企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット・デメリットとは?従業員側についても解説

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企業側のメリットも大きい企業型確定拠出年金(企業型DC)をうまく活用しよう


将来受け取れる年金を増やせる確定拠出年金には、個人型と企業型の2種類があります。企業型確定拠出年金は従業員だけでなく企業側にも様々なメリットがあるため、福利厚生の一環として導入する企業は多いです。

そこで今回は、企業型確定拠出年金のメリット・デメリットを企業側と従業員側の両方の視点から解説します。
従業員の待遇をより良くするために導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

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企業型確定拠出年金とは?


公的年金は、国民すべてが加入する基礎年金とそれに上乗せされる厚生年金から構成されています。
確定拠出年金は、公的年金を補完する3階部分に該当します。(1階は国民年金、2階は厚生年金)
運用次第で給付額は異なりますが、加入者は従来よりも多くの年金を受け取ることが可能です。

基本知識として、企業型確定拠出年金の特徴や個人型との違いについて解説します。

企業型確定拠出年金(企業型DC)の特徴

企業型確定拠出年金は、企業が毎月一定の金額で掛金を積み立て、従業員の年金を運用する制度です。
加入対象は、労使合意に準拠して確定拠出年金制度を行う企業に勤める、国民年金第2号被保険者(65歳未満の厚生年金保険の被保険者)の従業員になります。

基本的には企業が掛金を拠出しますが、マッチング拠出であれば個人からの拠出も可能です。
マッチング拠出は企業側が上限まで拠出しておらず、規約に上乗せで積み立てられることを定めている場合に限り、従業員から掛金を拠出できる仕組みです。

導入している企業の従業員は自動加入となるのが一般的ですが、個人の意思で加入するかどうかを選べる選択制企業型DCを導入しているケースもあります。
選択制で従業員が加入を断った場合、毎月の給与に掛金分を含んで支払うことになります。

個人型確定拠出年金(個人型iDeCo)との違いは?

個人型確定拠出年金は個人で加入して掛金を拠出して、将来受け取る年金を運用する制度です。世間では、iDeCo(イデコ)という名称で知られています。

個人型確定拠出年金と企業型確定拠出年金の大きな違いは、加入対象者の範囲や掛金の拠出方法です。
企業型は導入する企業に加入する従業員が対象であり、基本的に掛金も企業が積み立てます。
反対に個人型は細かい加入条件があるものの、国民年金の加入者が対象となるので自営業や学生・主夫、会社員・公務員など幅広い人が加入できます。
そして、加入者本人が掛金を積み立てなければなりません。

ほかにも細かい違いを挙げるなら、運用主体と運用商品が異なります。
制度の運用主体は個人型が国民年金基金連合会となりますが、企業型確定拠出年金は規約が承認された企業です。
運用商品に関しては個人型だと金融機関によって変わり、企業型の場合は会社で共通するラインナップとなっています。

企業型と個人型は併用できる?

企業型と個人型の確定拠出年金は、条件を満たしていれば併用が可能です。例えば、掛金の支払い方法は月払いの各月拠出である必要があります。年に1回以上まとめて支払う年単位拠出を選択している場合は併用できません。

さらに、掛金額は企業型と個人型を合わせて月額5.5万円以下、または2.75万円以下に抑える必要があります。企業型の掛金上限額は月額5.5万円です。
そこから実際に拠出する金額を差し引き、残った金額(上限2万円まで)が個人型の上限額となります。
ただし、ほかにも企業年金に加入している場合、掛金の上限額はさらに小さくなるので注意してください。
企業型の上限額は2.75万円となるので、個人型の上限額は拠出する金額を差し引いて残った金額(上限1.2万円)になります。

ほかにもマッチング拠出を利用している従業員は、個人型の併用ができません。
併用する場合は、マッチング拠出を停止してもらってから個人型に加入してもらう必要があります。

企業型確定拠出年金のメリット


企業型確定拠出年金の恩恵を受けられるのは、従業員だけではありません。掛金を支払っている企業側にもメリットがあります。
続いては、企業側と従業員側におけるそれぞれのメリットを解説します。

企業側のメリット

企業型確定拠出年金による企業側のメリットは、以下の3点です。

1.積立金に不足が生じない

従来の退職金制度の場合、将来支給できるように積み立てておく必要があります。しかし、不況により積み立てが困難となり、支給分が不足してしまうかもしれません。

企業型確定拠出年金の場合、掛金を拠出した時点で従業員に退職金を会社が支払ったことと同じ状態になります。そのため、退職金の積立金が不足する心配もありません。

2.退職給付債務の心配がいらない

従業員に将来支払われる退職金は、会計上は負債と扱われます。
現時点で発生している分の退職金の見積もりは、貸借対照表において退職給与引当金という勘定科目で計上しなければなりません。

企業型確定拠出年金の場合、上記で述べたように拠出した時点で退職金を給付した義務を果たしたことになります。
つまり、退職給与引当金で計上する必要はなく、退職給付に関する債務が発生しないことになるのです。

3.税制優遇を受けられる

企業型確定拠出年金の掛金は、全額を損金として扱うことが可能です。税務上で用いられる損金は、簡単にいえば会社の支出です。
法人税は、収益から損金を差し引いた所得から決まります。

損金が大きいほど所得は少なくなり、法人税を抑えられます。
企業型確定拠出年金を導入して企業が掛金を負担すればその分を損金で算入できるため、結果的に税金の負担を抑えることが可能です。
利益が大きいほど税金は高くなるので、軽減できることは手元に残せる利益を増やすことになります。

従業員側のメリット

加入する従業員側に与えられるメリットは、以下の3点です。

1.掛け金や運用益には税金がかからない

企業が支払う掛金や運用益は非課税であるため、加入者である従業員に税金の負担が増えることはありません。
通常、個人で株式や投資信託などの金融商品を運用する際は、運用益に対して約20%の税金がかかります。
しかし、企業型確定拠出年金であれば税金をかけずに将来の年金を増やせます。

マッチング拠出を選択した場合、加入者は上乗せで掛金を拠出しなければなりません。
その掛金は全額所得控除の対象となるので、所得が減ることで節税メリットにもつながります。

2.転職しても持ち運べる

転職先でも企業型確定拠出年金があれば、加入することで今まで積み立てた年金資源の持ち運び(移換)が可能です。
引き続き掛金を運用してもらい、年金を増やせます。

また、転職前の企業型確定拠出年金から個人型確定拠出年金に加入して、年金資源を移換することも可能です。
転職先に企業型確定拠出年金がないケースでも個人型確定拠出年金で運用を続けられます。

3.原則として60歳から一時金もしくは年金を受け取れる

積立金は、60歳以降に一時金や年金という形で従業員に給付されます。一時金であれば全額をまとめて受け取ることが可能です。
一般的に、退職するタイミングで受け取るケースが多いです。
年金の場合は、給付額を分割して受け取れます。少しずつ受け取れる分、生活費の足しや貯金に回すなど、計画的にお金を使えることがメリットです。

どちらの受け取り方でも税制優遇が適用されます。一時金での受け取りを選択すれば退職所得控除、年金の場合は雑所得と扱われるので公的年金等控除が適用され、所得税を減らすことが可能です。

企業型確定拠出年金のデメリット


企業型確定拠出年金を導入する前に、デメリットがあることも理解しておく必要があります。
目先のメリットばかりに注目してしまうと導入後に失敗したと感じる恐れもあるので、注意してください。
一度導入すると簡単に停止できる制度ではないので、ここで企業側と従業員側のデメリットをご紹介します。

企業側のデメリット

企業側に与えるデメリットは、以下の3点です。

1.運用にコストがかかる

企業型確定拠出年金の運用には、コストがかかることを忘れてはいけません。そもそも運用するためには掛金を拠出するための資金が必要です。

無理に掛金を捻出しようとすれば、経営を圧迫する可能性があります。
そのため、経営に支障が出ない範囲で掛金を積み立てられるように、掛金の金額設定や資金計画は慎重に準備しておくことが大切です。

選択型を導入した場合、一部の掛金は個人負担となります。その分企業の負担が減るので、必要に応じて選択型を検討してください。

また、企業型確定拠出年金の導入では、制度を構築する際にはコンサルティングへの依頼料、運営管理機関に支払う手数料といった事務負担もかかります。
掛金以外のコストにも考慮して運用を検討してください。

2.賃金や退職金などを見直す必要がある

企業型確定拠出年金の導入にあたり、現行の制度や規則の見直しが必要となります。
プランにもよりますが、具体的には賃金や退職金制度、就業規則、給与規程を見直し、従業員には改定の旨を説明した上で同意を得なければなりません。

従業員から同意を得るためには、企業型確定拠出年金のデメリットも伝えた上で、有益な制度であることを正しく理解してもらう必要があります。

3.従業員に対する教育を継続的に行わなければいけない

企業型確定拠出年金では、加入者に対して継続的に投資教育を行うことが企業側の努力義務となっています。
加入者が適切に資産運用をするためには、年金制度や金融に関する知識など専門知識が必要です。
その知識を養ってもらうために、企業側は教育体制の整備することも大切です。あくまでも努力義務なので、罰則はありません。
しかし、適切な教育を受けていない従業員が運用により被害を被った場合、退職後に企業が訴えられる可能性があります。
そのようなトラブルを防ぐためにも、金融に対する正しい認識と知識を継続的に教育させることが重要になります。

専門知識となるので、社内で対応することが難しい場合は、運用管理機関を通じて外部の講師を招いてセミナーを実施するのがおすすめです。
ほかにも資料を提供してもらい、それを参考にセミナーの実施や資料を配布する方法もあります。

従業員側のデメリット

従業員に与えるデメリットは、以下の3点です。

1.60歳まで現金化できない

企業型確定拠出年金の積立金は原則60歳になるまで現金化ができません。途中で脱退した場合も、積立金は60歳以降に支払われます。
そのため、60歳を迎える前にまとまったお金が必要になり、引き出したいと考えている人には大きなデメリットです。

例外として、60歳未満でも法令により定められた要件を満たしていれば、脱退一時金を受け取れることがあります。
細かな要件が定められているので、万が一の時のために脱退一時金の請求要件について従業員に周知しておくと安心です。

2.元本割れのリスク

企業型確定拠出年金は資産運用の成績に応じて、将来受け取れる一時金や年金の金額が変わってきます。
もしも運用がうまくいかなければ、増えるどころか資金が減ってしまうかもしれません。

掛金は企業が支払っているとはいえ、増えるはずだった年金が増えないとなれば従業員から訴えられるリスクが高まります。
元本割れを起こすリスクがあることを従業員に周知し、理解してもらうことが大切です。

企業型確定拠出年金には様々な投資商品があり、元本確保型から高リスク型まであります。
堅実な資産運用を行っていくためには、バランス良く資産商品を選んでいく必要があります。
また、運用指図は加入者である従業員にあるため、定期的に実施される投資教育に参加してもらい、資産運用の知識を身に付けてもらうことも重要です。

3.将来の公的年金の受給額が減る可能性

選択制企業型確定拠出年金の場合、従業員の選択次第で将来受け取る年金の受給額が減ってしまうことも考えられます。
加入しない場合、掛金分が給与としてそのまま支給されるので、給与が増えることで社会保険料が増えるでしょう。
加入することを選択した場合、掛金分は非課税となって社会保険料の対象にはならないので、保険料が減少します。

社会保険料は会社員と企業で折半することになるので、減少により保険料の支払いにかかる負担は減ります。
しかし、社会保険料には厚生年金が含まれるので、支払う保険料が減れば、将来の受給額にも影響を与えるでしょう。

企業型確定拠出年金の運用に成功すればデメリットにはなりません。
運用に失敗すれば資金が目減りすることになるので、企業側は従業員にリスクの説明や投資教育を行って運用をサポートする必要があります。

まとめ

今回は、企業型確定拠出年金についてご紹介しました。
企業型確定拠出年金は、将来受け取れる年金を増やせるため退職金の代わりに有効です。従業員にとっても魅力的であるため、人材確保にもつながる可能性があります。

しかし、加入者が運用するので、知識が不足していると元本割れのリスクがあり、企業側は十分な説明や投資教育の体制を整えなければなりません。
デメリットについて理解した上でメリットのほうが大きいと感じたら、銀行や証券会社、ファイナンシャルプランナーなどの専門機関・専門家に相談してみてください。

創業手帳(冊子版)」では、企業経営に役立つ情報をお届けしています。創業間もない時期の経営のサポートにご活用ください。
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(編集:創業手帳編集部)

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