きびだんご 松崎良太|楽天を経て起業!新たなEC型クラウドファンディングで日本のベンチャーを支えたい
クラウドファンディングこそ、起業家の成功法則
起業家の資金調達方法としても注目される、クラウドファンディング。返済不要なだけではなく、顧客と直接コミュニケーションできるなど多くのメリットがあります。
こうした中、新たなクラウドファンディング事業で成長を続けるスタートアップが、きびだんご株式会社です。同社が手掛けるのは、クラウドファンディングとECを融合したサービス。商品アイデアに共感する人々から出資を募り、集めた資金をもとに作り上げた商品をリターンとして出資者に送るというもので、多くのベンチャーに活用されています。
同社の創業者であり現在も代表取締役を務める松崎良太さんは、「起業家と話すのがとにかく好きで、その気持ちがクラウドファンディングにつながりました」と語ります。今回は松崎さんが起業したきっかけや、クラウドファンディング事業に至った経緯などについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

きびだんご株式会社 代表取締役
慶應義塾大学卒業後、株式会社日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)へ入行。投資銀行業務に携わった後コーネル大学でMBAを取得。2000年楽天に入社、社長室長や経営企画室長、執行役員ネットマーケティング事業長 兼 事業企画・調査部長を歴任。
2011年に独立、ベンチャーの育成に務めながら自らエンジェル投資も行う。2013年にゴールフラッグ株式会社(後に「きびだんご株式会社」に社名変更)を設立。クラウドファンディングとECを組み合わせた新しい事業エンパワーメントの仕組みを提供する「Kibidango(きびだんご)」をスタート。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
楽天の三木谷さんとの出会いが、人生を大きく変えた
大久保:大学を卒業後、日本興業銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)に入られたそうですね。
松崎:はい。当時1991年はバブル景気がはじける直前で、金融は花形でした。世界の時価総額ランキングで日本企業が上位を占めていて、日本興業銀行もトップ10に入っていました。今では信じられないですよね。
一般的に銀行に入ると支店や営業部に配属され、そこからコツコツと積み上げます。しかし当時はバブルで受け入れる部署が足りず、私は新人が行かないようなM&Aなど投資銀行業務を行う部署に配属されました。
能力の高い方々に囲まれて刺激を受けまして、入行5年目にアメリカのコーネル大学へ留学させていただき、MBAを取得しました。留学後は日本に戻るケースが多いのですが、私は駄々をこねてニューヨーク支店に配属させていただきました。
大久保:ニューヨークではどんな仕事をされていたのですか?
松崎:プロジェクトファイナンスを手掛けていました。普通の融資は土地などを担保にしますが、プロジェクトファイナンスではプロジェクトが担保となります。
例えば海底に油田が眠っていて、油を汲み出す施設を作るのに3,000億円ぐらいかかるとします。その費用を借り入れ、油が出て売れたら返済するというのが、プロジェクトファイナンスです。プロジェクト自体が担保となるためハイリスクですが、そのリスクをしっかり分析した上で貸付を行います。
すごく面白い仕事でしたが、プロジェクトが大規模な場合は期間が長くなります。3年たって、ようやく貸付ができるというケースもありました。
大久保:その後楽天に転職されましたが、どういったきっかけだったのでしょうか?
松崎:三木谷浩史さんとの出会いですね。私が日本にいた頃、新人で入った部署にハーバード大学での留学を終えた三木谷さんが戻ってきました。その後、たまたま運よく三木谷さんとチームを組ませていただいたんです。三木谷さんとの出会いは、私の人生に大きな影響を与えた出来事だと思っています。
その後三木谷さんは楽天を起業され、私はニューヨーク支店に行きました。それから数年経った頃、私のいた日本興業銀行が富士銀行と第一勧銀と合併して、みずほ銀行になることが決まったんです。
合併後どうなるのかという不透明さもありましたし、先ほどお話ししたように銀行の融資事業はすごく時間がかかるなと感じていたところでした。また日本に戻る度に、楽天が成長してどんどん大きくなっていくのを見て、すごいなと思っていたんです。
そんな時たまたまニューヨークで三木谷さんとお会いする機会がありました。ありがたいことに、それまで三木谷さんから何度か楽天へお誘いいただいていたのですが、「これで最後にするけど、やっぱり楽天に来ない?」との言葉を受けて、楽天に入る決心をしました。
UberやAirbnbの創業者と話す中で、大きな気づきを得た
大久保:楽天では、やはり海外への事業展開を手掛けていたのでしょうか?
松崎:そうですね。1995年には、楽天として初めてアメリカのリンクシェアという会社を買収しています。買収した会社をサポートしながら、どうやって楽天の事業を海外に持っていくかを検討していました。
また、当時楽天は海外での知名度がほとんどなかったので、積極的に投資家や起業家を紹介してもらっていました。私自身が起業家や投資家と話すのが好きで、創業間もないUberやAirbnbの方ともお会いしたんですよ。
大久保:アメリカで多くの起業家とお会いして、どんな収穫がありましたか?
松崎:Airbnbの創業者の一人であるブライアン・チェスキーは当時20代前半ぐらいで、話がギラギラしているというか、野望を持っていることが伝わってきました。Uberの創業者トラビス・カラニックも同じく、すごくアグレッシブでしたね。
彼らは法律ギリギリなことをまずやって、それを既成事実化しようというところがあります。彼らのビジネスモデルには、そういうアグレッシブさが必要だったのでしょう。私とは大きく違いますが、野望を持つアメリカの起業家たちと会えたことは、自分を見つめるいい機会になりました。
また、アメリカにいた時にFacebookの本社に行く機会があり「いいねという新機能をリリースしようと思うんだよね」という話を聞いたんです。
「いいねを押すことでみんなが何に興味を持っているかがわかり、それをもとに適切な広告を表示できる。ユーザーを理解して、欲しい情報を適切に届けるのがこれからの広告なんだ」という話を聞き、鳥肌が立ちました。何を目的として機能を作るかがいかに大事か、という話ですよね。
あるきっかけでEC型クラウドファンディングの立ち上げを決意
大久保:楽天を離れた後は、どんなことをされていたのでしょうか?
松崎:2010年に楽天を辞め、しばらくは1人でコンサルティングをしていました。その中で起業家をサポートしたいと思うようになり、エンジェル投資もしていたのですが、これはスケールできないなと早々に気づいたんです。
銀行も楽天も、人や事業をエンパワーしていくことがミッションで、そこにとても惹かれていました。でも私のコンサルティングでは、一部の人しかお手伝いできない。どうすればより多くの人たちをエンパワーできるのかなと悶々としていた時、キックスターターというアメリカのクラウドファンディング会社を知りました。
彼らは2009年創業のスタートアップで、すごく面白いことをやっていました。これを日本に持ってきたら、日本の会社をもっとエンパワーできるんじゃないかと考えたわけです。ツテをたどってコンタクトしたところ、キックスターターの創業者から「45分ぐらいなら会えるよ」と言うメールをいただき、すぐアメリカへ飛びました。
大久保:行動が早いですね。どんな話をしたのでしょうか?
松崎:キックスターターには、3つの提案をしました。日本進出とECとの連携、大手企業とのコラボレーションです。結果としては、見事に全部却下されてしまいました。
日本進出については、まだ会社も小さく英語圏ではない日本には当面行かないという返事でした。ECについては得意ではないし、自分たちのミッションではないのだと。大手とのコラボは、彼らとしてはクリエイター支援に力を注ぐため、全力で断っているということでした。
私の提案は全滅でしたが、最後に「本当にやりたいと思うなら自分でやってみたら?」というようなことを言われたんです。それまで自分で事業を始めるなんて考えたこともなかったのですが、その手があったかと気づかされましたね。
起業家に必要なのは、やりたいこととそれを続けられるという確信
大久保:そこから今の事業につながるわけですね。自ら事業を立ち上げてみて、いかがでしたか?
松崎:大変でしたね。最初は人を雇うお金もなく、知り合いに平日の夜や週末に手伝ってもらっていましたが、それではなかなか進みませんでした。
大きなきっかけになったのが、新潟でワイナリーを経営する起業家です。実は銀行員時代の同期なのですが、彼は銀行を辞めた後、新潟でブドウを育てワインを作る仕事をしていました。
ある時、彼から新しいワインを作りたいという話を聞いたんです。ピノノワールという高級ワインに使われるぶどうの品種で、日本では育てるのが難しいそうですが、彼は周囲の反対を押し切って苗木を購入していました。
また彼から「お客様が見える商売をしたいので卸ではなく直販をしたい」「ワインづくりは時間がかかるので投資家と長く続く関係を作りたい」という話を聞き、まさにクラウドファンディングがぴったりだと思いました。
ただ苗木を植える時期が決まっているため、クラウドファンディングを始めるデッドラインはすでに決まっていたんです。そうなると時間をかけてシステムを作る時間はないので、クラウドファンディングが作れるプログラムを30万円くらいで購入し、1か月後になんとかクラウドファンディングサイトを立ち上げました。
この時のリターンはピノノワールで作ったワインでしたが、ブドウを育てるところから始めるわけですから、ワインが出来上がるのはおよそ5年後です。それでも250万円くらい集まって、私もワイナリーのオーナーも本当に驚きました。
こうなると、少なくとも5年はこのクラウドファンディングを続けなければならない。その覚悟ができたという意味でも、この案件はすごく大きな意味があったと思います。
大久保:松崎さんが銀行で手掛けていたプロジェクトファイナンスに似ていますね。
松崎:まさにそうなんです。5年後にできるワインとなると、売れるかどうかわかりませんから通常の融資を受けるのは難しいですよね。プロジェクトファイナンスのように、プロジェクトを担保にして個人や中小企業が資金調達できるのはすごく画期的です。
またクラウドファンディングは、起業して事業を成功させるのに必要な要素が詰まっていると思います。出資者に計画を説明して関心を持ってもらい、出資者から先にお金をお預かりして、それをもとに事業を展開する。最後は出資者へ商品やサービスを提供して満足していただく。このプロセス自体、起業にとても近いですよね。
全てのビジネスにクラウドファンディングが馴染むわけではありませんが、特にものづくりをしたい方に向いていると思います。目標金額に届かない可能性もありますが、そこから学べることがたくさんあります。
大久保:最後に、起業家の方々へメッセージをお願いできますか?
松崎:私がきびだんごを創業する時、あるアメリカのベンチャーキャピタリストの方にアイデアの壁うちをしてもらっていました。その中で、きびだんごのアイデアを伝えたところ、強く背中を押してくれました。
「君は新しい人に会ったり、新しいことに触れたりするのが好きだよね。それはいいことだけど、1つのことにコミットするのが難しい面もある。でもクラウドファンディングはそれが仕事だから、きっと君に向いているよ」と言ってくれたんです。私もその通りだなと思いました。
つまりやりたいことがあって、それをずっと続けられると確信を持って言えるか。これが起業にはすごく大事なんです。これをこれから起業される方へ、お伝えしたいですね。
(取材協力:
きびだんご株式会社 代表取締役社長 松崎良太)
(編集: 創業手帳編集部)