モノオク 阿部 祐一|空きスペースをシェアして活用できる「モノオク」を設立したきっかけやビジョンとは?
「明日食べるご飯がない」の状態からモノオクを成長させた阿部氏が語る事業設立のきっかけと現在までの道のり
起業家や経営者と聞くと、「自分もなりたい」と考える方も多いのではないでしょうか。しかし、現実はなかなか上手くいかないのも事実です。そのため起業して成功したいという方は、明日食べるためのご飯がない…という状態になることも覚悟しておく必要があります。
実は、部屋の空きスペースを利用して荷物を預けることができるサービス『モノオク』を提供するモノオク株式会社のCEO阿部祐一さんは、実際に「明日食べるためのご飯がない」という状態を経験されました。
物のシェアが近年注目を集めている中、早い段階で『空きスペースのシェア』に注目した阿部さんがモノオクを設立したきっかけや大変だったことについて、創業手帳の大久保が聞きました。
1991年京都府生まれ。中学生から起業を夢見る。2014年に関西大学卒業後、Crewwにアルバイトとして入社。民泊や不動産等のシェアリングサービス立ち上げを経験し、2015年にlibtown株式会社を創業(現:モノオク株式会社)。民泊事業を開始後、2018年には物置きシェアサービス「モノオク」を開発、社名をモノオク株式会社に変更。サービス開始から3年弱で利用者20,000人を突破、登録スペースは5,000ヶ所超。「空きスペース」を活用するシェアリングサービスとして注目を集めている実業家。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
モノオク(空きスペースを貸し出すサービス)のきっかけは民泊
大久保:本日は、スペースをシェアするサービス「モノオク」を提供するモノオク株式会社の阿部氏にお越しいただきました。よろしくお願いいたします。
阿部:よろしくお願いいたします。
大久保:まずは、モノオクのサービス内容などを改めてお伺いしてもよろしいでしょうか。
阿部:はい。モノオクは空いているスペースをトランクルームとして貸し出すことができるサービスです。ざっくり、分かりやすくすると「民泊のトランクルーム版」という感じです。
大久保:空いている場所を貸し出すという感じですね。
阿部:そうですね。例えば子供が独立して子供部屋が空いたとき、または子供が生まれるけどまだ子供部屋は使わないという場合に、モノオクを利用することで空きスペースを活用できます。
大久保:なるほど。同じ業態ではありませんが、AirBNBやスペースマーケットに近いですね。
阿部:ほぼ同じですね。活用方法が違うだけです。
大久保:なぜこのようなサービスを考えたのでしょうか。
阿部:もともとAirBNBが入ってきたときから民泊をやっていたのですが、そのときに知り合いの方から「家電を置かしてくれないか?」と相談があったからです。
民泊で自宅の部屋を貸し出していたのですが、シェアスペースだから置かしてくれと言われたんです。
大久保:そうだったんですね。
阿部:はい。そこでニーズを調べてみるとどこも空いてないし、値段も高いことが分かりました。これならシェアリングエコノミーの仕組みで解決できそうだと考えたことがモノオクのきっかけです。
コロナ禍の民泊について
大久保:ちなみに民泊は、コロナの規制などで辞めている状態でしょうか。
阿部:そうですね。モノオクを始めるにあたって民泊は辞めました。
大久保:なるほど。最近のAirBNBや民泊はどうなんですかね。
阿部:民泊自体はかなりしんどい状態が続いています。ただ、AirBNBは過去最高の売上を記録していたり凄く伸びています。
大久保:そうなんですね。AirBNBは別の需要にあててきたということでしょうか。
阿部:旅行の需要が国外から国内になったことで、凄く伸びているようです。
最初の事業が失敗して「明日食っていくご飯もない」を経験
大久保:モノオクは今、何年目になるのでしょうか。
阿部:今は7期目です。2015年から「libtown(リブタウン)」という名前で会社をやっていて、2018年にモノオクを始めてモノオク株式会社になりました。
大久保:けっこう長いですね。ちなみに、職歴やキャリアはどんな感じでしょうか。
阿部:関西大学を卒業後、スタートアップ企業や個人事業主をサポートするCreww株式会社(クルー)にアルバイトとして入社しました。
Crewwにいたのは1年足らずですが、オフィスに色々なスタートアップや大手企業の方が来ていたので、名刺交換をする際に「将来的に私も起業したいです」とよく交流させていただいていました。
大久保:起業直後で、お金とか何か大変だったことはありますか?
阿部:お金ももちろん大変でしたね。
大久保:いきなり売上がめちゃくちゃ上がるわけではないですよね。
阿部:というより、もう最初(モノオクの前)の事業がこけてしまっているので大変でした。
大久保:そうだったんですね。最初の事業は、どんな内容だったのでしょうか。
阿部:最初の事業は宅建事業者の方をクラウドソーシングするというサービスを考えて、出資を受けてサービスを大きくすると思っていました。
でも出資を受けることができず、明日食っていくご飯もない…という状態から始まりました。
大久保:これはつまり、方向転換というか全然違うことを始めたということですよね。
阿部:そうです。だから個人事業主と変わらないような感じでした。
そんな何もない中でも唯一自宅のスペースがあったので、とりあえず民泊として貸し出したら上手くいきました。
だから、思いもかけないことが役立ったという感じですね。
ITと不動産分野の知見を生かし中間で勝負
大久保:2018年からモノオクを始めたということですが、意外にありそうで無かったサービスですね。
阿部:そうですね、全然なかったです。
実際に始めてみて何故このサービスが無かったのかというと、トランクルームの事業は不動産分野です。でもシェアリングエコノミーはITの領域で、不動産事業の人たちはITに疎いんです。
大久保:なるほど。
阿部:逆にIT側の人たちは不動産事業に疎いので、不動産とITの中間地点に参入することで、上手く始めることができたのかなと思います。
大久保:中間地点でどっちも手を出したということですね。
モノオクの立ち上げと大変だったこと
大久保:モノオクを始めて、立ち上がりはスムーズにできたのでしょうか。
阿部:いや〜ヘビーでしたよ(笑)
というのもまず構想を考えて、事業自体がスケールするってことは自身がホストとして実際にスペースを貸し出していたので分かっていました。
でも、そもそも人の荷物を預かるためにスペースを提供する人が存在するのか?というところから始まりました。
そして、スペースを集めた次は「他人の家に荷物を預ける人なんて存在しないよ」と散々言われていました。そこは実際に荷物を置きたいという人を見つけて、ようやくサービスとして回り始めたのがちょうど今です。
大久保:たしかに「(荷物を置きたいという)ニーズが存在しません」と言われても、自分自身が実際に体験しているので「存在します」としか言えませんね笑
阿部:そうなんです。民泊も最初はそう言われていたので、絶対上手くいくと思っていました。
実際にサービスを運営する上で大変だったこと
大久保:サービスを運営する中で、例えばサイトを作ってSEO対策をしたり、投資(出資)してくれる先を探す事があると思いますが、オペレーションで大変だったことはありますか?
阿部:結構、オペレーションの部分でも大変でした。
もちろん、出資関係で証明などが難しいなどがありましたが、いざやってみて大変だったのは配送です。
倉庫であれば入り口が広いので良いですけど、モノオクは基本的に家の中の空きスペースを利用します。だから、ドアがどれくらい広くないとドラム式洗濯機が入らない・・・という場合もあるのでそのフォローや、人気がない2階の物件のフォローなど、保管上のオペレーションをやったことが無かったので大変でした。
大久保:サポート的なことが結構あるんですね。
eコマースではないですが、物のデリバリーが入ってくる部分がありますね。
阿部:そうですね。物流が絡んでくるのが大変でした。
基本的には細かいところをチューニングしていって、配送の提携先を探したり少しずつやっていきました。
問題を一つずつ潰せば結果は出てくる
大久保:起業家の方に伝えたいこととかありますか。
阿部:だいたい上手くいかないんですけど、やる気があれば上手くいくようになるので大丈夫です。
大久保:そうですね。課題が出てきますよね。
阿部:はい。ひとつずつ課題を潰していったら結果は出ると思います。
モノオクのターゲットと優位性
大久保:モノオクのサービスは、どんなユーザーをターゲットにしていますか?
例えば、特定のユーザーが凄く良い顧客になって、そこに集約していくのか、それとも全体で汎用的にやっていくのかどうなのでしょうか。
阿部:スペースの提供者側だと、大体20代後半〜30代、40代くらいです。ファミリー層でサービスへの理解があり、かつ子供部屋が空いていたり、経済的にも増やしたいという方が多いので、そのような方が中心になっています。
預けたい側の方は、短期間と長期間の利用の方で大きくセグメントが違います。
短期間の方は、例えば引っ越しのタイミングが合わないという場合に利用しています。長期間の方は、生活空間の延長で利用しています。例えば、子供は2人の予定だけどまだ1人で、部屋が狭くなってきたと感じているが引っ越しはまだしたくないという方です。
大久保:寺田倉庫のMinikura(ミニクラ)などもありますが、シェアされているという部分が優位性になっているのでしょうか?
阿部:そうですね。基本的に余っているスペースを活用しているので、値段が安いというのが分かりやすい優位性です。
大久保:たしかにトランクルームよりも安いですね。
阿部:その他にも、例えばトランクルームは基本的に大通りにしか建てられないという問題があります。これだと預けに行くとしても遠くなってしまいます。
モノオクであればサービスの性質上、住宅街になるので、預ける場所が近いのが強みです。
モノオクは物の保管を通して人々の生活を柔軟にする
大久保:モノオクの目指すところは何でしょうか。
阿部:そうですね。モノオクのミッションとしては「最も使いやすく、誰でも手軽に使える物置きを作る」というミッションを掲げています。
僕は最終的にモノの行き着く先は、売るか捨てるか、預けるかだと思っているんです。でもモノを売るのも、捨てるのも選別したり、手間が掛かって大変な作業ですよね。そういった時に、預ける先があると手間が凄く省けます。モノの避難先があることで、ライフスタイルの変化に合わせることができるメリットがあります。
例えば子供が生まれたときに、無理して郊外に引っ越す必要がなくなります。さらに、モノオクのホストをする場合も、無駄になっている空きスペースで収入が増やせます。そういった物の保管を通して、人々の生活をより柔軟にしていければと思っています。
スペースの価値を最大化させる
大久保:今後はどういう展開をしていきたいと考えているのでしょうか。
阿部:スペースの価値を最大化させたいと考えています。不動産の単位って基本的に部屋単位ではなく、1物件単位じゃないですか。
でもモノオクは1部屋単位で価値を最大化できるサービスなので、今後はそこを配送拠点にしたり、1部屋単位での不動産取引ができるようになればと思っています。
大久保:なるほど。ユーザー数が増えて、ホスト(スペースの提供者)の稼働率が上がると売上もさらに増やせると思いますが、具体的にはどのような目標があるのでしょうか。
阿部:実は毎年人の移動が多くなる2月〜3月が繁忙期になるので、その2月、3月が最もユーザー数が伸びます。そこで、2022年の繁忙期ではスペース(ホスト)の登録者数を1万件近く伸ばしたいです。
そして2023年の繁忙期には、上場水準に持っていきたいなと考えています。
大久保:本日は事業失敗から民泊を始めて、モノオク立ち上げに至った経緯やいくつもの壁を乗り越えてきた阿部さんのお話を伺えて、勇気をもらえました。阿部さん、本当にありがとうございました。
(取材協力:
モノオク株式会社 CEO 阿部 祐一)
(編集: 創業手帳編集部)