人気漫画家 三田 紀房|【第一回】勝ち続ける漫画家と起業家の共通点
漫画家・三田紀房氏 特別インタビュー(1/2)
競争が激しい漫画の世界で数々のヒット作を生み出し続ける三田紀房氏。ドラマ化され、社会現象ともなった『ドラゴン桜』は未だ記憶に新しい。しかし、もともと氏は漫画家志望ではなく、現場で働くビジネスマンだった。
異例の経歴を持つ漫画家三田紀房氏の仕事に対する姿勢や態度、あるいは美学から、同じく競争が激しいスタートアップ企業が生き残るための戦略を全二回にわたって探る。
他店に置いてない商品を提案する
三田:そうですね。自分が生きてきた環境を作品に生かしていく、という感じです。自分の経験や体験は強く持ち出せるひとつの特徴にもなるし、自分の持っている個性がそこにあればどんどん生かしています。いわゆる「経験の商品化」ですね。
一番顕著なのが『ドラゴン桜』です。この作品によって、漫画で知識や情報を得たいという読者のニーズがはっきりと分かりました。情報を獲得するのに、漫画は非常に便利な道具になると自覚したのです。それを作品に生かしていますね。読者のニーズがそこにあるので、こちらもそのニーズに合わせて商品を提供するという感じです。
三田:漫画はまず雑誌に載ることが前提です。雑誌に載らない限り、作品として価値がないわけです。雑誌に載るということが絶対条件になるので、すでにあるものを提出しても編集部は「良い」とは言いません。分かりやすく言えば「ショッピングセンター」みたいなものですね。競合するお店と同じものを置いてもしょうがない。
入っていないお店、やってない業種を提案することが、雑誌に載るための近道になります。早く雑誌に載ることを目指すのなら、自分の書きたいものでチャンスを待つよりも、置いてない商品を提案することが大事だと思います。
漫画の世界にある「ジャパンドリーム」
三田:それはちょっと誤解がありますね。漫画は、おそらく全世界中のいろいろな表現媒体のなかで、もっとも間口が広いです。ものすごいチャンスがありますよ。
三田:参入しやすい。新人に対してものすごくチャンスがあります。昨日まで素人だった人が、新人賞をとってすぐ雑誌に載るということが可能な業界です。載せてチャンスを与える。読者の反応を見るんですね。反応が返ってきたものに対しては「これはいける」と判断する。つまり、「連載させて・育てて・売っていく」という作業が明確にあるんです。
昨日まで素人だった人が、とつじょ漫画家になれるチャンスがある。もちろん、チャンスを掴めるかどうかはその人次第ですが、間口はものすごく広い。デビューしてステップアップしていくのは大変だと思われるかもしれないけど、一夜にして大金持ちになる人もいますよ。「ジャパンドリーム」のようなものですね。漫画はそういう世界です。間口は広いし敷居は低い。ただ、そこからの競争が激しいのです。
三田:そうですね。しかも、評価がはっきりしていて、とにかく面白ければいいのです。面白ければ人気投票にもあらわれますし、単行本も売れる。数字が裏付けとなるんです。数字以外の別の要素が全く入らない世界ですね。誰かの推薦だからとか、誰かが良いと言っているからとかは全く通用しない。すべて読者が決める。だからこそ、やってて気持ちが良い世界なんです。
どこかで誰かと出会って、ふれあって、そこから生まれてくるもの
三田:本当に小さなきっかけですね。そもそもアイデアを考えるということはあまりしません。漫画でいうところのアイデアというのは「キャラクター」と「ストーリー」ですが、新しい作品を作るときに、そういったものを考えるということをまずしない。つまり、普段からそんなに漫画のアイデアを考えるという習慣がないんです。
インベスターZの場合はたまたまなんですよ。たまたま縁あって私立の学校に取材に行き、その学校の関係者と話をする中で私立学校の経営が非常に苦しいと知ったのです。「あ、そんなに経営が厳しいんだ」という発見があって。じゃあその経営をどうやって安定させるか。
学校の経営が苦しいということは、収入が少ないということです。生徒からの授業料は、経営を安定させるための資源にはなりません。ではどうやって経営しているか。「私学助成金」というものがあって、それでどうにかやりくりしているのが現状なんです。そこで、どうにか学校の経営を安定させ、なおかつ生徒の授業料をもらわない学校はできないかな、と。
必然の積み重ね
無料の学校をどうやってつくるかと考えたときに、創始者が資金を出して運用する、その利回りで経営する、そういう学校ができたら面白いのではないかと思ったのです。なおかつその運用は先生、つまり大人がやるのではなく、子どもたちがやる。子どもがやるのなら部活だと。「投資部」ですね。そこに中学生が入ってくるという、大体の商品設計ができちゃうわけです。
だから、「投資の漫画を作ろう」ということで投資をテーマにしたのではなく、スタートは投資と別世界の環境とキャラクターです。そういったものを使ったほうが、投資というものを描くときに珍しい漫画になる。投資の漫画を描こうと思ったのではなく、たまたま学校で取材したことがきっかけだったんですね。普段からそういうことを考えても着想は生まれてこない。着想というのは、どこかで誰かと出会って、ふれあって、そこから生まれてくるものだと僕は解釈しています。
三田:そうですね。「なるようになる」という感じでしょうか。出てくるときは出てくる。そういう機会を多くして、なるべくうまく捉えるということを重視しています。
【第二回】人気漫画家・三田紀房氏に聞く 勝ち続ける漫画家と起業家の共通点
(創業手帳編集部)