稼働率が激減!それでも生き延びるためのコストの下げ方、生き延び方をホテル旅館業務の達人が解説

創業手帳

宿泊施設のスマート経営に欠かせないのは稼働率だけじゃない!黒字経営のために可視化するべきポイントとは?

(2020/06/25更新)

新型コロナウイルス感染症による日本国内での緊急事態宣言も解除され、少しずつ経済活動も活発化してきました。「withコロナ」と言われるように、これからはライフスタイルを変えて適応しながら歩んでいく必要があるのではないでしょうか。
「withコロナ」対策を急ピッチで進めている我が国ですが、インバウンド予約(外国人観光客)が日本に帰って来るにはまだまだ多くの問題解決と時間が必要であると思います。
天災や感染症などの影響で宿泊施設の稼働が激減した際にどう生き延びるか、その対処法などについて、旅館業務の達人に聞いてみました。

プロフィール 取材にご協力いただいた旅館業務の達人
ホテル旅館勤務一筋25年。フロント、予約、会計、ブライダル、レストラン、客室、などホテルの各セクションを経験し、リアルエージェント契約、オンライントラベルエージェントの在庫管理、プラン料金調整などを統括している。現場業務から30以上の予約サイトやツールでの集客、コンサルまで幅広い経験がある。

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稼働率だけでない宿泊施設にとって重要な指標とは

世間一般的にみて稼働率が高いホテルや旅館は、稼働率が高いというだけで経営が順調で儲かっていると思われがちです。
しかし、仮に月間客室稼働率が100%であったとしても赤字経営になることがあります。

稼働率が高いのに赤字になるってどういうこと?

・平均販売室単価が極めて低い場合
・カスタマーアクイジョンコスト(集客をする為の宣伝費用)が極めて高い場合
これら2つの要素のバランスが乱れると、稼働率に反して大きな赤字を生むことになります。
例えば、販売室単価を100円にし、高額な宣伝広告費用を投入して多くの人に認知してもらえば、客室稼働率を100%にすることは可能です。
しかし、これでは大きな赤字になってしまうことは容易に想像できると思います。

宿泊施設における大切な指標RevPARの活用の仕方

宿泊施設で大切な指標の一つにRevPAR(※)と呼ばれるものがあります。

RevPAR=ADR(平均販売室単価)×OCC(客室稼働率)
もしくは、
RevPAR=宿泊部門の室料売上÷総客室数で算出できます。

ADRが3,000円で客室稼働率が90%の場合のRevPARは、2700円となります。
客室稼働率が45%まで半減した場合、ADRを6,000円で販売することができればRevPARは同じく2,700円ですので稼働率のアップが見込めないなら販売単価をあげればいいというのが単純な理論です。
大切なのは、宿泊施設を運営する上で必要最低限必要なRevPARがいくらなのか?を明確にしその数値を状況に応じてコントロール、マネジメントすることだと思います。

※RevPAR=Revenue Per Available Roomの略語、販売可能な客室1室あたりの売上を表す値のこと。

収入と支出のバランスを常に確認できているか

企業や会社が生き残る為に重要なポイントの一つは現金だと言われています。
まず預貯金残高の確認、固定費・人件費の確認をしてから優先順位を決めた上で経費節減の為に固定費や人件費を大幅に改善することが必要です。
大規模な天災や激甚災害が生じた際は、政府より緊急支援策として様々な補助金や助成金が用意されます。一刻も早く、手続き申請をしてキャッシュフローへの影響を最小限に留める事がとても重要です。

生産性を向上させて人件費を圧縮する

宿泊業はホスピタリティ業でもありますので、他の業種に比べても人件費の比率が高く生産性の低い産業だと言われています。
客室稼働率が高くなればなるほど、客室清掃や、お客様からの電話対応なども増え、スタッフの配備人員を増やさなければならないため人件費が増えます。
ITやAIの導入により生産性を高めることができれば、その分人件費を抑えることができるでしょう。

平均販売単価を上げることと客室稼働を上げることが同時にできれば、宿泊施設のポテンシャルを最大限に引き出すことができますが、売上と経費とのバランスを考えるとそうはうまくいきません。
ただし、有事の際に稼働率が激減した際には、これらの理論を基軸に販売単価を向上させて稼働を制限することが必要になってきます。

稼働を制限することで人件費を抑え、
・必要最低限まで人件費を抑えた場合に何室まで販売が可能なのか?
・稼働率の上限を何%に設定する必要があるのか?
を事前に検討し、ある一定のボーダーラインを検証しておくことを推奨します。

宿泊予約の自社比率を高めて送客手数料を圧縮する

宿泊予約の流入経路には、
・旅行代理店経由
・OTA(オンライントラベルエージェント)経由
・宿泊施設への電話や公式サイトからの直予約
があります。
天災などで稼働が激減した場合は、客室稼働を上げる事で売上をつくることも大切ですが、自社経由の予約比率を劇的に向上させ、旅行業者経由の予約比率が下がることでその分送客手数料が低くなり経費削減が可能となります。
とはいえ、大手旅行代理店やOTAでの掲載を取りやめてしまうと、宿泊施設のプロモーション効果が下がり、予約自体が少なくなってしまう恐れもあります。間口を広く取りながら、直接予約比率を上げていくことが大切です。

公式ホームページからの自社サイト予約は最安値のベストレート補償を明確にしたり、OTAとの価格差を広げたりする事で自社サイトの優位性を高め、直接予約の比率アップにつなげていきましょう。

今後の展望と経営危機に立ち向かうために経営者が行うべきこと


経営難に陥った際に黒字転換していくための方法を具体的にみてきました。経営者として数字をもとに経営状態を改善していくことは当然必要ですが、それ以外にもリーダーとしても求められることがあります。

有事の際に経営者に求められるリーダーシップとは?

このような状況下では独断即決、朝令暮改型のリーダーシップが経営者に求められるとも言われています。
有事の際やその後の復興時における意思決定はスピードがとても重要です。中小規模の宿泊施設は同族経営が比較的多く、経営者の意思決定がしやすい環境にあることは強みです。トライアンドエラーを繰り返しながら常に軌道修正できる態勢を整え、臨機応援に改善していくようにしましょう。

常にいくつかの最悪想定をしておき、それらに対しての対策を準備しておくこと、ピンチをチャンスに変えるための新たなサービスの創造、従来の固定概念を捨て新しい仕組みや働き方、環境を育てる意識を高めることがとても重要です。

歴史を振り返りながら考える今後の展望

ITバブルが崩壊してからGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が台頭したように、今まで起きた大災害の歴史を振り返ると、大きな危機が訪れた後には多くの変化が生じています。従来の定説が通用しなくなり、全く新たな価値観やサービスが誕生し、それらが時代をリードしていくことになります。

今回の新型コロナウイルス感染症の世界的大流行でもZoom、UberEATS、Netflixなど、外出不要の新たなサービスが注目を集め勢力を拡大しつつあります。

宿泊施設においても、有事から平時に復旧させることではなく、心機一転ゼロから復興しようとすることが生き延びるために必要だと思います。
宿泊業界だからできる独自のサービスの創造や、おもてなしの心をこれからどう昇華させていく事ができるかが、これからの時代を生き延びるための重要課題となるのではないでしょうか。

創業手帳冊子版では、宿泊業はもちろん、さまざまな業種の創業期を支援する情報が満載です。お困りごとの解決にぜひお役立てください。

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(編集:創業手帳編集部)

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