個人事業主でも源泉徴収が必要なケースとは?仕組みやとるべき対応を詳しく解説

資金調達手帳

個人事業主は源泉徴収をされるケース、するケースもある!


源泉徴収は、給与や賞与を支払う時に、支払い側が所得税と復興特別所得税を差し引いてから納税する制度です。
会社員、個人事業主で支払いを受けた時に、源泉徴収された経験がある人は多いでしょう。
しかし、個人事業主になると源泉徴収されるだけでなく、支払い側として源泉徴収するケースがあります。
源泉徴収する側として困ることがないように源泉徴収する場合の手続きや計算、納税までを紹介していきます。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

源泉徴収の仕組み


日本では申告納税制度が採用され、所得に対してかかる所得税は所得を得た人が年間の所得と納税額を計算して確定申告を行います。
しかし、実際にすべての所得を得た人がそれぞれ計算と確定申告をすれば手間も時間もかかってしまいます。また、申告する側の申告漏れや徴収漏れも起こるかもしれません。

そこで、国が給与を支払う事業者を通じて税金を集める源泉徴収制度が使われています。
源泉徴収制度では給与や報酬を支払う側が所定の方法で計算した所得税等を支払額から差し引いておいて、差し引いた分を支払いを受ける人に代わって納付します。
会社員であれば、勤務先の会社が給与に対して源泉徴収を行う仕組みです。また、人を雇って事業を営む場合は個人事業主でも源泉徴収することになります。

個人事業主で源泉徴収が必要どうかの判断基準・方法


業務の対価として報酬が発生する場合、源泉徴収するかどうかは一定の基準で定められています。源泉徴収が必要な報酬の範囲は支払いを受ける側が個人か法人かによって異なります。
以下では、個人の場合の源泉徴収する必要がある場合とそうでない場合を紹介します。

源泉徴収する必要がある場合

源泉徴収する必要があるのは以下の場合です。

  • 原稿料や講演料など
  • 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
  • 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
  • プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬や料金
  • 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演などの報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬や料金
  • ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬や料金
  • プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
  • 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

謝礼や研究費、車代や取材費といった名目で支払われていても実態が報酬であれば源泉徴収の対象です。
金銭ではなく物品や経済的利益で支払う場合にも報酬に含まれます。ただし、通常必要な範囲の交通費や宿泊費は報酬に含めません。

源泉徴収しなくて良い場合

報酬の中には、源泉徴収が必要ないものもあります。具体的には、ウェブデザインの仕事では源泉徴収されますが、Webサイト制作では源泉徴収はありません。

仕事の内容によっては、源泉徴収の対象になる業務とそうでない業務の両方を行うこともあります。
そういった場合は報酬を別に区分して対象となる業務の報酬に源泉徴収するようにしてください。

個人事業主の報酬が源泉徴収される時の対応


個人事業主は、源泉徴収されることもあれば、源泉徴収することもあるため、両方の対応を押さえておくことが大切です。
源泉徴収は報酬を支払う側が行うため、報酬を受ける側は特別な手続きはありません。
ここでは、源泉徴収額の計算や源泉徴収される時の対応を紹介しています。

源泉徴収額を計算する

源泉徴収は、所得税と所得税額の2.1%に当たる復興特別所得税を合計した金額です。ただし報酬の内容によって税率や計算方法が違うので、ケースに分けて紹介します。

①1回での支払いが100万円以下の場合
源泉徴収税額=支払金額×10.21%

②1回での支払いが100万円を超える場合
源泉徴収税額=(支払金額–100万円)×20.42%+10万2,100円

さらに2013年1月1日から2037年12月31日までの間に生じた所得については源泉徴収の時に復興特別所得税が併せて徴収されます。
100万円以下の場合には、①で出た税額に0.21%をかけた金額、②の場合には0.42%をかけた金額です。

源泉徴収額を明記して請求書を発行する

受け取る報酬に源泉徴収が発生する場合には、請求書に源泉徴収の金額を含めて請求書を作成しなければいけません。
具体的には、報酬と消費税、源泉徴収額に項目を分けて記載するようにします。
請求書や領収書に源泉徴収税額を記載するといった義務や、記載しないことによる罰則はありません。しかし、正しく請求することによって双方の処理が円滑になります。

源泉徴収額の仕訳をする

源泉徴収を受けたとしても、それを経費に計上することはできません。
受け取る報酬が源泉徴収されている時には、入金時に差し引かれた源泉徴収税額を「事業主貸」か「仮払金(仮払税金)」といった勘定科目で仕訳します。
以下では、事業主貸を使って処理した場合を紹介しています。

<例>
報酬10万円が源泉徴収されて普通預金に入金されていた。

借方 貸方 摘要
普通預金 89,790 売上 89,790 原稿料
事業主貸 10,210 売上 10,210 源泉徴収税額

事業主貸は、事業に使う資金を個人事業主のプライベートな支払いに使った場合に用いられる勘定科目です。
所得税は個人事業主のプライベートな支払いなので事業主貸が増加します。
一時的にお金を支払っていることを示す仮払金を使って処理することも可能です。一時的に仮払金で処理してから還付された時に仮払金を取り消す処理を行います。

源泉徴収額の合計を記載して確定申告する

源泉徴収は、確定申告時に合計を記載します。支払調書を受け取っていればその記載内容をもとにして確定申告書に必要事項を転記してください。

支払調書がない時には、発注書や請求書、実際の入金額などを確認します。
実際に記載するのは
①所得区分
②種目(原稿料、デザイン料など)
③支払者の氏名・名称
④収入額
⑤源泉徴収税額

といった項目です。
複数の事業者で源泉徴収されている時にもすべて記載して、源泉徴収税額の合計額を記入してください。

確定申告書の第二表で源泉徴収税額を合計して確定申告書第一表の48番に転記します。ここまでで確定申告書で源泉徴収税額を申告する手続きは完了です。
源泉徴収税額が申告納税額を上回る時には、還付される税額も記載してください。

個人事業主が源泉徴収される時の注意点


源泉徴収について仕組みを理解しないままでいる人も少なくありません。ここでは個人事業主が源泉徴収された時の注意点についてまとめました。

特定の業種は確定申告で還付される可能性あり

そもそも個人事業主や副業として働く人の中には、その所得に対して所得税が発生しないため確定申告が不要なケースもあります。

具体的には、1年間の所得が48万円を超えないケースや給与所得者で副業の所得が20万円を超えないケースです。こういった場合は確定申告は不要です。
しかし、上記で説明したように業種によっては報酬から源泉徴収されていることがあります。
そういった場合でも確定申告することで納めすぎた税金が還付されることがあります。
確定申告をするメリットがあるかどうか、その事業年度の売上げをチェックしてください。

支払調書で源泉徴収額を確認する

会社員のような給与所得者は、源泉徴収された税金を源泉徴収票で知ることができます。

しかし、個人事業主では源泉徴収票は発行されません。そこで発注元が発行する支払調書が使われています。
支払調書は、報酬を支払った側が税務署にその内容を報告するための書類です。
ただし、支払調書は税務署への提出が義務づけられているものの、仕事を受けた側に渡す義務はありません。
発注元によっては支払調書を渡さないことがあるので、請求書や帳簿から源泉徴収税額を確認できるように必ず保管しておいてください。

個人事業主が源泉徴収することもある


個人事業主は、源泉徴収されるだけでなく源泉徴収することもあります。源泉徴収を行って国に納税する義務がある人を、源泉徴収義務書といいます。
どういったケースで源泉徴収徴収義務者になるか紹介します。

源泉徴収義務者になるケース

法人や個人が源泉徴収義務者になるのは、人を雇って給与や報酬を支払う場合です。給与や報酬の支払いのたびに源泉徴収が求められます。
源泉徴収義務者となる場合、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出しなければいけません。
源泉徴収義務者となって給料を支払うようになると毎月源泉徴収を計算することになるため、処理の手間もかかります。税理士や会計担当者の力を借りることも考えてください。

源泉徴収義務者にならないケース

源泉徴収義務者にならないケースはたくさんあります。従業員を雇用しない、給与や報酬を支払っていない場合には源泉徴収義務者にはなりません。

さらに給与を支払っていない個人が弁護士などに報酬、料金を支払う場合も対象外です。常時2人以下の家事使用人にだけ給与を支払っている場合も源泉徴収は必要ありません。

個人事業主が源泉徴収義務者になる場合の対応


源泉徴収義務者は、源泉徴収と源泉徴収税額の納付、さらに源泉徴収票の発行が求められます。実際にどのような対応が必要になるのか、以下で紹介します。

源泉徴収をしてから翌月10日までに納税する

源泉徴収義務者は、源泉徴収税額を納めなければいけません。そのため差し引いた税金を対象となる報酬が発生した月の翌月10日までに税務署に納めます。
ただし、給与を支給する従業員が常時10人未満の時には特例として「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」をおこなって、年2回にまとめて納付が認められています。

源泉徴収票を作成・発行する

源泉徴収義務者は、源泉徴収票を発行しなければいけません。源泉徴収票は書面で交付するのが原則ですが、条件を満たせば電子交付も可能です。

ただし、弁護士等への報酬や原稿料、講演料の源泉徴収は、法的に源泉徴収票を発行する義務はありません
慣例として受け取る側が確定申告で使えるように源泉徴収票を発行する場合があります。

源泉徴収票の主な記載項目


個人事業主が源泉徴収票を作成するには、国税庁のホームページからダウンロードできる給与所得の源泉徴収票が役立ちます。
ここでは、源泉徴収票の記載事項について紹介します。

支払額・給料控除後の金額

源泉徴収票の支払金額として、源泉徴収や控除額が差引される前の支払金額を記載します。支払金額の横には「種別」の欄がありますが、一般的には給与などです。

続いて支払金額をもとにして給与所得控除後の金額を計算します。給与所得控除とは、収入から差引できる控除です。
給与所得者は個人事業主のように経費計上できません。そのため給与所得控除の形で差引をします。

各種所得控除後の合計金額

給与所得控除以外にも、所得控除にはすべての納税者に適用される基礎控除などの種類があります。
医療費控除や社会保険料控除、扶養控除などの各所得控除を適用した後の合計も記入します。
地震、生命保険料控除などはその証明書も回収しなければいけません。

源泉徴収額

源泉徴収税額の欄には、その1年で従業員から徴収した所得税の合計額を記載します。
所得税は、給与所得控除後の金額から所得控除額の合計を差し引いた金額に所得税率を掛けて算出します。また、復興特別所得税の上乗せも必要です。

控除対象となる配偶者の有無

合計所得額が48万円以下の配偶者がいる場合には、控除対象配偶者の有無等の欄に〇をつけます。
さらに配偶者の所得が給与のみである場合には、一定の条件で合計所得金額が95万円以下の配偶者も控除対象配偶者に該当します。

控除対象の扶養親族の人数

控除対象扶養親族がいる場合には、その人数も記載が必要です。
控除対象扶養親族とは、その年の12月31日時点での年齢が16歳以上の親族または19歳以上23歳未満の特定扶養親族です。

社会保険料等の金額や生命保険料の控除額

給与から支払っている健康保険料や厚生年金保険料、小規模企業共済の掛け金の合計額を記載します。
また、民間の保険会社で加入している生命保険や個人年金の保険料も記載してください。

まとめ・確定申告前に個人事業主も源泉徴収の仕組みを理解しておこう

個人事業主は、受け取った報酬から源泉徴収される場合と報酬を支払う側として源泉徴収する場合の両方が起こりえます。
源泉徴収を受けた場合には、確定申告の時にも記載しなければいけません。また、個人事業主が人を雇って源泉徴収をした場合も、納税などの手続きが発生します。
源泉徴収の仕組みを理解して適切に対応してください。

創業手帳では、「難しい」と思っている人が多い確定申告について、基本からわかりやすく仕組みを解説した「確定申告ガイド」を無料でお配りしています。個人事業主の場合、所得税はもちろんですが、人によっては消費税の確定申告も必要になることも。この確定申告ガイドでは、消費税の確定申告についても掲載しています。また確定申告は毎年いくつかの変更点が発生しますので、そのあたりもおさえていますので、はじめての確定申告の方はもちろん、毎年対応している方にもぜひ読んでいただきたいガイドブックとなっています。



関連記事
所得税計算の手順を解説!早見表&節税対策もご紹介
確定申告をして還付金が返ってくるのはいつ?申告方法で異なる時期を解説!

(編集:創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す