会計バンク 反町 秀樹|会計でみんなを幸せに。70年を越えて受け継がれる想いが「フリーランスの不自由」を解決する
ワンマン経営から一枚岩経営へ。40年ぶりの部門再編でさらに成長するソリマチグループの歩みとは
会計バンク株式会社は、今年70周年を迎えるソリマチグループから誕生したベンチャー企業です。
ソリマチグループは、「会計でみんなを幸せにする」という創業理念を掲げています。その理念のもと会計バンクが開発を進めてきたのが、フリーランス向けスマホ会計アプリ「スマホ会計FinFin(フィンフィン)」と、フリーランス向け請求書発行・受取アプリ「スマホインボイスFinFin」です。
フリーランスは、組織に所属せず仕事をすることから自由なイメージを持ちます。一方、金銭面で不安を抱えやすいことから、実情は「フリーランスなのに不自由」にならざるを得ません。
そんなフリーランスを、会計バンクはFinFinを通してどのように支援しようと考えているのでしょうか。ソリマチグループのこれまでの歩みとあわせて、会計バンクのCEOでありソリマチグループ各社代表の反町さんにお話を伺いました。
会計バンク株式会社 代表取締役社長CEO
1965年 新潟県出身 ソリマチグループ各社 代表
税理士、ITコーディネータ
監査法人KPMGピートマーウィック国際税務部を経て、1994年ソリマチ情報センター(現・ソリマチ)取締役就任。
2003年代表取締役社長就任。2009年ソリマチグループ代表に就任。
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この記事の目次
「会計でみんなを幸せする」ために独立したのがスタート
反町:全国最年少の税理士だった父が、1955年に税務会計事務所を設立しました。それがソリマチグループのルーツです。
当時の税理士は威張ってましたから、お客様を呼びつけてアドバイスをするスタイルでした。
ところが父は、自分が訪ねて行って、社長に経営数字の話をしたり、奥さんに経理の仕方を教えたりしていたんですね。今でいう、巡回監査の先駆けだったと思います。
反町:父は、「会計はみんなを幸せにする為のものだ」という哲学を持っていました。
数字がわかれば経営を大きく伸ばすことができて、その会社に関わる人たちを幸せにできるはず。それを実現するために独立したんだと言っていましたね。
反町:そうですね。私自身の話をしますと、私は4人兄弟の3番目です。正直兄弟の中でも勉強が得意な方ではありませんでした。
しかし私が高校2年生のとき、父が脳梗塞で倒れてしまったんです。かなり重度で、右半身麻痺が残ってしまいました。もちろん仕事どころではありません。
反町:その頃から大型の会計事務所を中心に経営していましたから、税理士がいないと潰れてしまう状況でした。そこで、「頼む」と声をかけられたのが私だったんです。
反町:私は本当に勉強嫌いだったんですが・・・。それでも父が生きているうちに資格を取るため、最短ルートで税理士になることができる短大へ入学しました。
ただ、その間に父は不自由ながらも状態が安定し、会社に復帰できたのです。だから結局、資格取得後も父の会社には行きませんでした。
その代わりに外資系の監査法人や日本の会計事務所で働いたり、シンクタンクの長銀総合研究所へ出向したりと、ビジネスの世界に足を踏み入れましたね。
ワンマン経営から分社経営へ
反町:そうですね。父は病気から復帰したときにこの「ソリマチグループ創業理念」を作り、会社の復活を目指しました。
特に、「知的集約型の中堅企業を目指そう、分社経営を目指そう、無借金経営に徹しよう」と掲げて、元々ワンマン経営だった会社を「分社経営」にしたのは大きな変化でした。第一世代の社長は、4〜5人おられたと思います。
反町:分社経営がスタートするきっかけになりました。これによって、意思決定が早くなったり、変化に柔軟になったり、社員のモチベーションが高くなったりと、良い変化がありましたね。
「会計王」が大ヒットした理由
反町:私の父はコンピュータのことはよくわかっていなかったのですが、「コンピュータが、世の中を変える」と50年前に言っていましたね。
そして税務会計事務所の経営に関する「経営部門」以外に、コンピュータに関する部門として「ハイテクノロジー部門」を作ったんです。
その後には、コンピュータ関係の中でも人との関わり合いをベースに事業をする「ヒューマン部門」、不動産に関連する仕事を請け負う「不動産部門」を設立しました。このように、目的別の部門を作って発展してきましたね。
反町:そうですね。その会計王を作るプロジェクトには私も携わりました。
それまで私は税理士として東京で独立していたのですが、ソリマチの前身である「(株)ソリマチ情報センター」の経営者に声をかけてもらったんです。「今度Windowsという新しいOSができるから、会計ソフトのプロジェクトをやってみないか」と。
それが入社のきっかけになりましたね。
反町:いいえ、正直私はコンピュータが苦手でした。パソコンのことを「機械」って呼んでいたくらいで、もちろんOSの意味もわからない。そんな状態で、「会計ソフトのプロジェクト」をスタートしましたね。
反町:税理士である妻と友人、そして専任の技術者と4人でプロジェクトを始めました。
その他には、同じグループの何人かの事務の方に期間を設けて参加してもらいましたね。そのメンバーで、商品企画からマーケティング、製品作りなどをしてできたのが「会計王」です。
ほぼ丸1年、休みもなくプロジェクトにかかりきりでしたね。
反町:おかげさまで半年で1万社、1年で数万社に買ってもらえました。
反町:そうですね。その前に農業の分野でもソフトの販売を開始していたのですが、市販の会計ソフトとしては「会計王」が起爆剤になりました。
反町:プロジェクトのメンバーがとても頑張ってくれて、会計王が他のソフトに先駆けて一番最初にWindows95に対応したんです。それが売れた大きな理由の1つだったと思います。あとは値段ですね。
反町:当時、パソコンは安くなっていました。一方でソフトはあまり安くなっていなかったんですよね。20万〜30万円ぐらいが一般的でした。
家電量販店を調査してみると、一番売れてるソフトでも8万円ぐらいで、3万9,800円の店頭売価だったら確実に売れるということがわかりました。
そこで、定価7万5,000円の会計王と仕訳データベースの仕訳博士、あわせて9万円のところを3万9,800円で売ることにしたんです。
反町:ただ、安くするには理由がいりますから、社名を変更して「社名変更記念特別価格」として半額にした体で、3万9,800円としました。
そうすると、20万ぐらいのパソコンを買う企業が、当時のWordにあたる一太郎などと一緒に会計王をチョイスしてくれたんですよね。それからは、私にとって税務よりソフトウエアの方が本業になっていきました。
「知の探索」からFinFinが誕生
反町:2003年にソリマチ株式会社の代表に就任しました。その頃は、グループ会社はそれぞれ違う考え方で、部門ごとに経営をしていました。
しかし15年前に、「会計でみんなを幸せにする」という考えのもと、分社経営から一枚岩経営に改革したのです。
反町:その経緯の中でグループの取締役会も1つにしました。それぞれの会社のテーマをまとめたんです。
反町:一番感じたのはイノベーションのジレンマです。第1世代のそれぞれの経営者がやってきたことは素晴らしかったのですが、時間が経ったことでかなり陳腐化しているモデルもありました。
でも、陳腐化したことに対してノーと言える人がいなかった。ですから、それを変えるためにはどうしたらいいのかを考えましたね。
反町:そして、新しい取り組み(知の探索)と既存事業の効率化(知の深化)の両利きの経営をやろうと決めました。FinTech拠点のFINOLABで知の探索を行い、その成果を反映することで会社を再成長させようと思ったんです。
反町:はい。昔から会計作業はパソコンでするイメージがありますよね。「現金入力をするためにも、マウスやキーボードがないとダメだ」という人もいます。
でもそこに疑問を持ちました。「パソコンを持たない人も増えている今、会計だってスマートフォンだけで完結できるようにすべきだ」と。
反町:それだけでなく電子決済等代行業の免許を持っているので、ほぼすべての日本の銀行と提携しています。だから、データをそのまま持ってこれるんですよね。もちろん会計事務所でもありますから、確定申告のノウハウもあります。
それらを鑑みて、新しいFintechサービスを企画・開発・販売する新会社として「会計バンク」を立ちあげ、スマホ会計アプリが生まれたのです。
反町:開発を進めていく中で、どのような業種を対象にしようか考えていたところ、フリーランスの方が会計業務に困っていることがわかりました。毎日の事業が忙しいだけでなく、会計や確定申告について相談できる税理士がいないことも多いためです。
反町:そうこうしているうちにインボイスの問題が出てきたので、スマートフォン会計アプリFinFinとあわせて、「スマホインボイスFinFin」も開発したという経緯です。
「フリーランスなのに不自由」を解決する会計データ
反町:日本には1,577万人ものフリーランスがいます。そんなフリーランスの方々は「やりたいことに挑戦した人たち」なので、約7割は幸せだと言っています。
ところがフリーランスの9割は収入が不安定で、5割は社会保障等に不安を抱えているとも言われていますよね。ですから、「時間や働き方が選べるフリーランスなのに不自由」なところが課題ではないでしょうか。
反町:そうなんです。社会的な信用という面でも、フリーランスの方々は、銀行ローンを組んだりクレジットカードを作ったりしづらいという苦労を抱えています。
その問題を解決するのに、「会計データ」が役立つんです。
会計データをみれば継続的かつ反復的に仕事を取っているかどうかがわかるわけですから、ものすごい信用保証になりますよね。
だから「FinFinの会計データを活用して、フリーランスの信用保証の基盤を作れないか」と、この2年間蓄積と研究を続けてきました。
反町:会計データを外部に売るのではなく、基盤化して信用保証という付加価値に変える。そんな仕組みを作るためには、まずはアプリをフリーランスの方に手に取ってもらわなければなりません。だからFinFinは、無償もしくは無償に近い形で提供しています。
反町:そういった考え方に共感していただき、現在提携先が非常に増えてますね。
東京都や新潟県の信用金庫協会とお話しし、信用金庫、信用組合、合わせて全国で50に迫る金融機関と連携しています。
顧客別ではなく「5つのTech」のテーマ別へ
反町:そうですね。「5つのTech」の会社として、40年ぶりに部門を再編しました。これまで顧客や事業分野別に分けていたのを、目的別に再分類したんです。
反町:もともと、経営部門は経営に関することをする、ハイテクノロジー部門はハイテクに関することをするというように、目的別に分かれていました。
しかし40年が経過するうちに、目的別ではなくいつのまにか顧客別の組織になっていたんです。経営部門は新潟の中小企業を、ハイテクノロジー部門は農家や農協、中小企業や個人事業主を、ヒューマン部門は売り上げ1,000億規模のPOSやMD、電子決済の取引ができる大企業を対象にしていました。
反町:企業成長が止まってしまうのが問題ですね。もちろん顧客が伸びればそれに合わせて成長できますが、それが目的になると仕事をこなすだけになるんですよね。
反町:「FINTECH(フィンテック)」「ACCOUNTECH(アカウンテック)」「AGRITECH(アグリテック)」「AREATECH(エリアテック)」「RETAILTECH(リテールテック)」の5つです。
反町:おっしゃる通りです。また「ACCOUNTECH(アカウンテック)」は、会計王をはじめとする会計ソフトなどを扱う部門です。再編する前までは、中小企業向けと農業向けの2本柱に分かれていて、事業部や営業拠点も違い、モノづくりも別々にしていました。それを1つにまとめることで効率化を図っています。
「RETAILTECH(リテールテック)」は、もとのヒューマン部門です。POSやMD、決済ソリューションを中心に事業を行います。
そして、経営部門にあたるのが「AREATECH(エリアテック)」です。税務の強みを活かして、エリアの人をテックで幸せにすることを目的に、AIを活用したDX支援もしているんです。
反町:「AGRITECH(アグリテック)」は、農家向けというよりは、10万件以上の農業会計データの分析をして農業ビジネスの発展を支援しています。
特にベトナムには、2万件近くの農協があります。それらのSDGsビジネス支援事業に選ばれて、スマート農業導入も支援していますね。
上向き経営で変化し続ける会社に
反町:5つのTechそれぞれに探索のテーマがありますから、新しい取り組みである「知の探索」が活発になり会社としての挑戦が進むと思います。
また当グループでは、新しい取り組みの「知の探索」は上の幹部が専念し、空いた席にはその部下を当てます。つまり、既存事業である「知の深化」は若手に任せられるので、人材も育つんです。
この取り組みを「上向き経営」と呼んでいるのですが、これにより変化し続ける会社になれると考えています。
反町:例えば、生成AIの事業はまだまだこれからの分野ですよね。
そんな生成AIについては、今社員全員でeラーニングを活用して勉強し、必ず仕事にも取り入れるように指示しています。この取り組みの中から、ピボットが見つかったらすぐに探索に入れるフォーメーションを整えていますね。
反町:当グループの考え方に「人生の価値は出会いで決まる」というものがあります。
起業した人たちは大きなバイタリティを持ってらっしゃると思いますが、事業を大きくするだけでなく、その過程でどういう仲間と出会うか、どういう社員と出会うかも、とても重要です。
そこにフォーカスすると、きっと後に振り返ったときにも後悔しないビジネス人生になるのではないでしょうか。ですから、何をやるかも重要ですが、誰とやるかも探求してほしいと思います。
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(取材依頼:
会計バンク株式会社 代表取締役社長CEO 反町 秀樹)
(編集: 創業手帳編集部)