の帳簿づけは手間がかかります。
事業とプライベートの支出が入り混じると、経費漏れや売上計上漏れ、税務調査での指摘につながる恐れがあります。
しかし、正しい処理ルールを理解しておけば、事業用口座を作っていなくても申告は可能です。
本記事では、口座が混在した場合の仕訳方法、注意点、税務調査で見られるポイントまで具体例つきで解説します。
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
事業用口座を作らなかった場合の“何が問題か?”

「そもそもどうして事業用口座は必要なの?」と疑問に感じる人もいるかもしれません。ここでは、事業用口座を作らないことで発生する問題を具体的にまとめていきます。
①経費漏れ・売上漏れが起きやすくなる
事業用の資金と個人の資金が混在した口座では、取引履歴の中から事業取引きを探して会計処理しなければいけません。
電子マネーやクレジットカードといったプライベートの取引きの中から、事業に関わるものだけを探すことになるので手間がかかります。
また、ミスが起きやすく、帳簿の正確性も低下します。
売上入金がほかの私用入金に混ざってしまえば、キャッシュフローの流れを掴むのも困難です。取引きの会計処理が不正確になれば、所得税法に基づく正確な申告もできません。
②税務調査で“私用支出の経費の紛れ込み”を疑われやすい
私用支出の割合が大きい口座は税務調査でも公私混同が疑われやすくなります。
事業用資金を私的に使っていないか、経費性の妥当性を重点的に確認されることも想定して準備が必要です。
支出の整理が不十分になっていれば領収書の裏付けも弱くなります。その結果、必要経費として認められないかもしれません。
③青色申告の帳簿づけが複雑化する
税制優遇を使うために青色申告を選択している人は多くいます。
しかし、事業用の口座を分けていないと、振替の処理が多くなり、青色申告で求められる正規の簿記に基づく記帳が煩雑になってしまいます。
私用支出を処理するためには、「事業主借・事業主貸」の勘定科目を使用した仕訳が必要です。
しかし、私用の取引きがあるたびに会計処理していればそれだけ処理が増大します。処理が増えれば、ミスが起きやすく科目残高の管理が難しくなってしまいます。
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
【基本】口座が混在していても確定申告は可能

事業で忙しくて、事業用の口座を作る時間が捻出できない人もいるかもしれません。実際には、口座が混在していても確定申告はできます。
ここでは、事業用口座がない場合の確定申告についてまとめています。
事業用口座は“必須”ではない
個人事業主が私用口座と事業口座を分けていなくても、法的な問題があるわけではありません。
税法上でも個人事業主に事業専用口座の開設義務はなく、国税庁の申告手続でも口座区分の指定は求められていないのです。
ただし、実際にビジネスをする実務上は口座を分けることで記帳作業が簡素化され、取引きの証拠能力が高まるため、税務調査も進めやすくなります。
加えて、青色申告特別控除の要件を満たすためには複式簿記での会計処理が必要です。そのため、預金や出納帳を管理するためには、専用口座があったほうが運用が容易です。
混在の場合の帳簿づけの大原則
私用と事業用の取引きが混在した口座では、事業関連取引きのみを抽出して記帳します。
同じ支出であっても、事業用で必要経費要件を満たす支出だけを仕訳に反映しなければいけません。
口座で私用支出があった場合には、「事業主貸」として処理、事業に私的な資金を投入する時には「事業主借」として処理してください。
それぞれを区別して記録することで、個人と事業のお金が混ざらず、税務上の混乱を防げます。
私用の取引きが混在している場合には、私用の取引きを会計ソフトに登録しないようにすると私用取引きの入力を避けられます。
会計ソフトによっては、取引明細を自動連携して入力する機能がありますが、混在した口座の場合には、手入力が必要です。
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
混在口座の“よくあるパターン別”の仕訳方法

私用と事業用の取引きが混在している口座では、それぞれのやり取りを区分するための仕訳が使われています。どういった仕訳になるのか、パターン別でまとめました。
①事業の売上が私用口座へ入金された場合
事業取引きをはじめるためには、支払いを受けるための口座が必要になります。
売上が私用口座へ入金された場合は、事業主貸を使うことで「事業資金が個人へ移動した」扱いとし、税法上の処理を完了できます。
販売をはじめるためにカート機能があるメルカリやBASEなどを利用する人も多いでしょう。
しかし、個人口座に紐づくサービスでは入金口座を分けられないため、仕訳で公私を明確に区分しなければいけません。
売上入金の記録を残すことは所得税法の帳簿義務に該当し、通帳明細や取引履歴を保存して証拠資料とすることが求められます。
正しく処理するとともに、履歴も併せて保管しておくようにしてください。
【仕訳例】
メルカリやBASE等から売上を入金
| 借方 | 貸方 | ||
| 事業主貸 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
実際にカート機能があるサービスを利用している場合には、手数料が引かれた額が振り込まれます。ここでは、わかりやすくするために金額をそのまま表記しました。
②事業経費を私用口座や個人カードで支払った場合
事業経費を個人用の口座で支払った場合には経費科目を計上して、同時に事業主借を使って「個人による立替え」として処理します。
経費科目を入れずに全額を事業主借としてしまうと経費が計上されずに、必要経費の計上漏れとなってしまいます。
所得税法上の経費算入要件を満たさなくなるので仕訳をする時に注意してください。
領収書や決済履歴を保存しておけば、経費の実在性と事業関連性が証明できます。税務調査でも適正処理であることを示すためにも重要な証憑です。
【仕訳例】
プライベートの口座から消耗品費を支払う
| 借方 | 貸方 | ||
| 消耗品費 | 1,000 | 事業主借 | 1,000 |
ここでは、混在した口座を会計ソフトに登録せずに仕訳した場合を想定しています。
登録せずに手入力すれば、クレジットカードの決済時点の仕訳がなくよりシンプルに処理できます。
③私用支出が事業用と混在した場合
私用支出は必ず事業主貸で処理して、事業とは関係のない支出であることを帳簿上明確にしなければいけません。
しかし、Amazonや家族カードでの取引きのように複数用途が混在しやすいケースもあります。
そういった場合には、摘要欄に私用である旨を明記し、按分根拠も残しておくようにしてください。按分とは、支出を私用と事業用に分けて会計処理する方法です。
按分処理が必要な支出は証拠資料と計算根拠を残しておくようにすれば、税務調査で用途区分が妥当であると説明できます。
【仕訳例】
Amazonのプライム会員費の50%を事業用と私用で按分した
| 借方 | 貸方 | ||
| 支払手数料(諸会費) | 2,950 | 普通預金 | 5,900 |
| 事業主貸 | 2,950 | ||
按分処理が必要なケースとしては、家賃の支払いや水道光熱費、ガソリン代等があります。
いずれの場合もどのような根拠で家事按分したのかを示せるようにしておいてください。
④電子マネー(PayPay・Suica)で事業支出を払った場合
デジタル化が進み、PayPay・Suicaといった電子マネーでの支払いも増えてきました。
電子マネー利用時は履歴保存が重要で、決済アプリや交通系ICの利用明細をエビデンスとして保管する必要があります。
個人資金から電子マネーをチャージ後に、事業に利用した場合には、チャージ時に事業主借を計上して、利用時に科目へ振り替える処理を行います。
【仕訳例】
5,000円を個人資金からチャージして、その後消耗品を500円分買ったケース
| 借方 | 貸方 | ||
| 仮払金(または貯蔵品) | 5,000 | 事業主借 | 5,000 |
| 消耗品費 | 500 | 仮払金(または貯蔵品) | 500 |
上記の仕訳はプリペイド方式の場合です。ポストぺイ方式で支払った場合には、未払金で処理してから、口座引き落とし時に未払金を消し込む処理が必要です。
⑤事業用資金から生活費を引き出した場合
必要経費とは事業のために行われた支払いで、生活費の引き出しは必要経費に該当しません。
そのため、生活費を引き出した時には、所得税法上「事業主貸」を使って資金移動として処理を行います。
これを給与や雑費で処理すると経費の水増しとなり、税務調査で否認されてしまいます。必ず「事業主貸」での処理を行ってください。
「事業主貸」を使うことで個人利用分が明確化し、帳簿と実態の整合性が保たれます。
【仕訳例】
事業用資金から生活費を引き出したケース
| 借方 | 貸方 | ||
| 事業主貸 | 50,000 | 普通預金 | 50,000 |
⑥個人のローンや借入金の返済が混在口座から引き落とされた場合
住宅ローンや奨学金など個人的返済は必要経費に該当しません。
返済だからと借入金や利息の科目を使うと事業経費に誤計上したとみなされるため、摘要欄で個人支出であることを明確に示すことが重要です。
【仕訳例】
住宅ローン返済分が引き落とされたケース
| 借方 | 貸方 | ||
| 事業主貸 | 80,000 | 普通預金 | 80,000 |
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
混在状態を“見える化”する実務的な手順

私用口座と事業用口座が混在していると、ビジネスの入出金がわかりにくくなってしまいます。ここでは混在状態を“見える化”するためにどうすればいいのかをまとめました。
①1年分の金融機関の明細をダウンロードする
口座における混在状況を見える化するためには、取引きなどまず必要な情報を集めます。
金融機関の明細を1年分ダウンロードして一覧化することで、事業取引きの抽出作業が容易になります。
この明細は帳簿作成の基礎資料にもなり、電子データを保存しておけば国税庁が認める電子帳簿保存制度にも対応可能です。
②事業関連の入出金を蛍光ペンで塗る
明細をダウンロードしたら、事業に関わる入出金を蛍光ペンで色分けします。
事業関連の取引きを視覚的に分類することで、会計ソフトに入力すべき対象が明確になり、記帳作業が効率化できます。
視覚的分類は取引数が多い場合の整理にも有効で、税務調査時にも取引根拠を素早く提示できる資料として活用可能です。
会計ソフトに登録せず、事業用取引きだけを抜き出すようにしておけば、通帳残高と帳簿を一致させる必要がありません。
事業主貸・事業主借で調整するだけで記帳が成立します。
③経費/売上/私用に3分類してスプレッドシート化する
取引きは、経費と売上、私用の3つに大きく分類してください。
取引きを3分類して表形式で整理すると、勘定科目の割り付けが容易になり、青色申告の帳簿整備要件も満たせます。
分類表は漏れや重複を防ぎ、決算前の経費確認や売上確認が正確に行うためにも重要です。
スプレッドシートにしておくと履歴管理が容易で、按分処理や計算根拠を残す時に役立ちます。
④広告費・交通費・消耗品費など“よくある科目”に落とし込む
分類した取引きは、国税庁が例示する勘定科目へ落とし込みます。
科目ごとにテンプレート化しておくと翌年以降の記帳作業が効率化され、青色申告の要件を継続的に満たしやすくなります。
勘定科目を統一することで仕訳の誤りが減り、税務調査でも取引きの整合性が取りやすくなるのです。
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
税務署・税務調査で見られるポイント

正確に会計処理をしていないと、税務調査で指摘を受ける可能性があります。どういったポイントをチェックされるのかまとめました。
①私用支出の割合が大きい口座は疑われやすい
私用支出が多い口座は公私の取引きが混在している可能性が高いとみなされます。そのため、税務調査で必要経費の妥当性を重点的に確認される可能性は高くなります。
家事按分も確認が重点化されやすいポイントです。家事按分する支出はその根拠となる資料が必須で、曖昧な処理は経費ではないと否認されることがあります。
②Amazon・楽天・サブスクは“用途が曖昧”になりやすい
Amazonや楽天といったオフィス用品から生活用品まで扱っているECは、複数用途が混在しがちです。
事業との関連性の説明が求められやすいので、摘要欄への用途記載や領収書保存が重要です。
家事按分を行う場合は計算根拠を残し、国税庁の必要経費判断基準に基づいて事業関連部分のみを計上してください。
自動車であれば事業での走行距離、家賃であれば使用面積などが基準として使われます。
サブスクのように定期引き落としされる支出も用途が曖昧になりやすく部分です。私用分を経費化しないように、厳密な区分しているとがわかるようにしてください。
③証拠能力が低い「現金」の取り扱いに注意
現金引き出しが多い口座は売上除外や架空経費の疑いを招きやすく、調査官が詳細な確認を行う重要項目になります。
現金取引きは通帳による裏付けがありません。そのため、領収書やメモ書きの保存が必須で、証拠能力を確保しなければ帳簿の信頼性が低下してしまいます。
用途不明の現金が多い場合、帳簿全体の正確性に疑いが生じて、ほかの経費項目についても厳格な調査対象とってしまうので注意してください。
【完全無料】令和7年分の確定申告がわかる!「確定申告ガイド」
まとめ:事業用口座がなくても申告はできるが“整理力”が問われる
支出が事業のために行われたことを客観的な証拠をもって証明できるものしか経費計上できません。
最終的な経費性は取引きの実態で判断されるため、証拠書類を残して公私を明確に区別することが重要です。
事業主貸・事業主借を使って正しく会計処理することで帳簿の整合性を保ち、青色申告特別控除の要件を満たすために求められます。
事業用口座と区分していないと手入力も多いため、記帳作業を簡素化するには事業用口座の開設も検討してください。
口座を分けることで帳簿の信頼性が向上し、間違ってしまうリスクも低減できます。
(編集:創業手帳編集部)







