どう資金を調達する!?スタートアップの超有名弁護士・淵邊善彦氏が教える出資・M&A入門「出資編」

創業手帳
※このインタビュー内容は2019年12月に行われた取材時点のものです。

創業手帳の大久保が、出資の基本的な流れと注意すべき点について聞きました

(2019/12/04更新)

スタートアップでは成長を目指すために資金が必要となります。最近では、日本政策金融公庫や信用保証協会などの公的融資のほかに、様々な資金調達手段が増えてきていますが、自己資本を増やす意味では出資は強力な手法となりつつあります。

ただ、出資を受けるにあたっては複雑な法務上のやり取りが欠かせません。今回は「起業ナビゲーター」(リスクモンスター創業者の菅野 健一氏と共著)、「企業買収の裏側―M&A入門」、「東大ロースクール 実戦から学ぶ企業法務」など多数の著書があり、スタートアップ業界で有名なベンチャーラボ法律事務所・淵邊善彦弁護士に、初心者向け出資の流れや受け方を聞きました。

淵邊善彦(ふちべ よしひこ)/ベンチャーラボ法律事務所 代表
1987年東京大学法学部卒業。89年弁護士登録、西村眞田法律事務所(現西村あさひ)勤務。95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。 08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より現在まで同客員教授)。16年より東京大学大学院法学政治学研究科教授(18年まで)。19年ベンチャーラボ法律事務所開設。主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、一般企業法務を取り扱う。ヘルスケアIoTコンソーシアム理事、日弁連中小企業の海外展開業務の法的支援に関するWG副座長、日本CFO協会顧問、アジア経営者連合会会員。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『東大ロースクール実戦から学ぶ企業法務』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別提携契約の実務(第3版)』(共著)、『起業ナビゲーター』(共著)、『AI・IoT時代の企業法務』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)、『ロイヤルティの実務詳解』(共著)、『企業買収の裏側~M&A入門~』、『クロスボーダーM&Aの実際と対処法』などがある。

インタビュアー 大久保幸世/創業手帳株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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出資を受けるタイミングと流れ、利点とは

大久保:スタートアップによる大型資金調達が最近増えてきていますよね。どういうシチュエーションで出資を受けるようになることが多いのですか?

淵邊:業種によっても異なりますが、例えばインターネット関連の事業の場合、サービスをリリースし、ユーザーを拡大していく段階で自己資金が足りなくなり、エンジェル投資家によるシードラウンド(起業前の準備段階、500万円前後の規模が多い)やベンチャーキャピタル等によるシリーズA(1000万円~3000万円規模)の投資が行われます。

特にアーリーステージ(起業後、発展成長途上の企業)では、資金不足になることが多く、わらをもすがる気持ちになるものですが、不利な条件で出資を受けると後々経営の足かせになって苦労することになります。

大久保:スタートアップの立場にたって出資の流れをおおまかに教えて下さい。

淵邊:男女の出会いと同じように、人の紹介であったり、お見合いパーティ(ピッチ大会)であったり、いろいろなアプローチの方法があります。お互いの相性が合えば、投資の手段として、株式、新株予約権等のエクィティ(出資)によるか、社債やローン等のデット(借入)によるかを受ける側が検討します。特にエクィティの場合は、経営への関与や優先配当などについて詳細に契約で決めることになります。離婚が難しいのと同じで、出資の終了時の条件も重要になります。条件が決まれば、合意した期日に金銭の支払いが行われ資金調達が完了します。

大久保:融資、クラウドファンディング、出資と比べた時に出資の利点は何でしょう?

淵邊:融資は弁済期日が来たら返さないといけないし、利息も定期的に払うことになります。貸借対照表の負債の額も膨らみます。また、クラウドファンディングは広く出資を募れるメリットがありますが、株式型の場合は株主数が多くなり事務負担が大変になり、融資型はテーマが限られているなどのデメリットがあります。その点、出資の場合は少数の株主との間で弁済期日を気にすることなく中長期的な関係を築けるメリットがあります。

それぞれの出資先について

大久保:エンジェル出資とはなんですか?

淵邊:創業間もない時期に資金提供をしてくれる個人投資家による出資のことです。VCは外部の投資家から資金を調達して投資しますが、エンジェルは自己資金で出資をします。昔からの富裕層やバイアウトによって資金を得た起業家がエンジェル出資を主に行っています。投資家個人の個性によって投資方法も異なるので、自社にとって本当に「エンジェル」になるか見極める必要があります。

大久保:VCからの出資とはなんですか?

淵邊:VCは、ある程度成長軌道に乗った未上場のスタートアップ企業に出資をします。起業家の能力や事業の将来性の見立てを行い、一定の審査を行って企業価値を算定し、投資価格を決定します。投資した後は、経営支援や助言を行い(ハンズオン)、5~10年程度でIPOかバイアウトさせることによってキャピタルゲインを得て投資を回収することになります。VCにより支援や助言の程度が異なるため、投資を受ける際はよくVCの特徴を見極めることも必要です。

大久保:CVC出資とはなんですか?

淵邊:事業会社がファンドを形成してベンチャー企業に投資することをCVC(Corporate Venture Capital)出資といいます。VCと違ってキャピタルゲインではなく、事業会社の本業の成長や拡大が主な目的です。そのため、自己資金によって協業できそうな会社に出資するのが一般的です。伊藤忠、サイバーエージェント、NTTドコモ、ヤフー、GREE、GMOなど多くのCVCがありますが、目的や出口戦略が明確でなく苦戦しているところもあります。

出資に専門家が必要になるわけ

大久保:出資は専門性が高いと思いますが、関わる専門家と役割を分かりやすく教えて下さい。

淵邊:公認会計士やコンサルタントは、出資に関して企業価値を算定し、事業計画や資金調達計画を立案するサポートを行います。

弁護士は、出資に関する最適な法的手法を検討し、契約書や関連書類を作成して、交渉の代理をします。

税理士は、出資に関連する税務相談に乗ります。

司法書士は、株主総会議事録等の関連書類を作成し、登記申請を行います。

このように多くの専門家の連携が重要になるので、ワンストップでチームを組んで対応してくれる専門家に依頼することが重要です。また、報酬の面では少々割高であっても、専門性が高い分野なので経験豊富で迅速に動いてくれる専門家に依頼すべきです。報酬については出資の成功報酬ベースでの支払いに応じてもらえることもあります。

大久保:色々ご経験される中で、出資が失敗するパターンと成功するパターンが見えていたら教えて下さい。

淵邊:失敗するパターンとしては、共同創業者間で仲間割れが生じる、出口戦略ができていない、自己の企業価値評価が甘すぎる、専門家の言うことを聞かない、何でも自分でやろうとするなど様々なパターンがあります。その反対をやれば成功に近づきますが、実際成功するかどうかはタイミングやビジネス環境にもよります。何より創業者が投資家から人間的に信頼され、事業内容に魅力があることが大事です。

大久保:出資でよく揉めるポイントと、こうすれば良いというコツを教えて下さい。

淵邊:アーリーステージでの出資は、企業価値評価を判定してもらうことは難しく、交渉で一致点が見いだせないことが多いです。そのため、新株予約権付社債や新株予約権の一種(J-KISS)など、企業価値評価を先送りできるようにして資金調達する工夫も行われています。

ただ、やはり本筋は創業者と事業そのものに魅力を感じてもらうことと、法務、財務面など磨けるところをしっかり磨いて出資してもらいやすい会社にすることが大事です。出資を求めるタイミングで急に厚化粧してもばれてしまうので、創業当初から必要なところはしっかり専門家に相談して、素顔を磨くことを心がけましょう。

出資先との経営関与度合いや撤退条件についても揉めることがあり、難しい判断が必要になるので専門家に相談しましょう。

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良い投資家に出会う方法とは?

大久保:出資先を見つけるにあたって、どうすれば良い投資家に会えますか?

淵邊:まずは、信頼できる起業家仲間や弁護士、会計士などの専門家からの紹介があります。双方のことを知っている人からの紹介は、お見合いと一緒で相性が合う可能性が高くなります。最近はピッチなどでもいい出会いがあります。

大久保:交渉の際はどんな点に気をつけるべきですか?

淵邊:出資後の経営への関与や撤退基準について、出資者はプロなので自分たちに有利な条件を巧みに押し付けてくることがあります。早くお金が欲しい会社は、契約条件をよく検討せずにサインしてしまい、後になって経営が自由にできなくなり後悔するというケースがあります。

大久保:出資を受けた後に注意するべき点はなんですか?

淵邊:投資契約に従って同意の取得や報告をすることは当然ですが、信頼関係を深めるためには丁寧な情報共有や説明を心掛けるべきです。事業計画通りに進まないからといっていったん虚偽の報告をしてしまうと、それが積み重なり取り返しのつかないことになります。
内部においても、出資後は外部の目が入り、会社規模も大きくなることにより、経営方針を巡っても争いが生じることがありえます。共同経営者や従業員との関係にも配慮が必要です。

出資を受けることは、組織や事業を見直すいい機会である

大久保:出資・増資は、会社の飛躍の節目ですよね。そこに専門家として関わることの重さや喜びも有るのではないかな、と思います。弁護士として出資に関わってみての個人的な感想や思い、気付きがあれば教えてください。

淵邊:外部からの出資を受けることは、会社が個人の事業から公器に変わる第一歩になります。自社を客観的に見てもらい、組織や事業を見直すいい機会です。弁護士としても、一緒に育ってきた会社が投資家から認められるのは大きな喜びであり、これからさらなる成長のために応援していこう、という気持ちになります。経営者には、専門家とOne Teamであるという気持ちで相談してもらいたいと思います。

大久保:最後に一言お願いします。

淵邊:出資をする主体や出資を受ける手法は多様化・複雑化しています。専門家に相談することによって、間違った判断をするリスクを避けられ、より有利な条件で出資を受けられる可能性が高まります。早い段階からどんどん専門家を頼ってもらいたいと思います。

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(取材協力: ベンチャーラボ法律事務所/代表 淵邊善彦 弁護士
(編集: 創業手帳編集部)



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